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第2章
27話
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リュシールはジェスガーたちの食事である人間を閉じ込めておく牢で一番隊副隊長バルノアとその牢の警護をしていた吸血鬼を鎖で縛り上げていた。ここで話を聞くことは"吸血鬼狩り"の真意とセレスタの求める情報の両方を手に入れることができるのではと考えたためである。
「では魔術師の方から話を聞くとしよう。誰に、そして何故、二番隊長は殺されたかを簡潔に話せ」
「二番隊長のリカルドは吸血鬼どもと取引して闇の魔術を手にしようとしていた。それを突き止めたうちの隊長が止める形で殺してしまったんだ」
「ならばお前は何故ここにいる?」
「さっきもいった通り、吸血鬼と手を組むフリをして動向を探ってたんだ」
「だそうだ。何か言いたいことはあるか?」
捕らえた吸血鬼に話しかける。何も喋ろうとしないので背中を踏みつける。
「……先程話したこと以上は私も知らない。知っていたとしても喋らないがな」
「大した忠誠心だ。では魔術師に続きを聞くとしよう」
バルノアは吸血鬼の方を睨む。そして吐き捨てるように言った。
「吸血鬼、いや、魔物は全て滅ぼさなければならない。我々は正義ッ……」
リュシールは首を踏みつけてその台詞を中断させる。
「こちらの聞いたことだけ答えろと言ったはずだ。……待て、吸血鬼狩りは成功したと言ったな?」
「ああ」
「確かか?」
「隊長たちが死亡を確認して、それをその場で見聞きした伝令部隊が帰って来たんだ。間違いない」
「だそうだ。お前が忠誠を誓う相手はもういない。全て吐けば見逃してやろう」
「バカな! ジェスガー様が人間ごときに負けるものか!」
「ふん、我が国の聖騎士長たちは全員英雄の器である"光"の魔術師だ。魔物なんぞに遅れをとるものか」
リュシールは二人の口論を止めも聞きもせずに考え事を始めた。
バルノアの話したこと全てが真実かどうかは定かではないが、少なくとも自国を裏切ったという様子ではない。多くの人間同様、吸血鬼を敵視しており、先程の『手を組むフリ』について話す時も嫌悪感が隠しきれていなかった。
そして吸血鬼の方だが、こちらは本当に多くを知らされていないのではないかと思われる。彼は貴族未満の吸血鬼だ。仮にも餌の保管庫であり、人間との取引現場ともなりうる場所をこの程度の吸血鬼一人に任せておくのは考えにくい。捨て駒と言って差し支えないかもしれない。
彼らから聞き出せることはもうないだろうと思い、次にどう動くかに考えを切り替える。その時、強い気配が流れ込んできた。遅れて足音が響き渡る。吸血鬼の身体が小刻みに震え、歯がガタガタと音を立てている。
「……あ、ジェ、ジェスガー様……」
セレスタに魔術を付与してもらったマントを羽織っているものの効果は既に薄い。一度対面しているため、バレるのは時間の問題だろう。むしろ、ここまでよく隠し通せたものだと言える。
ジェスガー・ハスクマンの気配を確信したリュシールは反対方向へ駆け出した。逃げられる確信もなかったが無理に戦って殺されるよりは可能性がある。
「なにやら騒がしいな」
「ジェスガー様、魔研の魔術師が入り込みました!」
「それで貴様は捕らわれて拷問を受けていたというわけか」
「申し訳ございません。しかし、何も話してはおりません」
「当然だ」
そう言いながらジェスガーは吸血鬼の頭を踏み潰す。柔らかい果実を潰したように血が飛び散る。バルノアは吸血鬼から目を逸らした。ジェスガーはその身体を縛る鎖を持ち上げて座らせる。
「貴様がアレッシオの使いか」
「……は、はい。隊長は明日の昼までには来られるそうです」
「ふん、我を待たせるとは偉くなったものだ。ではここで待っているとしよう。貴様はそのまま縛られていろ」
「……逃げた魔術師は追わないのですか?」
ジェスガーはそれを無視して囚人のいる方の牢から一人の男を選び、その頭を掴む。そのまま牢の外へ引っ張り出し、首に牙を立てて血を飲み始める。一息ついて先程の問いに答えた。
「あちら側は迷路になっているのだろう? 仮にたどり着いたとしても皇国の英雄が吸血鬼と手を組んでいるなど誰が信じる? それに、貴様らは魔術師と思っているあれは吸血鬼だ。正体の予測もついている」
「そ、それでは……」
バルノアが目を見開く。吸血鬼は何体も殺してきた。魔物特有の気配には敏感だと自負していた。何らかの術で魔力をカモフラージュしていたのだろうか。
「貴様などよりも余程優れた魔術師が敵にいるということだ。それこそ聖騎士長クラスのような奴がな。まあ本当に魔研が関わってきているならそれもあり得るだろう」
ジェスガーが言葉を繋ぐ。囚人の男の首に再度牙を立てる。それで男は事切れてしまった。
バルノアは恐怖と不安で地面を見つめることしかできなかった。このままアレッシオが来なかったら? 罪をなすりつけられたら? 目の前の吸血鬼の王に気まぐれで殺されてしまう可能性もある。
