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第1章
12話
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「それはボクの方から話すよ」
「頼んだよ、ラシェル」
ラシェル曰く、ヴァルドーはリュシールが物心つく前から計画を進めていたらしい。ディミロフという吸血鬼が実験しており、現在は死者を繋ぎ合わせて動かすところまで来ているという。
「もうすぐ実用出来るんじゃないかな?」
「どこから死体を集めてるの? 何が目的なの?」
セレスタは矢継ぎ早に質問していく。ラシェルは面倒臭そうにため息をつく。
「死体なんてこの森ならいくらでも出るでしょ。吸血鬼の再興がどうのとか言ってたからそういうことだろうね」
「あたしとラシェルはその計画を潰すつもりだった……」
フェルツが闇の中から姿を現した。普段通りの修道服で片手には昨夜の白紙の本を抱えている。
「……先輩?」
「黙ってて悪かったな。お前を危険な目に遭わせたくなかったんだ」
哀しそうな顔で謝る。セレスタは同じような表情をしながら俯くくらいだった。フェルツは厳しい顔をして続ける。
「あんたの選択肢は二つしかない。今すぐここから去るか、あたしたちに協力するかだ。邪魔するようならお前でも殺す」
「……」
「あたしは前者をオススメするがな。お前なら今から帝国に戻ってもそれなりの立場にいられるだろう。それが嫌なら他に良いところくらい紹介してやる」
少しの間沈黙が流れる。吸血鬼たちは何か言い出したそうな目で二人を眺めている。
「……お邪魔でなければ先輩と一緒に戦わせて下さい。この命は先輩に貰ったものです」
「良いのか?」
「二度も言わせないで下さい」
決意の表情をしたセレスタを見たフェルツは本を差し出した。
「この本は"光に愛された者"が持つものだ」
白紙の本は自らの魔力を封印出来る代物だった。セレスタの"光"に反応し、本が自ら封印されている魔力を吸収させたのだという。
「とある魔術師が余生を静かに過ごすために創った本らしい。こいつも"光"を持って苦労したのかもな……」
フェルツがそう言い終わると、痺れを切らした様子のリュシールが二人の間に割って入る。
「そろそろ良いかな。時間も残されてないし、今後の計画を立てたい」
「ああ、悪い。始めてくれ」
「ラシェル、聞かれてるかな?」
「いや、ボクら以外には誰もいないよ」
リュシール曰く、ゾンビ生成計画はディミロフを止めれば停止することと、その他の吸血鬼をどのように足止めするかということが重要らしい。
「簡単に言ってくれるが、六人もの吸血鬼をどうやって止める気だ? いくら姫様だってそりゃ難しいだろ?」
この場の全員が思ってるであろうことをフェルツが真っ先に切り出した。
ヴァルドー、エレッタ、ジュラルド、ディミロフ、ジェローム、オフィリア。館にはこの場の二人を除いてこれだけの吸血鬼がいる。
「数の差だけで二人……。単純な実力差も入れるとどう考えても上手くいかないね」
ラシェルも同意する。しかし、吸血鬼の姫はそんな事は織り込み済みのようだ。
「さっきのダメージでジェロームはほとんど動けない。五人だけど、一人は戦わないから相手にするのは四人だよ」
それでも厳しいことには変わりなかった。セレスタが二人の吸血鬼の襲撃から生き延びたのは、黒衣の剣士が現れ、策を弄し、相手に油断があったからだ。運が良かっただけだ。
「それで、私たちはどうすればいいの?」
「セレスタはわたしと一緒にお父様の相手をしてほしい。ラシェルとフェルツでディミロフを止めてもらう」
「姫様、それは無謀すぎるよ」
「大丈夫」
リュシールはそう言い切る。何の根拠も無いその一言には力強い意志があった。その場の何人たりも言い返すことの出来ない強さだ。
「今は詳しくは言えないけど、わたしを信じて」
「少し気に食わないけど、分かったわ」
「ありがとう、セレスタ。じゃあ、今日はここまで。さらに詳しいことは追ってコウモリで連絡するから」
ラシェルはその言葉を聞くと闇に消えた。フェルツもセレスタと共に帰ろうとする。
「セレスタと二人っきりで話したいことがあるんだ。良いかな?」
セレスタは不思議そうに思いながらもフェルツに先に帰ってもらった。
「……二人っきりだね」
「何か大事な話があるんじゃないの?」
「気張ってたら少し渇いちゃって」
つまり、このお嬢様は血が欲しくてわざわざ引き止めたのだ。
「あの夜の後、大変だったんだけど?」
「初めてだからね。でも、気持ち良かったでしょ?」
セレスタは言い淀む。思い返すと恥ずかしいが嫌な気分では無かった。
「……腕ならいいよ」
「本当……?」
吸血鬼の姫は顔を赤くして念を押す。それに、シスターは修道服の袖を捲って答える。
「するなら早くしてよ」
吸血鬼はシスターの二の腕を数回舐める。その後すぐに躊躇いなく牙を立てる。腕と口の間から血が零れる。
以前と違い、シスターは平然とした顔をしている。吸血鬼は申し訳なさそうに
「ここは感じないの?」
