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第16話 優雅な朝

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 帰宅してすぐに荷物を放り出した。
 血だらけで穴の開いた衣服を捨てると、シャワーを浴びてから就寝する。
 数分もせずに夢の世界へ落ちることができた。

 そして翌朝。
 頭のそばに置かれた時計を見ると午前八時だった。
 昨日は日付が変わる頃に寝たので、ちょうどいい睡眠時間である。
 身体の疲れも取れてさっぱりとした気分だった。

 世界が狂う前はいくら寝ても疲労が泥のようにこびり付いていた。
 短い時間で起きてしまうことが頻発していた。
 今の方が心身は健康であった。

 こうなってくると、普段はしないことに挑戦したくなる。
 さっそくパソコンでラジオ体操の映像を流して動きを真似てみた。
 リズムに合わせて身体を動かす。

 なんとなく身体能力が上がっている気がする。
 昨日、ゴブリンと警官を殺した影響だろうか。

 やはり殺害行為で力を吸収したらしい。
 オークの時ほど劇的ではないものの、変容したのは間違いなさそうだった。

 今回の変容で具体的に特殊な能力を得たのかは検証したい。
 ネットにも変容に関する様々な症例が挙げられていた。
 鵜呑みするのは危ういが、多少の参考にはなるはずだ。

 ほどよい運動で目が覚めたところで、ゆっくりと風呂に入った。
 湯上がりの後は冷えた牛乳を一気飲みしてから朝食を作り始める。

 今日はスクランブルエッグと目玉焼きに、少し焦げたベーコンとトーストの組み合わせだ。
 卵料理が二つなのは、そういう気分だったからである。

 いつまで冷蔵庫が使えるかも分からない。
 贅沢をしておくのも悪くないだろう。
 誰に迷惑をかけるわけでもないのだから。

 朝食を満喫しながらテレビのニュースを確認する。
 いくつかのチャンネルは、律儀にも世界の状況を伝えていた。

 狂った世界の殺し合いは激化し、人間同士の争いも起きているらしい。
 既に超人と化した者が暴走しているそうだ。
 モンスターを超えるペースで市民を虐殺しているのだという。

 一通り情勢をチェックしたのでテレビを消す。
 タンスの奥からくたびれたジャージを引っ張り出して着た。
 半年前、ランニングを日課にしようと志した際に張り切って購入したものだ。
 結局は四日目でやめてしまったが、ここに来て活躍の時が訪れたのだった。

 右手にゴブリンから奪ったナイフを握り、左手はリボルバー拳銃を保持する。
 リュックサックと猟銃を背負って、ポケットには警棒を忍ばせた。
 いずれの武器もすぐに使えるように意識する。

 これで準備は万端だ。
 半ば日常と化した狂気を楽しむため、軽い足取りで外に向かうのであった。
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