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第2章
14話
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「セリィを信じていなかったわけじゃないけど、上手く行きすぎてビックリしてる」
「ここからが本番よ。”光”と吸血鬼狩りについて調べないと……」
「そうだね。どこから行こうか?」
当たり前だが二人は土地勘がない。そのうえ広大な土地である。魔術を解いて人に尋ねようにも周囲には魔術師のみ。見つかれば不審者扱いだろう。
「……取り敢えず大通りに出ましょう。まだ明け方だから人は少ないだろうけど、ここよりはマシなはずだから」
途中の人目につかない所で自身の『光の布』を解除する。リュシールは闇の魔力が強く、日中でも赤い瞳や牙を隠せない。一人で動く方が良いと話し合って決めた。
大きな道を見つける。既に出店や買い物客がそれなりに見受けられた。
「そこの姉ちゃん、旅の人だろう? この国には来たばかりかい?」
気さくというか馴れ馴れしいおじさんが声を掛けてくる。果物を売っているようだ。
「ええ、先程入国したばかりです」
「これ食べてみな。さっき採れたばっかだぜ」
小さくカットされた果物が乗った小さな皿を差し出される。皮は赤く実は黄色、口に運び歯を立てると溶けるように崩れ口の中で甘みが広がった。
「美味しい!」
「だろう? 日持ちするから土産にもどうだい?」
「是非頂きます」
リュシールのために一つ購入した。図書館の場所も教えてもらった。
大通りの人が増えてきたが兵士や魔術師らしき人物は見られないので真っ直ぐに図書館へ向かう。
「……リューはこの辺りで待ってて」
図書館の入口で僅かに魔力を感じたためリュシールを待たせる。
受け付けにいる司書とずらりと並んだ本棚が入館者を出迎える。目線を上にやると二階もあることに気がつく。これらの中から目的のジャンルの本を独りで探すのは大変そうだ。
「魔術に関する本ってありますか?」
「二階は全て魔術の本となっております。実用的な魔術書や伝承などさらに細かい分類で置いています。どのようなものをお探しでしょうか?」
「"光"や英雄に関しての本と魔物……吸血鬼に関する本を探してます」
しばらくして司書は十冊程の本を持ってきた。二階の机でそれらに目を通す。"光"についても吸血鬼についてもこれといって参考になる程の新しい知識は得られなかった。どちらも研究サンプルが少なすぎるのだろう。
本を戻しに行くとき、突き当たりの所から妙な気配がした。魔力を感じる。入口で感じたものはこれだろう。
「勉強熱心な旅行者さん、よろしければ私とお話ししましょう」
周囲には誰もいない。間違いなく前方の壁から声がした。
「……?」
「ごめんなさい。いきなり話しかけたら警戒するわよね。普段は邪魔が入らないように隠れて読書してるんだけど、他国の人で私に気づいた方は初めてで嬉しかったの」
壁の中から魔術師と思しき衣装を着た女性が姿を現す。入国時に見た魔術師よりも装飾が派手であることと感じ取れる魔力の強さから位の高い者なのだろうと推察できる。
「私はマルツィア。皇国聖騎士隊に所属してるわ」
「セレスタです。アステニア帝国から魔術の勉強に来ています」
聖騎士……いずれ出会う存在と覚悟していたが、このような所で出会うとは思ってもいなかった。
「"光"、英雄譚、魔物、吸血鬼……。ねえ、少しお話ししましょう。もしかしたら教えられることもあるかもしれないわ」
闇の魔力には気づかれていないようだ。しかし、発言にも気をつけなければならない。当たり障りのない所から聞いていくことにする。
「"光"の魔術師に会ったことはありますか?」
「あるわ。この国にもいるもの」
「英雄と呼ばれる六人の聖騎士長がいるそうですがその方たちのことですか?」
「そうよ」
その後二人は魔術について語り合った。魔力の属性、魔術式、魔術史等このまま夜まで話に花を咲かせてしまうことも可能だっただろう。セレスタはふともう一つの聞くべきことを思いだす。
「吸血鬼を討伐したというのは本当ですか?」
「本当よ。それも位の高い吸血鬼。お陰でこの国はより栄えたわ」
「そんな相手となると兵は数百人規模だったんでしょうか」
「聖騎士長三人とその部下で五十人程度だと聞いたわ」
貴族級をそれだけの人数で倒せるということは聖騎士長の実力というのは本物なのだろう。出来れば戦いたくないものだ。
さらに踏み込んで質問しようかと思ったその時、マルツィア程ではないが強い魔力が館内に入ったのを感じた。二人のいる壁の中に徐々に近づいてくる。
「マルツィア隊長! ローラン隊長がお呼びです」
「急ぎ……よね。ごめんなさいセレスタさん。縁があればまたお話しましょう」
笑顔で軽く手を振って駆け足で図書館を出て行った。
