サラリーマンと異世界 ～秩序が崩壊した世界を気ままに生き抜く～

第106話 狂った正常な世界

　災害級のモンスターを殺したとしても、日常に大きな変化が生じることはない。
　翌日以降も四人の共同生活が続いた。
　場所がファミレスからマンションに移っただけである。
　事前に担当分けしたエリアを散策して自由に狩りを行うのだ。

　朝九時。
　ゆっくりと食事を済ませてから、廃墟へと向かいつつある住宅街を徘徊する。
　もう見慣れた地域だ。
　特筆して気になるようなことはない。
　強いて言えば、以前よりも静かになったことくらいだろうか。

　それでも神経を尖らせていると、様々な生物の気配を感じ取ることができた。
　こんな場所でもまだ生存者がいるらしい。
　向こうも気付いているようだが、姿を見せることはない。
　殺人鬼か何かだと勘違いされているのか。

　積極的に救助する気もないのでスルーしておく。
　別に殺したとしても大した変容が起こるわけでもない。
　いつまでも臆病に隠れることしかできない者は、放っておいても勝手に死ぬ。
　わざわざ助けてやる義理もなかった。

　この世界は人間の停滞を許さない。
　常に進んで生き延びることができる者だけが死から逃れられる。
　臆して立ち止まれば、あっけなく犠牲になる。
　住宅街で細々と暮らす生存者は、いつか食糧が尽きて動けなくなるだろう。
　その死体をまた別のモンスターが餌にするのだ。

　気楽に散策していると、小さな公園で十匹ほどのゴブリンを発見した。
　彼らは焚火を囲んで干物を炙っている。
　そばには酒瓶も用意されていた。

　ここで飲み会でもするつもりだったのだろうか。
　楽しそうだったゴブリン達はこちらを見てぎょっとしたかと思うと、一目散に逃げ出してしまった。
　僅か十秒ほどで公園は無人になってしまう。

　別に攻撃する気はなかったのだが。
　日常的な癖で殺気を出していたのかもしれない。
　或いは生物としての格差が、ゴブリンに本能的な恐怖を与えたのか。

　度重なる変容により、自分が常人から逸脱し始めているのには気付いている。
　精神的にはまだ一般人だが、少なくとも物理的には超人の域に達していた。
　ゴブリン等のモンスターは、その辺りの戦力差に敏感なのだろう。
　だから弱いのに生き延びることができているのだ。

　とりあえずもったいないので、焚火の干物を齧って食べた。
　少し焦げていたが、香ばしくて美味しかった。
　酒瓶もリュックサックに詰めて持ち帰ることにした。
　他の三人と一緒に宴会でもしたら楽しめそうだ。