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弟子と師
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傑は動きを止めた。
もう、倒す相手がいなくなったからだ。
「う~ん。次は信桜に勝てるかな?俺?」
ふとそう思ったが、信桜が今の自分と同じぐらいゾーンに入ったら、勝ち目はないなと冷静に理解した。
だとしたら、院瀬見に勝つのはまだまだ先になるだろう。
そう言えば、院瀬見はどうしたのだろう?
自分の戦いに集中していて忘れていたが、三階に上がったきり音沙汰がない。
物音がしないという事は、交戦はしていないのだろう。
そう思った。
次の瞬間、物凄い轟音を立て、背後の天井が一部崩壊した。
床が抜けたらしく、瓦礫が降り注ぐ。
「?!」
傑は驚いて動けなかった。
何が起きたのか理解できず、瞬時の判断が遅れた。
「後ろだ!!小僧!!」
「!!」
瓦礫の中からそう声が聞こえた時には遅かった。
驚いて一瞬集中が途切れた傑に無数の糸が襲いかかった。
「クッ!!」
しまった、と思った時にはその「何か」に全身囚われ動きを封じられてしまった。
それはどんどん傑に纏わりつき、絞め上げていく。
「……ギ……ギギギギギ……ッ。」
背後から何かがゆっくり近づいてくる。
それは傑が院瀬見の退路として守ってきた階段を降りてくる。
歯軋りのような耳障りな音。
強い憎しみと怒りを黒く塗り潰したような闇が、時間をかけて三階から這い降りてくる。
それが近づけば近づくだけ傑を羽交い締めにする糸が増え、その闇の中に埋もれていく。
「傑様!!」
院瀬見の声が聞こえたが姿は見えない。
何故なら傑は完全に「何か」の髪の中に埋もれてしまっていたからだ。
銃声が聞こえる。
院瀬見が「何か」と交戦しているのだ。
だが傑の感覚が捉える院瀬見の動きがおかしい。
いつもの院瀬見ではない。
あ、そうか。
俺がコイツに捕まってるからだ……。
傑はそう、理解した。
これが他の戦人なら、院瀬見は躊躇も容赦もしなかっただろう。
けれど捕らえられたのが「傑」だった。
この戦の「大将」であり、五百雀の跡取り。
その傑を守る事を院瀬見は約束させられている。
ギリギリと全身を絞め上げられながら傑は理解した。
院瀬見が戦うには、自分がここから抜け出さなければならないと。
真っ黒で粘着質の悪鬼の髪に囚われた状態で、傑は振り回されていた。
おそらく傑を盾として悪鬼は使っているのだ。
だから院瀬見が思うように動けずにいる。
傑は冷静に状況を考えた。
悪鬼の髪に囚われ締め上げられてはいるが、意識は保てている。
酷く痛むし苦しいには苦しいが、こんな状況だというのに思考はまだできる。
それは傑が着ている服が全て、女郎蜘蛛の椿の糸で作られているからだ。
そして悪鬼がどれだけ責め上げても傑が堕ちずにいるのは、陣羽織として贈られたブレザーに鳳凰である凪の羽根が織り込まれているからだ。
こりゃ確かに、サバゲー装備で来てたら10分で死んだなぁと傑は思った。
とはいえ、傑が悪鬼の髪に囚われ身動きできず、その上、盾として使われる事で院瀬見が思うように戦えずにいる事には変わらない。
変なところで気を使うよな、院瀬見。
いつもは俺が骨折したって気にもしないで「指導」してくるのに……。
躊躇したら、判断を間違えたら死ぬ。
そう教えこんだのは院瀬見だというのに。
そんな院瀬見の人間臭さが少し嬉しかった。
皆、院瀬見を「修羅」だと、人間ではない何かのように扱っている。
でも傑は知っている。
院瀬見ほど人間臭い矛盾を抱えた人間はいない。
傑にとって、わからないのはむしろ両親や祖母だ。
五百雀という名を背負っているから仕方のない事だとは思うが、傑はたまに能面と向き合っている気がしてしまう。
その点、院瀬見には嘘がない。
馬鹿にするでも「修行」と称していたぶるにしても、院瀬見は本気だ。
本気で傑と向き合ってくれる。
今、自分がすべき事。
それはこの囚われの状態を自分で抜け出す事。
院瀬見がなんでこんな間抜けな戦い方で耐えているのか?