と言う。それから先はお互い一言も発しなかった。
吸血鬼は四回ほど喉を鳴らすと、細く柔らかい肌から牙を抜いた。
「頼んだよ、ラシェル」
ラシェル曰く、ヴァルドーはリュシールが物心つく前から計画を進めていたらしい。ディミロフという吸血鬼が実験しており、現在は死者を繋ぎ合わせて動かすところまで来ているという。
「もうすぐ実用出来るんじゃないかな?」
「どこから死体を集めてるの? 何が目的なの?」
セレスタは矢継ぎ早に質問していく。ラシェルは面倒臭そうにため息をつく。
「死体なんてこの森ならいくらでも出るでしょ。吸血鬼の再興がどうのとか言ってたからそういうことだろうね」
「あたしとラシェルはその計画を潰すつもりだった……」
フェルツが闇の中から姿を現した。普段通りの修道服で片手には昨夜の白紙の本を抱えている。
「……先輩?」
「黙ってて悪かったな。お前を危険な目に遭わせたくなかったんだ」
哀しそうな顔で謝る。セレスタは同じような表情をしながら俯くくらいだった。フェルツは厳しい顔をして続ける。
「あんたの選択肢は二つしかない。今すぐここから去るか、あたしたちに協力するかだ。邪魔するようならお前でも殺す」
「……」
「あたしは前者をオススメするがな。お前なら今から帝国に戻ってもそれなりの立場にいられるだろう。それが嫌なら他に良いところくらい紹介してやる」
少しの間沈黙が流れる。吸血鬼たちは何か言い出したそうな目で二人を眺めている。
「……お邪魔でなければ先輩と一緒に戦わせて下さい。この命は先輩に貰ったものです」
「良いのか?」
「二度も言わせないで下さい」
決意の表情をしたセレスタを見たフェルツは本を差し出した。
「この本は"光に愛された者"が持つものだ」
白紙の本は自らの魔力を封印出来る代物だった。セレスタの"光"に反応し、本が自ら封印されている魔力を吸収させたのだという。
「とある魔術師が余生を静かに過ごすために創った本らしい。こいつも"光"を持って苦労したのかもな……」
フェルツがそう言い終わると、痺れを切らした様子のリュシールが二人の間に割って入る。
「そろそろ良いかな。時間も残されてないし、今後の計画を立てたい」
「ああ、悪い。始めてくれ」
「ラシェル、聞かれてるかな?」
「いや、ボクら以外には誰もいないよ」
リュシール曰く、ゾンビ生成計画はディミロフを止めれば停止することと、その他の吸血鬼をどのように足止めするかということが重要らしい。
「簡単に言ってくれるが、六人もの吸血鬼をどうやって止める気だ? いくら姫様だってそりゃ難しいだろ?」
この場の全員が思ってるであろうことをフェルツが真っ先に切り出した。
ヴァルドー、エレッタ、ジュラルド、ディミロフ、ジェローム、オフィリア。館にはこの場の二人を除いてこれだけの吸血鬼がいる。
「数の差だけで二人……。単純な実力差も入れるとどう考えても上手くいかないね」
ラシェルも同意する。しかし、吸血鬼の姫はそんな事は織り込み済みのようだ。
「さっきのダメージでジェロームはほとんど動けない。五人だけど、一人は戦わないから相手にするのは四人だよ」
それでも厳しいことには変わりなかった。セレスタが二人の吸血鬼の襲撃から生き延びたのは、黒衣の剣士が現れ、策を弄し、相手に油断があったからだ。運が良かっただけだ。
「それで、私たちはどうすればいいの?」
「セレスタはわたしと一緒にお父様の相手をしてほしい。ラシェルとフェルツでディミロフを止めてもらう」
「姫様、それは無謀すぎるよ」
「大丈夫」
リュシールはそう言い切る。何の根拠も無いその一言には力強い意志があった。その場の何人たりも言い返すことの出来ない強さだ。
「今は詳しくは言えないけど、わたしを信じて」
「少し気に食わないけど、分かったわ」
「ありがとう、セレスタ。じゃあ、今日はここまで。さらに詳しいことは追ってコウモリで連絡するから」
ラシェルはその言葉を聞くと闇に消えた。フェルツもセレスタと共に帰ろうとする。
「セレスタと二人っきりで話したいことがあるんだ。良いかな?」
セレスタは不思議そうに思いながらもフェルツに先に帰ってもらった。
「……二人っきりだね」
「何か大事な話があるんじゃないの?」
「気張ってたら少し渇いちゃって」
つまり、このお嬢様は血が欲しくてわざわざ引き止めたのだ。
「あの夜の後、大変だったんだけど?」
「初めてだからね。でも、気持ち良かったでしょ?」
セレスタは言い淀む。思い返すと恥ずかしいが嫌な気分では無かった。
「……腕ならいいよ」
「本当……?」
吸血鬼の姫は顔を赤くして念を押す。それに、シスターは修道服の袖を捲って答える。
「するなら早くしてよ」
吸血鬼はシスターの二の腕を数回舐める。その後すぐに躊躇いなく牙を立てる。腕と口の間から血が零れる。
以前と違い、シスターは平然とした顔をしている。吸血鬼は申し訳なさそうに
「ここは感じないの?」
と言う。それから先はお互い一言も発しなかった。
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