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第1章
2話
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「はい……」
何故分かったのだろうか。不思議な顔を察してか彼女は続ける。
「"光"……。この先に行くなら抑えた方がいいよ」
「どういうことです?」
彼女は立ち上がり、夫婦に食事の礼を述べた後、少し面倒臭そうに言った。
「"光"は"闇"を退けるだけじゃなく引き付けもする。面倒ごとを避けたいなら気をつけた方がいいよ」
「?」
「あと、『黒衣の剣士』の目撃情報もある……」
そう告げると、彼女はその場を去った。
「彼女、ミストさんは帝国に魔術の勉強しに来たそうよ」
足音が聞こえなくなった頃に夫人が教えてくれる。魔術を使っていないので魔力は分からない。しかし、相当な手練れであろうことは分かる。時間があったら引き止めて質問攻めにしているところだった。
彼女が最後に言った『黒衣の剣士』とは何だろうか? 老夫婦も知らないようだ。
翌日、宿を出る。朝夕の食事まで付いて銀3枚というのは破格だ。非常にありがたかった。
ここから村に着くまでは、温かい食事と寝床などはない。死ぬ危険もある。セレスタは気持ちを切り替え、門に向かうと、この街に入るときに出会った門番と目が合った。
「素敵な街でした。宿の紹介もありがとうございました」
「それは良かった。引き止めるつもりは無いですが、この先の森は危険ですよ……」
「覚悟はできてるんで」
門番は無言で見送ってくれる。しばらく平原が続いている。遠くに小さく見える暗いところが森だろう。自分の他に人は見えるが、森へ入ろうというものは一人もいない。大きく迂回しているようだ。
森の入り口付近に着いた。思ったよりも早く着いたのでウサギとヘビを狩った。
「炎よ」
捌いた肉を魔術の炎で焼いて食べる。まさか、従騎士(騎士見習い)と合同で行ったサバイバル実習が役に立つ日が来るとは思わなかった。
まだ遠くが確認できるくらいの闇だが、ここで休憩することにした。
翌朝、森の中へ入る。そこはとても魔物の多い地域とは思えなかった。小鳥のさえずりや虫の羽音が歓迎してくれる。木の間から射す陽の光が美しい。川の流れる音もするのでそちらに向かう。
「光の布」
光の見え方を変える魔術を使う。セレスタの姿がぼやける。服を脱いで水に足をつけると冷えていて気持ちがいい。
全身に水を浴びたあたりで、見られているような気配がした。そちらへ石を投げる。カサッと草が揺れる音が聞こえて、石は何にも当たらずに落ちた。
「……獣?」
視界は隠せても、他の五感は隠していない。臭いや音が気になり寄ってきたのだろうか。逃げたようなので、あまり関心を持たないようにして、服を着て奥に進む。
森の奥に進むにつれて暗くなっていく。木の種類が変わってきて、陽が射し込まず、湿気が多くなる。
低いうなり声が聞こえたので、セレスタは背中を身近な木に預けながらそちらを確認する。血の臭いが漂ってくる。狼のような一つ目の魔物が猪らしき獣の肉を喰らっている。ガルグスだ。下級の魔物だが、群れて行動するため自然と複数を相手にすることになる。三体なら倒せるが、他の魔物が集まってくるリスクを考えると避けて通りたい。
幸い、こちらには気づいていないようだ。瞬間、ガルグスの一匹が宙に浮く。黒い手に掴まれたのだ。巨大な熊のような魔物が腹部にある裂けたような口に獲物を放り込む。残りの二匹は気づくとそこには居なかった。
「……」
息を殺す。まともに闘って勝てる相手ではないことは明白だ。ゆっくりとその場を離れようとする。その際、右手で宙に文字を描くような動作をとる。追い詰められても大技を一撃食らわせれば逃げるチャンスを作れるかもしれないと思ったからだ。
熊の魔物が音を立てて歩き出す。こちらに気がついたのだろう。セレスタは走り出す。魔物の動きは速くはないが、地の利と体力を考慮するとすぐに追いつかれるだろう。
「身体強化!」
空いた左手で身体能力を向上させる魔術を使う。時間稼ぎにはなるはずだ。
術式を描き終わる。距離を取ったところでサッと振り向き、魔物に向けて右手をかざす。
「炎の咆哮!」
引きつけたところで腹部の口を目がけて自身最大の魔力を叩きこむ。焼き消すとまではいかなかったが、腹部が焦げた魔物は仰向けに倒れ、のたうち回っている。
その隙にこの場を離れようと、早足で動く。しかし、足は重りがつけられたかのように動かない。魔力を放出し過ぎたせいだろう。身体強化も解けたようだ。ただでさえ暗いのに視界がぼやけてくる。物音が聞こえるがその音もかすれている。下級の魔物が集まってきているのだろうか……。セレスタの意識はそこで途絶えた。
目が覚めるとベッドの上にいた。頭と足が痛む。起き上がるのがツラい。
「あ、起きた」
懐かしい聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
「……お久しぶりです、フェルツ先輩」
「久しぶり。随分大変な旅だったみたいだな」
「先輩が助けてくれたんですか?」
「いや、違う」
先輩は村人から村の入口に人が倒れていると聞き、そこへ向かっただけだという。
「じゃあ誰が……?」
「……吸血鬼だろうな」
先ほどの魔物とは桁の違う化け物の名前に戦慄する。それを見たフェルツは軽く微笑みかける。
「そこらへんの話とか、村人への紹介とか諸々明日してやるから。これ食って休んでろ」
そう言って、果実を混ぜ込んだパンとスープを差し出してくれる。
「先輩が作ったんですか?」
「貰いものだよ」
