それでも人は恋に落ちる。〜【恋愛未満系短編集】

ねぎ(ポン酢)

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恋愛・ラブコメ系

ひとりごと、ふたりごと

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あの人と喧嘩した。

今日は記念日だったのに忘れていたから。
ただのデートだと思っていたあの人に、私が一方的に腹を立てた。

「もう知らない!!」

そう言って走り出した。
振り返ってもあの人は追ってきていなかった。
その程度なのだ、私なんて。
大きくため息をつく。

都心の大通りは、すれ違うのも厄介なほど人がわさわさと歩いている。
時より軽くぶつかりながら、私は暗い気持ちで歩き続けた。

「……腕なんか組んじゃって、バッカみたい。」

行き交う人は皆、笑っている。
楽しそうに腕を組んで話に夢中なカップルの目には、おそらく淀んだ私なんて見えちゃいない。

「まるで空気だ……。」

今の私は、狸の信楽焼きより存在感がない。
(街中に狸の信楽焼きがあったらむしろ注目を集めそうだけど)

ここにいるのに。
こんなにも人がいるのに。

私は空気でしかなかった。

「……ここにいるのに、私は誰にも見えてない。」

雪でも振りそうなどんよりとした灰色の空。
冷たくなった指先に息をかけ、ポケットの奥深くに隠した。

ここでないところに行こう。
それはどこだっていい。
誰にも見えないのなら、誰もいないところに行こう。

「さよなら、今日の日。」

「また逢う日まで?」

ハッと振り返る。
そこには空気だった私をまっすぐ見る人がいた。

「……ひとりごとにツッコまないでよ。」

「だってもう、ひとりごとじゃないじゃん。」

「じゃあ何よ?」

「ん~?ふたりごと??」

「何それ??」

凍てついた空気。
その中に溶けた透明な私。

でもその目ははっきりと私を見ている。

光の屈折を失くしていた私の体が、その眼差しで輪郭を取り戻す。
そんな事が嬉しく、そして悔しい。

この人が好きなんだ。

それがとても悔しく、嬉しかった。


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【AI朗読】
https://stand.fm/episodes/65acbc809835b944b1bf4796
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