異世界に落っこちたので、ひとまず露店をする事にした。

ねぎ(ポン酢)

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第二章「ひとりといっぴきのリスタート」

踏み出した一歩

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俺が街の門をくぐると、門番さんや検問担当さんたちが声をかけてくれる。

「コーバー!久しぶり!今日は早いね!!」

「おはようございます!今日はちょっと新作を売るつもりなので!!」

「おはよう、コーバー~!!ネルちゃんもおはよう~!!今日も可愛いねぇ~!!」

「うむ?そうか?!そうなのか?!」

「うんうん、ちょっとこっちおいで~!ロシュロシュあげるから~!!」

「むむ?!」

「……ネル?先行くよ??」

「あ!待て!コーバー!!勝手に歩き回るな!!」

「……あ~逃げられた~。」

「ネルちゃん、なかなか撫でさせてくれないなぁ~。」

「つれないところがまた可愛いねぇ~。」

相変わらずネルは人気だなぁと思いながら、急いで露店市の広場に向かう。

あれから1ヶ月ほどたった。
俺は蜜水を売りながら、ちょうど季節が良く森で色々な木の実が取れてそれを売った。
古紙で作った袋は重宝したし、他の露店主からも作り方を聞かれたので教えてあげだ。
それがきっかけで、多くの露店主と仲良くなった。

重曹だが、モエさんとの商談は実を結び、数日前から売りに出されている。
大通りの店先にもたくさんの宣伝が出ていた。
流石はこの街イチの大商人ノービリス家だ。
やるとなったら広告等にも全力で力を注ぐ。
何か、蜜水を青くしようとした事から、こんな事になるとは思わなかった。

重曹計画はモエさん主体で、ノービリス家のプロジェクトの一つになった。
塩商人からウップルを買い取り輸送時に乾燥させ、炭酸工場こうばの近くに焼窯を作り灰を作る。
その灰を水に溶かし濾過する事で不純物をある程度取り除く。
それから濾過された水溶液を瓶に入れて二酸化炭素を充填し、その後できた沈殿物が重曹になる。
ちなみに廃水はキチンと中和するように頼んだ。
今のところは大量に作っていないので、それで大丈夫だろう。
もう少し増えたら工程を加えて、他の成分も取り出せたらいいなぁと思う。

はじめはそんなにたくさんは取れないだろうなぁと思っていたのだが、ウップルを取り寄せて実験的に作ってみたら、案外たくさん取れて俺自身ビックリしてしまった。
海藻みたいなものだと思っていたのに、ウップル、凄すぎる。
そりゃ、鉱石の代わりにガラス作りに用いられる訳だよなぁと感心してしまった。

そしてそれを見て商売になると判断したモエさんが、現二代目総取りと掛け合って了承を得、この規模のプロジェクトにまでなった。

ただ売るとなるとやはり湿気問題が関わってくるのだが、その辺は流石は大手商人。
気密性の高い木箱や瓶だって取り扱っている。
難なく湿気問題をクリアしてしまった。

「まぁモエさんじゃなきゃ、ウップル重曹はこの世界に誕生しなかっただろうけど。」

俺はいつもより活気の出そうな場所に露店を開く準備をする。
ネルはいつもの様に周りの露店主たちに声をかけられ、売り物の味見をさせてもらったりと忙しそうだ。
う~ん、これを見るとネストルさんが街に来れば何でもタダでもらえると思っていたのは、致し方ない事だなぁと思う。

だってネルは可愛い。
ネストルさんも可愛い。
可愛いは正義だから仕方がないのだ。

テーブルを作り終えた俺は、そこにルンルン気分で小型のコンロを置いた。
古着屋のおばあちゃんが持っていたあれだ。

やっと手に入れたのだ。
これのお蔭で森での生活も随分楽になった。

どうしてこんな駆け出し露店主のルースの俺が、こんな高性能な小型コンロを持っているかと言えば、今回の重曹の一件のお陰だ。
特に俺は何もいらないと言ったのだが、これだけ大規模な事になるとノービリス家が俺の知識をタダで使って商売をしていると言われかねないので、そういうところはキチンとしたいと言われた。
別に大した事はしてないし商売として成り立てたのはモエさんなのだからと思ったが、それなりに手続きとして形を残した方がいいと言うのはその通りなので了承した。

なので俺は2つの物をノービリス家からもらった。
一つはこのコンロ。
そしてもう一つはノービリス家から材料を購入する時、仕入れ値で売ってもらうという権利だ。

ノービリス家としても、たまに露店を開きに来るルースの微々たる材料代を仕入れ値で売るなんてのは全く痛くも痒くもなく、俺としてはそんなに元手がないのでいつも安く材料が買えるのはありがたい。

「本当、ありがたいよなぁ。ここで砂糖とか普通に買ったらバカ高かったからな~。」

大手商人だから大量買するので仕入れ値はグラム単価でいけばかなり安い。
だから普通、露店の仕入れだけでは購入が厳しいものだって買えてしまったりする。

「……コーバー、アレをやるのか??」

戻ってきたネルがゲッソリした顔で俺を見る。
酷いな、ネストルさんだって、はじめは大喜びしたくせに……。

大きめなボトルに蜜水を作り、ゾイの実を置いておく。
求められたらすぐ出せるように準備だけ済ませておくのだ。

今日のメインは蜜水ではない。
もちろん、青いジンジャーエールでもない。

俺はコンロの横に水と砂糖と変な平鍋と、そして重曹を置いた。
これで準備はできた。

「う~ん、ノース君がいないのが残念だ。」

「何が残念なんスか??」

思わず呟くと、気心の知れた友人の声がした。
びっくりして顔を上げると、ノース君がもぐもぐホットドッグみたいな物を食べながら店の前に立っていた。

「ノース君?!何で?!」

「コーバーさんが次来た時に新しい商品を売るって言ってたから、来たら教えて欲しいって門番さんに頼んでたッス!!」

「えぇぇぇぇぇ?!」

「だって!約束したじゃないですか!!新しい商品を売る時は!!一番に見せてくれるって!!」

そう言って笑うノース君。
あ~うん、した……。
でもそれは俺がデモンストレーションが下手だから、ノース君の素直でオーバーリアクションなところを利用させて貰おうと思って頼んだ事だ。
こんな風に、純粋に一番に見せてもらえる約束をしたと喜んでくれてるのを見ると良心が痛む。

「……ごめん、ノース君。」

「何がッスか??」

「俺、商品を見せるのが下手だから、ノース君がとてもいい反応をしてくれるから、サクラとして頼んだんだ。そんな風に喜んでもらえる事じゃないんだ……。」

俺はノース君を騙すような真似はしたくなくて、正直に事情を話した。
しかしノース君はコテンと首を傾げる。

「サクラって何スか??」

「ん~仕込み客と言うか、賑やかしって言うのかな??俺はタリーさんの様に上手に商品を見せる事が出来ないから、ノース君みたいに純粋に楽しんでくれる人がいるとそれを見ていた人に宣伝になるんだよ。だから……俺は君を利用しようとしたんだ。ごめん……。」

俺は正直にどういう事なのか説明し、頭を下げた。
せっかく仲良くなったのに、こんな事を騙すような形で頼んでいたんだ、嫌われても仕方がない。
ふわふわ飛んでいたネルが、スルッと胸元に来たので抱きかかえた。
ネルは一度俺の顔をじっと見たけれど、何も言わなかった。

「……それって、なんか悪い事なんスか??」

そう言われ顔を上げると、ノース君がさらに首を傾け、不思議がっている。
本当に純粋な子だなぁと苦笑いしてしまう。

「そりゃ、美味しくもないのに美味しいって言ったり、驚いてないのに驚くフリをしたり面白くもないのに面白そうにしろって頼まれたんなら、悪い事だと思うッスよ??でもコーバーさんはただ、見に来てって言っただけじゃないッスか??」

「そうだけど……。」

「俺、ギムギムさんや皆のように頭がいい訳じゃないから単純にしかわかんないッスけど、いつも色んな事に驚きすぎて騒がしいって怒られる事が多いのに、蜜水を見た時、コーバーさんは喜んでくれたし俺も楽しかった。だからコーバーさんが何でそんな悪い事をしてるみたいに謝るのかわかんないッス。」

「うん……。」

「よくわかんないッスけど、コーバーさんは俺が売り物を見てびっくりしたり美味しいって騒ぐのが嬉しいし、必要としてくれるって事ッスよね??」

「そうだね。」

「なら、それで良くないッスか??」

「え?」

「俺はコーバーさんが売るものを一番に見たいッス!コーバーさんは俺がびっくりするのが見たいッス!だから問題ないッス!!」

そう言ってノース君は屈託なく笑った。
嫌われる覚悟で言ったのに、ノース君は何でもない事だと受け入れてくれた。

「あ!でも!!俺、嘘つくのとか下手ッスから、美味しい時は美味しいって言いますけど、微妙な時は微妙って言っちゃうと思うッスよ?それでもいいッスか??」

「もちろんだよ。ありがとう、ノース君……。」

「いやいや、俺は何もしてないッスよ~。」

お礼を言うと、照れ臭そうにしっぽを振る。
本当にいい子すぎて涙が出そうだ。
それを呆れたように腕の中のネルがため息をつく。

「本当に単純だな、ウォーグルは。室内労働向きと言うなら、もう少し頭も鍛えた方が良いと思うぞ??」

「ちょっと!ネル?!」

「酷い!言う事酷いッス!!ネルちゃん!!」

「何が酷いのだ?当たり前の事を言っただけではないか??」

「うわ~ん!コーバーさ~ん!!ネルちゃんが酷いッス!!」

「ネル?!何でそんな酷い事言うんだ?!ノース君にはノース君の良さがあるんだ。俺はそんなノース君が大好きなんだから、俺の友達に酷い事言わないでくれ!!」

俺がそう言って窘めると、ネルはムスッとむくれた。
しっぽでバンバンと俺の足を叩いてくる。
え??何でいきなり不機嫌になったんだ??

「……我はコーバーのバーディーだ。」

……何それ、可愛い…。

どうやらネル様、俺がノース君を友達だと言って擁護したのが感に触ったらしい。
な、何なんだ?!この可愛い生き物は……っ?!

「ネル~!!何て可愛いんだ~!!」

「うわっ!!よせ!コーバー!!」

感極まって俺は、ネルにすりすりして、スーハーしまくった。
それに慌ててネルが暴れるが、小さい影子の状態のネルだったら、もふもふ愛ボルテージが振り切れた俺の腕から逃げる事は出来ない。
思う存分、もふもふし尽くす。
それをノース君が不思議そうに見ている。


「……何スか?その、バーディーって??」


そう言われ、俺とネルは同時にノース君に顔を向けた。
そして一度顔を見合わせ、ニッと笑う。


「家族であり相棒って意味なんだ。」

「コーバーと我は、バーディーなのだ。」


俺が説明すると、ネルが胸を張ってそう言った。
その言葉がじんっと胸に染みる。

街の露店市。

あの日からネストルさんはずっと俺と街に来ている。
ネストルさんは街で俺がヘマをやらかさないか心配だと言うが、俺は来る度に上がっていくネルの人気っぷりが心配でならない。

そりゃね?!
世界一可愛いですけどね?!

でもネルは、ネストルさんは俺のバーディーなのだ。
だから人気も程々にして欲しいなぁ何て少しだけ思っていた。
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