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第二章「ひとりといっぴきのリスタート」

幻想異世界との遭遇

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「あれ?!今日はもふもふちゃんいないのかい?!」

俺が街の検問につくと、先日荷物をチェックしてくれたおじさんが今日もいて、ネルの事を訪ねてきた。
俺も困って笑って返す。

「すみません。今日は外で遊びたいと言って、街の外を走り回っているみたいです。」

そう、今回、ネストルさんは街に来なかった。
俺を以前繭を作った少し離れた林の前で下ろすと、

「では、夕方にここで落ち合おう。我は用がある故、今日はここまでだ。」

とか言って、俺に何か言う隙も与えず走り去ってしまった。
てっきり今日も小さなネストルさんことネルをひたすらもふれると思っていた俺はとてもガッカリしてしまった。

(やっぱり、俺が自立しようとしている事が気に触ってるのかなぁ……。)

今日も街に行きたいと言った時から、ネストルさんの様子は変だった。
いや、ここの所、ずっと変といえば変なのだ。
このまま行くと、お互いの気持ちを分かり合えないまますれ違いそうだ。
これは早いうちに腹を割って話し合った方が良さそうだなぁと俺は小さくため息をついた。

「そっか~。また来たら触らせて貰おうと思ってたのになぁ~。」

そんな俺の様子をおじさんがどう捉えたのかはわからないが明るく笑ってくれる。

「すみません……。でも俺もこれからはちょくちょく待ちに来ますし、ネルも街の食べ物は好きみたいなので、そのうちまたついてくると思いますよ。」

「そうかそうか。なら楽しみにしてるよ。それから頻繁に来るようなら、商業許可所に相談してみるといい。露店営業の実績がある程度つくと、月一の抜き打ち検問で済むようになるから。」

「そうなんですね!ありがとうございます!」

「うんうん。ならまたな、今日も頑張んな!!」

「はい!ありがとうございました!」

俺はお礼を言って、書類を受け取り荷物を背負った。
元々、商業許可所には寄るつもりだったし、その時にその事も聞いてみよう。
でもまずはあそこに行ってみなせれば。








「…………。ここか……。」

俺は古びた倉庫の様な建物の前に立っていた。
怪しい。
見るからに怪しい。
こんな所が本当にお店なのだろうか??
古着屋のおばあちゃんを疑う訳ではないが、正直、ここが店であっても胡散臭いとしか言いようがない。

「確か……ノック3回、拍手3回、でまたノック3回だったよな……。」

俺は前回来た時に古着屋のおばあちゃんに紹介された、変なルールのある店(?)に来ていた。
ルースとして生きるなら、ここは重要な店だと教わったのだが……何の店だ??
不思議に思いながらも、俺は言われた通りにノックと拍手をした。

「………ごめんください~??」

それでも特に反応がなく、俺はドアに手を掛けた。
カギはかかっておらず、木戸は簡単に開く。
中はやはり倉庫の様だった。
そして誰もいない。
何だろう?何か間違えただろうか??
中に入ってキョトンとしていると、突然、ガタッと大きな音がした。

「わっ?!」

音のした方を見ると、掃除用具などが掛かっていた棚がドアの様に開いた。
そしてそこからフードを深く被った人物が顔を出した。

「…………どうも…。」

「アンタが古着屋の婆さんの言ってた新米ルースかい……まぁいい、入んな……。」

そう言って奥に引っ込んでしまう。
俺は倉庫の物を避けながら、隠し扉の奥に足を踏み入れた。

「失礼しま~す……って!うわぁ……。」

俺は目の前に広がっている光景に息を飲んだ。

ファンタジーだ!!
ファンタジーだよ!!
異世界って言ったら、こうでなくっちゃ!!

