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辰
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「一足先に年を越えてやる!」
宇佐美くんを置いてけぼりに、私はカーブの段差目掛けて走った。
明日から冬休みだと思うと嬉しくて仕方なかった。
特に何をする訳じゃないけど、だらだら過ごせるのが嬉しかった。
「も~!い~くつ寝ると~お正月ぅ~♪」
お正月にはお年玉だって入る。
何を買おう??
コート?ブーツ?春物を先取りするのもいい。
そうだ、春色のリップを買おう。
コスメの新作なんかもいい。
あぁ、早くお正月にならないかなぁ~。
「年越しジャーンプ!!」
私はウキウキしながら段差をジャンプした。
ちょっと着地にミスって転びかける。
しかしそこは走り幅跳びの底力で耐え抜く。
「よし!!」
ぴしっとバランスを取る。
そして顔を上げてびっくりした。
「……え?!どこここ?!」
通い慣れた通学路。
知らない場所なんかない。
ない、はず……。
なのにカーブの段差をジャンプして着地したのは、見たこともない場所だった。
「え?!ええ?!何これ?!どういう事?!」
私は慌てて振り返った。
後ろには飛び降りた段差があるはず。
そう思ったのに……。
「……どういう事……私、どこにいるの?!」
そこに広がるのは田舎の光景。
いや、私と宇佐美くんが住んでる場所も十分田舎なんだけど。
まるで昔話に出てくる「村」みたいな場所。
一面に広がるのは稲刈りの終わった田んぼ。
遠くに民家らしき家が見えるがどれも何故か茅葺屋根だ。
そして私は、広めの田んぼのあぜ道に何故か立っている。
「嘘……どういう事?!……宇佐美くん?!宇佐美く~ん!!」
そこにはいないだろうとどこかでわかりながらも、私は必死に宇佐美くんを探した。
周りには宇佐美くんどころか人っ子一人いない。
不安になった私は反射的にスマホを取り出した。
「……圏外。」
何となく予想していたその文字を見て、がっくりと項垂れる。
とはいえ、茅葺きだろうとなんだろうと家があるのだ。
稲だって刈られている。
人がいない訳ではないはずなのだ。
いきなりで申し訳ないが、事情を話して電話を借りるしかない。
私は一番近そうな家に向かって歩き出した。
空は明るいのが救いだ。
日が陰ってきたらこんな所に一人では流石に怖すぎる。
急ぎ足がだんだんと小走りになる。
やっと民家の近くまで来た。
少し汗をかきながら、私はふぅ、と息を吐き出す。
「すみませ~ん!どなたかいらっしゃいますか~?!」
私は生け垣の影から中を覗き込み、声をかける。
反応がないので恐る恐る敷地内に足を踏み入れた。
「すみませ~ん!!」
声をかけながら家に近づく。
というか、これは家だろうか……??
戸口も軒先もみんな開けっ放し。
もしかして農業用の小屋なのだろうか??
人の気配もないし、奥に母屋があるのかもしれない。
しかし無断でズカズカと奥まで入って良いのだろうか?
不安。
それは一度首をもたげると、ずんずんと心を支配していく。
ここはどこだろう?
何でこんな所にいるのだろう?
宇佐美くん……宇佐美くんはどこ?!
急にズキンと胸が傷んで泣きそうになる。
どこだかわからない所にひとりぼっち。
駄目だ、弱気になったら駄目だ。
そう思ってぐっと顔を上げる。
大丈夫、きっと大丈夫。
チリン……。
微かな音。
私は反射的に音の方に顔を向けた。
茅葺き小屋の土壁の角を曲がるしなやかな尻尾。
「……猫!!」
私はここに来てから初めて自分以外の動くものを見つけて歓喜した。
猫がいるという事は人もいるはずだ。
だってあの猫は鈴をつけている。
チリンチリンと誘うように鈴が鳴る。
私は急いで猫の後を追いかけた。
宇佐美くんを置いてけぼりに、私はカーブの段差目掛けて走った。
明日から冬休みだと思うと嬉しくて仕方なかった。
特に何をする訳じゃないけど、だらだら過ごせるのが嬉しかった。
「も~!い~くつ寝ると~お正月ぅ~♪」
お正月にはお年玉だって入る。
何を買おう??
