サラリーマンと異世界 ~秩序が崩壊した世界を気ままに生き抜く~

結城絡繰

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第50話 執着する者達

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 予定が決まったので、さっそく出発準備を始める。
 着替えて武器を整理した。
 軽トラックとの衝突でいくつか破損したが、銃火器が無事だったのは幸運だった。

 最近は持ち出していなかった猟銃を取り出して片手に持つ。
 猟銃は拳銃より強力で命中させやすい。
 弾は僅かだが、出し惜しみするのも違うだろう。
 変容で新たな能力を獲得したので、相対的に銃の強みが薄れたのもある。

 だから今後はどんどん使っていくことにした。
 弾が切れたらその時だ。
 機会があれば、また入手できることもあるだろう。

 各所に包丁を仕舞うのも忘れない。
 刃物は大抵のモンスターに通用する。
 刃こぼれして困ることはあまりなかった。
 切り裂くために使う場面は少ない。
 相手を刺せればそれでいい。

 基本的には遠距離には銃を使用し、近距離では包丁に切り替える。
 状況次第で特殊能力に頼るつもりだ。

 攻撃手段が増えたのは喜ばしい。
 ただし選択肢が多くなると、その分だけ迷いも生じやすくなる。
 殺し合いでは一瞬の間が命取りになるので、基本戦法は固定しておく。
 他の手段は奥の手のような認識でいいだろう。

 着替えながらテレビを観ていると、気になる番組を発見した。
 血みどろで荒れ果てたスタジオにて、一人の男性アナウンサーが原稿を読んでいる。

 その容姿が奇妙だった。
 薄汚れた麻袋を頭から被っており、素顔が窺えない。
 くり抜かれた二つの穴から目が見えていた。
 ぎらついた瞳は、何か異様な力が宿っているように感じられる。

 服装は赤黒いスーツだ。
 その色合いにはかなりムラがある。
 模様には見えないので、たぶん返り血だろう。

 麻袋にも似た色がへばり付いている上、原稿を持つ手も赤く汚れていた。
 テーブルの端には、画面から見切れるように糸ノコギリが映り込んでいる。
 刃にはもちろん血糊が付着している。

 この男は、二日ほど前からこの番組に出演し続けている。
 どの時間に確認しても大抵はニュースを伝えていた。
 不在の際は無人のスタジオが映されており、画面の外から断末魔と笑い声が聞こえてくる。
 きっと糸ノコギリで誰かを殺しているのだろう。

 この殺人アナウンサーはネットでも有名だった。
 ニュース番組の継続に執着しているそうで、邪魔する者や仕事を放棄する者を抹殺しているらしい。
 本人は田中佐藤と名乗っているが、ビッグマウスの通称で呼ばれている。
 肝心の報道内容が支離滅裂で、妄想に近い内容を話しているからだそうだ。

 改善の意思があるのか、たまにネットニュースを参考に話している時もあるという。
 昨今において貴重なテレビの一枠は、いつの間にか殺人鬼に乗っ取られていた。
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