ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

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第2章

3話

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 暗い草原で何者かが走っている。肉食動物に追われる草食動物のようなスピードだ。しかし、追われる者は人間ではない。赤い瞳に口内に見える牙、吸血鬼ヴァンパイアのものだ。

「何だアイツら!? この俺が人げっ……」

 刹那、吸血鬼の首と胴が離れた。しばらくすると灰のように粒状になって消える。二人の青年がそれを見届ける。

「弱いな。俺たちはこんなのに怯えてたのか」
「調子に乗るなシルヴィオ。こいつは下級だ」
「分かってるって」
「さあ、帰るぞ」

 二人が国に戻ると、夜だというのに沢山の人が出迎える。彼らはウェネステル皇国における英雄なのだ。喚声を貰いながら、門から城まで歩く。

「ご苦労だったな。ローラン、シルヴィオ」

 白髪混じりの男アレッシオが二人を労う。

「下級吸血鬼が一匹、後は獣型の魔物が四匹。その他特に異常は見られません。以上です」

 ローランは討伐した種と数を簡潔に報告する。

「うむ、分かった」
「それでは失礼します」



 翌日、玉座の間で六人の男女が跪いている。玉座は煌びやかなカーテンで遮られており、皇国の長の姿は見えない。
 アレッシオが口を開いた。

「教皇様、聖騎士全隊長揃いました」
「そうか……」
「お耳に入れて頂きたい報せが二つございます。我が国の周囲では闇のもの姿は著しく減りました。もう一つは、吸血鬼の王ヴァンパイア・ロードの住処を発見しました」
「……ほう?」

 その場の全員の表情が険しくなる。一人の女が顔を上げ、話し始める。

「ここからは私カテリーナが説明致します」

 聖騎士たちは十日ほど前、ジオミルという吸血鬼の貴族を討った。その主君であるジェスガー・ハスクマンの居城を発見したという内容である。

「奴らはジオミル殺害の犯人が分かりかねるという様子でした。こちらから先手を打てば勝てるかと」

 僅かな沈黙の後、カーテンの後ろから声が放たれる。

「……そうか。具体的な指示はアレッシオに任せよう」
「かしこまりました」
「"聖水"が必要になるだろう。用意しておけ。他に何かあるか?」
「我々からは以上です」

 アレッシオ以外の聖騎士長は玉座の間を出る。大分離れたところで、シルヴィオが口を開いた。

「王討伐ってのは俺ら全員行くのか?」
「アレッシオ殿から詳細が説明されるはずよ。アンタがそんなこと考えなくていいの」

 カテリーナという女が厳しい言葉を投げる。

「やめないか。それぞれが部隊を率いるとはいえ、今度の戦いは連携が不可欠だ。貴族の時もそう言っただろう」

 ローランが諫める。他の二人、マルツィアとリカルドはいつの間にかどこかへ消えていた。機嫌悪そうにシルヴィオも去っていく。
 二人きりになったところでカテリーナが弱気に喋りだした。

「ローラン、私は不安よ……」
「吸血鬼が相手なんだ。皆不安さ。でも、ここで力を誇示することはこの国の、ひいては人間のためになる」
「そういうことじゃないの。この国のこと」
「……ああ、僕も同じことを考えてる」

 現教皇に変わって三年が経つ。その間にあらゆる変化があった。これまで聖騎士は一人の聖騎士長のもとで動いていたが、六つの部隊に分割され六人の聖騎士長が置かれるようになった。それから国の近辺や他国との行き来で使われる道に頻出していた魔物の討伐に力を入れるようになる。これにより国交や交易が盛んになって景気は良くなり、国は明るくなった。
 しかし、大きな謎がある。国のトップである教皇が一切顔を見せないのだ。誰かと話すときは先程のように遮蔽物越しで聖騎士長である二人も顔を見たことが無い。声から女性と思われるが、口数も少ないため人物像が全く見えない。国民の大多数は魔物による被害を大幅に減らした現教皇と聖騎士を支持している。しかし一部の国民からは『他国に乗っ取られようとしている』、『教皇は聖騎士長たちの傀儡』といった声も聞こえてくる。
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