ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

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第2章

12話

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 聖騎士第二隊隊長リカルドの死から三日が経った。昨日彼の死が発表された。今日は葬式の予定だ。窓の外に目をやると、既に黒い行列が作られている。国民には死因は病気によるものだと伝えられた。国を変えた英雄の一人が自室で殺された事実などあってはならないのだろう。
 感傷に浸っていると廊下が騒がしくなる。ノックに返事をすると、自分の直属の部下とともに鎧の男が二名入ってきた。

「ローラン隊長! 教皇陛下がお呼びです」
「分かった、すぐ行く」

 玉座の間に入ると、聖騎士長たちとともに男がいた。見覚えはあるが名前は思い出せない。

「おはよう、たしか第二隊の副隊長だった……」
「おはようございます、ローラン隊長。本日より第二隊隊長を拝任しましたエスメルです。リカルド隊長の意思を引き継ぎ、教皇陛下及び皇国のために粉骨砕身働く所存です」

 リカルドは真面目だが柔和な人物だった。一方、新隊長にはただひたすら堅物という印象を抱いた。規律を重んじることは大事だが、融通が利かなければ独りよがりでしかない。しかし、この人事は当然聖騎士長のまとめ役であるアレッシオが関わっているはずである。ならば異論を唱えることなど不要だ。こういう時は

「よろしく、エスメル新隊長。大変な事が沢山あるだろうが共に頑張ろう!」

などと無難なことを言っておけばいい。

「挨拶も済んだろう。本題に入るぞ」

 アレッシオが声をかけると全隊長が玉座の方を向き膝をつく。カーテンの奥に人影がないことに気がつく。

「教皇陛下はまだ眠っておられる」

 誰かが疑問を発する前にアレッシオがそう言った。

「吸血鬼の王討伐作戦について変更を言い渡す。参加部隊は第一隊、第四隊、第五隊、第六隊の四隊だ」

 新隊長に変わったばかりの第二隊を外したわけだ。自分がお留守番なのは変わらないらしい。

「勘違いしないでほしいのは、この配役は決してエスメル隊長の力量不足を示しているのではないということだ」
「はい、十分に理解しております! 国の守護も立派な務め。与えられた任は果たしてみせます!」

 思わず眉をひそめる。できるだけ関わりたくない暑苦しいタイプだ。
 吸血鬼討伐作戦への参加部隊以外はここで解散となった。



 玉座の間に残ったのはアレッシオ、マルツィア、シルヴィオ、カテリーナの四人。
 皇国の若者は幼い頃から『闇の住人は全て人間の敵だ』と教えられてきた。自分たちの縄張り付近に魔物がいるなら、それは倒さなければならない相手なのだ。その彼らでも初めて相手にする巨大な敵。作戦会議は入念に行われる。

「先遣隊は第五隊に、最後尾には第六隊に任せる。第四隊は大きく迂回し逃げ道を塞いでもらう。ここまでで何か質問はあるか?」
「我々第四隊は他の隊より早く出発するということでしょうか?」
「そうだな。第五隊が館に到着する頃には待機場所にいてもらいたい。だが、早すぎても駄目だ」
「承知しました」

 淡々としかし有意義に作戦会議が進められていく。すると、玉座の前のカーテンの奥に人影が現れた。隊長全員がそちらを向いて膝をつく。

「作戦会議はあとどれくらいで終わりそうだ?」
「もう間もなく終わるところです」
「そうか、ならば続けろ。終わったら此方へ来い」
「かしこまりました」

 カーテンの奥から「ふぅ」と一息ついた声が漏れる。シルエットは見えないが玉座に腰かけたのだろう。
 会議が終わり、カーテンの手前に行く。彼らの胸の前に光の球体が現れる。

「それを両手で掬うように手にしろ」

 球体は泡が割れるように消えてしまった。すると睡眠不足による頭痛、肩の凝りや足の疲れが楽になる。

「どうだ、少しは元気になったか?」
「お心遣い感謝致します」

 アレッシオが代表して返事をする。

「武運を祈っているぞ」

 四人の聖騎士長は膝をつき、深々と頭を下げる。
 吸血鬼の王討伐作戦実行まであと三日。
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