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第2章
19話
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セレスタが教皇と食事をすることになってから暫くして、聖騎士長に召集がかけられた。自室で待機していたマルツィアは玉座の間に向かう。
教皇と同じ"光"の存在であるセレスタの紹介と、彼女の吸血鬼狩りへの同行について説明があった。大事な作戦に余所者が参加するということへの不満を顔に出す者もいたが、口にする者は決していなかった。
解散後、マルツィアはセレスタを呼び止める。
「セレスタさん、ごめんなさい。大丈夫だった?」
「ええ、詳しくは話せませんけど貴重な時間でした」
「それは良かったわ。それでね、明後日のことで話があるの……」
マルツィアはセレスタを連れて玉座の間を出る。周囲を見回して人が多いのを認めると
「図書館に行きましょうか」
と小声で言い、城内の図書館に案内された。蔵書量は街のものより多く、非常に興味深いがそんなことができる状況ではない。
「これは絶対に他言無用で頼むわ。絶対によ」
マルツィアが念を押す。セレスタは気圧されたような返事しか出せなかった。
「少し前に聖騎士長の一人が死んだの」
噂話で聞いていた。病死だと聞こえたが、彼女の表情を見るにそう単純なものではなさそうだ。
「表向きには病死としているけれど、心臓を一突きで殺されていたそうよ」
漏らしたくないわけだ。英雄が殺されたなど吸血鬼狩りの士気に関わる。
「誰がどのように殺したかは勿論だけれど、教皇陛下でも聖騎士長のリーダー格であるアレッシオ様でもないのも疑問なの」
「既に国内に敵がいるということですか」
「それもだけれど一番に貴女が心配なの。本当は私が一緒にいられればいいのだけれど、先に出発して他の隊とは別方面になってしまうのよ。私の部下が付いているように取り計らってもらうけれど、それでも万が一ということもあるから」
出会って間もないのに、ここまで信頼されてしまうと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。根が優しいのだろう。軍人には向いていないのではないかとセレスタは思った。
「それって、マルツィアさんが狙われる可能性もありますよね。捜査はどれくらい進んでいるんですか?」
「全然分からないわ。国内の人間か他国の暗殺者か魔物かすらね」
他国の線は薄そうだ。皇国は周辺国家と無難な関係を築いている印象がある。魔物の討伐を積極的に行うことで国同士の行き来もしやすくなったと聞く。まともな国家であれば、魔術大国と戦争をしたいなどと思わないだろう。
「内部の人間の可能性が高いと考えてるんですね」
「そうなの。でも明後日にはわかるんじゃないかと思ってる」
「たしかに、聖騎士長が四人出払う時に何も仕掛けないとは考えにくい……」
「信頼の置ける副官と手練れを国の守護という名目で待機させるつもりよ」
殺害された聖騎士長の実力は分からない。しかし、先程玉座の間で同席した"英雄"たちからは相応の魔力を感じた。暗殺も容易ではない。
「セレスタさん……?」
「あ、はい!」
「そんなに深く考えないで。犯人探しに付き合って欲しいと思っているわけじゃないから。犯人の目的が分からない以上、用心してもらいたいって言いたかっただけよ」
マルツィアは話を切り上げ、城に戻るよう促す。セレスタは少し買いたいものがあるため市場を寄ってから帰るとマルツィアと別れた。
リュシールが心配しているはずだ。宿へと戻る。魔術で姿を見えなくして朝まで泊まっていた部屋に入ろうとすると、扉越しに別の客の声が聞こえた。
「リュー……」
自分のかけた魔術はまだ効いているはずで彼女の姿も他人には見えないが、それも長くは持たない。コウモリを飛ばせば魔力を感知されてしまうだろう。
「明日、国外に出られれば……」
結界の外に出られればコウモリを飛ばしても気づかれにくい。
翌日、部屋から出ようとすると、廊下にいた兵士に止められた。
「申し訳ございませんが、外出はご遠慮願います」
「どうしても?」
「どうしてもです。聖騎士長アレッシオ様のご命令ですので」
「……分かったわ」
アレッシオは聖騎士長の中で最も発言力を持つ男らしい。教皇の客かつ"光"の魔術師といえど余所者に城内をウロウロされるのはいけ好かないのだろう。今日は朝食から夕食まで用意してもらい部屋で過ごした。暇で仕方がなかったので昼間に眠ってしまった。旅に出てからこんなにゆっくり休める暇はなかったので有り難いと言えば嘘ではない。