どれくらい経ったか分からない。ジェスガーが一般人、囚人問わず四人目を食い散らかした頃、バルノアの不安は和らいだ。
「隊長!」
「すまない、随分待たせてしまったな」
ウェネステル皇国聖騎士第一隊隊長アレッシオ・カローゼが現れた。
「では魔術師の方から話を聞くとしよう。誰に、そして何故、二番隊長は殺されたかを簡潔に話せ」
「二番隊長のリカルドは吸血鬼どもと取引して闇の魔術を手にしようとしていた。それを突き止めたうちの隊長が止める形で殺してしまったんだ」
「ならばお前は何故ここにいる?」
「さっきもいった通り、吸血鬼と手を組むフリをして動向を探ってたんだ」
「だそうだ。何か言いたいことはあるか?」
捕らえた吸血鬼に話しかける。何も喋ろうとしないので背中を踏みつける。
「……先程話したこと以上は私も知らない。知っていたとしても喋らないがな」
「大した忠誠心だ。では魔術師に続きを聞くとしよう」
バルノアは吸血鬼の方を睨む。そして吐き捨てるように言った。
「吸血鬼、いや、魔物は全て滅ぼさなければならない。我々は正義ッ……」
リュシールは首を踏みつけてその台詞を中断させる。
「こちらの聞いたことだけ答えろと言ったはずだ。……待て、吸血鬼狩りは成功したと言ったな?」
「ああ」
「確かか?」
「隊長たちが死亡を確認して、それをその場で見聞きした伝令部隊が帰って来たんだ。間違いない」
「だそうだ。お前が忠誠を誓う相手はもういない。全て吐けば見逃してやろう」
「バカな! ジェスガー様が人間ごときに負けるものか!」
「ふん、我が国の聖騎士長たちは全員英雄の器である"光"の魔術師だ。魔物なんぞに遅れをとるものか」
リュシールは二人の口論を止めも聞きもせずに考え事を始めた。
バルノアの話したこと全てが真実かどうかは定かではないが、少なくとも自国を裏切ったという様子ではない。多くの人間同様、吸血鬼を敵視しており、先程の『手を組むフリ』について話す時も嫌悪感が隠しきれていなかった。
そして吸血鬼の方だが、こちらは本当に多くを知らされていないのではないかと思われる。彼は貴族未満の吸血鬼だ。仮にも餌の保管庫であり、人間との取引現場ともなりうる場所をこの程度の吸血鬼一人に任せておくのは考えにくい。捨て駒と言って差し支えないかもしれない。
彼らから聞き出せることはもうないだろうと思い、次にどう動くかに考えを切り替える。その時、強い気配が流れ込んできた。遅れて足音が響き渡る。吸血鬼の身体が小刻みに震え、歯がガタガタと音を立てている。
「……あ、ジェ、ジェスガー様……」
セレスタに魔術を付与してもらったマントを羽織っているものの効果は既に薄い。一度対面しているため、バレるのは時間の問題だろう。むしろ、ここまでよく隠し通せたものだと言える。
ジェスガー・ハスクマンの気配を確信したリュシールは反対方向へ駆け出した。逃げられる確信もなかったが無理に戦って殺されるよりは可能性がある。
「なにやら騒がしいな」
「ジェスガー様、魔研の魔術師が入り込みました!」
「それで貴様は捕らわれて拷問を受けていたというわけか」
「申し訳ございません。しかし、何も話してはおりません」
「当然だ」
そう言いながらジェスガーは吸血鬼の頭を踏み潰す。柔らかい果実を潰したように血が飛び散る。バルノアは吸血鬼から目を逸らした。ジェスガーはその身体を縛る鎖を持ち上げて座らせる。
「貴様がアレッシオの使いか」
「……は、はい。隊長は明日の昼までには来られるそうです」
「ふん、我を待たせるとは偉くなったものだ。ではここで待っているとしよう。貴様はそのまま縛られていろ」
「……逃げた魔術師は追わないのですか?」
ジェスガーはそれを無視して囚人のいる方の牢から一人の男を選び、その頭を掴む。そのまま牢の外へ引っ張り出し、首に牙を立てて血を飲み始める。一息ついて先程の問いに答えた。
「あちら側は迷路になっているのだろう? 仮にたどり着いたとしても皇国の英雄が吸血鬼と手を組んでいるなど誰が信じる? それに、貴様らは魔術師と思っているあれは吸血鬼だ。正体の予測もついている」
「そ、それでは……」
バルノアが目を見開く。吸血鬼は何体も殺してきた。魔物特有の気配には敏感だと自負していた。何らかの術で魔力をカモフラージュしていたのだろうか。
「貴様などよりも余程優れた魔術師が敵にいるということだ。それこそ聖騎士長クラスのような奴がな。まあ本当に魔研が関わってきているならそれもあり得るだろう」
ジェスガーが言葉を繋ぐ。囚人の男の首に再度牙を立てる。それで男は事切れてしまった。
バルノアは恐怖と不安で地面を見つめることしかできなかった。このままアレッシオが来なかったら? 罪をなすりつけられたら? 目の前の吸血鬼の王に気まぐれで殺されてしまう可能性もある。
どれくらい経ったか分からない。ジェスガーが一般人、囚人問わず四人目を食い散らかした頃、バルノアの不安は和らいだ。
「隊長!」
「すまない、随分待たせてしまったな」
ウェネステル皇国聖騎士第一隊隊長アレッシオ・カローゼが現れた。
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