「マルツィア隊長……ね」
セレスタはため息混じりの独り言をこぼし、図書館を後にした。
「ここからが本番よ。”光”と吸血鬼狩りについて調べないと……」
「そうだね。どこから行こうか?」
当たり前だが二人は土地勘がない。そのうえ広大な土地である。魔術を解いて人に尋ねようにも周囲には魔術師のみ。見つかれば不審者扱いだろう。
「……取り敢えず大通りに出ましょう。まだ明け方だから人は少ないだろうけど、ここよりはマシなはずだから」
途中の人目につかない所で自身の『光の布』を解除する。リュシールは闇の魔力が強く、日中でも赤い瞳や牙を隠せない。一人で動く方が良いと話し合って決めた。
大きな道を見つける。既に出店や買い物客がそれなりに見受けられた。
「そこの姉ちゃん、旅の人だろう? この国には来たばかりかい?」
気さくというか馴れ馴れしいおじさんが声を掛けてくる。果物を売っているようだ。
「ええ、先程入国したばかりです」
「これ食べてみな。さっき採れたばっかだぜ」
小さくカットされた果物が乗った小さな皿を差し出される。皮は赤く実は黄色、口に運び歯を立てると溶けるように崩れ口の中で甘みが広がった。
「美味しい!」
「だろう? 日持ちするから土産にもどうだい?」
「是非頂きます」
リュシールのために一つ購入した。図書館の場所も教えてもらった。
大通りの人が増えてきたが兵士や魔術師らしき人物は見られないので真っ直ぐに図書館へ向かう。
「……リューはこの辺りで待ってて」
図書館の入口で僅かに魔力を感じたためリュシールを待たせる。
受け付けにいる司書とずらりと並んだ本棚が入館者を出迎える。目線を上にやると二階もあることに気がつく。これらの中から目的のジャンルの本を独りで探すのは大変そうだ。
「魔術に関する本ってありますか?」
「二階は全て魔術の本となっております。実用的な魔術書や伝承などさらに細かい分類で置いています。どのようなものをお探しでしょうか?」
「"光"や英雄に関しての本と魔物……吸血鬼に関する本を探してます」
しばらくして司書は十冊程の本を持ってきた。二階の机でそれらに目を通す。"光"についても吸血鬼についてもこれといって参考になる程の新しい知識は得られなかった。どちらも研究サンプルが少なすぎるのだろう。
本を戻しに行くとき、突き当たりの所から妙な気配がした。魔力を感じる。入口で感じたものはこれだろう。
「勉強熱心な旅行者さん、よろしければ私とお話ししましょう」
周囲には誰もいない。間違いなく前方の壁から声がした。
「……?」
「ごめんなさい。いきなり話しかけたら警戒するわよね。普段は邪魔が入らないように隠れて読書してるんだけど、他国の人で私に気づいた方は初めてで嬉しかったの」
壁の中から魔術師と思しき衣装を着た女性が姿を現す。入国時に見た魔術師よりも装飾が派手であることと感じ取れる魔力の強さから位の高い者なのだろうと推察できる。
「私はマルツィア。皇国聖騎士隊に所属してるわ」
「セレスタです。アステニア帝国から魔術の勉強に来ています」
聖騎士……いずれ出会う存在と覚悟していたが、このような所で出会うとは思ってもいなかった。
「"光"、英雄譚、魔物、吸血鬼……。ねえ、少しお話ししましょう。もしかしたら教えられることもあるかもしれないわ」
闇の魔力には気づかれていないようだ。しかし、発言にも気をつけなければならない。当たり障りのない所から聞いていくことにする。
「"光"の魔術師に会ったことはありますか?」
「あるわ。この国にもいるもの」
「英雄と呼ばれる六人の聖騎士長がいるそうですがその方たちのことですか?」
「そうよ」
その後二人は魔術について語り合った。魔力の属性、魔術式、魔術史等このまま夜まで話に花を咲かせてしまうことも可能だっただろう。セレスタはふともう一つの聞くべきことを思いだす。
「吸血鬼を討伐したというのは本当ですか?」
「本当よ。それも位の高い吸血鬼。お陰でこの国はより栄えたわ」
「そんな相手となると兵は数百人規模だったんでしょうか」
「聖騎士長三人とその部下で五十人程度だと聞いたわ」
貴族級をそれだけの人数で倒せるということは聖騎士長の実力というのは本物なのだろう。出来れば戦いたくないものだ。
さらに踏み込んで質問しようかと思ったその時、マルツィア程ではないが強い魔力が館内に入ったのを感じた。二人のいる壁の中に徐々に近づいてくる。
「マルツィア隊長! ローラン隊長がお呼びです」
「急ぎ……よね。ごめんなさいセレスタさん。縁があればまたお話しましょう」
笑顔で軽く手を振って駆け足で図書館を出て行った。
「マルツィア隊長……ね」
セレスタはため息混じりの独り言をこぼし、図書館を後にした。
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