コート?ブーツ?春物を先取りするのもいい。
そうだ、春色のリップを買おう。
コスメの新作なんかもいい。
あぁ、早くお正月にならないかなぁ~。
「年越しジャーンプ!!」
私はウキウキしながら段差をジャンプした。
ちょっと着地にミスって転びかける。
しかしそこは走り幅跳びの底力で耐え抜く。
「よし!!」
ぴしっとバランスを取る。
そして顔を上げてびっくりした。
「……え?!どこここ?!」
通い慣れた通学路。
知らない場所なんかない。
ない、はず……。
なのにカーブの段差をジャンプして着地したのは、見たこともない場所だった。
「え?!ええ?!何これ?!どういう事?!」
私は慌てて振り返った。
後ろには飛び降りた段差があるはず。
そう思ったのに……。
「……どういう事……私、どこにいるの?!」
そこに広がるのは田舎の光景。
いや、私と宇佐美くんが住んでる場所も十分田舎なんだけど。
まるで昔話に出てくる「村」みたいな場所。
一面に広がるのは稲刈りの終わった田んぼ。
遠くに民家らしき家が見えるがどれも何故か茅葺屋根だ。
そして私は、広めの田んぼのあぜ道に何故か立っている。
「嘘……どういう事?!……宇佐美くん?!宇佐美く~ん!!」
そこにはいないだろうとどこかでわかりながらも、私は必死に宇佐美くんを探した。
周りには宇佐美くんどころか人っ子一人いない。
不安になった私は反射的にスマホを取り出した。
「……圏外。」
何となく予想していたその文字を見て、がっくりと項垂れる。
とはいえ、茅葺きだろうとなんだろうと家があるのだ。
稲だって刈られている。
人がいない訳ではないはずなのだ。
いきなりで申し訳ないが、事情を話して電話を借りるしかない。
私は一番近そうな家に向かって歩き出した。
空は明るいのが救いだ。
日が陰ってきたらこんな所に一人では流石に怖すぎる。
急ぎ足がだんだんと小走りになる。
やっと民家の近くまで来た。
少し汗をかきながら、私はふぅ、と息を吐き出す。
「すみませ~ん!どなたかいらっしゃいますか~?!」
私は生け垣の影から中を覗き込み、声をかける。
反応がないので恐る恐る敷地内に足を踏み入れた。
「すみませ~ん!!」
声をかけながら家に近づく。
というか、これは家だろうか……??
戸口も軒先もみんな開けっ放し。
もしかして農業用の小屋なのだろうか??
人の気配もないし、奥に母屋があるのかもしれない。
しかし無断でズカズカと奥まで入って良いのだろうか?
不安。
それは一度首をもたげると、ずんずんと心を支配していく。
ここはどこだろう?
何でこんな所にいるのだろう?
宇佐美くん……宇佐美くんはどこ?!
急にズキンと胸が傷んで泣きそうになる。
どこだかわからない所にひとりぼっち。
駄目だ、弱気になったら駄目だ。
そう思ってぐっと顔を上げる。
大丈夫、きっと大丈夫。
チリン……。
微かな音。
私は反射的に音の方に顔を向けた。
茅葺き小屋の土壁の角を曲がるしなやかな尻尾。
「……猫!!」
私はここに来てから初めて自分以外の動くものを見つけて歓喜した。
猫がいるという事は人もいるはずだ。
だってあの猫は鈴をつけている。
チリンチリンと誘うように鈴が鳴る。
私は急いで猫の後を追いかけた。
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