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第二話 迷い猫密室事件
猫とじゃれる
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昼下がりの閑散とした公園。
ブランコに座る杏子は、猫じゃらしで数匹の野良猫と戯れていた。
「おー、よしよし。君たちは可愛いねぇ」
杏子はでれでれとした笑みを見せている。
上機嫌なのは言うまでもない。
猫派な彼女にとって至福の一時である。
一方、朽梨は気だるそうにベンチに腰かけていた。
「よくそんなに楽しめるな。毛が付くぞ」
「先生にはこの愛くるしさが理解できないんですか……ははぁ、さては犬派ですね?」
「別に犬も好きじゃない」
迷い猫探しの依頼は難航していた。
有力な目撃証言はなく、どこへ行ったか見当もつかない。
依頼者宅の周辺一帯にチラシを貼り回ったので、現状はそこから情報を得られるのを待つのみである。
「まだ捜査を始めて一日目だ。依頼遂行は早いに越したことはないが、まだ焦る段階ではない」
「ですね。特徴的ですし、きっとすぐに見つかりますよ」
杏子はポケットから写真を取り出す。
そこには、白い長毛の猫が映っていた。
首には洒落た藍色のスカーフを巻いている。
「こう、育ちの良さが出てますよね。もっふもふしたくなります」
うっとりとした表情をする杏子。
その間も、手は休まず野良猫たちと遊んでいた。
楽しげな助手とは対照的に、朽梨は吐き捨てるように愚痴る。
「猫探しなんてうんざりだ。まったく、面倒極まりない」
「文句を言う割にはきっちりやるんですね」
「依頼者が常連のお得意様だからだ。あの婦人は気前が良い。今回の報酬もなかなかの額だった」
「常連のマダムですか。ちょっと見てみたかったです」
野良猫を華麗に翻弄しながら、杏子はのほほんと言う。
シフトの都合上、彼女は此度の依頼を受ける際に不在だった。
なので依頼者とは顔を合わせていないのである。
「それにしても先生の事務所に常連さんっていたんですね。意外です」
「意外とは何だ。探偵は信頼を築き上げる職業だ。まともにやっていれば常連くらいできる」
「先生のビジュアルはまともじゃないですよ。特に頭部とか」
「喧嘩を売っているのか」
朽梨は不機嫌そうに首を曲げた。
頭に被った赤い三角コーンが傾くも、ギリギリで素顔は見えない。
杏子がしゃがんで覗き込もうとすると、朽梨は素早く三角コーンの位置を直した。
「ちぇっ、減るもんじゃないんですし、別にいいじゃないですか」
「顔出しは事務所NGだ」
「いやいや、先生は探偵事務所の所長ですよね? ルールを決めちゃう側ですよね?」
「ああ。だから俺がNGと言ったらNGだ」
ベンチから立った朽梨は杏子の猫じゃらしを奪い取り、公園の隅に投げ捨てる。
野良猫たちはそれを追って走り去ってしまった。
呆然とする杏子をよそに、朽梨はさっさと公園を出て行く。
「休憩は終わりだ。猫探しに戻るぞ」
「そんな殺生なあああああぁぁっ!!」
青々とした空に、杏子の嘆きが響き渡った。
ブランコに座る杏子は、猫じゃらしで数匹の野良猫と戯れていた。
「おー、よしよし。君たちは可愛いねぇ」
杏子はでれでれとした笑みを見せている。
上機嫌なのは言うまでもない。
猫派な彼女にとって至福の一時である。
一方、朽梨は気だるそうにベンチに腰かけていた。
「よくそんなに楽しめるな。毛が付くぞ」
「先生にはこの愛くるしさが理解できないんですか……ははぁ、さては犬派ですね?」
「別に犬も好きじゃない」
迷い猫探しの依頼は難航していた。
有力な目撃証言はなく、どこへ行ったか見当もつかない。
依頼者宅の周辺一帯にチラシを貼り回ったので、現状はそこから情報を得られるのを待つのみである。
「まだ捜査を始めて一日目だ。依頼遂行は早いに越したことはないが、まだ焦る段階ではない」
「ですね。特徴的ですし、きっとすぐに見つかりますよ」
杏子はポケットから写真を取り出す。
そこには、白い長毛の猫が映っていた。
首には洒落た藍色のスカーフを巻いている。
「こう、育ちの良さが出てますよね。もっふもふしたくなります」
うっとりとした表情をする杏子。
その間も、手は休まず野良猫たちと遊んでいた。
楽しげな助手とは対照的に、朽梨は吐き捨てるように愚痴る。
「猫探しなんてうんざりだ。まったく、面倒極まりない」
「文句を言う割にはきっちりやるんですね」
「依頼者が常連のお得意様だからだ。あの婦人は気前が良い。今回の報酬もなかなかの額だった」
「常連のマダムですか。ちょっと見てみたかったです」
野良猫を華麗に翻弄しながら、杏子はのほほんと言う。
シフトの都合上、彼女は此度の依頼を受ける際に不在だった。
なので依頼者とは顔を合わせていないのである。
「それにしても先生の事務所に常連さんっていたんですね。意外です」
「意外とは何だ。探偵は信頼を築き上げる職業だ。まともにやっていれば常連くらいできる」
「先生のビジュアルはまともじゃないですよ。特に頭部とか」
「喧嘩を売っているのか」
朽梨は不機嫌そうに首を曲げた。
頭に被った赤い三角コーンが傾くも、ギリギリで素顔は見えない。
杏子がしゃがんで覗き込もうとすると、朽梨は素早く三角コーンの位置を直した。
「ちぇっ、減るもんじゃないんですし、別にいいじゃないですか」
「顔出しは事務所NGだ」
「いやいや、先生は探偵事務所の所長ですよね? ルールを決めちゃう側ですよね?」
「ああ。だから俺がNGと言ったらNGだ」
ベンチから立った朽梨は杏子の猫じゃらしを奪い取り、公園の隅に投げ捨てる。
野良猫たちはそれを追って走り去ってしまった。
呆然とする杏子をよそに、朽梨はさっさと公園を出て行く。
「休憩は終わりだ。猫探しに戻るぞ」
「そんな殺生なあああああぁぁっ!!」
青々とした空に、杏子の嘆きが響き渡った。
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