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第二話 迷い猫密室事件
助手への課題
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事務所に戻ってきた朽梨と杏子は、間を置かず応接室に赴いた。
二人は向かい合うように座って話し合いを開始する。
「密室殺人の情報は概ね揃った。これでおそらく解決できる」
「えっ、本当ですか。そんなにヒントがなかった印象がしますが……」
杏子は少し驚く。
現状ではまるで見当も付かず、これからさらに調査をしていくものだと思っていたのだ。
朽梨は足を組んでソファにふんぞり返る。
「ヒントが多かろうが少なかろうが、今の手札で事件を解決するのが探偵だ」
「かっこいいですねー。事前に考えていたセリフとかですか?」
「お前は俺を馬鹿にするのがよほど好きらしいな」
「馬鹿になんかしていませんよ! ただの小粋なジョークです」
なぜか誇らしそうに鼻を膨らませる杏子。
反省の色は全く見られない。
朽梨は諦めて話を続けることにした。
「事件概要の確認をする。現場は市内の中華料理店。被害者は浦中聡。死因は腹部を刺されたことによる出血性ショック。ここまではいいな?」
「もちろんですとも! ちゃんとメモしてますからね!」
杏子は自信満々な様子で敬礼をした。
無邪気な笑みを湛えている。
ため息を吐く朽梨だが、何も言わずに話を続けた。
「……容疑者は三名。バイトリーダーであり第一発見者の中野。調査に非協力的だったバイトの山堀。同じくバイトでそれぞれの人間関係を把握していた東野だ」
「その中に犯人がいるんですか? 他にいるという可能性もありそうですが」
杏子は首をひねる。
予想していた疑問らしく、朽梨はすぐさま答えた。
「外部犯の可能性もゼロではないが、おそらくはこの三人のうち誰かだ。事件当時、店内に設置してあった防犯カメラが都合よく故障中だった。それを知っているのは内部の人間に限られる。さらにバイトの人間ならば、営業前の店を訪れても警戒されづらい。聞けば警察連中もこの三人まで絞っているそうだ」
「そういえば刑事さんと対決してましたね」
「忘れるな。重大事項だ」
朽梨はそこで手帳を閉じて杏子に告げる。
「もののついでだ。お前も探偵の助手をやっているのだから推理をしてみろ」
「えっ、私がですか?」
杏子は目をぱちくりと瞬かせる。
完全に虚を突く言葉であった。
朽梨は鷹揚に頷く。
「お前がここまでの情報からどのような推理を行うか興味がある。どのみち明日には犯人に会いに行くのだから、余興のつもりで気楽に考えればいい」
「ちょっとしたパワハラですよね、これ」
「やめておくか?」
「やりますよ! 犯人が判明するパートに入ったら、私の出番が減るでしょうからね! ここでキレッキレの推理を披露してアピールしていきます!」
謎の動機を主張しながら、杏子は拳をぐっと握る。
彼女はやる気満々で考え始めるが、数分と持たずに顔を曇らせた。
いくら頭を振り絞ろうとも、何の答えも浮かばないのだ。
朽梨は腕組みをして黙って傍観している。
口を挟む気はないようだ。
やがて杏子は遠慮がちに訊く。
「あのー、何かヒントとかって貰えますかね? このままだと、私の力だけでは真相が分からないなぁと……」
「――期限は明日の朝までだ。それまでゆっくりと考えておくといい」
そう言って朽梨は応接室から出て行く。
実に颯爽とした動きだった。
助手を甘やかす気は更々ないらしい。
取り残された杏子は、不満そうに頬を膨らませた。
二人は向かい合うように座って話し合いを開始する。
「密室殺人の情報は概ね揃った。これでおそらく解決できる」
「えっ、本当ですか。そんなにヒントがなかった印象がしますが……」
杏子は少し驚く。
現状ではまるで見当も付かず、これからさらに調査をしていくものだと思っていたのだ。
朽梨は足を組んでソファにふんぞり返る。
「ヒントが多かろうが少なかろうが、今の手札で事件を解決するのが探偵だ」
「かっこいいですねー。事前に考えていたセリフとかですか?」
「お前は俺を馬鹿にするのがよほど好きらしいな」
「馬鹿になんかしていませんよ! ただの小粋なジョークです」
なぜか誇らしそうに鼻を膨らませる杏子。
反省の色は全く見られない。
朽梨は諦めて話を続けることにした。
「事件概要の確認をする。現場は市内の中華料理店。被害者は浦中聡。死因は腹部を刺されたことによる出血性ショック。ここまではいいな?」
「もちろんですとも! ちゃんとメモしてますからね!」
杏子は自信満々な様子で敬礼をした。
無邪気な笑みを湛えている。
ため息を吐く朽梨だが、何も言わずに話を続けた。
「……容疑者は三名。バイトリーダーであり第一発見者の中野。調査に非協力的だったバイトの山堀。同じくバイトでそれぞれの人間関係を把握していた東野だ」
「その中に犯人がいるんですか? 他にいるという可能性もありそうですが」
杏子は首をひねる。
予想していた疑問らしく、朽梨はすぐさま答えた。
「外部犯の可能性もゼロではないが、おそらくはこの三人のうち誰かだ。事件当時、店内に設置してあった防犯カメラが都合よく故障中だった。それを知っているのは内部の人間に限られる。さらにバイトの人間ならば、営業前の店を訪れても警戒されづらい。聞けば警察連中もこの三人まで絞っているそうだ」
「そういえば刑事さんと対決してましたね」
「忘れるな。重大事項だ」
朽梨はそこで手帳を閉じて杏子に告げる。
「もののついでだ。お前も探偵の助手をやっているのだから推理をしてみろ」
「えっ、私がですか?」
杏子は目をぱちくりと瞬かせる。
完全に虚を突く言葉であった。
朽梨は鷹揚に頷く。
「お前がここまでの情報からどのような推理を行うか興味がある。どのみち明日には犯人に会いに行くのだから、余興のつもりで気楽に考えればいい」
「ちょっとしたパワハラですよね、これ」
「やめておくか?」
「やりますよ! 犯人が判明するパートに入ったら、私の出番が減るでしょうからね! ここでキレッキレの推理を披露してアピールしていきます!」
謎の動機を主張しながら、杏子は拳をぐっと握る。
彼女はやる気満々で考え始めるが、数分と持たずに顔を曇らせた。
いくら頭を振り絞ろうとも、何の答えも浮かばないのだ。
朽梨は腕組みをして黙って傍観している。
口を挟む気はないようだ。
やがて杏子は遠慮がちに訊く。
「あのー、何かヒントとかって貰えますかね? このままだと、私の力だけでは真相が分からないなぁと……」
「――期限は明日の朝までだ。それまでゆっくりと考えておくといい」
そう言って朽梨は応接室から出て行く。
実に颯爽とした動きだった。
助手を甘やかす気は更々ないらしい。
取り残された杏子は、不満そうに頬を膨らませた。
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