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第1章「はじまりのうた」
異世界の洗礼
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木々の葉はアミナスの光が弱まった事でモノクロになり、月のように輝くアミナスの光の下、シルエットになって天水の瞬きを飾っていた。
「うう……。」
「だっ!大丈夫か?!コーバーっ?!」
そんな美しい夜空の下、俺は脂汗を流してうめき声を上げていた。
猛烈に腹が痛い。
生牡蠣に当たった時のように腹が痛い。
ネストルさんは俺を腹回りのふかふかの毛で包みながら、オロオロとしている。
腹が痛すぎて目眩がする。
駄目だ、耐えきれん……。
「ネストルさん……悪いんですけど……どこかその辺の安全な茂みに連れて行って下さい……。」
「そ、それは構わぬが?!」
「お願いします……かなり緊急事態です……。」
痛みで動けない俺を口に加え、ネストルさんが近くの茂みに俺を下ろした。
「他は?!他に何かできるか?!」
「…………向こうに行ってて下さい……。離れてこっち来ないで下さい……。」
「コ~バ~っ!」
ネストルさんは俺に冷たくそう言われ、オロオロしている。
ネストルさんが優しいのはわかっている。
凄く俺に気遣って大事にしてくれているのもわかっている。
だが、今の俺にはその余裕はない。
青いを通り越して白くなってきた顔で、俺は言った。
「……お願いします。向こうに行ってて下さい……!!」
切羽詰まった俺の気迫に、シュンっとネストルさんの耳が垂れる。
可愛い。
可哀想可愛いが、今はそれどころではない。
トボトボと離れていくネストルさんを見送って、俺は覚悟を決めた。
と言うかもう、一刻の猶予もないのだ。
この異世界には、着てきたこのスーツしか着るものがないのだ!!
ええいままよ!!
俺は自然の摂理に身を任せたのだった。
「コーバー、大丈夫か………。」
「………わからないです……。」
完全に生きる屍と化し、俺はネストルさんのもふもふの毛の中でダウンしていた。
ありがたい事にここでは空気中の水分が多すぎるせいで、口からわざわざ水を飲まなくても水分補給ができる。
その為、脱水症状になる事は避けられた。
「………すまぬ……そこまで考えが及ばなかった我の責任だ……。」
「いや、ネストルさんでも気づかない事を、俺一人で気づくのは絶対無理だったので……。」
症状がある程度落ち着いて、俺とネストルさんは何が起きたのか話し合った。
そして出た結論。
食中毒だ。
食中毒と言っても原因は様々考えられる。
まず、花の蜜に火を通さなかった事から、細菌の様なものが原因であったと言う説。
第二に、そもそもここの物質を俺の体が上手く取り込めない説。
第三に、花の蜜の中の成分もしくは酸味をつけた木の実の成分が、俺にとって毒性があった説。
そして第四に、俺の腸内細菌のバランスとこの世界の花の蜜の相性が悪かった説だ。
元々、何故、ネストルさんが花の蜜を選んだかと言えば、糖質なら異世界から来た俺でも取り込みやすいだろうと考えたからだった。
他の木の実などは、多様な成分が入っているし、固形物なのでどこまで俺の体が受け入れられるかわからないと判断したのだ。
だが、生きるのにエネルギーを取らねばクエルは死んでしまう為、一番、エネルギーがそのままの形で摂取できる花の蜜を選んだのだ。
あの後、ネストルさんが花の蜜等が俺に毒性を持っていたか調べてくれたのだが、そこまで毒性が認められるものはなかったみたいだ。
それから俺の体が花の蜜の糖分を吸収できる仕組みではないのかも調べてくれたが、確かに微妙にこれまでの世界のものと違うので摂取しにくいと言えばしにくいらしいが、受け付けずに排除する方向に働くほどではないとわかった。
だったら何なのか??
俺はグロッキーすぎて頭が働かず、考えられなかった。
「…………コーバー……その……言いにくいのだが……。」
「何でしょう……。」
「その……お前の排泄物を調べさせてもらってわかったのだが………。」
「………は??今何て!?」
「だからその……排泄物をだな………。」
「……ギャアアァァァァっ!!ネストルさん!!何を調べたって?!」
「だから……。」
「ヤメテクダサイィ~ッ!!俺!生きていけない~ッ!!」
ネストルさんの言葉を遮り、俺は叫んだ。
ちょっと待ってくれ!!
嘘ですよね?!
……………。
いや、わかりますよ…。
病気の原因を調べるには、それも大事だって……。
でも!頭ではわかっても精神的ダメージデカイから!!
「うぎゃあぁぁぁ~っ!!」
「すまぬ……だが、このままでは、コーバーが死んでしまうと思って……どうにかしてやれぬかと……。」
「うっうっうっ……。もう、お嫁に行けないわ、私……。」
「……何だと?!コーバーは雌だったのか?!別のドルムではコーバーの様な個体が雌なのか?!」
「………冗談ですよ、ネストルさん。」
「……………。…そうか……びっくりさせてくれるな……。」
「でもそれぐらい、男の俺でもショックだって意味です。」
「………すまぬ…。」
「いえ……原因究明には一番必要な作業なのは理解してます……気持ちの整理がつかないだけで……。でも、それをしたネストルさんもキツかったですよね、すみません……。」
「いや、我の事はいい。」
「それで、何がわかったんですか??」
「ああ。今回の件は、恐らくコーバーの内臓の中の生き物たちが、このドルムに適さなかった事が原因だと思われる。」
「……つまり??俺の腸内細菌がこの世界に合わなくて??それで大惨事になったと言う事ですか??」
「そういう事だ。」
…………。
何となく納得した。
だが、だったらどうしたら良いのだろう??
このままではこの世界の食べ物を食べても、腹を壊し続け、結局餓死してしまう事になる。
「……空気に溺れた次は……餓死?!厳しすぎないか??異世界転移??異世界転移ってもっとユートピア感にあふれてるものじゃないのか?!」
「何だ??ユートピア感というのは??」
「いや、こっちの話です。でも困りましたね……。溺れて死ぬのも嫌ですけど、餓死も嫌ですよ、俺。」
「その対策は考えてある。」
ネストルさんはそう言うと、いつもの触手を俺の方に伸ばしてきた。
その先端には、何か黒っぽい鉱物のような物がついている。
「………これは??」
「うむ、コーバーの内臓に入った方がいい生き物の固まりだ。」
「?!」
「飲みやすいように糖質で周囲を固めておいたぞ。これを飲めば………。」
「待て待て待て待てっ?!これ?!微生物の固まり?!腸内細菌?!」
「呼び方は知らぬ。ただこのドルムのクエル達を調べ直してな、その内臓にもコーバーと同じように生き物がいる事がわかった故、それを分けてもらったものだ。」
「いやいやいやいや!!理屈はわかりますよ?!理屈は?!え?!ネストルさん、貴方、俺にこの微生物の塊をのみ込めと?!」
「そうせねば、コーバーはこのドルムの物を食せぬ。弱ってしまう前に、これを取り込んだ方が良いのだろう。」
「いや?!待って?!ネストルさん?!」
「何を躊躇しておる??糖質でコーティングしてある故、甘いし飲み込みやすいぞ??」
「そういう問題ではないんですよ!!だって微生物とはいえ!生きている菌を飲み込むんですよ?!異世界の菌を飲み込むんですよ?!わかります?!」
「わかっておるぞ??花の蜜にだって多少の菌はついていたのだぞ??」
「それとこれとは恐らく量が違うでしょう?!量が?!」
「当たり前であろう。これから何度も蜜などを取りなから同じ事を繰り返し、ちまちまと生き物を体内に取り込む方が辛かろう。ただでさえ弱っておるお前がそれに耐えきれるとも限らん。だったら一気に入れた方が早い上、コーバーも楽だろう。」
「だからって…っ!!」
「これを飲まねばコーバーは食事が取れない。ずっと苦しむ。だから飲むのだ。」
「いやいやいやいや?!」
さすがの俺も、それには抵抗した。
理屈はわかる。
だが躊躇する俺の気持ちもわかってくれ!!
そうしなければこの世界では生きられないのは理解できるが、心の準備ぐらいさせてくれないのだろうか?!
だがネストルさんは、俺が食べないと死んでしまうので、かなり真剣にそれを飲まそうとしてくる。
口に突っ込もうとする触手と俺は格闘する。
俺を生かす為にしている事なのだが、お互いヒートアップしてしまい、意地でも飲まないと抵抗する俺と、無理にでも飲まそうとするネストルさん。
「嫌だって言ってるでしょうがぁ~っ!!」
「何を言う?!飲まなければ死んでしまうのだぞ?!」
「それでも無理やり飲まそうとされるのは嫌に決まってるでしょうがぁ~っ!!」
それを聞いて、ネストルさんは少し考えてくれた様だ。
無理に口に突っ込もうと伸ばされた触手が俺から離れる。
「………昔、スーダー達と暮らしていた事があると話したな?」
「??そうですね、街で暮らしたことがあるんですよね??」
「そう、スーダー達の食べ物は、なかなか魅惑的なものが多かったぞ??」
「!!」
「手が込んでいてな。肉などを野菜を煮詰めて作ったソースに漬け込んで焼いたり、パリパリの何層もの生地にトロみのある煮込み料理をかけたり、それはそれは美味かった覚えがある。」
「う……。」
「コーバー、もし、お前がこのドルムの物を食べれるようになったらスーダー達の街に連れて行ってやろう。どうだ??」
「…………ズルい……卑怯です……。」
「我の何が卑怯だと言うのだ?コーバー??我ははじめから、お前に食事ができるようにと考え、それを可能にできるようにこれを飲めと言っているだけではないか??」
ネストルさんは平然とそう言って、俺の手にその黒っぽい塊を渡してきた。
こうなっては飲むなら自分の意志で飲むしかない。
人間には三大欲求というものがある。
いくつか説はあるが、その中で一番ポピュラーなのは「睡眠欲」「食欲」「性欲」の3つだ。
そのうちの一つが食欲。
俺だって食べたい。
生きているからには美味しいものを食べたい。
「あ~!!もう!!ズルいです!!ネストルさんっ!!」
異世界の菌を飲み込むのは怖い。
だが、そんな美味しそうな料理の話を聞かされて、これを飲まずに餓死する道を選べる人間が果たしているのだろうか?!
「あ~!!もう!!どうせ1回、死にかけたんだ!!どんとこいっ!!」
俺は訳のわからない事を叫んで、ポイッとそれを口に放り込んだ。
確かに甘いし飲み込みやすい。
覚悟を決めて、ゴクリと飲み込む。
「うわあぁぁ~!!飲み込んじゃったよ~!!もう元には戻れないよ!俺っ!!」
手で顔を覆って叫んでも、もうどうにもならない。
そんな俺の頭を何かが撫でている。
「……よく頑張った。コーバー。腹の調子が整ったら、約束通り、スーダーの街に連れて行ってやろう。」
「………それはいいんですけど、触手で頭を撫でるのはやめて下さいよ、ネストルさん……。」
半泣きで、俺は恨めしそうにネストルさんを睨んで、パシリッと触手を叩いたのだった。
「うう……。」
「だっ!大丈夫か?!コーバーっ?!」
そんな美しい夜空の下、俺は脂汗を流してうめき声を上げていた。
猛烈に腹が痛い。
生牡蠣に当たった時のように腹が痛い。
ネストルさんは俺を腹回りのふかふかの毛で包みながら、オロオロとしている。
腹が痛すぎて目眩がする。
駄目だ、耐えきれん……。
「ネストルさん……悪いんですけど……どこかその辺の安全な茂みに連れて行って下さい……。」
「そ、それは構わぬが?!」
「お願いします……かなり緊急事態です……。」
痛みで動けない俺を口に加え、ネストルさんが近くの茂みに俺を下ろした。
「他は?!他に何かできるか?!」
「…………向こうに行ってて下さい……。離れてこっち来ないで下さい……。」
「コ~バ~っ!」
ネストルさんは俺に冷たくそう言われ、オロオロしている。
ネストルさんが優しいのはわかっている。
凄く俺に気遣って大事にしてくれているのもわかっている。
だが、今の俺にはその余裕はない。
青いを通り越して白くなってきた顔で、俺は言った。
「……お願いします。向こうに行ってて下さい……!!」
切羽詰まった俺の気迫に、シュンっとネストルさんの耳が垂れる。
可愛い。
可哀想可愛いが、今はそれどころではない。
トボトボと離れていくネストルさんを見送って、俺は覚悟を決めた。
と言うかもう、一刻の猶予もないのだ。
この異世界には、着てきたこのスーツしか着るものがないのだ!!
ええいままよ!!
俺は自然の摂理に身を任せたのだった。
「コーバー、大丈夫か………。」
「………わからないです……。」
完全に生きる屍と化し、俺はネストルさんのもふもふの毛の中でダウンしていた。
ありがたい事にここでは空気中の水分が多すぎるせいで、口からわざわざ水を飲まなくても水分補給ができる。
その為、脱水症状になる事は避けられた。
「………すまぬ……そこまで考えが及ばなかった我の責任だ……。」
「いや、ネストルさんでも気づかない事を、俺一人で気づくのは絶対無理だったので……。」
症状がある程度落ち着いて、俺とネストルさんは何が起きたのか話し合った。
そして出た結論。
食中毒だ。
食中毒と言っても原因は様々考えられる。
まず、花の蜜に火を通さなかった事から、細菌の様なものが原因であったと言う説。
第二に、そもそもここの物質を俺の体が上手く取り込めない説。
第三に、花の蜜の中の成分もしくは酸味をつけた木の実の成分が、俺にとって毒性があった説。
そして第四に、俺の腸内細菌のバランスとこの世界の花の蜜の相性が悪かった説だ。
元々、何故、ネストルさんが花の蜜を選んだかと言えば、糖質なら異世界から来た俺でも取り込みやすいだろうと考えたからだった。
他の木の実などは、多様な成分が入っているし、固形物なのでどこまで俺の体が受け入れられるかわからないと判断したのだ。
だが、生きるのにエネルギーを取らねばクエルは死んでしまう為、一番、エネルギーがそのままの形で摂取できる花の蜜を選んだのだ。
あの後、ネストルさんが花の蜜等が俺に毒性を持っていたか調べてくれたのだが、そこまで毒性が認められるものはなかったみたいだ。
それから俺の体が花の蜜の糖分を吸収できる仕組みではないのかも調べてくれたが、確かに微妙にこれまでの世界のものと違うので摂取しにくいと言えばしにくいらしいが、受け付けずに排除する方向に働くほどではないとわかった。
だったら何なのか??
俺はグロッキーすぎて頭が働かず、考えられなかった。
「…………コーバー……その……言いにくいのだが……。」
「何でしょう……。」
「その……お前の排泄物を調べさせてもらってわかったのだが………。」
「………は??今何て!?」
「だからその……排泄物をだな………。」
「……ギャアアァァァァっ!!ネストルさん!!何を調べたって?!」
「だから……。」
「ヤメテクダサイィ~ッ!!俺!生きていけない~ッ!!」
ネストルさんの言葉を遮り、俺は叫んだ。
ちょっと待ってくれ!!
嘘ですよね?!
……………。
いや、わかりますよ…。
病気の原因を調べるには、それも大事だって……。
でも!頭ではわかっても精神的ダメージデカイから!!
「うぎゃあぁぁぁ~っ!!」
「すまぬ……だが、このままでは、コーバーが死んでしまうと思って……どうにかしてやれぬかと……。」
「うっうっうっ……。もう、お嫁に行けないわ、私……。」
「……何だと?!コーバーは雌だったのか?!別のドルムではコーバーの様な個体が雌なのか?!」
「………冗談ですよ、ネストルさん。」
「……………。…そうか……びっくりさせてくれるな……。」
「でもそれぐらい、男の俺でもショックだって意味です。」
「………すまぬ…。」
「いえ……原因究明には一番必要な作業なのは理解してます……気持ちの整理がつかないだけで……。でも、それをしたネストルさんもキツかったですよね、すみません……。」
「いや、我の事はいい。」
「それで、何がわかったんですか??」
「ああ。今回の件は、恐らくコーバーの内臓の中の生き物たちが、このドルムに適さなかった事が原因だと思われる。」
「……つまり??俺の腸内細菌がこの世界に合わなくて??それで大惨事になったと言う事ですか??」
「そういう事だ。」
…………。
何となく納得した。
だが、だったらどうしたら良いのだろう??
このままではこの世界の食べ物を食べても、腹を壊し続け、結局餓死してしまう事になる。
「……空気に溺れた次は……餓死?!厳しすぎないか??異世界転移??異世界転移ってもっとユートピア感にあふれてるものじゃないのか?!」
「何だ??ユートピア感というのは??」
「いや、こっちの話です。でも困りましたね……。溺れて死ぬのも嫌ですけど、餓死も嫌ですよ、俺。」
「その対策は考えてある。」
ネストルさんはそう言うと、いつもの触手を俺の方に伸ばしてきた。
その先端には、何か黒っぽい鉱物のような物がついている。
「………これは??」
「うむ、コーバーの内臓に入った方がいい生き物の固まりだ。」
「?!」
「飲みやすいように糖質で周囲を固めておいたぞ。これを飲めば………。」
「待て待て待て待てっ?!これ?!微生物の固まり?!腸内細菌?!」
「呼び方は知らぬ。ただこのドルムのクエル達を調べ直してな、その内臓にもコーバーと同じように生き物がいる事がわかった故、それを分けてもらったものだ。」
「いやいやいやいや!!理屈はわかりますよ?!理屈は?!え?!ネストルさん、貴方、俺にこの微生物の塊をのみ込めと?!」
「そうせねば、コーバーはこのドルムの物を食せぬ。弱ってしまう前に、これを取り込んだ方が良いのだろう。」
「いや?!待って?!ネストルさん?!」
「何を躊躇しておる??糖質でコーティングしてある故、甘いし飲み込みやすいぞ??」
「そういう問題ではないんですよ!!だって微生物とはいえ!生きている菌を飲み込むんですよ?!異世界の菌を飲み込むんですよ?!わかります?!」
「わかっておるぞ??花の蜜にだって多少の菌はついていたのだぞ??」
「それとこれとは恐らく量が違うでしょう?!量が?!」
「当たり前であろう。これから何度も蜜などを取りなから同じ事を繰り返し、ちまちまと生き物を体内に取り込む方が辛かろう。ただでさえ弱っておるお前がそれに耐えきれるとも限らん。だったら一気に入れた方が早い上、コーバーも楽だろう。」
「だからって…っ!!」
「これを飲まねばコーバーは食事が取れない。ずっと苦しむ。だから飲むのだ。」
「いやいやいやいや?!」
さすがの俺も、それには抵抗した。
理屈はわかる。
だが躊躇する俺の気持ちもわかってくれ!!
そうしなければこの世界では生きられないのは理解できるが、心の準備ぐらいさせてくれないのだろうか?!
だがネストルさんは、俺が食べないと死んでしまうので、かなり真剣にそれを飲まそうとしてくる。
口に突っ込もうとする触手と俺は格闘する。
俺を生かす為にしている事なのだが、お互いヒートアップしてしまい、意地でも飲まないと抵抗する俺と、無理にでも飲まそうとするネストルさん。
「嫌だって言ってるでしょうがぁ~っ!!」
「何を言う?!飲まなければ死んでしまうのだぞ?!」
「それでも無理やり飲まそうとされるのは嫌に決まってるでしょうがぁ~っ!!」
それを聞いて、ネストルさんは少し考えてくれた様だ。
無理に口に突っ込もうと伸ばされた触手が俺から離れる。
「………昔、スーダー達と暮らしていた事があると話したな?」
「??そうですね、街で暮らしたことがあるんですよね??」
「そう、スーダー達の食べ物は、なかなか魅惑的なものが多かったぞ??」
「!!」
「手が込んでいてな。肉などを野菜を煮詰めて作ったソースに漬け込んで焼いたり、パリパリの何層もの生地にトロみのある煮込み料理をかけたり、それはそれは美味かった覚えがある。」
「う……。」
「コーバー、もし、お前がこのドルムの物を食べれるようになったらスーダー達の街に連れて行ってやろう。どうだ??」
「…………ズルい……卑怯です……。」
「我の何が卑怯だと言うのだ?コーバー??我ははじめから、お前に食事ができるようにと考え、それを可能にできるようにこれを飲めと言っているだけではないか??」
ネストルさんは平然とそう言って、俺の手にその黒っぽい塊を渡してきた。
こうなっては飲むなら自分の意志で飲むしかない。
人間には三大欲求というものがある。
いくつか説はあるが、その中で一番ポピュラーなのは「睡眠欲」「食欲」「性欲」の3つだ。
そのうちの一つが食欲。
俺だって食べたい。
生きているからには美味しいものを食べたい。
「あ~!!もう!!ズルいです!!ネストルさんっ!!」
異世界の菌を飲み込むのは怖い。
だが、そんな美味しそうな料理の話を聞かされて、これを飲まずに餓死する道を選べる人間が果たしているのだろうか?!
「あ~!!もう!!どうせ1回、死にかけたんだ!!どんとこいっ!!」
俺は訳のわからない事を叫んで、ポイッとそれを口に放り込んだ。
確かに甘いし飲み込みやすい。
覚悟を決めて、ゴクリと飲み込む。
「うわあぁぁ~!!飲み込んじゃったよ~!!もう元には戻れないよ!俺っ!!」
手で顔を覆って叫んでも、もうどうにもならない。
そんな俺の頭を何かが撫でている。
「……よく頑張った。コーバー。腹の調子が整ったら、約束通り、スーダーの街に連れて行ってやろう。」
「………それはいいんですけど、触手で頭を撫でるのはやめて下さいよ、ネストルさん……。」
半泣きで、俺は恨めしそうにネストルさんを睨んで、パシリッと触手を叩いたのだった。
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