【原版】猛毒の子守唄

了本 羊

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第七話

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のけ反るように息をあげて、眠りからヒイシは目覚めた。
ゼイゼイと息をして、美しい模様の描かれた天井を見上げながら、夢を見ていたことを自覚する。
 起き上がっても暫くの間は呼吸の乱れが治まらない。
 酷い汗をかいていることは額や首筋から伝う汗と汗に濡れた寝間着でわかる。

 久しぶりに見る夢だった。
 両親が亡くなった後は何度も夢に見て魘され、その度に乳母や祖父に心配をかけていた。
 今日はあんなことがあったので、早々に寝てしまおうとしたのが良くなかったか、とヒイシは思う。
バズの歌っていた歌は、生前母が子守歌代わりにいつも歌ってくれていたものだった。
ヒイシはその歌が好きで、よく母に歌ってくれとせがんだ。
 幸せな夢であるはずなのに、悪夢のように魘されてしまう。
 息を落ち着かせると、ベッド脇のテーブルに置いてあるタオルを手にとって汗を拭う。
その時、寝室の扉がノックされ、返事を待たずに開けられると灯りが点けられた。
 「おや、眠っていると思っていましたが」
この部屋にノックの後に返事を待たずに入って来る人間など一人しかいない。
 「……何の用ですか?」
ミスラの顔を見て、落ち着いていた気分が下降していく。
 「少しお伝えしたいことがあったのですが……」
そう言いつつ、ベッドの端に座ると、ヒイシの髪をかき上げる。
 「良くない夢でも見ましたか?」
ヒイシの汗の異常さに気付いたのだろう。ミスラは眉をあげる。
 「それほど汗をかいていては喉も乾くでしょう。水を持って来させます」
ヒイシが大丈夫だと言う前に、ミスラは部屋から出て行ってしまう。
ため息を吐いて、ヒイシはタオルでまだ気持ちの悪い首や額を強く拭いた。
ほどなくして水の入ったコップを持ったミスラが戻ってくる。
ミスラからコップを受け取ると、ヒイシは水を一気に飲み干した。思っていた以上に喉が渇いていたらしい。
 「……それで、伝えたいこと、とは?」
 再度ベッド脇に腰かけたミスラにヒイシは話しかける。
 「ああ、喜ばしいことがありまして。実は兄も視察の中で伴侶を見つけた、と報告がありました。庶民の女性ですが、結婚をしていない兄にとっては吉報です」
 本当に嬉しそうに話すミスラを思わずヒイシは見返してしまう。
 恐らくは、いや、絶対にその庶民出身の女性は無理矢理伴侶に選ばれたのではないだろうか。
 兄弟仲が良いことは普段のミスラの口ぶりや王宮内の思念からも充分に伝わってくる。
ミスラと国王であるアトリアは、よく似ていると評判だ。
 無意識に顔を歪めてしまうヒイシの頬を撫で、ミスラは殊更ゆっくりと口にする。
 「だから、もういいですよね」
ゾワリ、と背筋に悪寒が奔る。
ミスラの目の奥には情欲が滾り、ヒイシは咄嗟に後ずさろうとするが、ミスラに強い力で抱き寄せられてしまう。
 「私は充分待ちました。心も身体も……。なんて我儘は言いません。今は身体だけでいい」


