菜の花散華

了本 羊

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番外編

道化師《ピエロ》は菜の花の花束を抱えて歩く 14

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「私は七種心結といいます」


 第一印象は礼儀正しく、可愛いのにどこか強く儚げな雰囲気を持っているクラスメイト、だった。


 名家である日柳家の次男坊として生まれた実は、名家や企業に有りがちな政略結婚でも、仲睦まじい両親の元に育ち、幼い頃から人の上に立つ者としてのカリスマや才能を兼ね備えていた。
 家格や家柄の良い子ども達が集う学校に入学し、クラスメイトとして心結という少女と出会った。



その当時から女の子、女性好きの兆しを現していた実は、心結を心の隅に留めていた。
 幼い頃から女の子に人気があった実にまったく話しかけては来ず、静かなことを好み、陰で男の子達から絶大な人気を誇る少女。
 仲良くなったキッカケは心結は覚えてはいないだろうが、実は今でも鮮明に覚えている。







あれは、女の子達の人気を独り占めにする実を妬んだ男子達が、実一人に対して多勢に無勢で喧嘩を吹っ掛けてきた時だった。
 一対一ならば、実も手を出すことはしなかったが、これは立派な集団イジメに該当する。
それでも、怪我をさせない程度に相手を躱し続けていた。
 武道を既に習い始めていた実にとって、反撃は最終手段だと自分の中で戒めていたのだ。
しかし、喧嘩相手の一人が実の全然堪えた様子のない姿に苛立ち、壁に立てかけて置き忘れられていた大きな箒で背中を強打した。
これには流石の実も蹲ってしまい、そこを蹴られたり叩かれたりした。



そんな中で、その声は響いた。


 「寄って集って一体何をしているんですか?」


 突然現れた心結に、男子達は尻込みして実から離れた。
 心結は怖気付くこともなく実の傍までやって来ると、土や汚れを払い落とし、携帯でタクシーを呼び寄せた。



 結果として、十三針も縫う怪我をしてしまった実は、怪我を負わせた男子達の親から平身低頭の謝罪を受けた。
 両親はとても心結に感謝し、お礼をしようとしたが、心結自体がそれを拒絶した。


 「当たり前のことをして、お礼を貰うことは出来ませんから」


 実の母親は息子ばかりだったため、


 「あんな女の子がほしいわぁ~」


と心結を甚く気に入っていた。









 退院してから一週間後の放課後、実は人気のなくなった公園で心結を見付けた。
 心結はブランコに乗りながら、本を読んでいた。
 良家の子女が歩く時間帯ではもうなく、実は心結に声を掛けて、送って行こう、と思った。
しかし、当の心結の口から、


 「妹の誕生日なので、ある程度の時間を潰さないと帰れないんですよ」


そう聞かされ、最初は訳がわからなかった。


 家族の誕生日ならば、家族全員で祝うものではないのか?


 「妹が、わたしが居ることを嫌がったんです」


そう言って苦笑する心結は、とても七歳とは思えないほど大人びていた。
それでもその日は実の家の車で送った。
そうして一ヶ月が過ぎた頃、またその公園に心結は遅くまで居た。
 訊くと、今日は心結の誕生日なのだけれど、心結以外の家族で旅行に出掛けているという。







あまりな内容に頭にきた実は、心結の腕を掴み、そのまま自分の家まで連れ帰り、展開についていけていない心結を後回しにし、母親にそのことを話し、実の家で祝うことになった。
ポカンとしていた心結が、


 「おめでとう」


と言われた瞬間に泣き出してしまったことは、きっと一生忘れない。




 思えば、実の記憶の中でも心結は人前では決して涙を見せない人間であった。





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