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静かなる出陣
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院瀬見は無言で装備を選んでいく。そして選んだものを黙って傑の前に並べた。傑もブレザーを脱ぎ、各ホルスターをつけると黙々とそれを装備していく。傑のホルスターは、いつの間にか椿の糸で強化されていた。 同じように自分の武器を選び終えた院瀬見がジャケットを脱ぐ。そして傑と信桜に目を向けた。
「……一服しても?」
傑は意外な顔をしながら頷いた。信桜の後ろで、椿があからさまに嫌そうに顔を顰める。それを信桜がなだめた。
「程々に頼みます。煙は椿と蜘蛛たちが嫌がるんで。」
「だが向こうも蟲だろ?」
「……大方はその様です。」
「好きだよなぁ、アイツら。蠱毒的な邪神作るのが……。」
ジャケットから煙草を取り出して無造作に口に咥えた院瀬見は、そう言いながら火をつけた。ぱっと広がる、独特の香り。必要のなくなったジャケットはトランクに投げ込まれる。院瀬見はそれを深く吸い込み、無言のまま長く吐き出した。
傑はそれを妙な気分で眺めていた。院瀬見がかなり重度の喫煙者な事は知っていたが、傑の前で吸った事がなかったのだ。幼い頃から一度として傑は見た事がなかった。匂いさえ纏わせていた事はない。だから目の前のそれが、院瀬見なのか何なのか傑はよくわからなくなっていた。
紫煙を吐きながら、おもむろに髪を掻き上げる院瀬見。親よりよく知っている筈なのに、傑の全く知らない院瀬見がそこにいた。 ぼんやりする傑に気づき、院瀬見が流し目のような目で一瞥する。何だか妙にドギマギしてしまった。
「……何だ?」
「いや……吸ってんの、初めて見たし……。」
「お子様には早いからな。」
「子供扱いすんな!!」
そう言われ、思わずキイキイ言い返すと、後ろで信桜が吹き出し笑いを噛み殺していた。それをキッと睨むと、今度は傑が椿に睨み返される。怖い……。 思いもよらないところからの牽制に傑がビビっている横で、咥え煙草の院瀬見はさっさと装備を整える。ベストは身につけたままホルスターを装着し、置いてあったペットボトルの水を数口飲んだ。 それって口の中のニコチンとかまで、すっかり胃に流し込んでるよなぁ~と傑は変な生き物を見るように院瀬見を見る。 傑のそんな視線など気にもせず、院瀬見はおもむろに半分ほど吸った煙草を飲んでいたペットボトルの水に突っ込んだ。
「あ~!!オマッ?!何やってんだよ?!」
まさかそんな消し方をするとは思わず、傑は大声を出す。それを冷めた目で見つめながら、院瀬見は煙草を突っ込んだペットボトルをガシャガシャ振り始めた。
え??何してんの??このジジイ……?!
院瀬見のトチ狂った行動の意味がわからず、茫然とする傑。しかし院瀬見は気に求めず、無言のままペットボトルの蓋を開けると中身を傑の足元にぶっかけた。
「ギャーッ?!何すんだ?!耄碌ジジイ!!」
あり得ない事が起こりパニックになる傑は、慌ててその刻み煙草まみれの液体を振り払う。けれどそんな事をしてどうにかなる訳でもなく、茶色く濁った水がじんわりと靴と靴下に染み込んだ。 院瀬見は騒ぐ傑を無視し、残っている液体を同じように自分の足にも掛けた。
やべぇ、このジジイ、狂ってる……。
傑は常軌を逸した院瀬見の行動にドン引いた。それを堪え切れないとばかりに信桜が笑う。
「クックックッ……。院瀬見さん、古い傭兵上がりみたいな事しないで下さいよ。蟲除けなら最新の物がありますよ?」
「……は??虫除け?!」
「最新が通用しないのがアイツラだろ。」
「だからって……クックックッ……いや、失礼しました。」
傑は話が見えずぽかんとする。ただ、虫除けと言われて少し状況は理解した。院瀬見も信桜も、今回の敵の性質の多くは「蟲」だと見立てている。蟲の性質を持っているものは、椿の眷属のように、小さな蟲を使ってくる事がある。戦闘に気を取られているうちに、足をそれに噛まれて動けなくなる危険性があるのだ。
「……だからって、これはなくないか??」
「一作様はいつもやられていたぞ?」
「じいちゃんが?!」
「まぁ、一作様にあやかったゲン担ぎだ。諦めろ。」
どうやら院瀬見のこれは、傑の祖父から伝えられたものらしい。確かにニコチンには殺虫成分としての側面があると何かで読んだが……だからって……。傑はビシャビシャ濡れた足元を言葉なく見つめる。
「……靴下だけ変えてもいいか?」
「死にたいなら止めないぞ。」
冷たく言い捨てる院瀬見。傑ははぁ、とため息をついて諦めた。
そして目の前の院瀬見を見る。
いつものスーツではなく、ワイシャツにベスト姿。そこにホルスターを装着し武装、腕まくりしている。 まるでどこかのマ○ィアの重役みたいだ。 手にはいつの間にか革手袋を装着し、常にピシッと撫で付けられている髪は、いい感じに乱れてる。
……誰??これ??
