56 / 97
短編(1話完結)
靴下
しおりを挟む
「まただ……。」
目を開けて目の前に転がっているそれを見て、俺は顔を顰めた。
丸まった小さな布の塊。
何となく臭い立つそれを掴んで、俺は遠くに放り投げてまた布団の中に潜り込んだ。
爽やかな目覚めが台無しだ。
ここのところ、朝目が覚めると目の前に靴下がある。
それは洗濯した綺麗なヤツじゃない。
昨日脱ぎたてホヤホヤのやつだ。
はじめは寝ぼけているんだと思った。
寒いから靴下を履いたままにしていて、眠りながら脱いで枕元に置いたのだと。
酔っ払って帰ってきたり、残業で終電だったりが続いていたから、そんなものだろうと思っていた。
けれど、そういう日も、そうでない日も欠かさず靴下は枕元にあった。
脱いだ時の縮こまって丸まったあの状態で、ご丁寧に鼻先に置いてあるのだ。
「………………。」
ここまで続くと、自分でやっているとは思えなくなる。
誰かが意図的に、俺の使用済み靴下を鼻先に置いているのだ。
それはある事を連想させた。
こういうイタズラをするのが好きなヤツがいるのだ。
そして靴下も大好きだった。
特に脱ぎたての臭いヤツに目がなかった。
俺はスマホを手に取った。
何コール目かに「もしもし?」と声が聞こえる。
俺はその声にため息まじりに言った。
「あ、母さん?悪いんだけど、チャコに何かおやつ買ってきて供えてやってよ。それから、靴下を鼻先に置くのはやめろって。」
突然の俺の言葉に、母さんは「はぁ??」と言った。
だからここのところ起きている事を説明した。
「あははっ!!あんたが遊んであげないから!!」
「いやもう、遊ぼうにも遊べないだろ?!去年、大往生しちゃったんだから……。」
「そうねぇ~。そろそろ命日だから、あんたに帰ってきて欲しいのかもね~。」
そう言われ、少し胸が痛かった。
チャコは飼っていた犬の名前だ。
柴犬メインの雑種で、とにかく落ち着きのないやんちゃなヤツだった。
元気有り余る子供の頃の俺が手を焼いたくらいだったのに、俺が家を出る頃にはいつもお気に入りの毛布の上で寝ているだけだった。
チャコが死んだ時、俺は側にいてやれなかった。
あいつはいつだって、どんな俺にも寄り添ってくれたのに、俺はアイツの最期に寄り添ってやれなかった。
それを思うと、一年遅れでも今度は側にいてやろうと思えた。
それに何の意味があるのかはわからないけれど。
電話を終え、俺はそろそろベッドを出ようと枕元に手をついた。
その手に何かが触れる。
見ると、さっき投げたはずの靴下がそこにあった。
「…………………………。」
俺はもう一度、それを遠くに投げてやった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【AI朗読】
https://stand.fm/episodes/65acfc58ca8fdd272c03a7ac
目を開けて目の前に転がっているそれを見て、俺は顔を顰めた。
丸まった小さな布の塊。
何となく臭い立つそれを掴んで、俺は遠くに放り投げてまた布団の中に潜り込んだ。
爽やかな目覚めが台無しだ。
ここのところ、朝目が覚めると目の前に靴下がある。
それは洗濯した綺麗なヤツじゃない。
昨日脱ぎたてホヤホヤのやつだ。
はじめは寝ぼけているんだと思った。
寒いから靴下を履いたままにしていて、眠りながら脱いで枕元に置いたのだと。
酔っ払って帰ってきたり、残業で終電だったりが続いていたから、そんなものだろうと思っていた。
けれど、そういう日も、そうでない日も欠かさず靴下は枕元にあった。
脱いだ時の縮こまって丸まったあの状態で、ご丁寧に鼻先に置いてあるのだ。
「………………。」
ここまで続くと、自分でやっているとは思えなくなる。
誰かが意図的に、俺の使用済み靴下を鼻先に置いているのだ。
それはある事を連想させた。
こういうイタズラをするのが好きなヤツがいるのだ。
そして靴下も大好きだった。
特に脱ぎたての臭いヤツに目がなかった。
俺はスマホを手に取った。
何コール目かに「もしもし?」と声が聞こえる。
俺はその声にため息まじりに言った。
「あ、母さん?悪いんだけど、チャコに何かおやつ買ってきて供えてやってよ。それから、靴下を鼻先に置くのはやめろって。」
突然の俺の言葉に、母さんは「はぁ??」と言った。
だからここのところ起きている事を説明した。
「あははっ!!あんたが遊んであげないから!!」
「いやもう、遊ぼうにも遊べないだろ?!去年、大往生しちゃったんだから……。」
「そうねぇ~。そろそろ命日だから、あんたに帰ってきて欲しいのかもね~。」
そう言われ、少し胸が痛かった。
チャコは飼っていた犬の名前だ。
柴犬メインの雑種で、とにかく落ち着きのないやんちゃなヤツだった。
元気有り余る子供の頃の俺が手を焼いたくらいだったのに、俺が家を出る頃にはいつもお気に入りの毛布の上で寝ているだけだった。
チャコが死んだ時、俺は側にいてやれなかった。
あいつはいつだって、どんな俺にも寄り添ってくれたのに、俺はアイツの最期に寄り添ってやれなかった。
それを思うと、一年遅れでも今度は側にいてやろうと思えた。
それに何の意味があるのかはわからないけれど。
電話を終え、俺はそろそろベッドを出ようと枕元に手をついた。
その手に何かが触れる。
見ると、さっき投げたはずの靴下がそこにあった。
「…………………………。」
俺はもう一度、それを遠くに投げてやった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【AI朗読】
https://stand.fm/episodes/65acfc58ca8fdd272c03a7ac
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜
野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。
内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……
放浪さんの放浪記
山代裕春
ホラー
閲覧していただきありがとうございます
注意!過激な表現が含まれています
苦手な方はそっとバックしてください
登場人物
放浪さん
明るい性格だが影がある
怪談と番茶とお菓子が大好き
嫌いなものは、家族(特に母親)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる