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第二話 知り合いの暫定サイコキラー
露呈する本性
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「わ、私じゃない……私は殺してないッ!」
榊は震える声で絶叫した。
夜遅い時間の上に人通りの乏しい路地なので、声を聞き付けて誰かが来るようなことはない。
ただし、近隣の住民が騒ぎに気付くのも時間の問題だろう。
宮間は特に慌てた様子もなく肩をすくめた。
少し残念そうな表情をしている。
「そう言われましてもねぇ……とりあえず詳しい話は署で聞きますから、大人しく付いてきてもらえますか?」
「嫌っ、私は関係ない!」
榊は聞く耳を持たずに喚く。
明らかに平常心を失っていた。
様々なショックによって精神を乱されたのかもしれない。
宮間は困ったように頭を掻いた。
「ふむ、先に花木さんに応援を送ってもらった方がいいかな」
事前の連絡により、花木警部補は宮間が犯人と接触することを知っていた。
宮間が事件に関する報道内容や折田の着信履歴を把握していたのも、すべて花木が教えた情報である。
すぐに榊を逮捕できるよう、応援部隊も待機させていた。
「榊さーん、ここで粘られても事態は好転しませんよ? 無罪を主張されるのでしたら、署の取り調べの際にしてただけると有難いです。私も早く帰りたいもんで」
「ふざけないでよ! あんた、何を言っているの!?」
激昂する榊は、射殺さんばかりに宮間を睨む。
不自然に散大した瞳孔。
見る者を怯ませるような気迫だ。
それを軽く流しながら、宮間は電子タバコを吹かす。
「いや、怒ってしまうのも分かるんですよ? こんな揚げ足を取るような形で殺人犯だとバレるのは悔しいですもんね」
「だから私は――」
「犯人ではない、と? 無駄な問答はやめにしませんか。丹念に調査すればいずれ分かることです。さっさと認めた方が互いのためですよ」
宮間は目を細めて淡々と述べる。
表情は穏やかだが、どこか冷めた双眸をしていた。
彼の本質が垣間見えている。
しかし、それはすぐに腑抜けた苦笑の裏に隠れ、いつも通りの宮間に戻った。
彼は両手を広げて榊に提案する。
「もしここで自供していただければ、特別に事情聴取の時のかつ丼を奢っちゃいましょう! 私のポケットマネーですよ? 結構美味しいのでおすすめです」
「ずっと、ふざけた態度なんですね……」
「それだけが取り柄ですからー。もしかして気に障りました?」
「――えぇ。とっても」
榊は突如カッターナイフを取り出した。
カチカチと音を立てて刃が現れる。
明らかな安物だが、人間を殺傷するには十分な威力を秘めているだろう。
榊は理性の箍が外れた表情をしていた。
極度に追い詰められたのが原因だ。
元より平気で働いていたのも、薄氷の上に築かれたなけなしの理性だったらしい。
凶器を構える榊を前に、宮間は感心したようにカッターナイフを眺める。
「ほほー、そんなものを携帯してたんですかー。危ないですねぇ。悪あがきですか?」
「あんたを黙らせて逃げれば済む話よ。目撃者はいなくなる」
「そいつはまた物騒な。罪が重くなりますよ?」
「もう、どうでも、いい……!」
カッターナイフを掲げた榊は、殺気を纏って宮間に斬りかかった。
榊は震える声で絶叫した。
夜遅い時間の上に人通りの乏しい路地なので、声を聞き付けて誰かが来るようなことはない。
ただし、近隣の住民が騒ぎに気付くのも時間の問題だろう。
宮間は特に慌てた様子もなく肩をすくめた。
少し残念そうな表情をしている。
「そう言われましてもねぇ……とりあえず詳しい話は署で聞きますから、大人しく付いてきてもらえますか?」
「嫌っ、私は関係ない!」
榊は聞く耳を持たずに喚く。
明らかに平常心を失っていた。
様々なショックによって精神を乱されたのかもしれない。
宮間は困ったように頭を掻いた。
「ふむ、先に花木さんに応援を送ってもらった方がいいかな」
事前の連絡により、花木警部補は宮間が犯人と接触することを知っていた。
宮間が事件に関する報道内容や折田の着信履歴を把握していたのも、すべて花木が教えた情報である。
すぐに榊を逮捕できるよう、応援部隊も待機させていた。
「榊さーん、ここで粘られても事態は好転しませんよ? 無罪を主張されるのでしたら、署の取り調べの際にしてただけると有難いです。私も早く帰りたいもんで」
「ふざけないでよ! あんた、何を言っているの!?」
激昂する榊は、射殺さんばかりに宮間を睨む。
不自然に散大した瞳孔。
見る者を怯ませるような気迫だ。
それを軽く流しながら、宮間は電子タバコを吹かす。
「いや、怒ってしまうのも分かるんですよ? こんな揚げ足を取るような形で殺人犯だとバレるのは悔しいですもんね」
「だから私は――」
「犯人ではない、と? 無駄な問答はやめにしませんか。丹念に調査すればいずれ分かることです。さっさと認めた方が互いのためですよ」
宮間は目を細めて淡々と述べる。
表情は穏やかだが、どこか冷めた双眸をしていた。
彼の本質が垣間見えている。
しかし、それはすぐに腑抜けた苦笑の裏に隠れ、いつも通りの宮間に戻った。
彼は両手を広げて榊に提案する。
「もしここで自供していただければ、特別に事情聴取の時のかつ丼を奢っちゃいましょう! 私のポケットマネーですよ? 結構美味しいのでおすすめです」
「ずっと、ふざけた態度なんですね……」
「それだけが取り柄ですからー。もしかして気に障りました?」
「――えぇ。とっても」
榊は突如カッターナイフを取り出した。
カチカチと音を立てて刃が現れる。
明らかな安物だが、人間を殺傷するには十分な威力を秘めているだろう。
榊は理性の箍が外れた表情をしていた。
極度に追い詰められたのが原因だ。
元より平気で働いていたのも、薄氷の上に築かれたなけなしの理性だったらしい。
凶器を構える榊を前に、宮間は感心したようにカッターナイフを眺める。
「ほほー、そんなものを携帯してたんですかー。危ないですねぇ。悪あがきですか?」
「あんたを黙らせて逃げれば済む話よ。目撃者はいなくなる」
「そいつはまた物騒な。罪が重くなりますよ?」
「もう、どうでも、いい……!」
カッターナイフを掲げた榊は、殺気を纏って宮間に斬りかかった。
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