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第3章
3話
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セレスタとリュシールがそれぞれの修行を始めて三日が経った。セレスタは血を自在に操るとまではいかないが、止血の補助程度は可能になった。リュシールは一日の半分以上をヴァルドーと戦って過ごしていた。血の変化は炎以外に新しく身につけられたものはない。
「リュー、進展はどう?」
「ちょっと火力を上げられるようにはなったけど、それ以外はさっぱり。そっちは?」
「エレッタさんに血流術まではまだ時間がかかりそうって言われたわ」
「わたしだってなん十年とかけてここまで出来るようにしたんだよ」
リュシールが頬を膨らませて顔を近づける。セレスタはそれを指でつつく。
「そんなに待たせるつもりはないわ。すぐに背を預けてもらえるようになるから」
「今でも十分頼もしいよ」
「それはこっちの台詞。じゃあお互いもっと強くなりましょう」
「だね」
翌日、セレスタが目を覚ますと身体が重い。リュシールが半身を乗っけているからだ。
「『背を預けて』ってそういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
ぐっすり眠ったリュシールをゆっくりどかせてベッドから出る。すると、扉がノックされる。
「どうぞ」
軽く返事をするとエレッタが入ってくる。
「セレスタ様、お早う御座います。お嬢様はまたこちらで眠ってしまったのですね。安眠が難しいようでしたら、お嬢様が眠った後、お嬢様のお部屋に移ってもよろしいのですよ」
「いえ、大丈夫です」
と言うと、エレッタは少し間を置いて
「出過ぎた真似を致しました」
と頭を下げた。妙な勘違いでもされてしまったようだ。
「食事のご用意が出来ておりますのでセレスタ様は大部屋へどうぞ。お嬢様は私が起こしますので」
寝間着を着替えて食事へ向かう。ジュラルドと珍しくラシェルもいた。二人に挨拶をして席に着く。すぐにヴァルドーがやってきた。誰も動かず喋らずの時間が辛くなったあたりでエレッタがリュシールを連れてきてくれた。エレッタはリュシールを座らせた後、てきぱきと食事の用意をする。
「お待たせ致しました」
「ご苦労。では食事としよう」
ヴァルドーがグラスに口をつける。その少し後に他の者たちも血を飲む。リュシールとジュラルドはすぐに飲み干した。セレスタのグラスが半分を切ったところでヴァルドーが顔を上げる。
「皆、話を聞いてもらう」
その場の全員が彼の方へ顔を向けた。
「我がパールバート家はエスヴェンド王、つまりヤグート家の派閥に加わることとなった。今まで通りこの館で暮らしてよいとのことだが、大きな仕事を任される留守にすることが多くなるかもしれない。その時はリュシール、セレスタに当主代理を任せる。他の者は二人を助けてやってほしい」
「ちょっといいかな。話が急過ぎる。派閥に加わる理由を説明してもらいたいね。エールフロスの王から何か言われたのかい?」
ラシェルが問う。セレスタも同じ気持ちだった。この前の皇国視察の際に何かあったのだろうかと心配になる。
「説明不足だった。まず今回の派閥加入はエスヴェンド王からの誘いに乗った形となる。ディレイザ王は関係ないし、決して力に屈したわけではない。見返りは社交界への復帰と領土だそうだが、加入の理由としてはそれらよりも我々吸血鬼の世界の動向が不穏だということだ」
先日のジェスガー王の事件とエールフロス家の跡継ぎ争いだけでなく、各地でいざこざを抱える吸血鬼が増えているそうだ。エスヴェンド王は水面下で何か大きな企みが進行しているのではないかと考え、それの調査に協力してくれる仲間を探していた。その時にディレイザからの紹介でヴァルドーに声をかけたという。
「なるほど。恐らくエスヴェンド王は、その大きな企みについて何らかの証拠を掴んでいるんだろうね。他に加入している家は分かる?」
「エールフロス以外は不明だ。だが会議の際に分かるだろう」
「分かり次第教えてほしいな。手伝えることもあるかもしれない」
「いいだろう」
ラシェルは身体を少し引いて、背もたれに背中を預ける。それで話が終わったと判断したリュシールが発言する。
「お父様はまもなく会議に出られるのですか?」
「まだそのような報せは来ていないが、急に召集がかかることもあるだろう。だから二人がオルテグナ国へ向かうのは早い方がいい」
そのような状況ならば自分達は出かけない方がいいのではないか。セレスタがそう聞こうとした時、ヴァルドーに先回りされる。
「もし出ない方がいいのではないかと思っているようならそれは違う。二人に会ってもらいたい人物は今後に必要な役割を持つ。エレッタ、セレスタはどうだ?」
「はい、止血は可能といったところです」
「ならば大丈夫だろう。出発の準備を始めろ」
「はい」
エレッタは部屋を出て行ってしまった。
「二人とも何をしている。明日には出られるようにしておけ」
修行が長引き、準備していた荷物は一旦片付けてしまっていた。それを思い出し自室へと戻った。
三人しかいなくなった大部屋で静寂を破ったのはジュラルドだ。
「何を焦ってんだ。急に出ろだなんてらしくねえ。周りに対してまで余裕をなくすくらい追い詰められてるのか」
「明日いきなり追い出すつもりはないんだろうけど、早く出発してほしいってのは本当だろうね」
ラシェルも追い打ちをかける。
「いつまでもここで燻ぶっているわけにはいかないのでな……」
「この状況ではぐらかすのかい」
珍しくラシェルが強い口調になる。ジュラルドはテーブルを軽く叩いて立ち上がった。
「その時が来たらきっちり説明してもらうぜ」
そう言い残して部屋を出ていく。それを見てラシェルはため息をついた。
