菜の花散華

了本 羊

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番外編

道化師《ピエロ》は菜の花の花束を抱えて歩く 20

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大学二年生になったある日、高校時代はよくあった報告を受けた。


 心結に近づく男の存在だ。
それまでと同じように指示を出し、普段通りに過ごしていた中で、その報告はなされた。
 報告に来た心結の家に潜り込ませている使用人が青褪めるほど、怒りが収まりきらなかった。



 『十二歳の頃から話もしない、視線も合わさない、成長してからは罵倒され、イジメを見て見ぬ振りをされ続け、貶められる。そんな相手が恋人? 一体どうしたらそんな言葉が出てくるのか、頭の中を一度見せてもらいたいものです。わたしのことは、今後わたしが決めます。そちらは適齢期まで女性遊びを好きなだけしたら宜しいでしょう、と日柳様にお伝え下さい』




・・・・・・少し、自由にさせ過ぎてしまったようだ。
ならば、もう一度心身共に叩き込もうじゃないか。
 『もの』に意思など必要ないのだから。








 連休前日の日、手駒の使用人に心結をホテルのスウィートルームにまで連れて来るように指示を出す。
 反抗することなどわかりきっているのだから、少々手荒でも構わない。
 薬の副作用でベッドに眠る心結の表情はあどけなく、無防備だった。



 雑念を振り払い、目的を遂行するためだけに行動する。
ベッドの柵に心結の両手首を布で一纏めに固定し、目覚めるのを待つ。
 目覚めた心結は混乱していた。


そんな心結の膣に、ローターを挿し込んで処女を散らした。
 泣き叫ぶ心結に男の欲望を強く刺激されたが、それを見せないように我慢した。
それは思いのほか忍耐を要したが、今はまだ、その時ではない、と己を戒めた。



 名家出身である実も心結も、何れは然るべき相手と結婚しなくてはならない。
 両親は確実に心結を嫁に貰いたがる。
 兄には既に婚約者がいるので、どんなに確執があろうとも、実だけしか相手は残っていない。
 七種家も、実の実家である日柳家から打診されれば、香恋のことがあろうとも承諾せざる負えない。
 他家にも根回しは充分に行っている。


その時こそ、心結をドロドロに甘やかして、すべてを実のものにする。
 絶対に離さないで愛で続ける。





 幼かった頃の純粋な恋心は、今や狂気となって実の中に存在し続けていることを、実は既に理解していた。





 心結は犯された翌日から自室から一歩も出ず、食事も摂らずに只管自室に引き籠り、二週間目に友人達が訪ねて来たことにより、ようやく部屋から出たらしい。
 心結のあまりの窶れようと憔悴具合に友人達は驚き、速攻で病院に搬送され、入院となった。
 実が動く前で良かったと思っている。
しかし、その一件から、心結の友人達は心結の家族に以前からあった不信感を爆発させ、暗黙の内実を名家に通達させた。


 『あの名家の家の当主夫妻は下の娘ばかり可愛がり、上の娘が死にかけていても知らん顔をする』


これで、香恋の嫁ぎ先はなくなったも同然だな、と他人事のように実は思い、すぐに忘れた。







それ以降、心結は一心不乱に彫り物の世界に心血を注ぐようになった。
 実も今は時間を置いておいたほうが良いことはわかりきっていたので、いつも通りの報告書にだけ目を通していた。


 心結は彫り物の世界では、


 「期待の天才」


と呼ばれるようになり、大学卒業後の就職先も有名アーティストのアトリエに推薦で決定していた。



そんな中で、あの事件は起こった。
 心結が国際コンクールに向けての作品を大学に泊まり込んで制作し、出来上がったその日、心結は暴漢に襲われて二ヶ月間、生死の境を彷徨い続けた。
 実も心結の見舞いに両親と昼間に出向き、真夜中、心結が昔から唯一信頼している使用人の久美が寝静まったのを見計らい、病室に入り、眠り続ける心結の手を握りしめた。



 無数の点滴やチューブで繋がれた心結の顔は青褪め、生気がない。


このまま目覚めないのではないか? 


そんなことを考えることさえ恐ろしかった。
 同時に、犯人に純粋で大きな殺意が湧いたが、実の伝手を持ってしても、犯人は見付けられなかった。





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