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SF・ファンタジー系
天才教授はやがてこの世から消えてしまう(不思議系)
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「で、あるからして~……。」
カリカリとペンの走る音。
それに加えて、教授が動くすべての音がマイクに拾われている。
俺は音に調整をかけた。
授業に関係ない音は勉学の邪魔だし、教授のプライバシーに関わるのでできるだけ拾わない様にしなければならない。
それが教授についた俺の仕事。
俺は小さなドールハウスみたいな空間を専用の機材で撮影・集音しながら、それを巨大モニターに映している。
「……いつも思うけど、あれって別の所から映像、取って来てんじゃないの??」
「いや、マジであの箱ん中映してんだろ?!」
「え~?!でもありえなくないか?!人があんなに小さくなるとか?!」
ボソボソと喋る学生の声が聞こえる。
気持ちはわかるが、授業中だぞ?お前ら?
俺はくるりと振り返った。
「……聞こえてますよ?外に出されたくなければ静かにしていて下さい。」
俺がそう言うと分が悪そうに声は消えた。
だがちょっと小馬鹿にしたような薄ら笑いが残った。
まぁいいさ、いつもの事だ。
俺は諦めてため息をつくと、自分の仕事に集中した。
教授は世の中の真理を知っている。
天才的な発想で学会の度肝を抜き、史上最年少で助教授になったその人は、世界の真相を解き明かすのではないかと言う実験で事故を起こした。
いや、事故というのは正しくない。
天罰が下ったのだ。
人が知り得るには早すぎる世界の謎を、教授が説いてしまおうとしたからだ。
その結果、教授は世界の真理を知るに至ったが、それを語ると体が小さくなってしまうと言う、理解不能な症状が起こるようになった。
普通は研究中に事故を起こしたのなら処分されるし、教授だって、そんな体になったなら普通は研究をやめる。
しかし大学も政府も、世界の真理がわかるなら知りたい。
だから助教授だったその人を教授にして、生活に関わる全ての事に大金を積んで、それを知ろうとした。
教授になったその人は、それが今の人類に必要かつ教える事がそこまで早いものでなければ、それを話した。
だがそんな事をすれば、体は小さくなる。
そんな訳で、教授は今はとうとう、小さなドールハウスで暮らしている。
話さなければ小さくもならずに済んだのに、何で話しちゃったのかなぁと思う。
授業が終わり機材をまとめて背負うと、俺は授業用の小さな箱を抱えた。
それを抱えて研究室に帰る俺を、学生たちが影でくすくす笑っている。
言ってる事はわかっている。
いい年した男の癖にお人形さん遊びをしているだの、小人を飼っている変態だの、小人の奴隷になって喜ぶ性癖なんだとか、まぁそんな感じだ。
俺はため息をついた。
何を言ったって仕方ないし、もう諦めた。
「どうしてまだ授業なんてするんですか?!」
「教授として雇われている以上、仕方ないだろう。」
「どうしてそんな小さくなるまで、色々話しちゃったんですか?!」
「話しても良さそうな部分だったからね。」
「だって!小さくなるんですよ?!わかってます?!」
「わかってるさ。多分、次、何か大きめな事を教える事があったら、消えてしまうと思うよ。」
「はあぁぁぁっ?!なのにまだ!授業したり!研究に協力したりするんですか?!」
「別に私が消えようと消えまいと、世の中、そんなに変わらないさ。」
教授は世の中の真理を知っている。
そのせいなのか、自分が消える事にも何故か抵抗がない。
それは別に、あってもなくても変わらないと言うのだ。
「0か1かです!!全然違います!!」
「はは、なら2進法が使えるかもな。」
教授は常にこんな感じだ。
世界の真理を知ってしまうと、生死すら2進法と笑い飛ばしてしまえるらしい。
「………お願いですから……そんな事…言わないで下さいよ……。」
教授は……彼女は、俺の初恋だった。
自分より優れた人間を見ると嫉妬すると言うが、あまりにかけ離れて優れている人間を見た時、人は神にでも会ったかのような衝撃を受ける。
そして崇拝する。
恋い焦がれる。
なのにあの事故が起きた。
共に研究を行っていた者たちは彼女の元を去り、大学と政府は綺麗な言葉を並べて見せたが、単に利用して、他に取られないように小さなドールハウスに閉じ込めて飼い殺しにしたいだけだ。
教授は世界の真理を知っている。
だから全て理解しているのだ。
なのにこの状況を受け入れている。
全てを知っていて、受け入れている。
「どうしてか…か……。確かに無意味な事をしているな……。」
教授は小さく呟き、笑った。
メンテナンスをしていたカメラを教授が覗き込み、モニターにその顔が映し出される。
目があっている訳じゃない。
でもその肉眼では近くで見る事ができなくなったその顔と、まっすぐに向かい合う。
「どうしてなんですか……教授……。」
「ふふっ、それはね。世界の真理を知っても、解き明かせないものが一つだけあったからさ。」
「それは何なんですか?教授が消滅をかけても、追い求めたいのもなんですか?!」
「そうだね。冷静に考えれば呆れてしまうようなものだけれども、世界の真理すらそれを解き明かすことができなかったんだよ。」
教授は世界の真理を知っている。
だから教授の考えている事なんて、俺には理解できない。
「皆、私の元を去った。でも君は……君だけは、変わらずに、私の側にいる……。」
「俺は最後まで見届けます。たとえ何があろうとも……。」
俺にはそれしかできないから。
出会った時と何も変わらず、この人をただ見ている事しかできないから。
教授は笑った。
そしてモニターから顔が消えた。
消えてしまったのかと思って慌ててドールハウスの中を覗き込む。
「いちいち覗くな。ちゃんとまだいる。」
「すみません……。」
教授は世界の真理を知っている。
その天罰で秘密を明かせば体が小さくなり、いつかこの世から消えてしまう。
でもそんな世界の真理でも解き明かせないものと言うのは何なのだろう??
「約束だよ?最後まで見届けて?」
「はい。」
「この謎が解けたら、一番に君に教えると約束するよ。」
「それは光栄です。」
「私はその為には、大学や政府の浅知恵に付き合う事も、消滅すら辞さないんだ。」
「……できれば消滅は避けて下さい。」
「見届けると言ったのに?」
「言いましたけど、教授が居なくなったら流石に俺、泣きますから。」
「うむ……泣き顔は見てみたいが……消滅しては見れないな……。」
教授は世界の真理を知っている。
でも世界の真理を知っていても、解けない謎があるらしい。
その謎とは、一体何なのだろう??
俺にはそれはわからなかったが、それによってこの時間が続くのだとしたら、ずっとわからなければいいのにと少し意地の悪い事を思ってしまった。
カリカリとペンの走る音。
それに加えて、教授が動くすべての音がマイクに拾われている。
俺は音に調整をかけた。
授業に関係ない音は勉学の邪魔だし、教授のプライバシーに関わるのでできるだけ拾わない様にしなければならない。
それが教授についた俺の仕事。
俺は小さなドールハウスみたいな空間を専用の機材で撮影・集音しながら、それを巨大モニターに映している。
「……いつも思うけど、あれって別の所から映像、取って来てんじゃないの??」
「いや、マジであの箱ん中映してんだろ?!」
「え~?!でもありえなくないか?!人があんなに小さくなるとか?!」
ボソボソと喋る学生の声が聞こえる。
気持ちはわかるが、授業中だぞ?お前ら?
