51 / 76
第2章
22話
しおりを挟む
光球が館の結界に当たると爆発が起きた。突入のため結界付近で待機していた兵士たちは一旦退いていた。
「何も見えん!」
「結界は壊れたのか!?」
「怯むな!」
「入れるぞ!」
「突撃しろ!」
辺りから怒号が聞こえてくる。第六隊の魔術師たちが風の魔術で煙を晴らそうとしている。
視界が戻り始めると結界は壊れており、多くの兵士が突入を始めていた。門を抜け、巨大な鉄の扉を開けようとしている。 第五の隊長が魔術師たちに指示を出す。兵士たちが扉から離れたのを確認すると様々な魔術が扉を撃つ。
瞬間、セレスタは嫌な気配を感じ取った。しかし既に遅かった。扉の先から赤黒い手が無数に伸びてきて兵士たちの頭や首を握り潰していく。
「あれが血流術……」
ルゥが震えた声で言った。セレスタもあのような大規模の血流術を見るのは初めてだった。瞬きする間にも血が飛び散り死体が増えていく。
しかし、その惨劇もすぐに止まった。赤黒い手が全て半分に斬られて落ちたのだ。
「退くな! 退いた分だけ悪しき奴らが我らの後ろにいる護るべき者たちへと近づいてくる。それを忘れるな!」
「シルヴィオ隊長……!」
シルヴィオの一太刀は兵士たちの肉体以上に意志を救った。
セレスタはこの軍が吸血鬼の貴族を殺害したというのは本当だと確信していた。同時に一対一ならば勝てるとも思った。先程の剣技は初動から目で追うことができる。魔術での身体強化込みであることも確認できた。このまま戦術を見ていけば更に有利に動ける。今いる他の二人も観察しておきたいところだ。
扉の奥から手を叩く音とともに人影が現れた。
「ブラボー! よもや私の腕がこうもあっさり攻略されるとは。ジオミルが負けたのも納得だ」
シルクハットの吸血鬼はそう言いながら笑う。
「だが、優れた頭を潰せば残りは数にもならないのだろう?」
聖騎士長たちを順番に指差していく。
「発射!」
隊長のかけ声と同時に第六隊が一斉に魔術を放つ。凄まじい爆発の煙で吸血鬼は見えなくなった。
「効かんな」
煙の中からまた赤黒い手が襲い掛かる。
それをまたもシルヴィオが斬り裂く。
「埒があかねぇ! こいつは俺が引き受ける」
「……分かった、任せるぞ」
アレッシオは兵士たちに館の中に突入するよう指示を出す。
「誰が先に入っていいと言った?」
シルクハットの吸血鬼が苛立ちを露にしながら先へ進もうとする軍を阻もうとする。
「お前の許可なんかいらねえよ」
しかし、それもシルヴィオが阻む。
セレスタも最後尾をぴったりとついていく。途中、コウモリの群れが軍の上を飛んでいった。その内の数匹が館の壁にぶつかり、薄く文字となったのに気が付いた。
『森で待機する 合流不要』
このメッセージは自分に向けられたものだと思った。恐らくこちらに気が付いたヴェスピレーネが送ってくれたのだろう。無事に脱出出来たようだ。
兵士たちの眼はコウモリが何も仕掛けてこずに過ぎ去ったことを確認すると視線を正面に戻す。薄暗い廊下でメッセージに気が付いた者はいなかったようだ。
「どうなさいました?」
ルゥが不思議そうに尋ねてくる。
「いえ、なんでもないです」
「そうですか。もし何か異変を感じたらすぐに報せて下さい」
"吸血鬼の仲間から連絡がきた"などと言えるはずがない。
「ゆっくりだけど確実に進んでますね。魔力もほとんど感じない」
誤魔化すように進行度合いに言及する。
「元々の数がそこまで多くないですからね。多くても一つの館に三十匹くらいと言われています」
「まあ、逃げたんでしょう。こちらには貴族を倒したという実績がある。吸血鬼も戦闘員ばかりではないからね」
「そうなんですね」
二人の解説に適当に相槌を打つ。すると、行軍が止まった。前方には巨大な扉が見える。その先からはとてつもない魔力が溢れている。
後方の魔術師部隊が術式の構築を始めた。このまま扉ごと撃ち抜くつもりなのだろうか。
「魔術師隊そのまま待機! 歩兵隊は第一とともに突入準備!」