それは傑を人質に取られているからじゃない。
院瀬見は待っているのだ。
傑が自力でこの状況から抜け出してくるのを。
「……早くしねぇと……。じゃなきゃ後で、院瀬見に何されるかわかんねぇ……。」
傑はそれを考え、ブルッと身を震わせた。
確かにこの悪鬼は傑より強いのだろう。
だからと言って、おとなしく捕らえられている訳にはいかない。
そんな事をしたら、師である院瀬見に今度こそ本当に殺される。
しかも、殺してくれと懇願したくなるようなやり方で……。
腕も足も動かせないが、指は動く。
指から少しずつ動く範囲を広め、束縛が強まる前に一気に行くしかない。
「……頼むぞ、凪、椿。」
傑は覚悟を決めた。
判断を誤るな。
何をすべきかの優先順位を付け間違うな。
傑は動く指先に神経を集中させた。
面倒だ。
院瀬見はそう思った。
悪鬼ははじめの警告の際、傑が院瀬見の弱点だと見抜いていた。
だから傑を捕らえ、盾にした。
本当に面倒だ。
そう思いながらも、院瀬見は判断に迷っていた。
このまま力で押し切る方法を取れば簡単だ。
今まではそうしてきた。
何故なら院瀬見はいつだって独りだったから。
確かに人質を取られたり、チームに組み入れられた事もある。
だがその時だって迷った事などない。
人質は死ななければ良いのだ。
救う為に多少の怪我に対して文句を言われる筋合いはない。
チームの人間もそうだ。
チームに組まれているのなら、その者は戦人だ。
それなりに腹を括っていて貰わなければ仕事にならない。
だから何故、傑に対して躊躇が生まれるのかわからなかった。
幼い頃からついていたから情があるのか?
いや、戦人として育てる為についていたのだ。
死ななければ良いのだ。
それぐらいの覚悟、弟子として持っていてもらわなければ話にならない。
五百雀家にその守りを約束したから?
だからそれも死ななければ良い。
向こうも五百雀。
死なない限り、人質になって怪我を負ったなどと言う事になれば、咎められるのは院瀬見ではなく傑だろう。
なら何故、躊躇する?
死ななければ良いのだ。
自分はそれを十分、わかっている。
「………………。死ななければ、か……。」
死という言葉。
それはいつも院瀬見に纏わり付く。
院瀬見は生涯、その呪縛から逃れられないだろう。
それを受け入れたなら、楽になれるのだろうか?
彼らはそれを受け入れ、楽になれたのだろうか?
ふと、そんな事を思った。
「……っ!!」
突然、爆音とともに悪鬼の髪の塊が燃え上がった。
それを見て、ニヤッと笑う。
「……遅いぞ、小僧。」
「はぁ?!こっちが死ぬ気で抜け出してきたのに、それ?!」
「自慢の髪が燃えている……。」
「あ!ぎゃあぁぁぁ!!」
燃え上がる塊から転がり出てきた弟子の頭を、院瀬見は面倒そうに手で火消しした。
そして焦げた髪に大袈裟に嘆き悲しむ傑に呆れる。
「ああぁぁぁ……変な髪型になる……。」
「だから流行りなどに流されて伸ばすなと言っているんだ。信桜を見てみろ。流行りなどに惑わされたりしない。」
「……いや、信桜はあれが素だから。」
くだらない会話。
その中で院瀬見は自分を取り戻した。
大丈夫。
傑は馬鹿だが、ちゃんと成長もしている。
「……お前の仕事はなんだ?小僧?」
「院瀬見の戦いの邪魔にならないようにする事です……。」
「わかっていればいい。」
そう言って院瀬見は悪鬼と向き合う。
悪鬼は髪を燃やされ、その火消しをしながら嘆き悲しむように奇声をあげている。
「ォ……オオオォォォゴォォ……ッ!!」
余計な事をしてくれたせいで、嫌な事を思い出した。
その落とし前はつけてもらおう。
院瀬見は無感情に悪鬼を見つめた。
目の前には巨大なキメラの様な女がいる。
ムカデや羽虫と混ざったその姿は、昔の人間が見れば異形の神に見えたかもしれない。
だがこれは人に造られたもの。
人の創りし偽りの神だ。
何より「神」ではない。
「呪」だ。
人の傲りと傲慢さが生み出した憎悪だ。
何を憎んでいるかもわからなくなるほど濃縮された怒りだ。
「……なぁ、これ、本体じゃないんだよな?」
「そうだ。本体を守る為に造られた「呪」だ。」
その姿に傑が圧倒されている。
そしてそこから、今回の目的である「本体」の重みを理解した。
これが守る「呪」が目覚めた時、この地は穢れる。
そしてそれは広がっていく。
町外れとはいえこんな都心部でそれが目覚めたら、この国の経済ないし様々な面で混沌が生まれ悪化する。
それを止めるのが「五百雀」だ。
その為にはまず、目の前の「呪」を片付けなければならない。
「……こいつは私が引きつける。仕事を続行しろ、傑。」
「!!」
傑はびっくりした。
小僧でもガキでもなく、院瀬見が「傑」と呼んだ。
執事モードの「傑様」でもない。
「……わかった。」
「だが無茶をするな。見つけるだけでいい。下手に手を出せば危険だからな。」
傑は院瀬見の言葉に頷いた。
少なくとも今、院瀬見は傑を「傑」として見ている。
それが傑には嬉しかった。
「……判断を誤るなよ。」
「誤ると死ぬんだろ、知ってる。」
そして二人は、それぞれの仕事に向け意識を集中した。
もう、倒す相手がいなくなったからだ。
「う~ん。次は信桜に勝てるかな?俺?」
ふとそう思ったが、信桜が今の自分と同じぐらいゾーンに入ったら、勝ち目はないなと冷静に理解した。
だとしたら、院瀬見に勝つのはまだまだ先になるだろう。
そう言えば、院瀬見はどうしたのだろう?
自分の戦いに集中していて忘れていたが、三階に上がったきり音沙汰がない。
物音がしないという事は、交戦はしていないのだろう。
そう思った。
次の瞬間、物凄い轟音を立て、背後の天井が一部崩壊した。
床が抜けたらしく、瓦礫が降り注ぐ。
「?!」
傑は驚いて動けなかった。
何が起きたのか理解できず、瞬時の判断が遅れた。
「後ろだ!!小僧!!」
「!!」
瓦礫の中からそう声が聞こえた時には遅かった。
驚いて一瞬集中が途切れた傑に無数の糸が襲いかかった。
「クッ!!」
しまった、と思った時にはその「何か」に全身囚われ動きを封じられてしまった。
それはどんどん傑に纏わりつき、絞め上げていく。
「……ギ……ギギギギギ……ッ。」
背後から何かがゆっくり近づいてくる。
それは傑が院瀬見の退路として守ってきた階段を降りてくる。
歯軋りのような耳障りな音。
強い憎しみと怒りを黒く塗り潰したような闇が、時間をかけて三階から這い降りてくる。
それが近づけば近づくだけ傑を羽交い締めにする糸が増え、その闇の中に埋もれていく。
