26 / 31
chapter4 お見合い!? 初等部三年生編 ①
しおりを挟む三年生へと進級して2日が過ぎた。
二年ごとにクラス替えがあるので、ガーネットと同じクラスになれればいいなという期待と奏多と同じクラスじゃありませんように! という切望が今回は後者だけ叶った。
次は五年生の時にしかないから、卒業まで変わらない。
できれば次こそガーネットと一緒のクラスになれればいいと思いながら、夏葵には気がかりなことが数日前からあった。
春休みもガーネットと連絡を取り合っていたが、電話越しから聞こえる声はなんだか元気がないようで、新学期が始まって会ったガーネットは心ここにあらずという感じだった。
なにかあったのかと尋ねても「大丈夫」という返事しか返ってこない。
夏葵も色々心に負担がかかったとしてもガーネットには心配をかけたくなくてなにも言わないかもしれない。実際に言っていないことが山ほどある。
でも、大切な友人のことはやはり気になってしまう。
高宮東奥学園は土日が休みになっているので、夏葵は土曜日の朝から習い事を詰め込んでいる。
珍しく先生に注意をうけた夏葵は、やはりガーネットのことが気になり過ぎていたらしい。
ガーネットに月曜日には、なにがあっても聞きだそうと決意を固めて帰路についた。
みっちり習い事を詰め込んでいるせいで、土曜日はいつも夕方ぐらいの時間帯に帰ることが多い。
連れ添ってくれている千早が玄関の扉をひいてくれた時に、いつもならすまして出迎えの挨拶をする藤ノ百合家の執事である宮路が少し慌てた様子で小走りで近づいてきた。
「お帰りなさいませ。夏葵様」
「ただいま戻りました。どうかしましたか?」
「はい。夏葵様にお客様がいらっしゃっております」
「お客様?」
宮路が慌てるということは、もしかして奏多では!? と一瞬だけ危惧したが、続けられた名前に夏葵はいつもの礼儀正しさなど忘れて応接室に走り出していた。
「ざくろさん!?」
走ったせいで上ずった声が出てしまう。
恥ずかしいと思うよりも先に応接室のソファに腰掛けながら、真っ赤に腫れた目をしているガーネットを見て駆け寄っていた。
「どうしたんですか!? なにかあったんですか!?」
「……夏葵ちゃん……」
目元に雫が滲んで、思いっきりガーネットは夏葵に抱きついてきた。
その瞬間に嗚咽が口から洩れて、すぐにそれは大きな泣き声に変わった。
時折「お母様が」「兄様」という言葉だけは聞こえたが、正確になんと言っているのかは泣き崩れていてわからないまま、夏葵はガーネットが落ち着くまで抱きしめ返していた。
しばらく経って落ち着きを取り戻して泣き止んだガーネットは全てを話してくれた。
ここ一ヶ月の間、両親の仲が非常によくなかったこと。
大声でケンカを繰り返して、ついに母親が凛夜を連れて実家に帰ってしまったこと。
そのせいで祖母の具合が悪化したことを。
ガーネットの背をさすりながら、夏葵は千早を見た。
それだけで夏葵がなにを思っているのかわかったのか、神妙な面持ちで頷く。
前に千早が教えてくれたこと。
隠し攻略キャラクターである凛夜は大学進学前に両親が離婚していると。
凛夜は今年高校二年生。
乙女ゲーム通りのシナリオが進んでいるのだ。
夏葵はガーネットの背中をさする手を止めずに、片方の手をぎゅっと握る。
甘く見ていたと己の考えの甘さを悔やんでいた。
奏多や龍之介とゲームとは違う関係性になり、悪役という夏葵自身が夏李を憎んでいないこともあって、きっとゲームの登場人物がいても、それはあくまで千早が言っていたゲームだと高をくくっていた。
そのしっぺ返しが罰のように降ってきたような、今の現状はゲームのシナリオ通りになりつつある。
例えそれが攻略対象の一人の過去の一部分だとしても、友達のガーネットを悲しませる要因である以上見過ごしていいはずがない。
なのに、どうだろう。
ガーネットを支えようと決めていたのに、ガーネットの悩みがそのことだなんて今の今まで思い至ることもなかった。
知っていたのに。
怠慢だとしかいいようがない。
「……夏葵ちゃん……ごめんね……」
「大丈夫です。それにとても気になっていましたので、話していただけて嬉しかったです。頼っていただいたことも、とても嬉しいです」
安心させようと微笑めば笑い返してくれるが、すぐに応接室にある時計に目をやり、悲しい顔をする。
時刻はすでに夜七時過ぎ。
さすがに菜々月家がガーネットを心配しているころだろう。
「……帰りたくない……」
その一言で、夏葵の決意はすぐに決まった。
「千早さん、ざくろさんの家に連絡をしてもらえませんか? 数日、私の家でざくろさんを泊めたいと思います。と」
「夏葵様……」
驚く千早とガーネットに構わずに言葉を続ける。
「お父様には私からお話します。今日のお帰りはいつ頃でしょうか?」
「深夜になると伺っております。まずは私からお話をしておきます。行哉様がお帰りになられたら、夏葵様がすぐにお話できるようにしておきます。菜々月家もご心配なく」
「ありがとうございます。千早さん」
「いいえ。これも夏葵様の専属メイドの仕事です」
任せておいてくださいという表情で応接室を退室していった千早の足音が遠ざかると、夏葵はガーネットに極力明るい声を出した。
「これで数日、藤ノ百合家に滞在できます。ざくろさんは大丈夫ですか?」
「いいの? 夏葵ちゃん」
「かまいません。友達が困っているのを放っておく非常な人間にはなりたくありませんから」
「……夏葵ちゃんはそんな人にはならない」
しっかりと聞こえる声はいつものざくろの声で、夏葵はほっと胸を撫で下ろした。
0
お気に入りに追加
734
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる