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年賀状
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次の日目覚めると、世界はおかしな事になっていた。
僕は話を合わせないとと思いながらも動揺を隠せない。
「……何で??」
朝ごはんはすでにお雑煮だった。
まだ年越し前のはずなのに。
「あ~、この人から来ちゃったかぁ~。」
お父さんが年賀状を仕分けしながら、ぶつくさ言っている。
その横でお母さんがせっせと年賀状を書いている。
「ちょっとお父さん!仕分ける前に書いて!!」
「わかってるけどさぁ~。」
「あ~!どうして今年はこんなに時間がないのかしら?!あ!年末時代劇!今夜だったかしら?!」
「今夜は紅白だろ?!」
「そうだっけ?!じゃあ年越し蕎麦は今夜?!」
「それは明日だろ??それより後で初詣に行かないと。」
「あらやだ、ホントだわ。」
もう、ぐちゃぐちゃ。
どういう事なのかわからないけれど、今は年末のはずなのにどういう訳か年越しと年始が一緒に進行している。
いつがいつなのか全くわからない。
これじゃ話を合わせようにも合わせられない。
まだ書き終わっていなかった年賀状。
そして来てしまった年賀状の返事をお父さんとお母さんは必死になって書いている。
「いつもなら書き終わってゆっくりお節を食べてるのに~!」
「全くだ。新年早々、年越し蕎麦で一杯やる事もできないなんて……。年末はどこに行ったんだ?!」
「本当。いつの間に過ぎてたのかしら?!」
まだ今が年末だよと言いたい気持ちをぐっと堪える。
理由はわからないけれど、僕の記憶が正しければ今日はまだ年を越していない。
なのに、いつの間にか年末と新年が同時進行している。
そしてそれを僕以外は不思議に感じていない。
当たり前の事だと思ってる。
僕は気持ち悪くなって部屋に戻った。
頭がおかしくなりそうだった。
「……辰巳さん、大丈夫なのかな……。」
どうしてこうなっているのか、辰巳さんは大丈夫なのか、全部わからない。
年賀状が届いている事からもわかるように、変なのはうちだけじゃない。
外を歩いてみたけど、年始の挨拶と新年の挨拶が普通に入り乱れて交わされ、誰もそれを不思議に思ってない。
辰巳さんの家に行ってみたけれど、おばさんもおじさんも普通にしていた。
正月飾りをつけながら、僕を見て「あら、元気?背が伸びたんじゃない?」なんてにこやかに声をかけてくれた。
どうなっているんだろう?
年末年末が入り混じったこの状況も辰巳さんの事も。
あんなに皆で必死に探していたのに、もう誰も辰巳さんがいた事を覚えていないのだろうか?
「思った以上にカオスだな?!」
「うさぎ!!」
「よ!帰ってきたぜ!!」
ファンシーな声が聞こえ、僕は勢い良く体を起こした。
キョロキョロ探すと、うさぎは本棚の本と本の隙間から顔を出している。
やっとまともに話せる相手が現れ、僕は泣きそうになった。
「どうなってるんだよ?!辰巳さんは?!」
僕は本棚に駆け寄った。
通るのにギチギチだった隙間から、うさぎが綿の体を変形させながら無理やり出てくる。
「はー!!狭かった!!」
「大丈夫?!」
「まぁ、ぬいぐるみだしな。たいしたことねぇよ。」
片寄った綿をグイグイ戻しながらうさぎはそう言った。
というか、可愛いうさぎのぬいぐるみなのに、口が悪いよな……。
「辰巳さんは無事なの?!」
「おいおい、そんな泣きそうな顔してんなよ。無事だっつてんだろ?!」
うさぎは僕を見て呆れたようにため息をついた。
少し恥ずかしくなって俯く。
「あ~……。悪かったよ、別に責めてんじゃねえって。嬢ちゃんは無事だよ。全くの無傷。つか、今は傷つけようがねぇ……。」
「……どういう事??」
軽いノリで話している割に、うさぎは深刻そうな顔をしているように感じた。
こいこいと手招きされたので顔を寄せると、「顔じゃなくて手!」と言われたので手を出す。
うさぎはその上に乗っかった。
「……これはどこから説明すりゃ良いんだろうなぁ~。」
僕の手の上にあぐらをかくみたいにして座ったうさぎは、耳の後ろを掻きながら話し出した。
辰巳さんは無事。
ただし今、辰巳さんは干支神様と間違われている。
つまり、神様扱いとなっているのだそうだ。
そして干支神様に間違われた辰巳さんが今を新年にしてしまった為、「年の尾」つまり年末がなくなってしまったのだそうだ。
「え?!ちょっと待って?!何でそんな事に?!」
「う~ん。めちゃくちゃ偶然とミスが重なったっつうか~。お嬢、来年、年女じゃん??」
「年女??」
「辰年生まれって事だよ!!」
「え??なら今、僕は年男??」
「そうだよ!そんな事も知らねぇのかよ?!」
「ごめん……。」
「たく……。年男・年女ってのは、その年に生まれた。だからその干支の気を強く持ってんだよ。」
「占いみたいだね。」
「まぁ似たようなもんだ。で、細かい事をいうと、年だけじゃなく日にちや時間、方角や数字とかにも干支があんだよ。」
「へぇ~。知らなかった。」
「丑の刻とか言うだろうが!!」
僕があまり知識がないので、うさぎはちょっとイライラしていた。
何だか申し訳ない。
「まぁいい。でだな?嬢ちゃんはそういうのも含めて、辰の気を強く持ってんだよ。そしてあの時、飛んだ方角や何やらも重なって……辰ノ神と勘違いされたんだよ……。」
「……え?ええぇぇぇ?!」
「来年の干支は新年準備の為に早めに時の狭間に入るんだ。そして嬢ちゃんはあの時、一足先に新年に向かって飛んだ。いろんな偶然が相まって、時の狭間の入り口が勘違いして開いちまったんだよ……。」
「そんな事ってあるの?!」
「だから物凄い偶然なんだよ!!」
「でもじゃあ!本物の神様は?!」
「そこもなぁ……本当、不運が重なったとしか言いようがねぇんだよ……。」
がっくりと肩を落とすうさぎ。
そして僕にこう聞いた。
お前は「辰」を、つまり龍を見た事があるかって。
当然だけど、龍は想像上の生き物だ。
だから見た事なんかない。
そう「辰」は、干支の中でもとても特殊なものなのだとうさぎは言った。
実際いる生き物の場合、それらの中にほんの少しずつ「干支神様」の意識がある。
だから彼らを通して季節を感じたり人の生活を見て時期を知り、新年の準備に向かう。
でも「辰」は違う。
辰はそれそのものの動物がいないので、自然の中に少しずつ意識があるのだそうだ。
けれど今は季節が昔とだいぶ違うし、人は暖房の聞いた部屋にいるし、動物もそうであったりする。
植物も枯れないように温室で育てられていたり、もっと言えば冬に春や初夏の花や植物を得る為に、徹底した温度管理の中で育てられているものもある。
だから「辰」は季節を勘違いする事があるのだ。
だから他の干支なんかがその辺はフォローするのだが、龍というものは他の動物と違って寿命がない。
その為、時間感覚すら動物たちと違うのだ。
だから「そろそろだよ」と教えられても、「後ちょっとしたら出よう」の「ちょっと」が物凄く長い。
下手をすると数年単位になる。
そんな「辰」だから、なかなか動かないのだそうだ。
今年の干支である「うさぎ」は、時の狭間に「辰」でないモノが入ったのに気づいた。
でも来た本人、辰巳さんも別に干支を乗っ取ろうと思って時の狭間に来た訳じゃない。
だからそれとなく帰そうと思ったのだ。
「なのにどうして帰せなかったの?!」
「これがなぁ……またまた本当、偶然なんだけどよ……。」
けれど「年神仕え」が辰巳さんを「年越しの宮」に案内してしまった。
なぜそんな事になってしまったかと言うと、今年の「年神仕え」は新人だったのだ。
「……さっきも言ったろ……。「辰」を見た事があるかって……。その新人ちゃんもさ……悪気があったんじゃなくて、見た事がなかったから……。」
「でも人間は見たことあったんじゃ……。」
「人間によく似てるなぁと思ったってさ。でも龍は人に化けるって話も聞いてたから、化けてるのかなと……。「辰」の気は持ってるし、まさか違うものが時の狭間に入ってくるなんて事は俺らだって思ってなかったんだから、年神仕えの新人ちゃんがそんな事まで考えなくて当たり前なんだよ……。」
