猫と話をさせてくれ

ねぎ(ポン酢)

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第一話

ロープと猫缶⑨

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 俺は猫に乗せられてると思う。

いくら精神が弱っているからって、乗せられ過ぎだと思う。

そんなことを思いながら、俺は特盛の牛丼を頬張った。


「なぁ~1枚肉くれよ~。」

「黙って秋鮭食えよ。楽しみにしてたじゃんか。」

「そりゃな、モンプーランの期間限定、秋鮭は旨ぇよ?やっぱ、最高だわ。でもよ、魚食ったら、肉も食いたくなるだろ?」

「知らねぇよ。」



猫と出会って3日目。


俺が何で、猫缶を食う猫の横で、特盛の牛丼を頬張っているかと言うと、こう言うわけだ。

明日、てめえも何か食うもん買ってこいと言われた。
ただの食いもんではなく、一番好きな食べ物で、腹がいっぱいになるようなものと指定された。

何でだよって言ったら、最後の晩餐て知らねぇのかよと言われた。
なるほど、と思った。

それを聞かれるまで、自分が何を食べたいかとか、考えてなかった。
腹は減ったけど、とりあえず何か食べて、何を食べたかはよく覚えていなかった。

そうか、最後なら何か好きなもの食べてもいいんだよな。

でも特にはあまり思い付かず、ただ、部活帰りに友達と食った牛丼の事を思い出した。

すっげー好きなものでもなかったし、もっと高くて旨いもんもあったと思う。

でも思い出したら無性に食いたくなって、最後の晩餐だしと大盤振る舞いして、特盛を買ったのだった。


「人間だって、言うじゃねぇか。高級料理の後に、違うものが食いたくなるって。」

「いや俺、高級料理とか、食ったことねぇし。」

「いいだろ~肉くれよ~。」

「腹、壊すぞ?」

「野良猫ナメんな!そんな肉1枚で!腹なんか壊さねぇよ!」

「人間の食い物、動物にあげたらいけないって言うしな。」

「俺は猫又だー!」



本当にこいつは訳が解らない。

俺は肉を1枚、箸で摘まむと、すでに空になっていた猫の茶碗に落としてやった。

猫は変な雄叫びをあげながら、ふがふがしていた。


少しだけ、空を見上げた。

今日はいい天気だった。
外で弁当食うには、とてもいい日だった。


俺は残りの牛丼を一気に掻き込んだ。

ガキみたいに行儀悪く、口いっぱいに頬張った。
頬張りすぎて上手く噛めず、飲み込むのが辛かった。

猫はそれを、黙って横目で見ていた。

俺が意地になって最後の一口を飲み込むのを見届けると、猫は姿勢を正して言った。


「ごちそうさまでした。」


何か不思議な感じだった。

空になった、テイクアウトの牛丼の容器を見つめる。
箸にまだ、米粒がついていたので、俺はそれを食べた。


「ごちそうさまでした。」


手を合わせて、俺は言った。

猫はいつも通り、ぐでんと横になると大きな欠伸をした。

他には何もなくて、妙に鳥の声が響いていて、風が吹くと草たちが擦れあって、さやさやと微かな音を立てた。

猫の腹が、膨らんだり凹んだり。
たまに髭がひくひく動く。

半開きの口から牙が見えたけど、別に怖いとは思わなかった。

むしろ、間抜けな顔がかわいいような気がした。

触りたいと思わなかった訳じゃない。
でも、俺はそうしなかったし、ただ静かに、猫のいるこの空間を感じていた。

それが、この口の悪いわがままで勝手な猫と俺の、しっくり来る関係だった。


俺は立ち上がった。

猫は寝転んだまま、薄く目を開けた。


「またな。」

「うん。またな。」


俺たちは、それが嘘な事を、お互いわかっていた。

でも、それで良かったんだ。
俺たちは。
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