パンは冷たく、少し堅かったので温かいスープにつけて食べた。
何故分かったのだろうか。不思議な顔を察してか彼女は続ける。
「"光"……。この先に行くなら抑えた方がいいよ」
「どういうことです?」
彼女は立ち上がり、夫婦に食事の礼を述べた後、少し面倒臭そうに言った。
「"光"は"闇"を退けるだけじゃなく引き付けもする。面倒ごとを避けたいなら気をつけた方がいいよ」
「?」
「あと、『黒衣の剣士』の目撃情報もある……」
そう告げると、彼女はその場を去った。
「彼女、ミストさんは帝国に魔術の勉強しに来たそうよ」
足音が聞こえなくなった頃に夫人が教えてくれる。魔術を使っていないので魔力は分からない。しかし、相当な手練れであろうことは分かる。時間があったら引き止めて質問攻めにしているところだった。
彼女が最後に言った『黒衣の剣士』とは何だろうか? 老夫婦も知らないようだ。
翌日、宿を出る。朝夕の食事まで付いて銀3枚というのは破格だ。非常にありがたかった。
ここから村に着くまでは、温かい食事と寝床などはない。死ぬ危険もある。セレスタは気持ちを切り替え、門に向かうと、この街に入るときに出会った門番と目が合った。
「素敵な街でした。宿の紹介もありがとうございました」
「それは良かった。引き止めるつもりは無いですが、この先の森は危険ですよ……」
「覚悟はできてるんで」
門番は無言で見送ってくれる。しばらく平原が続いている。遠くに小さく見える暗いところが森だろう。自分の他に人は見えるが、森へ入ろうというものは一人もいない。大きく迂回しているようだ。
森の入り口付近に着いた。思ったよりも早く着いたのでウサギとヘビを狩った。
「炎よ」
捌いた肉を魔術の炎で焼いて食べる。まさか、従騎士(騎士見習い)と合同で行ったサバイバル実習が役に立つ日が来るとは思わなかった。
まだ遠くが確認できるくらいの闇だが、ここで休憩することにした。
翌朝、森の中へ入る。そこはとても魔物の多い地域とは思えなかった。小鳥のさえずりや虫の羽音が歓迎してくれる。木の間から射す陽の光が美しい。川の流れる音もするのでそちらに向かう。
「光の布」
光の見え方を変える魔術を使う。セレスタの姿がぼやける。服を脱いで水に足をつけると冷えていて気持ちがいい。
全身に水を浴びたあたりで、見られているような気配がした。そちらへ石を投げる。カサッと草が揺れる音が聞こえて、石は何にも当たらずに落ちた。
「……獣?」
視界は隠せても、他の五感は隠していない。臭いや音が気になり寄ってきたのだろうか。逃げたようなので、あまり関心を持たないようにして、服を着て奥に進む。
森の奥に進むにつれて暗くなっていく。木の種類が変わってきて、陽が射し込まず、湿気が多くなる。
低いうなり声が聞こえたので、セレスタは背中を身近な木に預けながらそちらを確認する。血の臭いが漂ってくる。狼のような一つ目の魔物が猪らしき獣の肉を喰らっている。ガルグスだ。下級の魔物だが、群れて行動するため自然と複数を相手にすることになる。三体なら倒せるが、他の魔物が集まってくるリスクを考えると避けて通りたい。
幸い、こちらには気づいていないようだ。瞬間、ガルグスの一匹が宙に浮く。黒い手に掴まれたのだ。巨大な熊のような魔物が腹部にある裂けたような口に獲物を放り込む。残りの二匹は気づくとそこには居なかった。
「……」
息を殺す。まともに闘って勝てる相手ではないことは明白だ。ゆっくりとその場を離れようとする。その際、右手で宙に文字を描くような動作をとる。追い詰められても大技を一撃食らわせれば逃げるチャンスを作れるかもしれないと思ったからだ。
熊の魔物が音を立てて歩き出す。こちらに気がついたのだろう。セレスタは走り出す。魔物の動きは速くはないが、地の利と体力を考慮するとすぐに追いつかれるだろう。
「身体強化!」
空いた左手で身体能力を向上させる魔術を使う。時間稼ぎにはなるはずだ。
術式を描き終わる。距離を取ったところでサッと振り向き、魔物に向けて右手をかざす。
「炎の咆哮!」
引きつけたところで腹部の口を目がけて自身最大の魔力を叩きこむ。焼き消すとまではいかなかったが、腹部が焦げた魔物は仰向けに倒れ、のたうち回っている。
その隙にこの場を離れようと、早足で動く。しかし、足は重りがつけられたかのように動かない。魔力を放出し過ぎたせいだろう。身体強化も解けたようだ。ただでさえ暗いのに視界がぼやけてくる。物音が聞こえるがその音もかすれている。下級の魔物が集まってきているのだろうか……。セレスタの意識はそこで途絶えた。
目が覚めるとベッドの上にいた。頭と足が痛む。起き上がるのがツラい。
「あ、起きた」
懐かしい聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
「……お久しぶりです、フェルツ先輩」
「久しぶり。随分大変な旅だったみたいだな」
「先輩が助けてくれたんですか?」
「いや、違う」
先輩は村人から村の入口に人が倒れていると聞き、そこへ向かっただけだという。
「じゃあ誰が……?」
「……吸血鬼だろうな」
先ほどの魔物とは桁の違う化け物の名前に戦慄する。それを見たフェルツは軽く微笑みかける。
「そこらへんの話とか、村人への紹介とか諸々明日してやるから。これ食って休んでろ」
そう言って、果実を混ぜ込んだパンとスープを差し出してくれる。
「先輩が作ったんですか?」
「貰いものだよ」
パンは冷たく、少し堅かったので温かいスープにつけて食べた。
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