19 / 69
屋根裏部屋の預言者
しおりを挟む
「あ、まだこの瓶あったんだな……。」
子供の頃、私には文通相手がいた。
とても不思議な文通相手がいた。
屋根裏部屋への階段を下ろすと、ずっと開けていなかったせいか埃が光の筋の中キラキラと舞う。畳まれた階段を下ろし、ギッシギッシと音を軋ませ上へと上がった。
明かりとりと言うより換気の為の小さな窓を開けようと近づくと、その窓枠に四角形で口の部分が広い青みがかった瓶が1本、物言いたげに佇んでいた。
それを手に取り、くすりと笑う。
子供の頃、文通相手がいた。
ボトルメールをやり取りする不思議な文通相手。
手に取った瓶には今日は何も入っていない。
そう、私の文通はこの瓶で行っていたのだ。
屋根裏部屋に転がっていた綺麗な薄水色の四角い瓶に惹かれ、私はそこに拙い字で手紙を書いて突っ込んだのだ。
『のぎひろとです いちねんせいです おてがみください』
読んだ本か何かにボトルメールが出てきて憧れていたのだと思う。
そして不思議な事に、数日たつと瓶の中に返事の手紙が現れたのだ。
それから文通が始まった。
瓶に手紙を入れておくと、数日たつと返事が入っている。
いろんな話をした。
学校に馴染めない事を話せば、『〇〇を集めておけ』だとか、『△△にある大きな木にクワガタがいる』だとか、まわりの子と話すきっかけになる事を教えてくれた。
運動会や遠足の天気を心配していれば教えてくれた。
そんな感じだったので、私は次第にその文通相手は魔法の世界にいる預言者なのだと思った。
「懐かしいなぁ……。」
今思えば、多分あれは家の大人の誰かがやっていたのだと思う。
不思議と私の事は何でも知っていたし、わかっていた。
そんな懐かしさを覚えながら、コトリとその瓶を窓辺に戻す。
そして捜し物を始めようと背を向けた時、コト……と、微かな音がした。
「…………え??」
何気なく振り向くと、つい今し方まで空だった瓶に紙が入っている。
驚いて蓋を開けそれを取り出す。
『のぎひろとです いちねんせいです おてがみください』
我が目を疑った。
それは紛れもなくかつて私が書いたものだった。
しばらく考え込み、そしてやっとわかった。
幼い私をよく知っていて、友だちと話すきっかけや運動会等の天気を知っている人。
「……預言者の正体見たり。」
私は笑って、返事を書く為に階段を降りて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【AI朗読】
https://stand.fm/episodes/65abb8431f707e5c6094aa7b
子供の頃、私には文通相手がいた。
とても不思議な文通相手がいた。
屋根裏部屋への階段を下ろすと、ずっと開けていなかったせいか埃が光の筋の中キラキラと舞う。畳まれた階段を下ろし、ギッシギッシと音を軋ませ上へと上がった。
明かりとりと言うより換気の為の小さな窓を開けようと近づくと、その窓枠に四角形で口の部分が広い青みがかった瓶が1本、物言いたげに佇んでいた。
それを手に取り、くすりと笑う。
子供の頃、文通相手がいた。
ボトルメールをやり取りする不思議な文通相手。
手に取った瓶には今日は何も入っていない。
そう、私の文通はこの瓶で行っていたのだ。
屋根裏部屋に転がっていた綺麗な薄水色の四角い瓶に惹かれ、私はそこに拙い字で手紙を書いて突っ込んだのだ。
『のぎひろとです いちねんせいです おてがみください』
読んだ本か何かにボトルメールが出てきて憧れていたのだと思う。
そして不思議な事に、数日たつと瓶の中に返事の手紙が現れたのだ。
それから文通が始まった。
瓶に手紙を入れておくと、数日たつと返事が入っている。
いろんな話をした。
学校に馴染めない事を話せば、『〇〇を集めておけ』だとか、『△△にある大きな木にクワガタがいる』だとか、まわりの子と話すきっかけになる事を教えてくれた。
運動会や遠足の天気を心配していれば教えてくれた。
そんな感じだったので、私は次第にその文通相手は魔法の世界にいる預言者なのだと思った。
「懐かしいなぁ……。」
今思えば、多分あれは家の大人の誰かがやっていたのだと思う。
不思議と私の事は何でも知っていたし、わかっていた。
そんな懐かしさを覚えながら、コトリとその瓶を窓辺に戻す。
そして捜し物を始めようと背を向けた時、コト……と、微かな音がした。
「…………え??」
何気なく振り向くと、つい今し方まで空だった瓶に紙が入っている。
驚いて蓋を開けそれを取り出す。
『のぎひろとです いちねんせいです おてがみください』
我が目を疑った。
それは紛れもなくかつて私が書いたものだった。
しばらく考え込み、そしてやっとわかった。
幼い私をよく知っていて、友だちと話すきっかけや運動会等の天気を知っている人。
「……預言者の正体見たり。」
私は笑って、返事を書く為に階段を降りて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【AI朗読】
https://stand.fm/episodes/65abb8431f707e5c6094aa7b
10
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる