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第1章「はじまりのうた」

はじめましてさようなら

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年代の差ってのもあって俺はそんなに読んだことがないが、今の世の中、漫画やライトノベルの流行りは「異世界」ヘ「召喚」「転移」されるか「転生」するからしい。
いや、この情報ももしかしたらもう古いのかもしれないが……。
でも言われてみれば何となく見ていた深夜アニメもそういう感じだったなぁと。
こう言う、その単語自体を知らなかったり、何が今の主流かとかわからない辺り、俺も歳を取ったなぁと思う。

だって、生活が忙しすぎるんだ。
そういった昔夢中になっていた事に割く時間もない。
たまに時間があっても、日々の色々で頭の中が飽和状態で、かつては楽しかった漫画も画面の情報が読み取れない、映画もアニメも画面を見ていられない、小説も文字が読んでも意味として頭に入っていかない。
日々の生活で受ける情報の量が多すぎて、休日は一切、情報を頭に入れないようにしないと身が持たないのだ。
だから最近はもっぱら、動画サイトで短い動画を見るぐらいしかしない。
あれこれとネットサーフィンもしない。
ただ買い物は面倒なのでネットショッピングで済ます事が多いから、オフで画面を見る時間が一番長いのは買い物の時かもしれない。
もちろん、日々の生活で仕事じゃ常に画面しか見てない場合も多いけどね。
独り暮らしで就職して金もあるからと、嬉々として買った大きなTVモニターはただの黒い額縁みたいに場所を取っていた。

それにしても異世界なんて、突き詰めて考えちゃうとそんな簡単なもんじゃないよな。
転生の場合は大丈夫だろうけど、召喚や転移だった場合、その場所の空気が吸えるかなんてわかんないんだし。
酸素はあるのか、あっても呼吸に適した濃度なのか、他の成分に有害なものはないのか、もっと言えば気体があるのかすらわからない。
他にも水とか飲める物があるのかわからない訳で。
同じ地球上ですら国や場所によって水の硬度が違うから腹壊したり肌なんかの調子が悪くなったりするのに、異世界の水が自分に合ってるかなんてわからない訳で。
運良くその辺が大丈夫でも、食べ物があるのか、それらには自分に有害な物は含まれていないと言えるのか、危険な植物や生態系、地形、何もかも合うかわからない。
そもそも異世界なのだ。
自分が当たり前だと思っている世界の理論が通るとは限らない。
重力然り、運動の法則が違えば動く事もままならないし、光の法則が違えば目なんか役にもたたないだろう。
こういうくだらない理屈にガチガチなところが、元理系だよなぁと思う。

で、何で俺がそんな事を考えているかといえば、今、まさにその状態だからだ。

朝起きた。
出勤中に大きな地震が起きた。
地面が割れた。
落ちた。

で、気づいたら息をするのも苦しく、動く事もできず、見えるものも何かノイズが走ってピントも合わない変な景色で。
死んだのかと、ここは地獄なのかと苦しみ悶ていた。
なら何で異世界って思ったかと言うと、魂で感じたという様な本能的な感覚と、目の前にいるこいつのせいだ。
見た事のない生き物みたいなのが、ピントの合わない、色もよくわからない砂嵐のような視界にそびえて俺を見下ろしている。

『……妙な臭いがすると思えば……何だ?この奇っ怪な存在は…?!カナカのようにも見えるが……いかんせん成分が異形だ。』

冬眠明けのヒグマにあったならこんな感じなんだろうなと本能が言っている。
見下ろすそれは、オレに顔を近づけて首を傾げた。

『ヒグマ??何だ?その生き物は??……強い??食べられるものか??』

ヒグマを食うとかどんだけだよ。
確かにくま鍋とかあるみたいだけどさ。
俺はちょっとおかしくなって笑った。
とはいえヒュッヒュッと変な呼吸音が出るだけだったけれども。

『………なるほど、別のドルムの存在体か……じきに死ぬな。どうもここが生命維持には合わないようだからな。うむ……取り込むなら死んでからでも良かろう。よく調べてこちらにどれ位害があるか確認してからの方が良いからな。』

あぁ、俺はこれに食われるのか。
しかも死ぬのを待ってよく調べてから食うのか。
生きたまま食われるのも辛いが、今、これほど苦しんでいるのだから、サクッとトドメを刺してくれれば良いのに……。

『……なるほど。苦しいのか……確かにそれならひと思いに殺してやるのがせめてもの救いになるか。』

よくわからないが考えが読まれているようだ。
だが助かる。
俺はお願いしますと、すでに歪んでシルエットの様にしか見えなくなっているそれを必死に見上げて頼んだ。
見えはしないが、それがとても興味深そうに俺を見つめているのが何故か感じた取れた。

『………うむ。……一か八か……試みるのも悪くはない……。』

それの大きな影が、俺に近づいてきた。
頭のあたりにムギュッとした程よい圧力を感じた。

あぁ、死ぬのか。
これだけ苦しかったのだから、トドメを指してくれるのはありがたい。
よくわからないが最期に会えたのがこいつで良かった。
死んだら好きなように食ってくれ。

布団にギュッと押し付けられたような程よい圧力と温かさを感じながら、俺の意識はフッと軽くなっていった。
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