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第二話 迷い猫密室事件
仮面探偵、絡まれる
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迷い猫探しを再開した朽梨と杏子だったが、途中で人混みに出くわした。
人混みは中華料理店の前にできている。
警察が押し留めているのを見るに、何らかの事件が起きたようだ。
杏子は人混みを指差しながら朽梨に訊く。
「先生、どうやら事件みたいですよ! これは名推理を披露するチャンスですね!」
「するわけないだろう。部外者が口出しするものじゃない」
「えー……探偵って、こういう場面に遭遇したら謎解きをしがちじゃないですか?」
「フィクションと混同するな。それに今は依頼の遂行の方が遥かに大事だ」
乗り気な杏子とは対照的に、朽梨はやや不機嫌そうに首を振る。
野次馬の騒々しさに苛立っているらしい。
スニーカーの爪先がアスファルトを神経質に蹴っている。
杏子は口を尖らせてつぶやく。
「先生の見た目が一番フィクションですよね」
「――何か言ったか?」
「言ってませーん」
結局、人混みから離れるように二人は踵を返す。
無関係な事件に邪魔されて時間をロスするのは惜しい。
この付近の聞き込みは後日でもいいのだ。
捜索予定のエリアはかなり広いため、先に別の場所を調べることにしたのである。
「ああいうところに颯爽と登場して、瞬く間に事件を解決しちゃったら事務所の宣伝になりそうですよね」
「そんな面倒なことをして堪るか」
気を取り直して猫探しを行おうとした朽梨と杏子だが、背後からの大声に呼び止められた。
「ややっ! やややっ! そのユニークな後ろ姿は!」
「ん?」
杏子が怪訝に思った次の瞬間、二人の前にサングラスをかけた男が回り込んで来た。
男は三十代前半くらいでハンサムな顔立ちをしている。
二枚目俳優という言葉が似合いそうだ。
服装はネイビーカラーの高級スリーピーススーツに赤いマフラーの組み合わせで、周囲から完全に浮いていた。
杏子が引き気味に困惑する。
事件現場から離れようとしたら、いきなり見知らぬ派手な男が現れたのだから当然だろう。
なぜか自信に満ち溢れたスマイルも不信感を煽る原因かもしれない。
そんな杏子をよそに、男は得意気にオールバックの黒髪を撫でた。
「やはり! 仮面探偵君じゃあないか。ふむ、隣のお嬢さんは依頼者かな? こんな不審者の助けを乞うとは、少し焦りすぎだと思うよ」
「こいつは俺の助手だ。分かったらさっさと消えろ」
朽梨は険悪な雰囲気で男に詰め寄る。
目の前の男が相当嫌いらしい。
顔が見えない分、態度が如実に主張していた。
噛み付かんばかりの朽梨に対し、男は涼しげな表情を保っている。
彼は興味津々といった様子で杏子に歩み寄った。
「こんなにキュートな助手を雇ったとは知らなかった。お嬢さん、よかったら名前を教えてくれないかな?」
「ふ、藤波杏子です。えっと、あなたは……?」
おずおずと杏子が尋ねると、男は額に手を当てて天を仰ぐ。
「おっと、紹介が遅れたね。僕は神田林努。刑事をやっているんだ。よろしくね」
サングラスを少しずらした刑事――神田林は微笑を湛えてウインクをした。
人混みは中華料理店の前にできている。
警察が押し留めているのを見るに、何らかの事件が起きたようだ。
杏子は人混みを指差しながら朽梨に訊く。
「先生、どうやら事件みたいですよ! これは名推理を披露するチャンスですね!」
「するわけないだろう。部外者が口出しするものじゃない」
「えー……探偵って、こういう場面に遭遇したら謎解きをしがちじゃないですか?」
「フィクションと混同するな。それに今は依頼の遂行の方が遥かに大事だ」
乗り気な杏子とは対照的に、朽梨はやや不機嫌そうに首を振る。
野次馬の騒々しさに苛立っているらしい。
スニーカーの爪先がアスファルトを神経質に蹴っている。
杏子は口を尖らせてつぶやく。
「先生の見た目が一番フィクションですよね」
「――何か言ったか?」
「言ってませーん」
結局、人混みから離れるように二人は踵を返す。
無関係な事件に邪魔されて時間をロスするのは惜しい。
この付近の聞き込みは後日でもいいのだ。
捜索予定のエリアはかなり広いため、先に別の場所を調べることにしたのである。
「ああいうところに颯爽と登場して、瞬く間に事件を解決しちゃったら事務所の宣伝になりそうですよね」
「そんな面倒なことをして堪るか」
気を取り直して猫探しを行おうとした朽梨と杏子だが、背後からの大声に呼び止められた。
「ややっ! やややっ! そのユニークな後ろ姿は!」
「ん?」
杏子が怪訝に思った次の瞬間、二人の前にサングラスをかけた男が回り込んで来た。
男は三十代前半くらいでハンサムな顔立ちをしている。
二枚目俳優という言葉が似合いそうだ。
服装はネイビーカラーの高級スリーピーススーツに赤いマフラーの組み合わせで、周囲から完全に浮いていた。
杏子が引き気味に困惑する。
事件現場から離れようとしたら、いきなり見知らぬ派手な男が現れたのだから当然だろう。
なぜか自信に満ち溢れたスマイルも不信感を煽る原因かもしれない。
そんな杏子をよそに、男は得意気にオールバックの黒髪を撫でた。
「やはり! 仮面探偵君じゃあないか。ふむ、隣のお嬢さんは依頼者かな? こんな不審者の助けを乞うとは、少し焦りすぎだと思うよ」
「こいつは俺の助手だ。分かったらさっさと消えろ」
朽梨は険悪な雰囲気で男に詰め寄る。
目の前の男が相当嫌いらしい。
顔が見えない分、態度が如実に主張していた。
噛み付かんばかりの朽梨に対し、男は涼しげな表情を保っている。
彼は興味津々といった様子で杏子に歩み寄った。
「こんなにキュートな助手を雇ったとは知らなかった。お嬢さん、よかったら名前を教えてくれないかな?」
「ふ、藤波杏子です。えっと、あなたは……?」
おずおずと杏子が尋ねると、男は額に手を当てて天を仰ぐ。
「おっと、紹介が遅れたね。僕は神田林努。刑事をやっているんだ。よろしくね」
サングラスを少しずらした刑事――神田林は微笑を湛えてウインクをした。
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