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第一話 死神刑事との邂逅

死神刑事を連れ出す

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 夕塚署より電車を乗り継いで一時間ほどのベッドタウン。

 宮間は駅前の高層マンションの前にいた。
 メールに記された住所が正しければ、黒羽の自宅である。

「こいつはまた、大層な場所に住んでるもんだ。俺のボロアパートとは大違いだね」

 宮間は感心した様子でマンションを見上げた後、スマートフォンで時刻を確認する。

 周囲はすっかり夕闇に染まり、夜の帳を下ろそうとしていた。
 マンション前を部活帰りの学生が自転車で通り過ぎる。

 若者の談笑が遠ざかるのを聞きながら、宮間はマンションへと入った。
 ちょうど外出するところだった住人とすれ違い、オートロック式の正面ドアを通り抜ける。
 彼はそのままエレベーターに乗って十三階まで移動した。

 メールの住所を見ながら部屋を探し、ほどなくして黒羽の部屋を発見する。
 宮間はニヤニヤと意地の悪い顔でインターホンを鳴らした。

「はてさて。死神刑事さんはいるかなぁ、っと」

 数秒後、機器のスピーカーから音声が発せられる。

『……はい』

 黒羽の声だ。
 宮間はインターホン付属のレンズに向かって笑顔で手を振る。

「黒羽ちゃん? 暇だから遊びに来たよー。元気?」

『なぜ私の自宅の住所を知っているのですか。ストーカーですか。警察に通報しますよ』

「通報って言われても、俺らがその警察だからねぇ。まあ、長居はしないから安心してほしいな」

 宮間は苦笑気味に肩をすくめる。
 黒羽の辛辣な言葉も、平然と受け流していた。
 彼は気の抜けた顔でインターホンを見る。

「実は花木さんに黒羽ちゃんの様子を見て来いって言われたんだよね。大方、君を心配してのことなんだろうけど、大丈夫そうだったって伝えとくよ」

『そのためだけに訪ねてくださったのですか』

「これも仕事の一環らしくてさ。正直な話、面倒臭くて断ろうかと思ったよね」

『……本当に正直な話ですね』

 インターホン越しに聞こえる黒羽の声は、呆れていた。
 ここまで包み隠さず打ち明けられたら、もはや怒るに怒れない。
 一周回って尊敬の念すら覚えてしまう。

 深いため息を吐く黒羽に、宮間は少し意外そうな顔をする。
 黒羽が感情らしい感情を見せたのは、これが初めてかもしれない。
 音声だけのやり取りとは言え、ちょっとした発見である。

 宮間はややオーバーな動作でおどけてみせた。

「黒羽ちゃんって人間の感情を持ち合わせていたんだねぇ。びっくりしたよ」

『私も人間ですから。当然のことです』

「実はロボットって設定にしない? その方がしっくり来るし」

『暴言も甚だしいですね』

 僅かな心の動きは一瞬で、黒羽はすぐに元の冷徹ぶりを取り戻した。
 そこから宮間が冗談を投げても、味気ない返答だけが来る。

 ただ、黒羽と話すという目的は達せられた。
 今日の仕事は終わりだ。
 あとは明日にでも花木に報告すればいい。

 そう判断した宮間は、欠伸をしながら告げる。

「まあ、黒羽ちゃんが元気っぽいのが分かったから、俺はそろそろ帰るよ。あっ、ちなみにここの近所で美味しい飯屋さんとかある?」

『夕食ですか』

 頷いた宮間はスマートフォンを起動した。
 メモを取るつもりらしい。

「うん。腹もいい具合に減ってるし、ちょっと寄りたいなぁと思って」

『…………』

 その途端、黒羽は黙り込んでしまった。
 即座に切り返す彼女にしては珍しいことである。

 宮間が首を傾げていると、やがてインターホンから聞き取り辛いほどの小声がした。

『……お店まで案内します。準備をするので十分ほどお待ちください』

「え、ちょっと待っ――」

 宮間が何かを言う間もなく、インターホンの通話は切れた。
 耳を澄ますと、扉の向こうから物音がする。
 黒羽が外出の支度を始めたようだ。

 ご丁寧にも宮間を店まで連れて行ってくれるらしい。
 律儀で生真面目な黒羽らしい気遣いである。
 ここでわざわざ拒むのは野暮というものだろう。

 宮間は壁にもたれかかって、楽しそうに電子タバコをくわえる。

「せっかくの機会だし、お言葉に甘えましょうかね」

 宙をうねる細い煙を眺めながら、宮間は薄く笑うのであった。
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