「忠臣二人を差し置いてこれ以上聞くべきではないね。ボクの仕えるのは姫様達だし」
そう言って消えてしまう。
ヴァルドーは一人になった部屋でコウモリを飛ばした。
「リュー、進展はどう?」
「ちょっと火力を上げられるようにはなったけど、それ以外はさっぱり。そっちは?」
「エレッタさんに血流術まではまだ時間がかかりそうって言われたわ」
「わたしだってなん十年とかけてここまで出来るようにしたんだよ」
リュシールが頬を膨らませて顔を近づける。セレスタはそれを指でつつく。
「そんなに待たせるつもりはないわ。すぐに背を預けてもらえるようになるから」
「今でも十分頼もしいよ」
「それはこっちの台詞。じゃあお互いもっと強くなりましょう」
「だね」
翌日、セレスタが目を覚ますと身体が重い。リュシールが半身を乗っけているからだ。
「『背を預けて』ってそういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
ぐっすり眠ったリュシールをゆっくりどかせてベッドから出る。すると、扉がノックされる。
「どうぞ」
軽く返事をするとエレッタが入ってくる。
「セレスタ様、お早う御座います。お嬢様はまたこちらで眠ってしまったのですね。安眠が難しいようでしたら、お嬢様が眠った後、お嬢様のお部屋に移ってもよろしいのですよ」
「いえ、大丈夫です」
と言うと、エレッタは少し間を置いて
「出過ぎた真似を致しました」
と頭を下げた。妙な勘違いでもされてしまったようだ。
「食事のご用意が出来ておりますのでセレスタ様は大部屋へどうぞ。お嬢様は私が起こしますので」
寝間着を着替えて食事へ向かう。ジュラルドと珍しくラシェルもいた。二人に挨拶をして席に着く。すぐにヴァルドーがやってきた。誰も動かず喋らずの時間が辛くなったあたりでエレッタがリュシールを連れてきてくれた。エレッタはリュシールを座らせた後、てきぱきと食事の用意をする。
「お待たせ致しました」
「ご苦労。では食事としよう」
ヴァルドーがグラスに口をつける。その少し後に他の者たちも血を飲む。リュシールとジュラルドはすぐに飲み干した。セレスタのグラスが半分を切ったところでヴァルドーが顔を上げる。
「皆、話を聞いてもらう」
その場の全員が彼の方へ顔を向けた。
「我がパールバート家はエスヴェンド王、つまりヤグート家の派閥に加わることとなった。今まで通りこの館で暮らしてよいとのことだが、大きな仕事を任される留守にすることが多くなるかもしれない。その時はリュシール、セレスタに当主代理を任せる。他の者は二人を助けてやってほしい」
「ちょっといいかな。話が急過ぎる。派閥に加わる理由を説明してもらいたいね。エールフロスの王から何か言われたのかい?」
ラシェルが問う。セレスタも同じ気持ちだった。この前の皇国視察の際に何かあったのだろうかと心配になる。
「説明不足だった。まず今回の派閥加入はエスヴェンド王からの誘いに乗った形となる。ディレイザ王は関係ないし、決して力に屈したわけではない。見返りは社交界への復帰と領土だそうだが、加入の理由としてはそれらよりも我々吸血鬼の世界の動向が不穏だということだ」
先日のジェスガー王の事件とエールフロス家の跡継ぎ争いだけでなく、各地でいざこざを抱える吸血鬼が増えているそうだ。エスヴェンド王は水面下で何か大きな企みが進行しているのではないかと考え、それの調査に協力してくれる仲間を探していた。その時にディレイザからの紹介でヴァルドーに声をかけたという。
「なるほど。恐らくエスヴェンド王は、その大きな企みについて何らかの証拠を掴んでいるんだろうね。他に加入している家は分かる?」
「エールフロス以外は不明だ。だが会議の際に分かるだろう」
「分かり次第教えてほしいな。手伝えることもあるかもしれない」
「いいだろう」
ラシェルは身体を少し引いて、背もたれに背中を預ける。それで話が終わったと判断したリュシールが発言する。
「お父様はまもなく会議に出られるのですか?」
「まだそのような報せは来ていないが、急に召集がかかることもあるだろう。だから二人がオルテグナ国へ向かうのは早い方がいい」
そのような状況ならば自分達は出かけない方がいいのではないか。セレスタがそう聞こうとした時、ヴァルドーに先回りされる。
「もし出ない方がいいのではないかと思っているようならそれは違う。二人に会ってもらいたい人物は今後に必要な役割を持つ。エレッタ、セレスタはどうだ?」
「はい、止血は可能といったところです」
「ならば大丈夫だろう。出発の準備を始めろ」
「はい」
エレッタは部屋を出て行ってしまった。
「二人とも何をしている。明日には出られるようにしておけ」
修行が長引き、準備していた荷物は一旦片付けてしまっていた。それを思い出し自室へと戻った。
三人しかいなくなった大部屋で静寂を破ったのはジュラルドだ。
「何を焦ってんだ。急に出ろだなんてらしくねえ。周りに対してまで余裕をなくすくらい追い詰められてるのか」
「明日いきなり追い出すつもりはないんだろうけど、早く出発してほしいってのは本当だろうね」
ラシェルも追い打ちをかける。
「いつまでもここで燻ぶっているわけにはいかないのでな……」
「この状況ではぐらかすのかい」
珍しくラシェルが強い口調になる。ジュラルドはテーブルを軽く叩いて立ち上がった。
「その時が来たらきっちり説明してもらうぜ」
そう言い残して部屋を出ていく。それを見てラシェルはため息をついた。
「忠臣二人を差し置いてこれ以上聞くべきではないね。ボクの仕えるのは姫様達だし」
そう言って消えてしまう。
ヴァルドーは一人になった部屋でコウモリを飛ばした。
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