俺はくるりと振り返った。
「……聞こえてますよ?外に出されたくなければ静かにしていて下さい。」
俺がそう言うと分が悪そうに声は消えた。
だがちょっと小馬鹿にしたような薄ら笑いが残った。
まぁいいさ、いつもの事だ。
俺は諦めてため息をつくと、自分の仕事に集中した。
教授は世の中の真理を知っている。
天才的な発想で学会の度肝を抜き、史上最年少で助教授になったその人は、世界の真相を解き明かすのではないかと言う実験で事故を起こした。
いや、事故というのは正しくない。
天罰が下ったのだ。
人が知り得るには早すぎる世界の謎を、教授が説いてしまおうとしたからだ。
その結果、教授は世界の真理を知るに至ったが、それを語ると体が小さくなってしまうと言う、理解不能な症状が起こるようになった。
普通は研究中に事故を起こしたのなら処分されるし、教授だって、そんな体になったなら普通は研究をやめる。
しかし大学も政府も、世界の真理がわかるなら知りたい。
だから助教授だったその人を教授にして、生活に関わる全ての事に大金を積んで、それを知ろうとした。
教授になったその人は、それが今の人類に必要かつ教える事がそこまで早いものでなければ、それを話した。
だがそんな事をすれば、体は小さくなる。
そんな訳で、教授は今はとうとう、小さなドールハウスで暮らしている。
話さなければ小さくもならずに済んだのに、何で話しちゃったのかなぁと思う。
授業が終わり機材をまとめて背負うと、俺は授業用の小さな箱を抱えた。
それを抱えて研究室に帰る俺を、学生たちが影でくすくす笑っている。
言ってる事はわかっている。
いい年した男の癖にお人形さん遊びをしているだの、小人を飼っている変態だの、小人の奴隷になって喜ぶ性癖なんだとか、まぁそんな感じだ。
俺はため息をついた。
何を言ったって仕方ないし、もう諦めた。
「どうしてまだ授業なんてするんですか?!」
「教授として雇われている以上、仕方ないだろう。」
「どうしてそんな小さくなるまで、色々話しちゃったんですか?!」
「話しても良さそうな部分だったからね。」
「だって!小さくなるんですよ?!わかってます?!」
「わかってるさ。多分、次、何か大きめな事を教える事があったら、消えてしまうと思うよ。」
「はあぁぁぁっ?!なのにまだ!授業したり!研究に協力したりするんですか?!」
「別に私が消えようと消えまいと、世の中、そんなに変わらないさ。」
教授は世の中の真理を知っている。
そのせいなのか、自分が消える事にも何故か抵抗がない。
それは別に、あってもなくても変わらないと言うのだ。
「0か1かです!!全然違います!!」
「はは、なら2進法が使えるかもな。」
教授は常にこんな感じだ。
世界の真理を知ってしまうと、生死すら2進法と笑い飛ばしてしまえるらしい。
「………お願いですから……そんな事…言わないで下さいよ……。」
教授は……彼女は、俺の初恋だった。
自分より優れた人間を見ると嫉妬すると言うが、あまりにかけ離れて優れている人間を見た時、人は神にでも会ったかのような衝撃を受ける。
そして崇拝する。
恋い焦がれる。
なのにあの事故が起きた。
共に研究を行っていた者たちは彼女の元を去り、大学と政府は綺麗な言葉を並べて見せたが、単に利用して、他に取られないように小さなドールハウスに閉じ込めて飼い殺しにしたいだけだ。
教授は世界の真理を知っている。
だから全て理解しているのだ。
なのにこの状況を受け入れている。
全てを知っていて、受け入れている。
「どうしてか…か……。確かに無意味な事をしているな……。」
教授は小さく呟き、笑った。
メンテナンスをしていたカメラを教授が覗き込み、モニターにその顔が映し出される。
目があっている訳じゃない。
でもその肉眼では近くで見る事ができなくなったその顔と、まっすぐに向かい合う。
「どうしてなんですか……教授……。」
「ふふっ、それはね。世界の真理を知っても、解き明かせないものが一つだけあったからさ。」
「それは何なんですか?教授が消滅をかけても、追い求めたいのもなんですか?!」
「そうだね。冷静に考えれば呆れてしまうようなものだけれども、世界の真理すらそれを解き明かすことができなかったんだよ。」
教授は世界の真理を知っている。
だから教授の考えている事なんて、俺には理解できない。
「皆、私の元を去った。でも君は……君だけは、変わらずに、私の側にいる……。」
「俺は最後まで見届けます。たとえ何があろうとも……。」
俺にはそれしかできないから。
出会った時と何も変わらず、この人をただ見ている事しかできないから。
教授は笑った。
そしてモニターから顔が消えた。
消えてしまったのかと思って慌ててドールハウスの中を覗き込む。
「いちいち覗くな。ちゃんとまだいる。」
「すみません……。」
教授は世界の真理を知っている。
その天罰で秘密を明かせば体が小さくなり、いつかこの世から消えてしまう。
でもそんな世界の真理でも解き明かせないものと言うのは何なのだろう??
「約束だよ?最後まで見届けて?」
「はい。」
「この謎が解けたら、一番に君に教えると約束するよ。」
「それは光栄です。」
「私はその為には、大学や政府の浅知恵に付き合う事も、消滅すら辞さないんだ。」
「……できれば消滅は避けて下さい。」
「見届けると言ったのに?」
「言いましたけど、教授が居なくなったら流石に俺、泣きますから。」
「うむ……泣き顔は見てみたいが……消滅しては見れないな……。」
教授は世界の真理を知っている。
でも世界の真理を知っていても、解けない謎があるらしい。
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