雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ねぎ(ポン酢)

文字の大きさ
上 下
17 / 69

何度でも生まれ変わる

しおりを挟む
 幼い頃、世界は希望に満ち溢れていた。
目に映る全てが輝いていた。
世界の中心がどこにあるかなんて考えた事もなかった。

 子供の頃、世界は滅んだ。
日々に絶望が溢れ、幼い日に見ていた希望はすべて幻なのだと知った。
敷かれたレールから外れたら終わりだ。
そしてより良いレールに乗る為に日々追われる。
世界はいつだって自分でないどこか遠くを中心にして動いていて、私はいつだってその隅に追いやられ、なんの為に生きているのだろうと思った。

 大人になって、地獄に落ちた。
世界の隅に追いやられた人々は、世界の中心にいられなくとも少しでも自分の欲望を満たそうと、平気な顔で他人を騙し奪い傷つけた。そしてそれを「駆け引き」や「利口な生き方」と言う言葉で正当化していた。それに引っかかれば「〇〇の負け犬」と後ろ指さされ見下され蔑まれる。
どんぐりの背比べだ。なのに相手をズタズタに傷つけてでも、少しでも自分をよく見せようと手当たりしだいに奪う。奪って満足するかといえば、更に更にと繰り返す。そして自分は奪われたくないので徒党を組む。寄り集まって我が物顔でひそひそクスクス、奪いとった相手を「負け犬」と見下して笑う。
どのみち世界の中心でもない隅っこで、擬似世界の中心を作って偽物のカーストの高みでせせら笑っている。
世界の存在の意味のなさに何も感じなくなった。
おそらくすべてを諦めたのだ。

 人生を後ろから数えた方が楽になっただろう頃、ふと気づいた。
すべてを諦めてから見えてきたものがあった。

 ああ、そうか。
私は何にでもなれる。
何でもできる。

 これはこうでなければならないなんて決まりはただの思い込みだ。幸せとはこれだと言うのも思い込みだ。

自分以外の誰かが言ったただの言葉だ。

 そしてそれに翻弄されて、何もできないと決めていたのは自分だ。なりたい形を諦めていたのは自分だ。
誰かに自分の全てを決めさせていたのは、他の誰でもなく自分自身なのだ。

 こうなんて決まりはない。
強いて言うなら、こうだと自分が思ったものになれば、それが正解なのだ。自分以外の人間がそれをどう言おうが、それはその人の世界の事なのだ。

 ここまで来るのに随分と遠回りしたものだ。
でも、私は不器用だから、多分そこまでしなければ気付なかったのだ。

人それぞれ、着地点は違うだろう。
答えも違うだろう。
ただその答えは自分で探し出すしかない。

自分自身を自分だと決める答えを。

 人の答えを借りてもそれは正解じゃない。
たとえ傍から見れば愚かしくても、それが自分の答えならそれが全てなのだ。誰に何を言われたって気にする必要はない。

人は皆、違うのだから。
人それぞれ答えは違うのだ。

 それでも迷いは生まれる。

でも、大丈夫。
私達は何度でも生まれ変わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

ライト短編集

篁 しいら
ライト文芸
篁 しいらの短編集を纏めました。 死ネタ無し/鬱表現有り

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

処理中です...