ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

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第2章

11話

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「国の雰囲気、それと教皇、聖騎士について聞きたいです」
「もう少し呑んでいい?」

 ミストはセレスタの返事の前に酒を頼む。思えば、以前会ったときは口数が少ない印象で話し方も少し違った。先ほどから酒が入っているから口数が多いのかもしれない。
 こちらから最低限聞いておきたいことを切り出す。朝には出発するためあまり時間は残されていない。

「国の雰囲気ね、良かったよ。街並みは綺麗だし活気がある。結構前から魔物に対する警戒を強めたらしくて、国の周囲も安全そうだった。魔術結界も張ってたよ」

 大規模魔術結界の用途は主に二つある。結界外からの攻撃を防ぐため。もう一つは特定の条件を持つものが通ったことを認識するため。皇国周辺に張られているのは両方の性質を同時に持つものだそうだ。

「えーと、教皇と聖騎士だっけ。教皇は何年か前に変わったばかりだそうで、今の教皇は国民に一度も姿を見せたことがないらしい。聖騎士長は国の英雄って慕われてる……」

 と言いながら船を漕いでいる。顔には出ていなかったが相当酔いが回っているようである。
 お代を置いてから彼女の腕を取り自分の肩に回す。彼女の取った宿に戻りベッドに寝かせ、一言書置きして街を出る。出発までは時間があるが、皆起きているだろうと思ったので戻ることにした。


「魔術結界か……。じゃあ、わたし達だと皇国に入ることすらできないかもしれないってことか」
「"光"について知ることは叶わんかもしれないが、偵察という面ではそれならそれで構わないだろう」
「聖騎士長ってのが強いのね!」

 街で聞いた情報を共有するとこのような意見が出た。

「魔術結界が闇の魔力を弾くものだとしても、私なら入れるかもしれません」
「ダメだ! 一人で行かせるのは危険すぎる!」

 リュシールが珍しく声を荒げる。ヴェスピレーネは頷き、ラミルカは驚いた顔をしている。

「結界の内外で連絡が取れるとも限らん。そんな無謀をさせるわけにはいかないな」
「しかし、私が中から結界を解除できれば……」
「ねえ、セレスタ。吸血鬼あたしたちが結界に触れるとどうなっちゃうの?」

 しかし、セレスタはラミルカの方を見向きもしない。

「……セリィ?」

 ラミルカが心配そうな表情で疑問を投げかけたとき、セレスタは別の事を考え始めていた。ブツブツと独り言が出る。
 不思議そうな顔をする姉妹にリュシールは微笑みながら自らの人差し指を口元に添える。五分ほど沈黙が流れた後、セレスタが顔を上げる。

「……入れるかもしれない」
「何か策が見つかったようだな」
「結界を見ていない以上ハッキリとは言えないけど、結界が弱まるタイミングがあると思う。純粋な吸血鬼でない私とリューならその隙をつけるかもしれない」

 鳥の囀りが聞こえ、トナに声をかけられる。いつの間にか朝になっていたようだ。彼女はあまり眠れなかったのではないかと心配してくれた。
 馬車が動き始める。この街に着く前よりもスピードが出ている気がした。予定より早く着けるのではと思い、到着までの時間を尋ねる。何事もなければ明日の昼頃には着くだろうと返事があった。
 四人は入手した情報と進行状況をエスヴェンド王に報告することにした。リュシールは彼の部下から預かった赤いガラス玉を取り出す。

「どう使うんだろ? 聞こえますかー?」

 ガラス玉に声をかけると小さく光を発した。

「お嬢様、ご無事で何よりで御座います。ただいまヴァルドー様をお呼び致します」

 エレッタの声が聴こえてくる。少し間を置いてヴァルドーの声がした。

「……二人とも無事か」
「はい。てっきりエスヴェンド王に繋がるものだと思っていましたが、まだお泊まりですか?」
「いや、既に帰った。お前とヴェスピレーネ嬢にそれぞれ玉を渡し、一つは私に、もう一つはエスヴェンド王に繋がるようになっていると言っていた」

 現在の状況を簡潔に伝えて通話を切る。間髪入れずにヴェスピレーネが連絡を始めた。

「やあ、四人とも元気かな? 困ったことでもあった?」
「進行自体は問題ありません。しかし、国の周囲に魔術結界が張られているそうです」
「ふぅん、入れなさそう?」
「セレスタに策があるようです。実物を見なければ可能か分からないそうですが……」
「分かった。次の報告は皇国に着いた時でいいよ」
「承知しました」

 ガラス玉から光が消える。ヴェスピレーネは眉をひそめてため息をついた。
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