俺は言葉も出ず、店内を見渡し感動した。
目の前に広がるのはイメージ的には魔法屋とでも言えば良いのか、美しい鉱物や魔法アイテムっぽい何かの小物、そしてたくさんの小瓶に入った液体!
そして何よりも店内の明かりが不思議なランプみたいなもので、そこから半透明の妖精の様な小さなルアッハが数人(?)出てきては店内のランプを行き来している。
そしてその妖精の様なルアッハがランプに入ると、その個体によって微妙に明かりの色が変わる。
妖精の様なルアッハ達は、俺を見てくすくす楽しそうに笑った。

『知らない顔ね?』

『まだ幼いわ。』

『ちょっと変な匂い。』

リーフスティーさんの声とはまた違う、何か結晶が弾けるようなそんな音。
遠巻きに俺を観察しながらそんな音がさざめいている。

「え?!匂い?!俺、臭いですか?!」

エチョ耳の俺はそれが言葉である事がわかり、その意味を聞いて焦ってしまった。
確かに森だと池で体を洗うくらいしかできないからなぁ。
生態系への影響とかもまだ良くわからないから、クエン酸と泥くらいでしか頭も洗ってないし……。

しかし、俺が体臭を心配してくんかくんか自分の臭いを嗅いでいるのを見て、ルアッハ達は不思議な音を出した。
それはどうやら、透明な翼を震わせて出した音のようだった。
そしてヒュンっとさっきまでより早い速度で飛び回り、俺の周りに集まった。

『言葉がわかるのね?』

「あ、はい。エチョ耳なもので……。」

『クエルのエチョ耳??聞いた事がないわ??』

『ふふふっ、何でもいいわ?ねぇ、あなた?言葉がわかるなら………』

「そこまでだよ、この、狡賢いシンマどもめ!」

そこに鋭い声がかかった。
妖精みたいなルアッハ達が親しげに俺に話しかけているのを見て、奥に引っ込んでいたフードの人物が苛立たしそうにそう言った。
この子たち、シンマって言うんだ??
シンマと呼ばれたルアッハ達は少しむくれてヒューッとランプの方へ飛んで行ってしまった。

「ええと……??」

「アンタ、本当に新米なんだね?!シンマをまともに相手にするなんざ、自殺行為だってのに…。ここにいる奴らは私の息がかかっているがね?!もしも森でこいつらを見かけても、命が惜しくば何を言われても無視することだね。」

「そ、そんなに危険なルアッハなんですか?!」

「……いいかい?!綺麗な花には棘がある。いかにも美味そうな木の実には毒がある。それと同じさ。美しく華奢で可憐なルアッハはそれを武器として襲ってくる。ルースとして生きるなら、そんなもんは基本だ。アンタ、そんなんでよく1ヶ月以上、森で生きてこれたね?!」

「す、すみません……。」

「まぁ、アンタはマクモ様の息吹をかけられているからね、そうそうこいつらみたいな小物は手を出しちゃ来なかっただろうけどね。ルースとして生きるなら、それぐらいわかってな。」

「はい……。」

いきなり怒られてしまった。
何者なんだろう??この人は??

「ほれ。」

「え?!」

何も言っていないのに、いきなり持ち手つきの籠を渡された。
よくわからぬまま受け取ると、いくつかの小瓶などが入っている。

「これは……??」

「試供品だよ。婆さんからの話とここまでのアンタの様子から使いそうなヤツを判断させてもらった。アンタ、基本的なもんすら何にも持ってなさそうだからね。青い液体が虫刺されの薬だ。基本的には塗る。酷い時は布に染み込ませて貼る。だが急速なショックなんかの緊急時には1瓶飲め。一時的に気を失うと思うが死なずには済むだろう。緑のは食あたりだ。1回一口ぐらいを目安に1日1本ぐらいで考えな。赤い丸薬は一般的な解熱と痛み止めだ。程度によって1回1粒から3粒、1日10粒まで。3日たっても何の改善もしなかったら微熱や鈍痛程度でも悠長に構えず、火急ここに来るか街の医者に行きな。それから紙に包まれてるもんは火起こしの種だ。雨なんかで火が起こしにくい時に手助けしてくれる。粉々に砕いて使うんだ。薪が湿ってんなら薪にそれをかける、火種が起こしにくいなら火種の元にそれを混ぜな。軟膏は擦り傷の薬。わかったか??」

「は、はい。」

「言っとくが、これらはほぼ、応急処置にすぎない。それらで症状を抑えて街の医者の所までもたせる為のもんだ。それらにだけ頼っていると死ぬ。森を甘く見るんじゃないよ、新米。」

「は、はい!!」

フードの下、ギロリとした目が俺を叱咤した。
でも正直、こう言った薬なんかの類は本当にありがたい。
これまで傷ができたり虫に食われてもネストルさんが言う葉っぱの汁をつけたり、多少熱が出たり腹を下しても自然治癒に任せるしかなかった。
ただ俺の場合、ここの人達とは体が少し違うから、ネストルさんに俺と合うか成分を調べてもらってから使った方が良さそうだけれども。

「ありがとうございます。お代は……?」

「試供品って言っただろ?!聞こえてなかったのかい?!エチョ耳の癖に?!」

「い、いえ…。でもこんなに頂いてはと思って……。」

「ハンッ、どうせこれからそれなりに買ってもらう事になるんだからね。1瓶ずつぐらいどって事ない。それに使って合うか合わないかもある。合わなければ今度来た時、詳しく話な。合うように調合してやる。値段はどれもだいたい1つ3ローグから5ローグぐらいだ。特別に調合するとなると調合代がかかるがね。よほど特殊な成分でも使わない限りは、高くても1本10ローグ程度さ。わかったら今日はもう行きな。」

「え?!」

「え?じゃない!今日の所はここまでだ!さっさと出てっとくれ!!」

フードの人はそう言うと、急に機嫌悪く掃除用の羽根ばたきをぶんぶん振り回して俺を追い立てた。
無言の剣幕に負けて、俺は店の外どころか倉庫の外まで追い立てられてしまう。
バタンッと目の前でドアが閉められる。

「……え??いったい何……??」

訳もわからず、呆然と立ち尽くす俺。
ええと…確かにちょっと偏屈な人だ。
でも確かにルースとして生活するには重要な店である事もわかった。
頂いた籠の中を覗き込みそう思った。
生活する上で医薬品があるのとないのでは大違いだ。
何にせよありがたい。
仲良くなれるかはわからないが、これからお世話になるのは間違いなかった。

『リルは気難しいのよ。気にしないで?』

突然近くでガラスの様な音がした。
ギョッとして顔を上げると、真横にシンマと呼ばれ、注意するよう言われたルアッハが浮かんでいる。

「えっ?!ええぇぇぇ~っ?!」

『うふふ。あなたが気になったから、ついてきちゃった♪』

「ええぇぇぇっ?!」

あ、違う。
反応したら駄目なんだった。
シンマと出会ったら無視するように言われたんだった。
俺は少し挙動不審になりながらも、素知らぬふりをしようとした。

『あ~、無視しようとしてるでしょ~?』

「……………。」

『安心してよ、誓ってもアンタニ何かしたりしないわ。じゃないと私、リルに羽をもがれちゃう。髪も切られちゃうかも!あぁ!大事な私の美しい髪と羽が!!』

「……………。」

『それにあんた、マクモ様の息吹を受けてるんでしょ?!だとしたら、あんたに何かしたら私、この土地にいられなくなるわ。だからしたくてもあんたに何かする事はできないのよ、わかった??』

これは……信じて良いのだろうか……。
視線を背ける俺の顔の前に来て、シンマはにこにこ笑う。

「………出てきてて、大丈夫なんですか??店主さんに怒られますよ??」

『平気平気!1人いないくらい、余程の事がない限り、リルだって気づかないわ。それにあんたを観察した情報は、リルにも利用価値があると思うもの。多少、叱られてもそれを対価に出せば許してくれるわ。』

「対価って……。」

え??何??俺、この子に観察されるの??これから?!
そしてそれって、情報として対価になる訳?!
何だかやっぱりシンマって怖い。

『ちょっとぉ~!そんなに警戒されると傷つくんですけどぉ~!?』

「いや…でもなぁ……。」

『安心しなさいよ!離れたところから見てるだけよ?!飽きたら帰るし。……ね?!』

ね?と言われてもなぁ。
でもこれから商業許可所にもよらないとならないのだ。
シンマだが何だか知らないが、離れて俺を見ているだけで危害を加えてこないなら、構っている場合じゃない。

俺は少しだけ警戒しながらも、用事を済ませる為に商業許可所に向かったのだった。
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