女性の声で指示が聞こえてくる。聖騎士長の一人だったはずだ。名前を思い出そうとしていると、誰かが「カテリーナ様」と呼んだ。その時セレスタは異変を感じ取った。少しづつ廊下が歪んでいる。
「逃げろ!」
誰かが叫んだときには遅かった。廊下の壁や床から刃物が出現し兵士たちを襲う。第六隊の被害が大きかった。アレッシオが後方を確認する。
「アレッシオ様、第一は先に突入して下さい!」
「分かった」
隊長たちのやり取りにヘルガとルゥは顔を見合わせる。
「先輩、どうします? このままだと第六と足止めですよ」
「セレスタ様は少し下がっててね」
しかし、セレスタは廊下の攻撃を回避しながら第一隊の近くへと飛び出す。既に第一魔術師部隊は巨大な扉を破ろうとしていた。護衛の二人が慌てた様子で何か言っているが、もう聞こえない。第一の後方に張り付くように破壊された扉の先に進む。
「何も見えん!」
「結界は壊れたのか!?」
「怯むな!」
「入れるぞ!」
「突撃しろ!」
辺りから怒号が聞こえてくる。第六隊の魔術師たちが風の魔術で煙を晴らそうとしている。
視界が戻り始めると結界は壊れており、多くの兵士が突入を始めていた。門を抜け、巨大な鉄の扉を開けようとしている。 第五の隊長が魔術師たちに指示を出す。兵士たちが扉から離れたのを確認すると様々な魔術が扉を撃つ。
瞬間、セレスタは嫌な気配を感じ取った。しかし既に遅かった。扉の先から赤黒い手が無数に伸びてきて兵士たちの頭や首を握り潰していく。
「あれが血流術……」
ルゥが震えた声で言った。セレスタもあのような大規模の血流術を見るのは初めてだった。瞬きする間にも血が飛び散り死体が増えていく。
しかし、その惨劇もすぐに止まった。赤黒い手が全て半分に斬られて落ちたのだ。
「退くな! 退いた分だけ悪しき奴らが我らの後ろにいる護るべき者たちへと近づいてくる。それを忘れるな!」
「シルヴィオ隊長……!」
シルヴィオの一太刀は兵士たちの肉体以上に意志を救った。
セレスタはこの軍が吸血鬼の貴族を殺害したというのは本当だと確信していた。同時に一対一ならば勝てるとも思った。先程の剣技は初動から目で追うことができる。魔術での身体強化込みであることも確認できた。このまま戦術を見ていけば更に有利に動ける。今いる他の二人も観察しておきたいところだ。
扉の奥から手を叩く音とともに人影が現れた。
「ブラボー! よもや私の腕がこうもあっさり攻略されるとは。ジオミルが負けたのも納得だ」
シルクハットの吸血鬼はそう言いながら笑う。
「だが、優れた頭を潰せば残りは数にもならないのだろう?」
聖騎士長たちを順番に指差していく。
「発射!」
隊長のかけ声と同時に第六隊が一斉に魔術を放つ。凄まじい爆発の煙で吸血鬼は見えなくなった。
「効かんな」
煙の中からまた赤黒い手が襲い掛かる。
それをまたもシルヴィオが斬り裂く。
「埒があかねぇ! こいつは俺が引き受ける」
「……分かった、任せるぞ」
アレッシオは兵士たちに館の中に突入するよう指示を出す。
「誰が先に入っていいと言った?」
シルクハットの吸血鬼が苛立ちを露にしながら先へ進もうとする軍を阻もうとする。
「お前の許可なんかいらねえよ」
しかし、それもシルヴィオが阻む。
セレスタも最後尾をぴったりとついていく。途中、コウモリの群れが軍の上を飛んでいった。その内の数匹が館の壁にぶつかり、薄く文字となったのに気が付いた。
『森で待機する 合流不要』
このメッセージは自分に向けられたものだと思った。恐らくこちらに気が付いたヴェスピレーネが送ってくれたのだろう。無事に脱出出来たようだ。
兵士たちの眼はコウモリが何も仕掛けてこずに過ぎ去ったことを確認すると視線を正面に戻す。薄暗い廊下でメッセージに気が付いた者はいなかったようだ。
「どうなさいました?」
ルゥが不思議そうに尋ねてくる。
「いえ、なんでもないです」
「そうですか。もし何か異変を感じたらすぐに報せて下さい」
"吸血鬼の仲間から連絡がきた"などと言えるはずがない。
「ゆっくりだけど確実に進んでますね。魔力もほとんど感じない」
誤魔化すように進行度合いに言及する。
