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第2章
4話
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「……!?」
リュシールが急にベッドから起き上がる。口元は血で濡れたままだ。
「どうしたの?」
「吸血鬼だ……。十、いや二十はいるっぽい」
素早く着替え始めるリュシールに倣って、セレスタも部屋に戻ろうとした。
「セリィはここで待ってて。君の存在は出したくない」
「……分かったわ」
そこでノックが聞こえる。こういった時に真っ先に来るのはエレッタだ。
「お嬢様、セレスタ様。お二人は部屋にいるようにとのことです」
「分かった」
「万が一の時は私かラシェルが来ますので一緒に逃げて下さい」
「……うん」
ヴァルドー、エレッタ、ジュラルドが館の前で待つ。二十人ほどの吸血鬼が姿を見せた。先頭を歩く二人以外は全員黒いフードのついたマントで全身を覆っている。派手な格好をした男が口を開く。
「久しぶりだな、ヴァルドー」
「久しぶりだ、ディレイザ」
「私は初めましてだね、ヴァルドー君」
「そちらはヤグート家当主エスヴェンド様とお見受けします」
「知っているのか、嬉しいよ」
「その風格と左肩の紋章で何者か分からない吸血鬼の方が稀でしょう」
ヴァルドーは二人の王と握手を交わすと、館に入るよう促した。
三人の王と部下が広間に集まった。それぞれの王だけが席に着き、その後ろで部下たちは待機している。
王が王と顔を合わせるというだけで事の重大さは充分にある。恐らく、ディレイザがエスヴェンドに同行を頼んだのだろう。中立としてか脅しとしてか、はたまた別の理由かは分からないが、いずれにしても効果はある。
「ヴァルドー、娘は同席しなくていいのか?」
「構わん」
「過保護だな」
話というのは吸血鬼殺しのことだった。ウェネステル皇国の周辺で吸血鬼や魔物が急激に減っているという内容だ。貴族が殺されたことで王たちも警戒を強めている。ここまでは周知している。そして数日前、新たな情報が吸血鬼の間を駆け巡った。
「六つある隊の隊長全員が"光"の持ち主だそうだ」
「そうか……」
「それもあって君が同胞に加えたという娘を見に来たわけなんだ」
「どっちみち、貴様もその娘のことで我々に相談するつもりだったのだろう? 早く連れてきたらどうだ」
「ディレイザ君、押し掛けたのは僕たちだ。彼の話を聞いてみよう」
「分かりました……」
ヴァルドーはセレスタに関する客観的事実のみを全て話す。
「……貴様は甘い男だと思っていたが、娘もそのようだ。今からでも殺すべきだろう」
「彼女の発作はまだ時折起きるということかい?」
「はい」
「じゃあ、皇国に行かせてみるのはどうだろう? 我々は闇の住人だ。魔力のこと、ましてや"光"のことはよく分からない。"光の子"が闇の世界の住人になるなんてケースは特殊だ。ならば、まず"光"のことを知るべきではないかな」
「皇国というのは今まさに吸血鬼狩りが行われているところ。そんな場所に行かせられるはずがない」
「またそんなことを言うのか。あの人間の女が死んだ時に何も学ばなかったようだな」
ヴァルドーは膝の上で拳を握りしめていた。爪が立ち、血がこぼれることに気づきもしなかった。この二人の言うことも一理ある。しかし、感情がそれを拒もうとする。ディレイザはそれを汲み取ったのか妙な提案をする。
「ならば、俺の子も共に行かせよう。純粋な王の血を引く者だ。文句はあるまい?」
ディレイザに続き、エスヴェンドも提案する。
「社交界への復帰……などは望まないのだろうね。私の方からも何か出来ることがあったら言ってくれ」
「どのような見返りがあろうと彼女の気持ちが動かなければお受けするつもりはない」
ヴァルドーはきっぱりと言い放った。
その直後、ガラスが割れ、大きな物が倒れるような音がした。
「確認して参ります」
エレッタが素早く動く。その時、それよりも速くディレイザの後ろにいた者が一人消えたことに気がついた。
王の後ろに控える者たちは身構える。ただ、ディレイザの部下たちの様子は、飛び出した一人を除いて何も変わらなかった。
「……すまん。警戒しなくてもいい」
辛うじて聴こえるくらいの声でそう言った。
