菜の花散華

了本 羊

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番外編

道化師《ピエロ》は菜の花の花束を抱えて歩く 22

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・・・・・・心結がオレの結婚相手じゃない? 心結はもう日本にはいない・・・・・・? 


 沸々と込み上げてくる何かに、実は衝動のまま突き動かされた。


 「ふざけるなッ!」


 自室の中の物を所構わず投げて、引き千切り、蹴って壊しを繰り返し。
ようやく息が落ち着いてベッドに身体を放り出す。頭の中も心の中もグチャグチャで、何から考えて良いのか一向に纏まりがつかない。
 心結が日本から離れた。それは、実への実質的な拒絶を意味していた。
そのことに沸騰するような怒りが湧き上がり、留めようがない。



 『もの』の分際で・・・ッ!



そう実が唇を歯でギリギリと噛み締めた時、実の部屋のドアがノックされた。
 実が返事をしないでいると、更にそのノックは音を大きくしていく。


 何なんだッ


 そう思いながらベッドから降り、ドアを乱暴に開ける。
ドアの前に立っていたのは母親だった。実の部屋の惨状を見て、ため息を漏らす。


 「・・・・・・後で片付けるから、部屋を空けておきなさい」
 「・・・・・・いらない」


 母親に対して激昂出来るはずもなく、それでも最低限度の言葉しか今は口に出すのも煩わしく、実はボソリと口にした。
そんな実の姿に、再度母親はため息を零すと、持っていた綺麗な包装用紙の箱を実の手に強引に持たせた。その包装紙に実は覚えがあった。毎年の実の誕生日に、両親の知人から贈られてくる個人的に作られた品々を取り扱う店のロゴ。
その知人からの誕生日プレゼントは毎年、実が好きなセレクトをキチンと押さえており、小さな楽しみにもなっていた。


 「・・・オレの誕生日はまだ先だけど」
 「勿論知っているわ。でも、届けてもらうように頼まれたの」


 首を傾げる実に、母親は少し視線を落とし、口を開いた。


 「ねえ、実・・・。このプレゼント、毎年誰から贈られてきていたと思う?」
 「? 親父とお袋の知り合いだろ?」
 「そうね・・・、知り合いよ。娘にしたかったほどの・・・」








 実の目が大きく見開かれるのを、母親は静かな瞳で見ていた。


 「・・・・・・萩が亡くなってから、実は心結ちゃんとはほとんど会話らしい会話もなかったでしょう。それは私達大人のせいでもあったから何とかしたかったのだけれど、どこまで口を出して良いのかわからないまま、こんなにズルズルと長引いてしまったわ」


 母親は実の手の中にある箱を見つめて、悲しそうな表情を浮かべる。


 「・・・この家で心結ちゃんの誕生日を祝わなくなってからも、心結ちゃんは貴方の誕生日は忘れずにいてくれて、一年に一度、必ず心結ちゃんから私を呼び出す際の用事はいつもこれ。私だって、心結ちゃんの誕生日に近かったり、遅かったり、当日に間に合わなくてもプレゼントを渡していたけど。・・・・・・実は心結ちゃんの誕生日、覚えていた?」



 覚えてる。
しかし、いつからか、それは心結を形成する記号として。



 「心結ちゃんね、これを渡す時に頭を下げて口にしたの。
 『本当はこんな不義理な形で日本を離れたくはなかったのですが、心機一転するのには今のタイミングしかなくて。日柳様を幸せにしてくれる人が現れれば、わたしへの怒りも憎しみも、昇華出来るんじゃないかと思うんです』
って」


 何も言葉を発することが出来ずにいる実に、母親は踵を返しながらも話し続ける。








 「私達家族は、貴方が今も心結ちゃんに好意を持っていることを知っていたから、どうにか出来ないかと模索し続けた。それを悉く駄目にした結果が今の現状よ。・・・・・・心結ちゃんを今の貴方は幸せに出来ません。それならばスッパリと諦めて、他の女性と結婚なさい」





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