頭の中に宇宙が見えた。傑はぽかんと口を開けて、院瀬見だと思われるその男を見つめる。 院瀬見の方は全く気にする事なく、傑の装備を整え、チェックしホルスターの緩みなどがないか確認すると、仕上げとばかりに脱いでいたブレザーを手渡した。
「……あ、ありがとう??」
誰なのかよくわからなくなった院瀬見から、よくわからないままそれを受け取り、傑は袖を通す。それは本物の制服のブレザーよりも軽く、そして見えない守護に守られていた。
「傑様、右足を出して下さい。」
「??」
そう言われ、不思議に思いながら傑は右足を一歩前に出す。院瀬見はトランクから何か取り出し、それを見せた。
「あ!五発しか撃てないヤツ!」
それは足首に隠し持つ小型の拳銃だった。専用のホルスターには同じく小型のナイフもついている。
「これの使用用途はわかってるな?」
「どうしようもないピンチになるまで、絶対に使ったらいけない。」
「左様。だが、一つだけ教えてない事がある。」
「え??」
「六発目が撃てる。」
「ウソ?!」
「打つ方法は……こう……わかったな?」
「わかったけど……。」
それを確認し傑は首を傾げる。
何故、六発目はすぐ撃てない? 何故、実践に出る直前まで教えなかった?
不思議がる傑に院瀬見は問う。
「……最後の授業だ。どうして六発目が撃てるのに、こんなひと手間がいると思う?」
「最後の一発を温存する為??」
「何の為に?」
何の為……。
傑は考える。今日まで知らされていなかった六発目。この銃を使用しなければならない状況下。その中で、最後の一発を温存しなければならない訳を……。
「………………っ?!」
その意味に行き着き、傑はハッとして院瀬見を見た。院瀬見は傑の顔から、その意味を理解したと察し頷いた。
「……自分の判断でその六発目は使え。無駄に苦しむ必要はない。」
そう言うと院瀬見は傑の前に跪き、その足首にホルスターを装着した。そして立ち上がり、意味を知って動揺する傑の眼を覗いた。
「とはいえ、今回は使う必要はないでしょう。無理だと判断した場合、椿がすぐに貴方を確保し撤退しますから。」
「………………。お前は……?」
「傑様。戦とは大将の首が取られたら負けです。大将が無事なら次があります。貴方も五百雀なら、常にその覚悟を持って下さい。」
傑は何も返せなかった。院瀬見は当たり前の事のようにそう言って、執事の顔でいつも通り傑の身なりを整える。
「……これでよし。」
「院瀬見……。」
「うむ。悪くないですよ、傑様。馬子にも衣装とはよく言ったものです。」
しれっとそう言われ、傑は一瞬、固まった。そして言われた意味がじわじわと頭の中に浸透していき、沸騰するように腹を立てた。
「院瀬見ぃ~!!テメェー!!」
「ははは。いつまでも元気のいいお子ですなぁ、傑様は。」
「子供扱いすんなぁ~!!クソジジイ~ッ!!」
キレる傑。 歯牙にもかけない院瀬見。
それを信桜は見守り、小さく笑う。椿はそんな信桜の顔を不思議そうに覗き込んだ。
「ん?大丈夫。上手くいくさ。」
何しろこのコンビだ。 上手くいかないパターンが思い浮かばない。
「後はどんなバディに化けるか否か……。」
はじめ任務の内容を聞いた時は反対した。でも、今は納得している。それにどこか楽しみにしている自分がいた。
「……そういえば椿。風祭はちゃんと息ができるようにしてあるか?」
ふと思い出し、信桜は椿に尋ねる。すると椿は「んん??」と首を傾げた。
「……マジか……。」
さっと腕時計を確認する。これは急いで見に行った方が良さそうだ。
「まぁ……。すねこすり達がついてるから、俺が行くまでは持つだろ。」
どの道この先、信桜は結界の核になっている風祭の守衛がメインとなる。傑と院瀬見へのフォローアシストは椿がメインに行う。 向こうもこの結界が普通でない事はすでに感じている。だから傑と院瀬見が攻め入っても、その戦闘と並行して結界破壊の為の行動もしてくる事は間違いない。
「……お、噂をすれば。」
風祭についてるすねこすりの一匹が必死な顔をして信桜を呼びに来た。それをサクッと椿が捕まえて食べ始める。
「……旨いか?」
少し苦笑いしながらも信桜は椿を責めない。何しろ、廃工場を囲むほどの大きな結界を作ったのだ。いくら移動中に、風祭の出す龍脈の気で丸々と肥ったすねこすりをたらふく食べたとは言っても、すでに腹ぺこだろう。
「食ってもいいが、全部は駄目だぞ?一匹も残ってないと風祭が泣くからな。」
食べ終えた椿は綺麗な顔で信桜に微笑むと頷いた。そしてヒョイッとその足の一つで信桜を抱き抱える。
「坊っちゃん!院瀬見さん!こっちはそろそろ移動します!!ご武運を!!」
そう声をかけた。 傑は信桜に緊張した顔で振り返り、手を振った。院瀬見は軽く手を上るだけでそれに応える。
「……何か、椿に信桜が抱えられて移動してるのって……シュールだ……。」
糸を伝って移動する椿に、強面の信桜がぷらんと掴まれて移動していくのを傑は複雑な表情で見つめた。と言うか、移動と言う事は信桜は信桜で何かやる事があるのだなと少し呑気に傑は思っていた。 そんな傑の背中を、院瀬見がバシッと叩く。
「痛ッ?!」
「ボンヤリするな。小僧。」
「……あ~、うん。」
「何だ?出陣の雄叫びでも上げるか?」
「バッ?!上げねぇよ!!」
「なら行くぞ。」
「あ、うん……??」
武器を背負い、勝手に歩き出す院瀬見の背中を、傑もすぐに追いかける。追いかけるのだが……。
「……俺が大将だよな?!」
「そうだな。」
「何か違くないか?!」
「そうか?大将は一番後ろでどっしり構えてるもんだぞ。」
「……確かに??」
納得できるようなできないような……。上手く手のひらで転がされているような……。
頭に疑問符を並べながら、傑は院瀬見の後を追いかけた。
「……一服しても?」
傑は意外な顔をしながら頷いた。信桜の後ろで、椿があからさまに嫌そうに顔を顰める。それを信桜がなだめた。
「程々に頼みます。煙は椿と蜘蛛たちが嫌がるんで。」
「だが向こうも蟲だろ?」
「……大方はその様です。」
「好きだよなぁ、アイツら。蠱毒的な邪神作るのが……。」
ジャケットから煙草を取り出して無造作に口に咥えた院瀬見は、そう言いながら火をつけた。ぱっと広がる、独特の香り。必要のなくなったジャケットはトランクに投げ込まれる。院瀬見はそれを深く吸い込み、無言のまま長く吐き出した。
傑はそれを妙な気分で眺めていた。院瀬見がかなり重度の喫煙者な事は知っていたが、傑の前で吸った事がなかったのだ。幼い頃から一度として傑は見た事がなかった。匂いさえ纏わせていた事はない。だから目の前のそれが、院瀬見なのか何なのか傑はよくわからなくなっていた。
紫煙を吐きながら、おもむろに髪を掻き上げる院瀬見。親よりよく知っている筈なのに、傑の全く知らない院瀬見がそこにいた。 ぼんやりする傑に気づき、院瀬見が流し目のような目で一瞥する。何だか妙にドギマギしてしまった。
「……何だ?」
「いや……吸ってんの、初めて見たし……。」
「お子様には早いからな。」
「子供扱いすんな!!」
そう言われ、思わずキイキイ言い返すと、後ろで信桜が吹き出し笑いを噛み殺していた。それをキッと睨むと、今度は傑が椿に睨み返される。怖い……。 思いもよらないところからの牽制に傑がビビっている横で、咥え煙草の院瀬見はさっさと装備を整える。ベストは身につけたままホルスターを装着し、置いてあったペットボトルの水を数口飲んだ。 それって口の中のニコチンとかまで、すっかり胃に流し込んでるよなぁ~と傑は変な生き物を見るように院瀬見を見る。 傑のそんな視線など気にもせず、院瀬見はおもむろに半分ほど吸った煙草を飲んでいたペットボトルの水に突っ込んだ。
「あ~!!オマッ?!何やってんだよ?!」
まさかそんな消し方をするとは思わず、傑は大声を出す。それを冷めた目で見つめながら、院瀬見は煙草を突っ込んだペットボトルをガシャガシャ振り始めた。
え??何してんの??このジジイ……?!
院瀬見のトチ狂った行動の意味がわからず、茫然とする傑。しかし院瀬見は気に求めず、無言のままペットボトルの蓋を開けると中身を傑の足元にぶっかけた。
「ギャーッ?!何すんだ?!耄碌ジジイ!!」
あり得ない事が起こりパニックになる傑は、慌ててその刻み煙草まみれの液体を振り払う。けれどそんな事をしてどうにかなる訳でもなく、茶色く濁った水がじんわりと靴と靴下に染み込んだ。 院瀬見は騒ぐ傑を無視し、残っている液体を同じように自分の足にも掛けた。
やべぇ、このジジイ、狂ってる……。
傑は常軌を逸した院瀬見の行動にドン引いた。それを堪え切れないとばかりに信桜が笑う。
「クックックッ……。院瀬見さん、古い傭兵上がりみたいな事しないで下さいよ。蟲除けなら最新の物がありますよ?」
「……は??虫除け?!」
「最新が通用しないのがアイツラだろ。」
「だからって……クックックッ……いや、失礼しました。」
傑は話が見えずぽかんとする。ただ、虫除けと言われて少し状況は理解した。院瀬見も信桜も、今回の敵の性質の多くは「蟲」だと見立てている。蟲の性質を持っているものは、椿の眷属のように、小さな蟲を使ってくる事がある。戦闘に気を取られているうちに、足をそれに噛まれて動けなくなる危険性があるのだ。
「……だからって、これはなくないか??」
「一作様はいつもやられていたぞ?」
「じいちゃんが?!」
「まぁ、一作様にあやかったゲン担ぎだ。諦めろ。」
どうやら院瀬見のこれは、傑の祖父から伝えられたものらしい。確かにニコチンには殺虫成分としての側面があると何かで読んだが……だからって……。傑はビシャビシャ濡れた足元を言葉なく見つめる。
「……靴下だけ変えてもいいか?」
「死にたいなら止めないぞ。」
冷たく言い捨てる院瀬見。傑ははぁ、とため息をついて諦めた。
そして目の前の院瀬見を見る。
いつものスーツではなく、ワイシャツにベスト姿。そこにホルスターを装着し武装、腕まくりしている。 まるでどこかのマ○ィアの重役みたいだ。 手にはいつの間にか革手袋を装着し、常にピシッと撫で付けられている髪は、いい感じに乱れてる。
……誰??これ??
頭の中に宇宙が見えた。傑はぽかんと口を開けて、院瀬見だと思われるその男を見つめる。 院瀬見の方は全く気にする事なく、傑の装備を整え、チェックしホルスターの緩みなどがないか確認すると、仕上げとばかりに脱いでいたブレザーを手渡した。
「……あ、ありがとう??」
誰なのかよくわからなくなった院瀬見から、よくわからないままそれを受け取り、傑は袖を通す。それは本物の制服のブレザーよりも軽く、そして見えない守護に守られていた。
「傑様、右足を出して下さい。」
「??」
そう言われ、不思議に思いながら傑は右足を一歩前に出す。院瀬見はトランクから何か取り出し、それを見せた。
「あ!五発しか撃てないヤツ!」
それは足首に隠し持つ小型の拳銃だった。専用のホルスターには同じく小型のナイフもついている。
「これの使用用途はわかってるな?」
「どうしようもないピンチになるまで、絶対に使ったらいけない。」
「左様。だが、一つだけ教えてない事がある。」
「え??」
「六発目が撃てる。」
「ウソ?!」
「打つ方法は……こう……わかったな?」
「わかったけど……。」
それを確認し傑は首を傾げる。
何故、六発目はすぐ撃てない? 何故、実践に出る直前まで教えなかった?
不思議がる傑に院瀬見は問う。
「……最後の授業だ。どうして六発目が撃てるのに、こんなひと手間がいると思う?」
「最後の一発を温存する為??」
「何の為に?」
何の為……。
傑は考える。今日まで知らされていなかった六発目。この銃を使用しなければならない状況下。その中で、最後の一発を温存しなければならない訳を……。
「………………っ?!」
その意味に行き着き、傑はハッとして院瀬見を見た。院瀬見は傑の顔から、その意味を理解したと察し頷いた。
「……自分の判断でその六発目は使え。無駄に苦しむ必要はない。」
そう言うと院瀬見は傑の前に跪き、その足首にホルスターを装着した。そして立ち上がり、意味を知って動揺する傑の眼を覗いた。
「とはいえ、今回は使う必要はないでしょう。無理だと判断した場合、椿がすぐに貴方を確保し撤退しますから。」
「………………。お前は……?」
「傑様。戦とは大将の首が取られたら負けです。大将が無事なら次があります。貴方も五百雀なら、常にその覚悟を持って下さい。」
傑は何も返せなかった。院瀬見は当たり前の事のようにそう言って、執事の顔でいつも通り傑の身なりを整える。
「……これでよし。」
「院瀬見……。」
「うむ。悪くないですよ、傑様。馬子にも衣装とはよく言ったものです。」
しれっとそう言われ、傑は一瞬、固まった。そして言われた意味がじわじわと頭の中に浸透していき、沸騰するように腹を立てた。
「院瀬見ぃ~!!テメェー!!」
「ははは。いつまでも元気のいいお子ですなぁ、傑様は。」
「子供扱いすんなぁ~!!クソジジイ~ッ!!」
キレる傑。 歯牙にもかけない院瀬見。
それを信桜は見守り、小さく笑う。椿はそんな信桜の顔を不思議そうに覗き込んだ。
「ん?大丈夫。上手くいくさ。」
何しろこのコンビだ。 上手くいかないパターンが思い浮かばない。
「後はどんなバディに化けるか否か……。」
はじめ任務の内容を聞いた時は反対した。でも、今は納得している。それにどこか楽しみにしている自分がいた。
「……そういえば椿。風祭はちゃんと息ができるようにしてあるか?」
ふと思い出し、信桜は椿に尋ねる。すると椿は「んん??」と首を傾げた。
「……マジか……。」
さっと腕時計を確認する。これは急いで見に行った方が良さそうだ。
「まぁ……。すねこすり達がついてるから、俺が行くまでは持つだろ。」
どの道この先、信桜は結界の核になっている風祭の守衛がメインとなる。傑と院瀬見へのフォローアシストは椿がメインに行う。 向こうもこの結界が普通でない事はすでに感じている。だから傑と院瀬見が攻め入っても、その戦闘と並行して結界破壊の為の行動もしてくる事は間違いない。
「……お、噂をすれば。」
風祭についてるすねこすりの一匹が必死な顔をして信桜を呼びに来た。それをサクッと椿が捕まえて食べ始める。
「……旨いか?」
少し苦笑いしながらも信桜は椿を責めない。何しろ、廃工場を囲むほどの大きな結界を作ったのだ。いくら移動中に、風祭の出す龍脈の気で丸々と肥ったすねこすりをたらふく食べたとは言っても、すでに腹ぺこだろう。
「食ってもいいが、全部は駄目だぞ?一匹も残ってないと風祭が泣くからな。」
食べ終えた椿は綺麗な顔で信桜に微笑むと頷いた。そしてヒョイッとその足の一つで信桜を抱き抱える。
「坊っちゃん!院瀬見さん!こっちはそろそろ移動します!!ご武運を!!」
そう声をかけた。 傑は信桜に緊張した顔で振り返り、手を振った。院瀬見は軽く手を上るだけでそれに応える。
「……何か、椿に信桜が抱えられて移動してるのって……シュールだ……。」
糸を伝って移動する椿に、強面の信桜がぷらんと掴まれて移動していくのを傑は複雑な表情で見つめた。と言うか、移動と言う事は信桜は信桜で何かやる事があるのだなと少し呑気に傑は思っていた。 そんな傑の背中を、院瀬見がバシッと叩く。
「痛ッ?!」
「ボンヤリするな。小僧。」
「……あ~、うん。」
「何だ?出陣の雄叫びでも上げるか?」
「バッ?!上げねぇよ!!」
「なら行くぞ。」
「あ、うん……??」
武器を背負い、勝手に歩き出す院瀬見の背中を、傑もすぐに追いかける。追いかけるのだが……。
「……俺が大将だよな?!」
「そうだな。」
「何か違くないか?!」
「そうか?大将は一番後ろでどっしり構えてるもんだぞ。」
「……確かに??」
納得できるようなできないような……。上手く手のひらで転がされているような……。
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