僕は絶句してしまった。
本当に……本当に数々の偶然と不運とミスが重なってしまった。
そんな物凄い確率をぶち抜いて、辰巳さんは今、似非干支神様になってしまっている。
「どうしたらいいの?!」
「……俺が時の狭間であり、「年」を制御できんのは、「今年いっぱい」だ。」
「つまり??」
「タイムリミットは大晦日って事だ……。それを過ぎたら誰も手出しできねぇ。お嬢は新しい「干支神様」になる。「辰」の代わりとして十二支に入り、今後も永遠に「干支神様」にならなきゃなんなくなる。」
「辰巳さんが?!」
「多分な。このまま今回、干支神様になったら、神格化されてそうなると思う。俺達、動物がそうだったようにな……。」
「そんな……。」
僕は青ざめた。
誰も辰巳さんが居なくなった事を気にしないのは、辰巳さんが神様になっているからなのだ。
いなくなったというより、神様になれた、とてもめでたい事だと無意識に感じているのだ。
「そんなの嫌だよ!辰巳さんを返してよ!!」
「わかってる。だからお前の協力が必要なんだ。あの子が「干支神様」ではなくごく普通の人間のお嬢だって覚えてるお前の力が。」
「僕は何をしたらいいの?!」
「……やる事を言う前に、お前には覚悟があるか?!」
「覚悟?!」
「もし除夜の鐘が鳴り終わるまでに全てを終わらせられなかったら、嬢ちゃんは年神様になる。だが、お前は違う。神様を外界に下ろそうとした罪人になる可能性がある。情状酌量の余地はあるが、神の世界での審判が下るのには人間から見れば物凄い時間がかかる。その間、お前がどういう扱いになるのか俺にはわからない。できる限り手を尽くす事は約束するが、どうなるかはわからない。……それでもやるか?!」
僕は手の中のうさぎを見つめた。
そしてその言葉の意味を何度も何度も頭の中で繰り返した。
僕は話を合わせないとと思いながらも動揺を隠せない。
「……何で??」
朝ごはんはすでにお雑煮だった。
まだ年越し前のはずなのに。
「あ~、この人から来ちゃったかぁ~。」
お父さんが年賀状を仕分けしながら、ぶつくさ言っている。
その横でお母さんがせっせと年賀状を書いている。
「ちょっとお父さん!仕分ける前に書いて!!」
「わかってるけどさぁ~。」
「あ~!どうして今年はこんなに時間がないのかしら?!あ!年末時代劇!今夜だったかしら?!」
「今夜は紅白だろ?!」
「そうだっけ?!じゃあ年越し蕎麦は今夜?!」
「それは明日だろ??それより後で初詣に行かないと。」
「あらやだ、ホントだわ。」
もう、ぐちゃぐちゃ。
どういう事なのかわからないけれど、今は年末のはずなのにどういう訳か年越しと年始が一緒に進行している。
いつがいつなのか全くわからない。
これじゃ話を合わせようにも合わせられない。
まだ書き終わっていなかった年賀状。
そして来てしまった年賀状の返事をお父さんとお母さんは必死になって書いている。
「いつもなら書き終わってゆっくりお節を食べてるのに~!」
「全くだ。新年早々、年越し蕎麦で一杯やる事もできないなんて……。年末はどこに行ったんだ?!」
「本当。いつの間に過ぎてたのかしら?!」
まだ今が年末だよと言いたい気持ちをぐっと堪える。
理由はわからないけれど、僕の記憶が正しければ今日はまだ年を越していない。
なのに、いつの間にか年末と新年が同時進行している。
そしてそれを僕以外は不思議に感じていない。
当たり前の事だと思ってる。
僕は気持ち悪くなって部屋に戻った。
頭がおかしくなりそうだった。
「……辰巳さん、大丈夫なのかな……。」
どうしてこうなっているのか、辰巳さんは大丈夫なのか、全部わからない。
年賀状が届いている事からもわかるように、変なのはうちだけじゃない。
外を歩いてみたけど、年始の挨拶と新年の挨拶が普通に入り乱れて交わされ、誰もそれを不思議に思ってない。
辰巳さんの家に行ってみたけれど、おばさんもおじさんも普通にしていた。
正月飾りをつけながら、僕を見て「あら、元気?背が伸びたんじゃない?」なんてにこやかに声をかけてくれた。
どうなっているんだろう?
