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第69話 殺人鬼の不死性

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 気が付くと生首はペースト状になっていた。
 血みどろの紙袋が破れて一体化している。
 再生の兆しはないので、変形したネイルハンマーを捨てた。

 その時、背後で凄まじい打撃音が連発した。
 見ればストレングスが道化王子を踏み付けている。
 重機のような勢いで足を上下させていた。
 肩と腹にそれぞれ鉈と斧が刺さっているも、彼女はまったく意に介していない様子だった。

 ストンピングの嵐に対し、道化王子は懸命に防御を試みている。
 ただし、無理をしているのは明らかだ。
 彼の努力をものともしない連打により、タキシードを着る身体が潰れて厚みが無くなっていく。

 そして一分後。
 数百発の猛攻を止めたストレングスは、床にへばり付いた道化王子の残骸を引き剥がした。
 それを勢いよく投げ飛ばす。
 血肉の絨毯となった道化王子は、窓を突き破って屋外に消えた。

 室内に静寂が訪れる。
 ストレングスは気持ちよさそうに伸びをして、血みどろのまま自販機に近寄った。
 彼女は蹴りで自販機を破壊すると、内部から缶ジュースを盗み始める。
 何をしているのか訊いたところ、ファミレスのドリンクバーに補充する分を調達しているらしい。
 彼女の中では既に戦いは終わったようだ。

 しかし、まだ安心すべきではない。
 殺人鬼は高度な能力を有する。
 モンスターよりも厄介な部分も多いほどだ。
 殺せたと思いきや、いきなり逆襲される恐れも考えられる。

 拳銃に弾を装填しつつ、紙袋姫の死体を注視する。
 首から上を失った身体はうつ伏せに倒れていた。
 明らかに死んでいるが、やはり油断は禁物である。
 外に投げ飛ばされた道化王子の死体も確認しなければならないだろう。

 拳銃を向けながら接近する。
 撃鉄を起こしていつでも撃てるようにした。

 あと一メートルのところで、死体が微かに震える。
 気のせいではない。
 指先が動いて、ゆっくりと床を掻いた。

 まだ生きている。
 それを確信した時には発砲していた。

 弾を食らう死体が上半身を起こす。
 さらに連射して胴体に穴を増やすが、紙袋姫は平然と立ち上がった。
 彼女に纏わり付いた蔦が不気味に蠢く。

 切断した首の断面から肉が盛り上がって成長し始めていた。
 その中に眼球が埋まり、こちらを凝視している。
 変容による再生能力だ。
 ワイヤーで切り落とした首の復元が始まっているのだった。
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