その言葉が合図であるかのようにベッドにヒイシは組み伏せられ、片手でヒイシの顎を掴んでミスラは口づける。あまりの余裕のない性急さに引きそうになった身体をミスラに強く戻され、その衝撃で唇が切れてしまい、口内に血の味が広がっていく。その血の味にあの初めての記憶が蘇り、身体が強張り震え始める。
そんなヒイシの恐怖を悟ったのか、ミスラは一旦口づけをほどくと、息継ぎをしているヒイシに畳み掛けるように口づけを再開する。
 喰らい付くように熱い舌でねっとりと絡め取られ、その舌で吸い上げられると、途端にゾワリと背筋が粟立ち、頭の中がグチャグチャに掻き混ぜられているような錯覚に陥ってしまう。
 「ふっ……あ……」
 身体中の力が抜けてゆき、いつの間にかヒイシはミスラに身体を預けるような体勢をとってしまっているが、そのことに頭が回る余裕はない。
 舌だけでなく、誰にも触れられたことのない口蓋や頬の内側まで執拗に嬲られ、一際強く舌を吸い上げられたとき、何かが脳天まで突き抜けていくような感覚をヒイシは覚えた。
 頬は蒸気したように赤く染まり、瞳は潤んで焦点が合わない。
そんなヒイシの状態に満足げにミスラは口元を上げると、ヒイシの身体をうつ伏せにして、カーテンのタッセルを取り、それでヒイシの両手首を括って拘束してしまう。
 手際良くあっという間にヒイシが着ていた寝間着の上半身を脱がすと、ヒイシの耳朶を噛み、胸を揉みしだかれる。
 片手で乳首を弄ばれ、もう片方の手で弄ばれているのとは別の胸を揉みしだかれ、背中を熱い舌が這うように口づけがおとされていく。
 「やっ! ん、くぅ……!」
ヒイシの頭の中は混乱していた。
 以前の行為には激しい痛みしか感じず、その恐怖は未だに身体に根付いている。
なのに、今は恐怖ではないなにかが身体と思考を酩酊させていく。
ミスラの手付きは以前と同じくヒイシに対する労わりなどない。
ただ、最初の時と違うのは、ミスラはヒイシの中に存在する人間の本能的な快楽を引き摺りだそうとしているということだ。
 現に、ヒイシの心は恐怖が薄れていく中でも嫌悪は微塵も消えていない。
ミスラの手が脚の付け根にまで到達した時、頭の中の混乱が一気に冷え、最早反射と言っても過言ではない素早さで暴れようとするが、指が秘所の上の下着をなぞるように辿ると、身体が跳ねた。
 「ひっ!」
じっくりと、形を確かめるように何度も指を往復され、屈辱と羞恥心で正確な判断能力も曖昧になっていく。
 先程と同様に素早くヒイシの下着を取り去ったミスラは、指を秘所の中に沈め、感触を確かめるように動かしはじめる。
 違和感と異物感が拭えないのに、ヒイシの口からは自身の心を裏切るような艶めかしい声が上がる。
 「あっ、ん! ぁあ……!」
 自分の口から出ている声だとは思えず、現実との境がわからなくなっていく。
 響いてくる水音に、自分が濡れているのだと理解し、ヒイシは絶句してしまう。
こういった行為は心が伴わずとも、身体が反応するというのは知識で知ってはいた。
しかし、自分がそんな立場になり、わかってしまったことがある。
ミスラの女性の噂など一切耳にしたことはないが、そういった行為に熟達しているのだ。
 不味い。
 早鐘のような警鐘が意識の中に生まれ、両手を拘束されながらもヒイシは逃げをうつように身体をベッド脇にずらそうとするが、そんな抵抗はミスラにとって何の意味もなく、すぐに引き戻され、口内にミスラの指が三本ほど侵入してくる。
 口内に入れられた指は縦横無尽に蠢き、まるで口の中を犯されているような感覚に陥ってしまう。
 「ふっ……う……! んんっ!」
ミスラの口内に入れられているのとは別の指が、敏感な秘芽の突起を親指と人差し指でつまみ上げ、ゆっくりとこねはじめたのだ。
 身体の中を貫くような電流が奔ったかのようにヒイシの白い背中が跳ねる。
 目尻から涙が零れ、口からは嚥下出来ない唾液がシーツに滴っていく。
 「……ちゃんと濡れているようでよかったです」
とても小さな、ヒイシにしか聞こえない艶声を耳元で呟かれ、羞恥で頭の中が焼き切れそうになる。
その間もミスラの指は休まることなく口内と秘芽を弄び、下腹が疼いて仕方がない。秘芽を翻弄しつくしたあと、一旦そこから指を離すと秘裂の中に指を滑り込ませ、充分潤いはじめている秘孔の中を上下に指を動かしながら、次第に指の数を増やしていく。
 「んんぅ! ふぅ……!」

 嫌だ! 嫌だ! 嫌だっ!

そう心の中で叫び続けていても、快楽を覚え込まされていく身体はまるで作り変えられていくかのようで、恐ろしさにただ涙を溢れさせるしかない。
グチュグチュと酷い音が聞こえ、代わる代わる秘芽と秘孔を嬲られ、洪水のように液体を泡立たせる。
 「一度イっておいたほうがいいでしょう」
ミスラがそう口にした瞬間、幾度となく弄ばれた秘芽を先程までとはまるで違う強過ぎる力で擦り上げられ、潰される。
 「んんんんうううぅぅっ!」
ヒイシの口内に入れられている指が、一際高く上がった嬌声をくぐもらせた。
 頭の中が真っ白になり、目がチカチカしてしまう。
 口内の指を抜かれ、下肢を弄っていた手も離れていくが、身体に力をいれることが出来ない。汗が噴き出て、呼吸を整えることだけで精一杯だ。
 首筋と背中に、ミスラは再度口づけを何度もおとすと、既に猛りきっている肉楔をヒイシの中に躊躇なく突き入れた。
 「ああああああああぁぁぁぁぁ!」
ヒイシの悲鳴にすら頓着せず、襞を押し広げてミスラの楔は律動をはじめる。
まだ二回目で、臓腑を圧迫する感覚にも痛みにも慣れていない。ミスラも苦しいのか、眉を顰めながら額には汗が浮いている。
ドクドクと脈打つ、とてつもなく熱い塊が自身の中におさまっているのが信じられない。
 必死で息を吐き出すヒイシの中をまるでなにかを探り当てようとするかのように動いている。
ミスラの手が胸を揉み、指が乳首を爪先で潰したり転がしたり引っ張られると、ヒイシのミスラを受け入れている膣は締まり、楔の形を色濃くヒイシに伝えてしまう。
 「んぅっ」
 不意に、ミスラの肉楔が膣内のどこかに触れ、ヒイシの背筋が粟立つ。
 快感とは違うような得も言われぬ感覚に途惑っていると、そのことを察知したミスラは口元に笑みを浮かべ、指でヒイシの秘芽をこすり上げ、尻をいやらしく揉みはじめる。
 敏感な部分が悦楽に染まれる起点となることなどヒイシは知らない。
 敏感な箇所を突かれ、身体を隅々まで弄られ、ヒイシは喘ぐことしか出来ない。

 嫌…!
こんなのは、嫌…!

 心と身体がバラバラになりそうだった。
 抽挿が激しくなるにつれて、ミスラの肉楔は質量と硬度を増していく。ヒイシはシーツを噛むことで只管声を出すことを抑えていた。
 室内には激しい息遣いと水音だけが響いている。
まるで叩き込むようにヒイシの最奥を突き上げて爆ぜ、灼熱の飛沫が胎内に注がれた瞬間、ヒイシは絶叫と共に達した。
 「ぎゃああああああああああ!」

 心が引き千切られてしまったかのように痛い。
それなのに、身体は快楽の余韻に浸っている。
 呆然自失のヒイシから肉楔を抜き、ヒイシの身体をミスラは仰向けにひっくり返す。
 快楽によっての行為で息を整えているミスラは壮絶なほどの色香を放ち、その艶やかな姿を視界に捉えながら、ヒイシはミスラを見上げていた。
 最初の時にヒイシがミスラにつけた首筋の傷は、もう痕がうっすらと残っている程度だ。
 涙と涎で汚れた自分は、さぞ惨めな姿になっているだろうと思う。
 実際には元来の美しさに扇情さと淫猥さが加わり、今のヒイシは普通の人間ならば直視出来ないほどであった。
ヒイシの涙が零れ落ち、アメジストの髪にキラキラと反射する。
その光景にゴクリ、と無意識にミスラは喉を鳴らす。それはミスラの理性が切れた音であったのだろうか。
 何の言葉もなく、既に力を取り戻していた肉楔でヒイシの秘孔を貫く。ヒイシは目を見開いてのけ反り、力の入らない身体が揺れる。
 「も…、もうっ……! やめ! やめてっ……!」
ミスラの耳にはヒイシのなけなしの哀願さえも届かない。
 達したばかりの身体は殊更敏感で、ミスラの肉楔を受け入れてヒイシ自身の意志とは関係なく、嬉しそうに絡み付く。
 「いやああああああああああ!」



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「ぎゃああああ」はさすがにないだろうと少しだけ揉めましたが、気持ちがないのに夢やロマンなどあるはずがないという言葉に諦めました。



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