「傑様!!」
院瀬見の声が聞こえたが姿は見えない。
何故なら傑は完全に「何か」の髪の中に埋もれてしまっていたからだ。
銃声が聞こえる。
院瀬見が「何か」と交戦しているのだ。
だが傑の感覚が捉える院瀬見の動きがおかしい。
いつもの院瀬見ではない。
あ、そうか。
俺がコイツに捕まってるからだ……。
傑はそう、理解した。
これが他の戦人なら、院瀬見は躊躇も容赦もしなかっただろう。
けれど捕らえられたのが「傑」だった。
この戦の「大将」であり、五百雀の跡取り。
その傑を守る事を院瀬見は約束させられている。
ギリギリと全身を絞め上げられながら傑は理解した。
院瀬見が戦うには、自分がここから抜け出さなければならないと。
真っ黒で粘着質の悪鬼の髪に囚われた状態で、傑は振り回されていた。
おそらく傑を盾として悪鬼は使っているのだ。
だから院瀬見が思うように動けずにいる。
傑は冷静に状況を考えた。
悪鬼の髪に囚われ締め上げられてはいるが、意識は保てている。
酷く痛むし苦しいには苦しいが、こんな状況だというのに思考はまだできる。
それは傑が着ている服が全て、女郎蜘蛛の椿の糸で作られているからだ。
そして悪鬼がどれだけ責め上げても傑が堕ちずにいるのは、陣羽織として贈られたブレザーに鳳凰である凪の羽根が織り込まれているからだ。
こりゃ確かに、サバゲー装備で来てたら10分で死んだなぁと傑は思った。
とはいえ、傑が悪鬼の髪に囚われ身動きできず、その上、盾として使われる事で院瀬見が思うように戦えずにいる事には変わらない。
変なところで気を使うよな、院瀬見。
いつもは俺が骨折したって気にもしないで「指導」してくるのに……。
躊躇したら、判断を間違えたら死ぬ。
そう教えこんだのは院瀬見だというのに。
そんな院瀬見の人間臭さが少し嬉しかった。
皆、院瀬見を「修羅」だと、人間ではない何かのように扱っている。
でも傑は知っている。
院瀬見ほど人間臭い矛盾を抱えた人間はいない。
傑にとって、わからないのはむしろ両親や祖母だ。
五百雀という名を背負っているから仕方のない事だとは思うが、傑はたまに能面と向き合っている気がしてしまう。
その点、院瀬見には嘘がない。
馬鹿にするでも「修行」と称していたぶるにしても、院瀬見は本気だ。
本気で傑と向き合ってくれる。
今、自分がすべき事。
それはこの囚われの状態を自分で抜け出す事。
院瀬見がなんでこんな間抜けな戦い方で耐えているのか?
それは傑を人質に取られているからじゃない。
院瀬見は待っているのだ。
傑が自力でこの状況から抜け出してくるのを。
「……早くしねぇと……。じゃなきゃ後で、院瀬見に何されるかわかんねぇ……。」
傑はそれを考え、ブルッと身を震わせた。
確かにこの悪鬼は傑より強いのだろう。
だからと言って、おとなしく捕らえられている訳にはいかない。
そんな事をしたら、師である院瀬見に今度こそ本当に殺される。
しかも、殺してくれと懇願したくなるようなやり方で……。
腕も足も動かせないが、指は動く。
指から少しずつ動く範囲を広め、束縛が強まる前に一気に行くしかない。
「……頼むぞ、凪、椿。」
傑は覚悟を決めた。
判断を誤るな。
何をすべきかの優先順位を付け間違うな。
傑は動く指先に神経を集中させた。
面倒だ。
院瀬見はそう思った。
悪鬼ははじめの警告の際、傑が院瀬見の弱点だと見抜いていた。
だから傑を捕らえ、盾にした。
本当に面倒だ。
そう思いながらも、院瀬見は判断に迷っていた。
このまま力で押し切る方法を取れば簡単だ。
今まではそうしてきた。
何故なら院瀬見はいつだって独りだったから。
確かに人質を取られたり、チームに組み入れられた事もある。
だがその時だって迷った事などない。
人質は死ななければ良いのだ。
救う為に多少の怪我に対して文句を言われる筋合いはない。
チームの人間もそうだ。
チームに組まれているのなら、その者は戦人だ。
それなりに腹を括っていて貰わなければ仕事にならない。
だから何故、傑に対して躊躇が生まれるのかわからなかった。
幼い頃からついていたから情があるのか?