傲慢そうな王の突然の謝罪に張り詰めた緊張の糸が少し緩んだ。
リュシールが急にベッドから起き上がる。口元は血で濡れたままだ。
「どうしたの?」
「吸血鬼だ……。十、いや二十はいるっぽい」
素早く着替え始めるリュシールに倣って、セレスタも部屋に戻ろうとした。
「セリィはここで待ってて。君の存在は出したくない」
「……分かったわ」
そこでノックが聞こえる。こういった時に真っ先に来るのはエレッタだ。
「お嬢様、セレスタ様。お二人は部屋にいるようにとのことです」
「分かった」
「万が一の時は私かラシェルが来ますので一緒に逃げて下さい」
「……うん」
ヴァルドー、エレッタ、ジュラルドが館の前で待つ。二十人ほどの吸血鬼が姿を見せた。先頭を歩く二人以外は全員黒いフードのついたマントで全身を覆っている。派手な格好をした男が口を開く。
「久しぶりだな、ヴァルドー」
「久しぶりだ、ディレイザ」
「私は初めましてだね、ヴァルドー君」
「そちらはヤグート家当主エスヴェンド様とお見受けします」
「知っているのか、嬉しいよ」
「その風格と左肩の紋章で何者か分からない吸血鬼の方が稀でしょう」
ヴァルドーは二人の王と握手を交わすと、館に入るよう促した。
三人の王と部下が広間に集まった。それぞれの王だけが席に着き、その後ろで部下たちは待機している。
王が王と顔を合わせるというだけで事の重大さは充分にある。恐らく、ディレイザがエスヴェンドに同行を頼んだのだろう。中立としてか脅しとしてか、はたまた別の理由かは分からないが、いずれにしても効果はある。
「ヴァルドー、娘は同席しなくていいのか?」
「構わん」
「過保護だな」
話というのは吸血鬼殺しのことだった。ウェネステル皇国の周辺で吸血鬼や魔物が急激に減っているという内容だ。貴族が殺されたことで王たちも警戒を強めている。ここまでは周知している。そして数日前、新たな情報が吸血鬼の間を駆け巡った。
「六つある隊の隊長全員が"光"の持ち主だそうだ」
「そうか……」
「それもあって君が同胞に加えたという娘を見に来たわけなんだ」
「どっちみち、貴様もその娘のことで我々に相談するつもりだったのだろう? 早く連れてきたらどうだ」
「ディレイザ君、押し掛けたのは僕たちだ。彼の話を聞いてみよう」
「分かりました……」
ヴァルドーはセレスタに関する客観的事実のみを全て話す。
「……貴様は甘い男だと思っていたが、娘もそのようだ。今からでも殺すべきだろう」
「彼女の発作はまだ時折起きるということかい?」
「はい」
「じゃあ、皇国に行かせてみるのはどうだろう? 我々は闇の住人だ。魔力のこと、ましてや"光"のことはよく分からない。"光の子"が闇の世界の住人になるなんてケースは特殊だ。ならば、まず"光"のことを知るべきではないかな」
「皇国というのは今まさに吸血鬼狩りが行われているところ。そんな場所に行かせられるはずがない」
「またそんなことを言うのか。あの人間の女が死んだ時に何も学ばなかったようだな」
ヴァルドーは膝の上で拳を握りしめていた。爪が立ち、血がこぼれることに気づきもしなかった。この二人の言うことも一理ある。しかし、感情がそれを拒もうとする。ディレイザはそれを汲み取ったのか妙な提案をする。
「ならば、俺の子も共に行かせよう。純粋な王の血を引く者だ。文句はあるまい?」
ディレイザに続き、エスヴェンドも提案する。
「社交界への復帰……などは望まないのだろうね。私の方からも何か出来ることがあったら言ってくれ」
「どのような見返りがあろうと彼女の気持ちが動かなければお受けするつもりはない」
ヴァルドーはきっぱりと言い放った。
その直後、ガラスが割れ、大きな物が倒れるような音がした。
「確認して参ります」
エレッタが素早く動く。その時、それよりも速くディレイザの後ろにいた者が一人消えたことに気がついた。
王の後ろに控える者たちは身構える。ただ、ディレイザの部下たちの様子は、飛び出した一人を除いて何も変わらなかった。
「……すまん。警戒しなくてもいい」
辛うじて聴こえるくらいの声でそう言った。
傲慢そうな王の突然の謝罪に張り詰めた緊張の糸が少し緩んだ。
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