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第二話 知り合いの暫定サイコキラー
いざ到着
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遠くに事件現場が見えてきた頃、宮間は唐突に切り出した。
「もう無理。腹が減って動けないよ。現場より先に昼食でも行かない?」
宮間は情けない声を上げて立ち止まる。
彼は淀んだ目でスマートフォンを取り出すと、近辺の飲食店を探し始めた。
本当に事件よりも昼食を優先するつもりのようだ。
「…………」
黒羽は腰に手を当てて宮間を見下ろす。
見る者を凍えさせるような冷たい眼差し。
しかし、宮間はスマートフォンの操作に夢中なので気付かない。
仕方なく黒羽は説得を試みる。
「子供のようなことを言わないでください。置いていきますよ」
「別に俺はいいよ。置いてかれたら独りでメシを食いに行くだけだし」
宮間は開き直った様子で答える。
そこに刑事としての責任感や誇りは一切感じられなかった。
今度は七篠が宮間の服を引っ張る。
「刑事サン、お仕事サボっちゃ駄目です。黒羽サンも困っています」
「うっわ、まこっちゃんも真面目系だったかー。ちょっとショックだなぁ」
宮間はぐらぐらと揺さぶられながらも、その場を動こうとしない。
それどころか、音声検索で店を探しだす始末だった。
真剣に昼食の店を検討しているのが窺える。
目に余る宮間の言動に業を煮やしたのか、ついに黒羽がスタンガンを取り出した。
先ほど宮間に没収されていたものとはまた別物だ。
彼女は顔の前でスタンガンを起動させる。
バチバチと激しい音を伴って電流が迸った。
直撃すればただでは済むまい。
「宮間さん。私に手荒な真似をさせないでください」
「ストップストップ。黒羽ちゃん、それは洒落にならないからね? 暴力は何も生み出さないよ?」
「そんなことありません。これで勤勉な宮間さんを生み出せたら儲けものですから」
鉄仮面に確かな威圧感を纏いながら、黒羽は宮間ににじり寄る。
結局、根負けした宮間は事件現場へ直行することになった。
彼は絶望で瞳を暗くしてぼやく。
「早起きのせいで朝飯を食べてないんだよ……もう死んじゃいそうだ」
「それくらいでは死にません。腑抜けた顔をしていないので、もっと気持ちを引き締めて下さい」
「黒羽ちゃんって割と辛辣だよね」
会話しているうちに三人は現場に到着する。
そこは有名な和食チェーン店だった。
全国展開しており、こういった情報に疎い宮間でもキャッチコピーやCMソングを覚えているほどである。
いつもなら客の行列ができているはずだが、現在は行き交う警官たちで溢れ返っていた。
店の前には何台ものパトカーが停まり、周囲は黄色い立入禁止のテープで区切られている。
宮間たちは野次馬の間を抜けて、さっさとテープをくぐった。
警察手帳を見せると、若い警官が敬礼をする。
宮間と黒羽もそれぞれ敬礼を返した。
七篠もなぜか嬉しそうに彼らの真似をする。
店内を進んでいくと、見覚えのある男と対面した。
宮間と黒羽の上司の花木警部補である。
花木は片手を挙げて挨拶しようとして、怪訝な顔になった。
「おう、お前たち……その人は誰だ?」
宮間は七篠の肩に手を置いて紹介する。
「この人はまこっちゃん――七篠まことですね。例の事件現場によく居合わせる便利屋です」
「七篠です。刑事サンにはよくお世話になっています。よろしくです」
紹介に合わせてぺこりとお辞儀をする七篠。
一方、花木は緊張の面持ちで絶句する。
「七篠って、まさか……!」
夕塚署内では、七篠の殺人鬼疑惑は何度も持ち上がっていたのだ。
知らぬ者はほとんどいない。
そんな危険人物がいきなり事件現場に現れたのだから、驚愕するのも仕方のない話である。
硬直する花木を見て、黒羽は彼に同情せざるを得なかった。
「もう無理。腹が減って動けないよ。現場より先に昼食でも行かない?」
宮間は情けない声を上げて立ち止まる。
彼は淀んだ目でスマートフォンを取り出すと、近辺の飲食店を探し始めた。
本当に事件よりも昼食を優先するつもりのようだ。
「…………」
黒羽は腰に手を当てて宮間を見下ろす。
見る者を凍えさせるような冷たい眼差し。
しかし、宮間はスマートフォンの操作に夢中なので気付かない。
仕方なく黒羽は説得を試みる。
「子供のようなことを言わないでください。置いていきますよ」
「別に俺はいいよ。置いてかれたら独りでメシを食いに行くだけだし」
宮間は開き直った様子で答える。
そこに刑事としての責任感や誇りは一切感じられなかった。
今度は七篠が宮間の服を引っ張る。
「刑事サン、お仕事サボっちゃ駄目です。黒羽サンも困っています」
「うっわ、まこっちゃんも真面目系だったかー。ちょっとショックだなぁ」
宮間はぐらぐらと揺さぶられながらも、その場を動こうとしない。
それどころか、音声検索で店を探しだす始末だった。
真剣に昼食の店を検討しているのが窺える。
目に余る宮間の言動に業を煮やしたのか、ついに黒羽がスタンガンを取り出した。
先ほど宮間に没収されていたものとはまた別物だ。
彼女は顔の前でスタンガンを起動させる。
バチバチと激しい音を伴って電流が迸った。
直撃すればただでは済むまい。
「宮間さん。私に手荒な真似をさせないでください」
「ストップストップ。黒羽ちゃん、それは洒落にならないからね? 暴力は何も生み出さないよ?」
「そんなことありません。これで勤勉な宮間さんを生み出せたら儲けものですから」
鉄仮面に確かな威圧感を纏いながら、黒羽は宮間ににじり寄る。
結局、根負けした宮間は事件現場へ直行することになった。
彼は絶望で瞳を暗くしてぼやく。
「早起きのせいで朝飯を食べてないんだよ……もう死んじゃいそうだ」
「それくらいでは死にません。腑抜けた顔をしていないので、もっと気持ちを引き締めて下さい」
「黒羽ちゃんって割と辛辣だよね」
会話しているうちに三人は現場に到着する。
そこは有名な和食チェーン店だった。
全国展開しており、こういった情報に疎い宮間でもキャッチコピーやCMソングを覚えているほどである。
いつもなら客の行列ができているはずだが、現在は行き交う警官たちで溢れ返っていた。
店の前には何台ものパトカーが停まり、周囲は黄色い立入禁止のテープで区切られている。
宮間たちは野次馬の間を抜けて、さっさとテープをくぐった。
警察手帳を見せると、若い警官が敬礼をする。
宮間と黒羽もそれぞれ敬礼を返した。
七篠もなぜか嬉しそうに彼らの真似をする。
店内を進んでいくと、見覚えのある男と対面した。
宮間と黒羽の上司の花木警部補である。
花木は片手を挙げて挨拶しようとして、怪訝な顔になった。
「おう、お前たち……その人は誰だ?」
宮間は七篠の肩に手を置いて紹介する。
「この人はまこっちゃん――七篠まことですね。例の事件現場によく居合わせる便利屋です」
「七篠です。刑事サンにはよくお世話になっています。よろしくです」
紹介に合わせてぺこりとお辞儀をする七篠。
一方、花木は緊張の面持ちで絶句する。
「七篠って、まさか……!」
夕塚署内では、七篠の殺人鬼疑惑は何度も持ち上がっていたのだ。
知らぬ者はほとんどいない。
そんな危険人物がいきなり事件現場に現れたのだから、驚愕するのも仕方のない話である。
硬直する花木を見て、黒羽は彼に同情せざるを得なかった。
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