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始まった侵略

3.さっそく近付く二度目の死?

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3.



 聞くところによると、この集落はダンジョンとやらからギリギリ外れたところらしい。

 で、ここの人たちはそこに集落を構えている民族的な何か。

 俺が魔物と呼んでいる存在はダンジョンの魔力に釣られ、ダンジョンの中にのみ生息する。
 魔物は魔力を餌にした動物の成れの果てだそうだ。
 吸収する事で形や性質を変え、あんな恐ろしい姿にになっていく、らしい。

 人を襲うのも、人が魔力を蓄えた存在であるから――だそうで。



「なるほど、分からん」



 教えてもらった事を一通り整理したところで、正直に感想を漏らす。



「最近の若い者はだめだめじゃのう」



 ベッドの周りに立つ大人の一人、よっぼよぼのおじちゃんが吐き捨てるように言った。
 
 ……今現在、俺のベッドの周りには、囲むようにして先程より大勢の人が並んでいる。
 というのも、少女がこの集落中の人間を集めて呼んできたからだそうで。

 ただ、全員集めてきた――という割には、少ないような気もした。
 一つのベッドをギリギリ囲むくらいだ。
 十数人といったところ。

 それに、その人数の中では少女が一番若くて、残りの人間はみんな年寄り。
 少女の次に若いのが、50後半っぽいおばちゃんというモノだった。



「そう言われましても……」



 さて、そんな集落の皆さん(平均年齢67)に囲まれながら、俺は情報収集をしていた。
 
 ここは異世界だ。
 昨日の魔物といい、Coocleマップに地図が載っていることといい、森の中にわざとらしく置かれた宝箱のことといい、知らないことが沢山ある。
 情報は知って置いて損はない。

 というか、知らないと死ぬ。
 昨日だって、たまたま少女が俺を見つけてくれなければそこでジエンドだったのかも分からないのだ。

 ……ただ、いざ色々と教えてもらってみると、中々理解できないもので。



「大体、なんすか。ダンジョンって、RPGじゃあるまいし」

「ダンジョンはダンジョンじゃと言っておろう」



 こんな感じの問答をもう5回は繰り返していた。

 ダンジョン、魔力……。
 ゲームなんかでよく聞くこれらの単語を、おっさん達はよく口にした。
 


(何だか、イマイチ実感がないんだよな)



 俺だって、普通の青年よろしくゲームは大好きだった。
 よくやり込んでいたのは、やっぱりFF(ファースト・ファンタジー)やドラクエ(ドラ工モンクエスト)といった有名RPGだ。
 ダンジョンや魔力にはとても馴染み深い。



「でも、それが現実にあるって言われるとねえ」



 魔物に関しては……なんかもう、本気で恐怖を感じたので信じてはいるんだけど。
 ダンジョンって言われてるのはただの森だったし、魔力に関してはまだよく知らない。



「……まあ、普段そういうのと関わってないと実感沸かないよねぇ~」



 と、少女。



「でも不思議だよね。あんさん、どうしてダンジョンも魔力も、なーんにも知らないのにあそこにいたの?」

「転生した」

「……ん~。やっぱり、どっかで頭やられちゃってるのかも」



 ちなみに、転生についてもこんな感じで、一切信じてもらえない。
 俺自身もイマイチ実感できていないから仕方ないかもしれないけど。



「ハルや。もしかしたらこの青年、魔力の瘴気に当てられちまったのかもしれんぞ」



 ここでお爺さん。
 また新しい単語が出てきた……。



「だぁね。
 ……ってことは~、あんさん、もっかい行かなきゃダメかも」

「どこに」

「そりゃあダンジョンさね」



 そーだそーだ瘴気のしわざだーと、周りのおっさんおばさん達も次々と囃し立て始める。

 ……なんか、話が急すぎて見えて来ない。
 しょーきって何だ? 魔力と何が違うの?



「ていうか、皆俺の頭がおかしいって前提で話を進めてないっすか?
 俺は別におかしくなってないし、記憶喪失とかそんなやつでもないし。バリバリ元気」



 両腕に力を入れて力瘤を見せ付ける。
 
 むきい。

 ……が、よく考えたら、別に鍛えているわけでもないので人並みの瘤しか出来なかった。
 ぷくって。
 むくーっ、くらいいってほしいものだ。



「んー。でも、ダンジョンも魔力も知らないのは、ちーっとばかり怪しいよ」



 少女は特にリアクションを示さずに話を進めた。



「それに関しては何も言えん」

「それにほら、実際にダンジョンに潜ることでさ、現実感がない~ってとこも解決すると思う」



 まあ、それは確かに。
 百聞は一見にしかずって言葉もあるし、実際に潜ってみれば勉強になるかもしれない。
 


「でも、また魔物とか出てきたら怖くね? ほら、俺って足挫いてるし」



 右足の包帯を見る。
 動かしていないので、特に強い痛みは感じないが、また前みたいに襲われた時に逃げ切れる自信は無い。
 しかも、あいつの上位互換までいるらしいし。
 マンモス倒せちゃうみたいだし。



「じゃが、もし瘴気が原因なら、放っておくと早くて明日には死ぬじゃぞ」

「えっ?」

「死ぬんじゃ」



 なんか、さらっと聞き捨てならない台詞が聞こえてきた気がする。

 思っていたより事態は深刻だったりするの?
 てか、めっちゃ軽そうに告げられたけど、よそ者の命ってそんなものなの?
 