いや、戦人として育てる為についていたのだ。
死ななければ良いのだ。
それぐらいの覚悟、弟子として持っていてもらわなければ話にならない。
五百雀家にその守りを約束したから?
だからそれも死ななければ良い。
向こうも五百雀。
死なない限り、人質になって怪我を負ったなどと言う事になれば、咎められるのは院瀬見ではなく傑だろう。
なら何故、躊躇する?
死ななければ良いのだ。
自分はそれを十分、わかっている。
「………………。死ななければ、か……。」
死という言葉。
それはいつも院瀬見に纏わり付く。
院瀬見は生涯、その呪縛から逃れられないだろう。
それを受け入れたなら、楽になれるのだろうか?
彼らはそれを受け入れ、楽になれたのだろうか?
ふと、そんな事を思った。
「……っ!!」
突然、爆音とともに悪鬼の髪の塊が燃え上がった。
それを見て、ニヤッと笑う。
「……遅いぞ、小僧。」
「はぁ?!こっちが死ぬ気で抜け出してきたのに、それ?!」
「自慢の髪が燃えている……。」
「あ!ぎゃあぁぁぁ!!」
燃え上がる塊から転がり出てきた弟子の頭を、院瀬見は面倒そうに手で火消しした。
そして焦げた髪に大袈裟に嘆き悲しむ傑に呆れる。
「ああぁぁぁ……変な髪型になる……。」
「だから流行りなどに流されて伸ばすなと言っているんだ。信桜を見てみろ。流行りなどに惑わされたりしない。」
「……いや、信桜はあれが素だから。」
くだらない会話。
その中で院瀬見は自分を取り戻した。
大丈夫。
傑は馬鹿だが、ちゃんと成長もしている。
「……お前の仕事はなんだ?小僧?」
「院瀬見の戦いの邪魔にならないようにする事です……。」
「わかっていればいい。」
そう言って院瀬見は悪鬼と向き合う。
悪鬼は髪を燃やされ、その火消しをしながら嘆き悲しむように奇声をあげている。
「ォ……オオオォォォゴォォ……ッ!!」
余計な事をしてくれたせいで、嫌な事を思い出した。
その落とし前はつけてもらおう。
院瀬見は無感情に悪鬼を見つめた。
目の前には巨大なキメラの様な女がいる。
ムカデや羽虫と混ざったその姿は、昔の人間が見れば異形の神に見えたかもしれない。
だがこれは人に造られたもの。
人の創りし偽りの神だ。
何より「神」ではない。
「呪」だ。
人の傲りと傲慢さが生み出した憎悪だ。
何を憎んでいるかもわからなくなるほど濃縮された怒りだ。
「……なぁ、これ、本体じゃないんだよな?」
「そうだ。本体を守る為に造られた「呪」だ。」
その姿に傑が圧倒されている。
そしてそこから、今回の目的である「本体」の重みを理解した。
これが守る「呪」が目覚めた時、この地は穢れる。
そしてそれは広がっていく。
町外れとはいえこんな都心部でそれが目覚めたら、この国の経済ないし様々な面で混沌が生まれ悪化する。
それを止めるのが「五百雀」だ。
その為にはまず、目の前の「呪」を片付けなければならない。
「……こいつは私が引きつける。仕事を続行しろ、傑。」
「!!」
傑はびっくりした。
小僧でもガキでもなく、院瀬見が「傑」と呼んだ。
執事モードの「傑様」でもない。
「……わかった。」
「だが無茶をするな。見つけるだけでいい。下手に手を出せば危険だからな。」
傑は院瀬見の言葉に頷いた。
少なくとも今、院瀬見は傑を「傑」として見ている。
それが傑には嬉しかった。
「……判断を誤るなよ。」
「誤ると死ぬんだろ、知ってる。」
そして二人は、それぞれの仕事に向け意識を集中した。
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