年末年末が入り混じったこの状況も辰巳さんの事も。
あんなに皆で必死に探していたのに、もう誰も辰巳さんがいた事を覚えていないのだろうか?
「思った以上にカオスだな?!」
「うさぎ!!」
「よ!帰ってきたぜ!!」
ファンシーな声が聞こえ、僕は勢い良く体を起こした。
キョロキョロ探すと、うさぎは本棚の本と本の隙間から顔を出している。
やっとまともに話せる相手が現れ、僕は泣きそうになった。
「どうなってるんだよ?!辰巳さんは?!」
僕は本棚に駆け寄った。
通るのにギチギチだった隙間から、うさぎが綿の体を変形させながら無理やり出てくる。
「はー!!狭かった!!」
「大丈夫?!」
「まぁ、ぬいぐるみだしな。たいしたことねぇよ。」
片寄った綿をグイグイ戻しながらうさぎはそう言った。
というか、可愛いうさぎのぬいぐるみなのに、口が悪いよな……。
「辰巳さんは無事なの?!」
「おいおい、そんな泣きそうな顔してんなよ。無事だっつてんだろ?!」
うさぎは僕を見て呆れたようにため息をついた。
少し恥ずかしくなって俯く。
「あ~……。悪かったよ、別に責めてんじゃねえって。嬢ちゃんは無事だよ。全くの無傷。つか、今は傷つけようがねぇ……。」
「……どういう事??」
軽いノリで話している割に、うさぎは深刻そうな顔をしているように感じた。
こいこいと手招きされたので顔を寄せると、「顔じゃなくて手!」と言われたので手を出す。
うさぎはその上に乗っかった。
「……これはどこから説明すりゃ良いんだろうなぁ~。」
僕の手の上にあぐらをかくみたいにして座ったうさぎは、耳の後ろを掻きながら話し出した。
辰巳さんは無事。
ただし今、辰巳さんは干支神様と間違われている。
つまり、神様扱いとなっているのだそうだ。
そして干支神様に間違われた辰巳さんが今を新年にしてしまった為、「年の尾」つまり年末がなくなってしまったのだそうだ。
「え?!ちょっと待って?!何でそんな事に?!」
「う~ん。めちゃくちゃ偶然とミスが重なったっつうか~。お嬢、来年、年女じゃん??」
「年女??」
「辰年生まれって事だよ!!」
「え??なら今、僕は年男??」
「そうだよ!そんな事も知らねぇのかよ?!」
「ごめん……。」
「たく……。年男・年女ってのは、その年に生まれた。だからその干支の気を強く持ってんだよ。」
「占いみたいだね。」
「まぁ似たようなもんだ。で、細かい事をいうと、年だけじゃなく日にちや時間、方角や数字とかにも干支があんだよ。」
「へぇ~。知らなかった。」
「丑の刻とか言うだろうが!!」
僕があまり知識がないので、うさぎはちょっとイライラしていた。
何だか申し訳ない。
「まぁいい。でだな?嬢ちゃんはそういうのも含めて、辰の気を強く持ってんだよ。そしてあの時、飛んだ方角や何やらも重なって……辰ノ神と勘違いされたんだよ……。」
「……え?ええぇぇぇ?!」
「来年の干支は新年準備の為に早めに時の狭間に入るんだ。そして嬢ちゃんはあの時、一足先に新年に向かって飛んだ。いろんな偶然が相まって、時の狭間の入り口が勘違いして開いちまったんだよ……。」
「そんな事ってあるの?!」
「だから物凄い偶然なんだよ!!」
「でもじゃあ!本物の神様は?!」
「そこもなぁ……本当、不運が重なったとしか言いようがねぇんだよ……。」
がっくりと肩を落とすうさぎ。
そして僕にこう聞いた。
お前は「辰」を、つまり龍を見た事があるかって。
当然だけど、龍は想像上の生き物だ。
だから見た事なんかない。
そう「辰」は、干支の中でもとても特殊なものなのだとうさぎは言った。
実際いる生き物の場合、それらの中にほんの少しずつ「干支神様」の意識がある。
だから彼らを通して季節を感じたり人の生活を見て時期を知り、新年の準備に向かう。
でも「辰」は違う。