「元々の数がそこまで多くないですからね。多くても一つの館に三十匹くらいと言われています」
「まあ、逃げたんでしょう。こちらには貴族を倒したという実績がある。吸血鬼も戦闘員ばかりではないからね」
「そうなんですね」
二人の解説に適当に相槌を打つ。すると、行軍が止まった。前方には巨大な扉が見える。その先からはとてつもない魔力が溢れている。
後方の魔術師部隊が術式の構築を始めた。このまま扉ごと撃ち抜くつもりなのだろうか。
「魔術師隊そのまま待機! 歩兵隊は第一とともに突入準備!」
女性の声で指示が聞こえてくる。聖騎士長の一人だったはずだ。名前を思い出そうとしていると、誰かが「カテリーナ様」と呼んだ。その時セレスタは異変を感じ取った。少しづつ廊下が歪んでいる。
「逃げろ!」
誰かが叫んだときには遅かった。廊下の壁や床から刃物が出現し兵士たちを襲う。第六隊の被害が大きかった。アレッシオが後方を確認する。
「アレッシオ様、第一は先に突入して下さい!」
「分かった」
隊長たちのやり取りにヘルガとルゥは顔を見合わせる。
「先輩、どうします? このままだと第六と足止めですよ」
「セレスタ様は少し下がっててね」
しかし、セレスタは廊下の攻撃を回避しながら第一隊の近くへと飛び出す。既に第一魔術師部隊は巨大な扉を破ろうとしていた。護衛の二人が慌てた様子で何か言っているが、もう聞こえない。第一の後方に張り付くように破壊された扉の先に進む。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
異世界転生しか勝たん
shiyushiyu
ファンタジー
JK…通称自宅警備員であった私は売れないラノベ作家として、売れる日をいつしか夢見ていた。
決してニートではない。
バイトは作家活動が忙しいからしてないけれど、ラノベ書いてるからニートじゃないし。
確かに冗談で異世界転生してみたいとか思ったけどさ、本当に叶うなんて思わないじゃん?
しかも何の冗談?転生した先が自分が書いてたラノベの世界ってそりゃないでしょー!
どうせ転生するならもっとちゃんと転生したかったよ!
先の展開が丸わかりの、ドキドキもハラハラもない異世界転生!
――――――――――――
アヤメ…主人公のデブスニート
転生先の小説:#自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw
登場人物:カラアゲ…大男の戦士
ナポリタン…イケメンチャラ男タンク
アヤメ…勇者(男)に転生した主人公のデブスニート(転生した姿はハンサムな男)
世界を支配しようとする魔王に3人のパーティーで挑む!
基本は勇者の魔法で一発
転生先の小説:バンパイアくんとフェアリーちゃん
登場人物:パセリ…主人公(アヤメが転生した姿)
バジル…口の悪いフェアリー
ルッコラ…泣き虫バンパイア
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜
紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇
『ふぁんたじーってやつか?』
定年し、仕事を退職してから十年と少し。
宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。
しかし、その内容は怪しいものだった。
『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』
そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。
ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!?
ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!?
シルバー舐めんなよ!!
元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる