音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ねぎ(ポン酢)

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短編(1話完結)

誤配送(ヒトコワ)

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通販で洗濯洗剤が安かったから買った。
特に盗まれそうなものでもなかったので置き配にした。

だがここで思わぬ問題が起きた。

なんと誤配送が起きた。
届けましたと言う連絡と共に届いた証拠写真は、全く知らない家の玄関。

物は別にどうでもいい。
問題は個人情報だ。
バッチリ住所やらなんやらが書いてあるものが、どこかわからない場所に置いてある。

いや本当、どこよ、これ??

まだ同じマンションに誤配送ならわかる。
写真に写っているのはドアの色も全く違う、違う場所なのだ。
いったいどこに配達員は置いてきたんだ??

すぐに通販サイトに連絡した。
物凄く失礼極まりない対応をされながらも、一応、再配達ともしもの時は代替え品を送ると約束された。

だが問題は個人情報だ。

どこの建物かもわからない場所、どんな人が住んでいるかもわからない玄関先、そしてその前をどれぐらいの人が通るともわからない。

いや、別に男の独り暮らし。
女性ではないのだからそこまでピリピリしなくてもとは思う。
ブツも今回は洗濯洗剤とやましい所は一つもない。

だが、気持ち悪いといえば気持ち悪い。

どこどこの何号室に〇〇△△ってヤツが住んでるってデカデカと書いてあるんだし。
開けて中身をパクられる程度なら良いけれど、領収書から何か割り出せる奴もいるかもしれない。
それがクレジット情報とかでなんやらかんやらして不正利用とかに繋がったら、困るというより死活問題になりかねない。

そんなこと言ったら、置き配だって危険と言われそうだが、自分の住んでいる場所と、どこかわからない場所でそれが起きるのでは大きく違う。
今まで一度もそんな事が起きた事がなかったので、びっくりした。

ピンポーン。

チャイムが鳴る。
置き配指定だったけれど、誤配送もあったからチャイムを鳴らしているのかなと思って玄関を開けた。
しかし、誰もいない。
荷物だけが玄関前に置いてある。

何だよ?
謝罪の一言もなしか?

誤配送したのに、無言で置き直して終わりとか終わってる。
置いていくならチャイムなんか鳴らすなよ。
そう思いながら、一応、外で届いたものを確認し、あっていたので部屋に入れた。

それからだった。

置き配がたまになくなる。
届いたと連絡があったのに帰宅したらなかったりする。
気持ち悪いのが、そのなかったはずの置き配が、次の日の朝に出かけようと玄関を出ると置いてあったりする。
なので、それからは面倒でも受け取りの形をとるようにした。

ある日、洗濯洗剤が切れたので、仕事帰りに最寄りのドラッグストアに寄って買う事にした。
他の商品などもカゴに入れ、レジに並ぶ。

「次の方どうぞ!」

奥のレジが開き、ちょうど順番だった俺はそこにカゴを持って行った。
チラリと目が合った店員(男)は、業務的にニコリと笑う。
そして商品のバーコードをレジに読ませ始めた。

「……あ、あの洗剤、もう使い終わったんですか?マメに洗濯なさるんですね~。」

「はぁ……??」

唐突にボソリとそう言われ、俺はなんの事かわからなかった。
はて?前回もここで洗濯洗剤を買ったのだろうか?

……いや、違う。

それに気づき、ゾッとして店員を見る。
店員は顔色一つ変える事なくレジを通している。

「あと、よく買われているシリアル。メーカーは違いますけど、うちの店の方が安いですよ?」

「!!」

「全部で1267円になります。ポイントカードはございますか?」

「……いえ。」

「お忘れですか?1週間以内でしたら、レシートをお持ち頂ければつけられますので。……お支払はいつも通りカードですか?」

「……いえ、現金でお願いします。」

「〇〇様が現金なのは珍しいですね?」

「!!」

「カゴはお運びしますか?」

「いえ……。」

淡々と事務的に接してくる店員。
だが、その口から機械音のように発せられる言葉の内容は、俺を震え上がらせるには十分すぎる内容だった。

「……何なら、ご自宅までお運びしますよ?〇〇様?」

彼が笑った。
何の感情もなく業務的に。

俺は何も言わず、買った物を袋に押し込んで逃げるように店を飛び出した。

「ありがとうございました~!」

そんな背後にかけられた声。
大きい訳でも小さい訳でもなく、楽しげでも怒りを含んでもいない。
何の感情の起伏もない、事務的で誰にでも変わらずにかけるような声。

何で?
どうして?

どういう目的で?

訳がわからなかった。
半ばパニック状態だった。

淡々と仕事をこなす店員は、動く機械人形のように意思が感じられなかった。
なのにその口からは、信じがたい言葉ばかりが並んだ。

彼の意図が全く読めない。

俺はその日、すぐに引っ越す準備を始めた。
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