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短編(1話完結)

大人の入り口

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子供の頃というのは、誰しも何かしら不思議な感覚を持っているものだ。
それが心霊的なものの人もいるだろうし、超能力の様な人もいただろう。
普段、意識する程の事でなくても、大人になってから考えると妙な力みたいのがあったなぁみたいな。

私の場合、その力というか繋がりがどうも幽霊とかの心霊的なものではなく、妖怪とか精霊の類のものと細々とした繋がりがあった様に思える。

幼い時の私はとにかく怖いもの知らずだった。
おまけによくわからないが、感がいいというか、すんなりわかる事が多かった。
とは言っても、そんなに大した事じゃない。

迷子になっても親がどこにいるのかなんとなくわかる。
一度行った場所に違う場所から向かう為には、こう行けば行けると言うのがわかる。
わかるから、一人で平気で遠くに行って帰ってきたりする。
わかっているから別に怖くはなかった。
大人はそれを聞いていつも肝を冷やしていたのを覚えている。
ざっくり言えばその程度だ。

それをそういうものとの繋がりだったと言い切る事はできないけれど、なんとなくそのせいだったんじゃないかなと思っている。

だが、子供の頃のそういう繋がりは、ある時、プツンと切れる。

繋がりの深い人は切れないんだろうけれど、何となくそういうものと弱々しいアンテナで繋がっていた程度の子供は、成長していくとプツンと切れてなくなってしまう。

そして私は多分、そのプツンと切れた時を覚えている。













一緒に住んでいた祖父母とは違う方の祖父母の家には、夏休みなどの長期休暇の際に必ず1週間ほど泊まりに行った。
海の近くの田舎で、夜になると波の音が遠くに聞こえていた。
たまにホタルが大発生したりもしていたのが懐かしい。
今じゃ、自然にホタルがいたなんて、なんの冗談だろうと思ってしまうけれど。

海近くの祖父母の家はちょっと大きなお屋敷で、いつも泊まる大きな和室の梁の上に、家紋が飾られていた。
刺繍で作られた立派な家紋で、横に○○家家紋と書いてある。
それが額縁に入って飾られていたのだ。

ある日寝ていると、真夜中にふと目が覚めた。
他の家族は寝静まっているし、別にトイレに行きたい訳じゃない。
静まり返った家の中、遠くの方にいつものように海の音が聞こえていた。

何で目が冷めたのかわからず、私はぼんやりしていた。
布団に入ったまま、なんの気なしに家紋を見つめる。

しばらくそれを見ていると、ふと、いつもの家紋ではない事に気づいた。
○○家家紋の部分も、違う家の名前になっている。

あれ?!と思ってみていると、また家紋が変わった。
家の名前も当然変わる。
私はそれを、テレビを見るようにじっとたくさんの家紋が出てくるのを見ていた。

はじめは面白いなぁと思っていた。
だが、ずっとそれを見ていて、ふと気づいてしまったのだ。


何で、額縁の家紋がテレビみたいに変わるんだ?と。


それに気付いた時、背筋がゾッとした。
変わるはずのないものが次々変わっているのだ。

怖い!

怖いもの知らずだった私が、それを急に怖いものだと認識した。
額縁に入った刺繍の家紋が、テレビみたいに変わるなんておかしいと。
そんな事は起こる訳がないのに、それを自分が見ていたと。

その瞬間、プツンッとテレビが消えるみたいに、それが終わった。
いくら見ていても、いつもの祖父母の家の家紋で、それがそれ以上、変わる事はなかった。

面白いと思って見ていたものが、急に終わってしまった。

私は、それは私が怖いと思ったからだと瞬時に理解した。
だから怖くない!怖くないよ!
と必死に頭の中で考えていた。

でも、それが変わる事はもう二度となかった。

私は酷く悲しくなったのを覚えている。
そして何故か、もう、そう言った事を見る事は二度とないのだと理解していた。


結局の所、何で家紋がテレビみたいに変わっていったのかはわからない。
ただ私は、家付きの精霊みたいなものか何かのいたずらだったんだろうなぁと思っている。
幼い子どもが夜遅くに起きていたから、からかわれたんだろうと。


わかっているのは、私があの時、怖い!と気づいてしまったことで、私と何か普通の日常の世界とちょっとズレた所にある何かとの繋がりが切れてしまったのだと言う事だ。

だから私はそれ以降、そういう怖くない不思議な体験はしていない。
あれが切れずにずっと繋がっていたら、小さいおじさんとか見れたのかなぁと思うとちょっともったいない事をしたと思う。

でも元々、そんなに強い繋がりでもなかったので、いずれは切れてしまった縁なのだろう。

これが、私が経験した2つ目の怖いというか、不思議な体験だ。
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