結局何もできず吸血鬼狩りの日を迎えることとなった。
教皇と同じ"光"の存在であるセレスタの紹介と、彼女の吸血鬼狩りへの同行について説明があった。大事な作戦に余所者が参加するということへの不満を顔に出す者もいたが、口にする者は決していなかった。
解散後、マルツィアはセレスタを呼び止める。
「セレスタさん、ごめんなさい。大丈夫だった?」
「ええ、詳しくは話せませんけど貴重な時間でした」
「それは良かったわ。それでね、明後日のことで話があるの……」
マルツィアはセレスタを連れて玉座の間を出る。周囲を見回して人が多いのを認めると
「図書館に行きましょうか」
と小声で言い、城内の図書館に案内された。蔵書量は街のものより多く、非常に興味深いがそんなことができる状況ではない。
「これは絶対に他言無用で頼むわ。絶対によ」
マルツィアが念を押す。セレスタは気圧されたような返事しか出せなかった。
「少し前に聖騎士長の一人が死んだの」
噂話で聞いていた。病死だと聞こえたが、彼女の表情を見るにそう単純なものではなさそうだ。
「表向きには病死としているけれど、心臓を一突きで殺されていたそうよ」
漏らしたくないわけだ。英雄が殺されたなど吸血鬼狩りの士気に関わる。
「誰がどのように殺したかは勿論だけれど、教皇陛下でも聖騎士長のリーダー格であるアレッシオ様でもないのも疑問なの」
「既に国内に敵がいるということですか」
「それもだけれど一番に貴女が心配なの。本当は私が一緒にいられればいいのだけれど、先に出発して他の隊とは別方面になってしまうのよ。私の部下が付いているように取り計らってもらうけれど、それでも万が一ということもあるから」
出会って間もないのに、ここまで信頼されてしまうと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。根が優しいのだろう。軍人には向いていないのではないかとセレスタは思った。
「それって、マルツィアさんが狙われる可能性もありますよね。捜査はどれくらい進んでいるんですか?」
「全然分からないわ。国内の人間か他国の暗殺者か魔物かすらね」
他国の線は薄そうだ。皇国は周辺国家と無難な関係を築いている印象がある。魔物の討伐を積極的に行うことで国同士の行き来もしやすくなったと聞く。まともな国家であれば、魔術大国と戦争をしたいなどと思わないだろう。
「内部の人間の可能性が高いと考えてるんですね」
「そうなの。でも明後日にはわかるんじゃないかと思ってる」
「たしかに、聖騎士長が四人出払う時に何も仕掛けないとは考えにくい……」
「信頼の置ける副官と手練れを国の守護という名目で待機させるつもりよ」
殺害された聖騎士長の実力は分からない。しかし、先程玉座の間で同席した"英雄"たちからは相応の魔力を感じた。暗殺も容易ではない。
「セレスタさん……?」
「あ、はい!」
「そんなに深く考えないで。犯人探しに付き合って欲しいと思っているわけじゃないから。犯人の目的が分からない以上、用心してもらいたいって言いたかっただけよ」
マルツィアは話を切り上げ、城に戻るよう促す。セレスタは少し買いたいものがあるため市場を寄ってから帰るとマルツィアと別れた。
リュシールが心配しているはずだ。宿へと戻る。魔術で姿を見えなくして朝まで泊まっていた部屋に入ろうとすると、扉越しに別の客の声が聞こえた。
「リュー……」
自分のかけた魔術はまだ効いているはずで彼女の姿も他人には見えないが、それも長くは持たない。コウモリを飛ばせば魔力を感知されてしまうだろう。
「明日、国外に出られれば……」
結界の外に出られればコウモリを飛ばしても気づかれにくい。
翌日、部屋から出ようとすると、廊下にいた兵士に止められた。
「申し訳ございませんが、外出はご遠慮願います」
「どうしても?」
「どうしてもです。聖騎士長アレッシオ様のご命令ですので」
「……分かったわ」
アレッシオは聖騎士長の中で最も発言力を持つ男らしい。教皇の客かつ"光"の魔術師といえど余所者に城内をウロウロされるのはいけ好かないのだろう。今日は朝食から夕食まで用意してもらい部屋で過ごした。暇で仕方がなかったので昼間に眠ってしまった。旅に出てからこんなにゆっくり休める暇はなかったので有り難いと言えば嘘ではない。
結局何もできず吸血鬼狩りの日を迎えることとなった。
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