辰はそれそのものの動物がいないので、自然の中に少しずつ意識があるのだそうだ。
けれど今は季節が昔とだいぶ違うし、人は暖房の聞いた部屋にいるし、動物もそうであったりする。
植物も枯れないように温室で育てられていたり、もっと言えば冬に春や初夏の花や植物を得る為に、徹底した温度管理の中で育てられているものもある。
だから「辰」は季節を勘違いする事があるのだ。
だから他の干支なんかがその辺はフォローするのだが、龍というものは他の動物と違って寿命がない。
その為、時間感覚すら動物たちと違うのだ。
だから「そろそろだよ」と教えられても、「後ちょっとしたら出よう」の「ちょっと」が物凄く長い。
下手をすると数年単位になる。
そんな「辰」だから、なかなか動かないのだそうだ。
今年の干支である「うさぎ」は、時の狭間に「辰」でないモノが入ったのに気づいた。
でも来た本人、辰巳さんも別に干支を乗っ取ろうと思って時の狭間に来た訳じゃない。
だからそれとなく帰そうと思ったのだ。
「なのにどうして帰せなかったの?!」
「これがなぁ……またまた本当、偶然なんだけどよ……。」
けれど「年神仕え」が辰巳さんを「年越しの宮」に案内してしまった。
なぜそんな事になってしまったかと言うと、今年の「年神仕え」は新人だったのだ。
「……さっきも言ったろ……。「辰」を見た事があるかって……。その新人ちゃんもさ……悪気があったんじゃなくて、見た事がなかったから……。」
「でも人間は見たことあったんじゃ……。」
「人間によく似てるなぁと思ったってさ。でも龍は人に化けるって話も聞いてたから、化けてるのかなと……。「辰」の気は持ってるし、まさか違うものが時の狭間に入ってくるなんて事は俺らだって思ってなかったんだから、年神仕えの新人ちゃんがそんな事まで考えなくて当たり前なんだよ……。」
僕は絶句してしまった。
本当に……本当に数々の偶然と不運とミスが重なってしまった。
そんな物凄い確率をぶち抜いて、辰巳さんは今、似非干支神様になってしまっている。
「どうしたらいいの?!」
「……俺が時の狭間であり、「年」を制御できんのは、「今年いっぱい」だ。」
「つまり??」
「タイムリミットは大晦日って事だ……。それを過ぎたら誰も手出しできねぇ。お嬢は新しい「干支神様」になる。「辰」の代わりとして十二支に入り、今後も永遠に「干支神様」にならなきゃなんなくなる。」
「辰巳さんが?!」
「多分な。このまま今回、干支神様になったら、神格化されてそうなると思う。俺達、動物がそうだったようにな……。」
「そんな……。」
僕は青ざめた。
誰も辰巳さんが居なくなった事を気にしないのは、辰巳さんが神様になっているからなのだ。
いなくなったというより、神様になれた、とてもめでたい事だと無意識に感じているのだ。
「そんなの嫌だよ!辰巳さんを返してよ!!」
「わかってる。だからお前の協力が必要なんだ。あの子が「干支神様」ではなくごく普通の人間のお嬢だって覚えてるお前の力が。」
「僕は何をしたらいいの?!」
「……やる事を言う前に、お前には覚悟があるか?!」
「覚悟?!」
「もし除夜の鐘が鳴り終わるまでに全てを終わらせられなかったら、嬢ちゃんは年神様になる。だが、お前は違う。神様を外界に下ろそうとした罪人になる可能性がある。情状酌量の余地はあるが、神の世界での審判が下るのには人間から見れば物凄い時間がかかる。その間、お前がどういう扱いになるのか俺にはわからない。できる限り手を尽くす事は約束するが、どうなるかはわからない。……それでもやるか?!」
僕は手の中のうさぎを見つめた。
そしてその言葉の意味を何度も何度も頭の中で繰り返した。
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