「ははは。冗談っすよねえ~」



 どうか、年寄り特有の、ガバガバ知識であって欲しい……。
 すがるように少女を見る。






「おだーぶつー。ちーん」





 めっちゃ笑顔だった。



「おおおおおおお、俺、まだ死にたくないっす……」



 泣いた。
 産まれて初めての男泣きだった。
 一度死んでるから、何でも産まれて初めてと言えるのは強みだ。



「……そんな深刻そうに考えんでええ。お前さんにはハルがついておるんじゃけえ」



 唯一心配そうに俺に言葉を掛けてくれたのは、おばさん。
 この中で少女の次に若い50代後半のおばさん。



「ばーちゃん……」



 甘えたい。
 抱きつこうとしたら拒否されたけど。



「ハルがついていってやれば、場合にもよるんじゃが半日もしない内に浄化と帰還できるじゃろう。
 のお、ハル」

「任せておくれ~」



 おばさんに指名された少女は、自信満々だった。
 つーか、ハルっていうのは名前なのだろうか。

 いや、普通にこの場面を見れば名前だと思うんだろうけど、さっきから謎の単語を聞いていたせいで疑い深くなってしまう。
 
 ハルって名前と見せかけて、実は役職名なんじゃなかろうか。
 マイナーなRPGにはよくある、変な役職名だ。
 例えば……





 ……ハル。
 クラス・白魔法系。MPと回復魔力が伸びやすい。状態以上回復や軽いジョークもこなす、白魔法術師のエキスパート。
 必殺魔法は『ケマルガ』。
 アンデッド系に大ダメージ! あーんど、味方のHPを300程度回復!!
 しかし紙防御なので、パーティーには盾役が必須です……。






「……俺、パラディンやればいいのかな」

「めっちゃ弱そうだねっ!」



 自信ない。



「……何を勘違いしとるか分からんが、ハルを舐めんほうがええ。ハルにかかれば、ダンジョンなんて一捻りじゃ」

「ほーん……」



 少女……もといハルちゃんをジロジロと見回す。
 
 腰まで届きそうな、艶のある長いストレートの黒髪。
 ぱっちりとしたお目目に、薄いグリーンの瞳。
 色っぽい、薄いピンクの唇。
 よく見たら頭に白いコスモス的な何かを付けている。髪飾りかな。
 
 服装は、ユニクロっぽい、桃色のカーディガン。
 キャロットだかキュロットだか、そんなスカート(赤)……。

 ……。
 


「防御力低そうっすね」

「もっとよく見てみぃ」



 おばさんに言われるがまま、再度観察する。
 嘗め回すように。

 
 ……よく見たら、それなりにありそうなおっぱい。おわん。
 細すぎず、健康的な触りたいウエスト。
 あ、おしりもちょっと大きめかも……。
 白い肌は、思わず人差し指でふにふにとしたくなる衝動に駆られる。
 
 なるほど。
 これは……。
 


「触りたい……」

「そうじゃろ」



 この世界に来て、初めて分かり合えた気がしました。



「変なことばかり言ってると、助けてあげないよ~?」

「すんませんそれは困ります」



 まあ、冗談はこれくらいにしておくとして。
 実際、あの化け物がわんさかいるダンジョンに、こんな少女一人連れて行くだけで無事帰ってこられるのだろうか。

 仮に回復魔法がガチで使えたとしても、あの化け物の攻撃を受けたら回復するまでに時間がかかりそうだ。
 というか、即死したらまずい。
 ザオラノレがないと。

 あの女神の言っていたように、すぐ死ぬなんてのはごめんだ。
 でも、万一瘴気ってやつに当てられてたら死んでしまう……。



「……なあ、本当に大丈夫なん?」

「へーきへーきぃ。ここのダンジョンなら、全部私の庭みたいなものだから。
 ……慢心して、泥舟に飛び乗ったつもりでいておくれ!」

「転覆寸前っ!」



 ……しかし、こうなった以上どうしようもない。
 生きるためには、行動を起すしかないのだ。



「……ま、いいか」


 
 いざ行かん、ダンジョンへ。
 泥舟に乗ったつもりで飛ばしていくぜっ!


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