星を旅するある兄弟の話

ねぎ(ポン酢)

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メッセージ

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脳筋兄貴が何やら変な事を目論んでいるようだ。

弟はそのこそこそと隠しているつもりらしいバレバレの行動を横目で見ながらため息をついた。

「ノア、あの馬鹿は何をやろうとしてんだ?」

彼が声をかけた相手に姿はない。
「ノア」はこの船を管理するAI。
星を旅する彼ら兄弟の良き友だ。

AIらしからぬ調子で言い淀んだ後、ノアは内緒話をする様に弟の骨伝導機にのみそのメッセージを伝えた。

「……は?あの馬鹿、本当に馬鹿なのか?!」

ノアから伝えられた情報に頭を抱え、弟はずんずんと外船準備を始めた兄の首根っこを捕まえる。

「ギャッ!!」

「ギャッじゃねぇ!このクソ兄貴!!」

弟に捕まった兄は大袈裟に驚き目を泳がせる。
それを無言のまま弟が睨めつけた。

「な、何かな~?俺、そろそろ船外活動の時間なんだけどぉ~!?」

「いい加減にしろ、クソ兄貴。何、計画にない勝手な事やろうとしてやがる?!」

「な、何の事やら……。」

「ちゃんと俺の目を見て言え、このバカ兄貴。」

『すみません、キャップ。私がドクターにお伝え致しました。』

「そんな!ノア!!」

「黙れ!脳筋!!単純バカ細胞!!」

「酷い!それがお兄ちゃんに言う台詞!?」

「何がお兄ちゃんだ!気色悪い!!」

一応、名のある博士だと言うのにと弟は額を押さえた。
いつまでも思い立ったら全力で走り出す少年の様な兄に弟はいつも振り回されてきた。
そのせいで多少、捻くれた性格になってしまった。

「……見せてみろ。」

「え?」

「あんたが宇宙にほっぽり投げようとしてるメッセージボトル、見せてみろ。」

そう言われ兄はきょとんとしたが、唐突に嬉しそうな顔をして「それ」を弟に手渡した。
中身を確認する弟を期待に満ち満ちた目で見つめている。

「どうだ?!」

「20点。」

「ええぇ?!」

「こんな頭の悪い文章、地球人代表だと思われたら死ぬほど恥ずかしいわ!!」

「何で~?!フレンドリーに書いただけなのに~?!」

「アホか!今、書き直すからちょっと待ってろ!!」

「ええぇぇ~?!」

こうしてメッセージは弟によって校正・添削され、兄が直された部分に文句をつけ、すったもんだの末、やっとのこと「それ」は完成した。

彼らの残した小さな「言葉」。

本来ならデブリとなりうる物を宇宙空間に投げるのはどうかと思う。
それでも、彼らは大人の中に僅かに残る幼い少年のような好奇心とロマンに勝てなかった。

宇宙の大海原に放たれたボトルメッセージ。

星を旅する兄弟の「言葉」は、今もどこかの宇宙空間を漂っている。
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