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プロローグ
いせかいしんりゃくかいし
しおりを挟む「歩きスマホで死ぬとか、あんたの人生なんだったの?」
「返す言葉もございません」
……俺こと西園寺小鳥の最期は、それは壮絶なものだった。
『Coocle・ごー』という、世界中で配信が待たれていたMAPアプリがリリースされた、その日のこと。
あらかじめ解析情報を辿りリリース日を把握していた俺は、会社をサボって(有給)誰よりも早くアプリをインストールし、外に飛び出した。
夢中になって近所を歩き回った。
そりゃ夢中なもんだから、周囲の確認なんてしなかった。
俺にはCoocleがついてるぜ! とか思いながら、画面だけを頼りにちょこちょこしていた。
で、気付いたら道路の真ん中に飛び出していた。
結果、大後悔時代の到来である。
「……死後ここに来るのはね、選ばれた人間だけなのよ」
ちなみに、目の前で偉そうに玉座っぽい椅子に座って、偉そうに唾を飛ばしているこのお方は女神様らしい。
青いひらひらのスカートとストッキングの狭間にある白いお肌がえっちいのが特徴だ。
「選ばれたっていうと、元々特別な才能を持っていたーとか、善行を積んでいたとか、勇者の血筋だったとか、そんなんですか?」
「違うわよ。大体、あんた善行どころか大迷惑をかけて死んでいったじゃない」
確かに。
俺のおかげで、世界では『Coocle・ごー、早くも大問題。歩きスマホの実態とは』ってテロップで特集が組まれ、世間に強い悪印象を植え付けているに違いない。
「……でも、それじゃあ何を基準に?」
「キリ番」
「軽っ」
ガバガバシステムだった。
……ちなみに、キリ番とは "キリの良い番号" の略語である。
昔のWebサイトには、よく来場者数カウンターが設置してあったなあ。
「そんで、今まではキリ番を踏んだ人間に異世界へ転生できる権利を与えてきたんだけど、あんたには必要ないしサクっと地獄へ送りましょう」
「いやいやいやいや」
さらっと権利を放棄されそうになった。
「……何よ」
女神様は不服そうに表情を歪める。
正当な権利を主張しようとすると叩かれる世の中、本当嫌になっちゃうわー。
だって、世に生きる人間諸君なら、誰しもが一度は願った事があるはずだ。
異世界に転生してぇーなー、と。
憧れへのチャンスがすぐそこにあるのなら、逃すわけにはいかない。
異世界への憧れの気持ちは今、ダイヤのように硬くなりつつあるのだから。
「だーいじょーぶよ。異世界なんかに行かなくても、あの世には送ってあげられるからさ」
「いえ。俺、決めたんです。もう迷わないって」
「まあまあ、そんな事言わずにー。
天国は良いわよ~? 身の回りのお世話してくれる天使がいるんだけどさ。
……みーんな、おっぱいデカいの」
おっぱい。
「まじっすか」
「まじまじ」
「おっぱいですか」
「おっぱいよ」
おっぱいか……。
「じゃあ、いいかな……」
俺の心は早くも揺れ動いていた。
ダイヤモンドはハンマーで割れるって言うしね。仕方ないね。
「ま、あんたは地獄行きだけどね」
「転生させてください」
土下座した。
「プライドの無いやつ……」
俺の異世界への気持ちは揺るがない!
「……冗談はさておき。
あんたみたいに死因も性格もアホな人間だと、どうせ向こうでもすぐ死ぬから処理が面倒なのよ。分かる?」
「それは大丈夫です。俺、やれば出来る子かもしれないって婆ちゃんによく言われてたんで」
「かわいそうに。孫がアホ過ぎて褒めるところが見付からなかったのね……」
失礼な。
ばあちゃんが一生懸命考えてくれた、俺の長所だというのに。
「それと、もう一つ問題があるのよ」
「問題?」
「そう簡単に死なせないために、普通は才能チートを与えて転生させるんだけど……今、ちょっと切らしちゃってるのよね」
「えっと、何を?」
「魔力を」
女神様は、おっぱいを強調させながら両手をぐっぱぐっぱする。
何のジェスチャーだろう……。
話の内容より、それが気になって仕方ない。
「チート無しでいいって言うんなら、今すぐ転生も可能なんだけどね? でも、あんたじゃ結果は見えてるし。
……ま、今回は縁が無かったとして、諦めなさいな」
女神様はそう言うと、胸の谷間から一枚の紙(A4)を取り出した。
谷間から。
胸の。
「わお。四次元ポケットうぃずOPPAI……」
「アホな事言ってないで、さっさとこれにサインしちゃいなさい」
手渡された紙にはごっちゃごちゃと小さい文字が横書きでびっしり詰められていた。
一番上には大きく、"異世界案内状" の文字。
一番下には大きく、"NO"、続けて小さく"YES"の文字。
……やる事がせこいぞ、この女神。
ババ抜きとかで、わざとババを手前にスライドして待機しているタイプだ。
そのタイプは嫌われるぞ、と経験談。
というか、こんな紙一枚で決定できる事にも驚きだ。
さすが、ガバガバシステム。
「まあ、いいか……」
ささっと解答した後。
記念に、ちょっとだけ紙の臭いを嗅いでおく。
すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううぅぅ――――
「はい、どうぞ」
「もっかい死ねゴミ」
……ほんのりと温かく甘い。
幸せの香りがした。
「……こほん。
まあ、いいわ。これで仕事も終わりだし、今回は特別に見逃してあげる」
「ありがとうございます」
「ほんと、心の広い女神様に感謝することね」
見逃されなかったら何をされたんだろう。
見逃されたから気にしても仕方ないんだけど。
「そんじゃ、失礼しまーす」
「ほーい。地獄でも元気でねー」
少しちゃらい学生が職員室から出るノリで挨拶して女神に背を向ける。
さて。
気付かれる前に、さっさとこの場を走り去っちゃうか。
「あでゅー」
さよなら、女神様。
そして、ようこそ異世界。
「ん? 何で逃げて――
……って、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ――――!!!!?」
……女神様の悲痛な叫びが聞こえた頃。
俺は既に、見た事の無い色をした不思議な光に包まれていたのだった――
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