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本編
閑話 プレゼントの行方
しおりを挟むその日も、暁はアトリエに籠り、ただ無心にキャンバスに絵を描いていた。暁は絵の構想が思い浮かぶと、思い描いた場所に到達するまで筆を離さない。
ようやく一息ついて筆をパレットに置くと、見計らったようにマネージャーが食事のトレイや籠っている間に届いた郵便物等々を運んで持って来る。
マネージャーの女性は、元々は暁の両親の会社で働いていたが、その有能な腕と持久力のある胆力を見込まれて暁のマネージャーとなった経緯がある。既に40代後半になる女性にとって、暁や日月は、子ども同然となっている。
何日も入っていなかったお風呂に入り、髭を剃ると見違えるほどの容貌が鏡に映しだされるが、暁は自分の容姿にまるで興味がない。服を着替えてリビングで食事をし、届いた郵便物などを確認していると、常にない、大きな箱がある。
暁には既に日本、世界各国にファンが存在し、贈り物などが届くのは日常茶飯事で、そういった開封は万が一のことを考えてマネージャーや警備がいる場所で行われる。
開封済みの箱を探ると、丁寧な包装の中に大小の幾つかのジュエリーケースがあり、開けてみると、リング、ネックレス、バングル、バレッタ、アンクレットが同じ石とデザインの凝った意匠でそこに鎮座していた。
暁は、首を傾げ、一緒に同封されていた白い封筒に収められている手紙を引っ張り出す。
『ご注文の品、製作が完了致しましたので送付致します。ご希望通り、デザインは菜の花をベースとし、誕生石のガーネットとペリドットが不釣り合いにならないように配置しました。気に入っていただけますことを願います』
誕生石、という単語に、カレンダーを見ると、妃奈の誕生日が間近に迫ってきていた。
いつも妃奈の誕生日プレゼントはマネージャー任せにしていたので、これもその一つだろう、と暁は思い、箱を丁寧に仕舞い込み、カバンの横に置いておいた。
ここで、大きな喰い違いが発生していたことを、後々、暁は知ることになる。
マネージャーはいつも通り、妃奈への誕生日プレゼントを購入しており、それも一緒に暁に届けていた。悠生の計らいにより、日月と妃奈の誕生日が同じ日であることは知っていたものの、妃奈と誕生日を暁が共に過ごすのは、絵のためであることをマネージャーはよく知っていたので焦ったことはなかった。
ただ、苦虫は噛み潰してはいた。
そんな中に届いたこのジュエリー達を、マネージャーは正確に日月の誕生日プレゼントである、と気付き、嬉しく思い、妃奈の誕生日プレゼントと一緒に暁の元に届けた。
妃奈へと用意されていたプレゼントが、男性でも使える流行のブレスレットだったことも災いしていたのだろう。
時間に邁進した暁がそのことを後悔し、マネージャーがキチンと伝えておかなかったことを悔いるのは、もう少し先のこと・・・。
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ご要望がありましたので、日月の誕生日プレゼントがなぜ妃奈の元へと渡ったのかの経緯のお話です。
本当に行き違いで、暁の自業自得です。
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