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第2章

7話

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 皇国の聖騎士長たちは玉座の間に集められた。この場には教皇を除き五人しかいない。いるべき人間が一人足りないのだ。重々しい空気の中、アレッシオが口を開く。

「……リカルドが殺された」

 アレッシオ以外の聖騎士長たちが驚いた表情になる。聖騎士長は全員貴族未満の吸血鬼であれば単独で倒せる実力の持ち主である。一体何者にどうやって殺されたというのだ。

「今朝方、彼の側近が発見したらしい。心臓を一突きされていた。大まかに考えられる事は三つ。吸血鬼などの魔物による襲撃、他国からの暗殺、国内に裏切り者がいるかだ」
「まさか俺たちも疑っているのか!?」

 シルヴィオが声を荒げる。ローランが諫めているが、アレッシオは気にも留めない。

「捜査は私とリカルドの部下の一部で内密に行う。みなは普段通りに動いてくれ。そしてこの事件には箝口令を敷く。国内外に漏れないように注意しておけ。……教皇様から何か御座いますか?」
「国民には病死とでも伝えることにする。部下たちにも他言無用だ。しかし、この国の英雄は手厚く弔ってやる……」

 その言葉を受け聖騎士長たちは亡くなった同胞へ黙祷を捧げる。僅かな沈黙が流れる。
 聖騎士長たちが玉座の間を出ていく。マルツィアは誰かに声を掛けようかと思ったが、そのような雰囲気ではなかった。彼女としては今後の動向を話し合っておきたかったのだ。アレッシオが述べた三つの考えをそれぞれ考察してみることにした。
 一つ目の魔物による襲撃という可能性について。先日討伐した吸血鬼の復讐という線もありそうだ。しかし、国の周囲には防護壁と魔術結界がある。魔術壁は魔術師二十名ほどが交代で昼夜問わず張っている。闇の魔力を持つものが通れば必ず分かる。それに引っかからない魔物も考慮しなければいけないのかもしれないが。
 二つ目の他国からの暗殺という可能性について。確かに皇国に反感を持つ国も多いが、表立って争うとする国は見たことはない。この近辺ではアステニア帝国と並ぶ大国だ。加えて、リカルドを狙う理由が見出せない。これは魔物による可能性にも言えることだが、こちらの場合教皇を狙うだろう。
 三つ目の裏切り者という可能性について。シルヴィオはああ言っていたが十分にあり得る。同じ聖騎士長ならば可能だ。それどころか、油断しているところならば部下でも可能だろう。しかし、この線を疑い始めるのは避けたい。聖騎士長同士で不和が生じれば隊ごとの連携が難しくなる。それはそのまま国内の戦闘力低下に繋がる。そのような状況で吸血鬼の王ヴァンパイア・ロードの討伐など無理だろう。

「……マルツィア隊長!」

 驚いて声の方を向くと副隊長のミナスがいた。

「大丈夫ですか?」
「ええ、ごめんなさいね。どうしたの?」
「本日の魔物に対する模擬戦闘ですが、お越しいただくことは可能でしょうか」
「すぐに向かうわ。先に行っててくれる?」
「失礼しました。普段でしたら余裕を持って来られるので心配致しました」
「会議が長引いてしまったの」

 優秀な副官は一礼すると演習場の方へと向かう。
 動きやすい服に着替えて演習場に行くと、既に隊員たちは体を動かしていた。魔術、体術、剣術、それぞれのグループに分かれて行っている。彼らはこちらに気がつくと手を止めて挨拶する。「続けてください」というと、心なしか先程よりも気合いが入ったように見えた。

「ミナス、今度の作戦だけど貴女は待機よ」
「はい」
「何も訊かないの?」
「それが隊長の結論なのでしょう? ならば従うまでです」
「……私はいい部下を持ったわ」

 自分にもしものことがあった場合、彼女は次期聖騎士長候補として真っ先に挙げられる人物である。危険な作戦に同行させ、全滅というリスクは避けたい。
 吸血鬼の王討伐作戦はアレッシオ率いる第一隊、リカルド率いる第二隊、マルツィア率いる第四隊、シルヴィオ率いる第五隊で行われる予定であった。しかし、リカルドが死んだ。編成についての詳細はまだ知らされていない。第二隊の新しい聖騎士長を決めて、予定通り上記の四つの隊で行うのだろうか。
 吸血鬼討伐作戦、聖騎士長殺害事件この二つには何らかの関連がある気がしてならなかった。
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