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8巻

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 1 地下の作業風景


 物に埋め尽くされた部屋。巨大な長机は山積みとなった書物によって占領され、そこかしこに置かれた武器や道具が床を隠している。
 お世辞にも整理整頓がなされているとは言いがたい。
 そんな部屋の片隅で、「偽神ぎしん権能けんのう」を継承し「不死の血統団けっとうだん」の団長となった俺、ミササギは一人の団員の報告に耳を傾けていた。

「状況は?」
「はいっ、帝国に忍び込ませた諜報部隊によると、我々のアジトに攻め込もうという作戦決行日に変更はないようです。ただ、妙な策をはかろうとしているとのことで、現在はそちらの解明を優先しております」
「調査を続けろ」

 俺の言葉を受けた団員は、返事すら忘れて逃げるように退室した。何をそこまで慌てる必要があるのだろう。もう少し冷静に行動してくれないと、こちらとしても安心して仕事を任せられない。
 そう思って頭を掻いて苦笑しつつ、渡された資料に目を走らせる。
 帝国軍の規模はおよそ四万。ただしこれは城や町の警備だけを担当している者も含めた数なので、実際に俺の討伐に参戦する人員はもっと少ない。だからと言って油断できるわけもなく、そこに各地の貴族の私兵や有志の冒険者が加わる。
 対して、不死の血統団の戦闘員は、あちこちから掻き集めたとしても七百を超えるかどうか。団員が所有する奴隷を数に入れたとしても、人数的な劣勢は崩せそうにない。
 読み終えた資料を机の端にどけ、ゆっくりと天井をあおぐ。

(馬鹿正直にぶつかれば間違いなく死ぬだろうな……)

 聖堂で俺が演説してから早五日。俺は迫る戦いに向けて準備を行っていた。
 勇者率いる帝国軍を退け、偽神の片割れである「偽神の意志」を排除する。
 俺は不死の血統団を使ってこれら二つを同時進行でこなさなくてはならない。はっきり言って、かなり無茶で困難な目標だ。
 まともな策を練ったところで無様ぶざまに失敗するオチが見える。
 だからこそ、俺は考えた。敵対者たちを確実に虐殺する方法を。
 外道げどうだろうが何だろうが勝てばそれで構わない。つまらないプライドに縛られて死ぬくらいなら、畜生ちくしょうに成り果ててでも生き残る道を俺は選ぶ。
 濃密に漂う死の気配すら楽しめるようにならなければ。
 鼻歌交じりに椅子から立ち上がり、薄笑いを浮かべる。

「よし、ちょっと様子を見に行こうか」

 壁のフックに掛けていたロングコートを羽織って部屋を後にする。
 生産系の能力を持つ団員と奴隷には、戦いに備えて必要な物を作製させていた。それらは細々こまごまとした各種薬品から始まり、大量殺戮さつりくを行うための戦術兵器まで多岐にわたる。寝る間も惜しんで作業に没頭する彼らは、ここ数日だけでいくつかの道具を開発していた。
 俺は今からその進行具合を確認しに行くのだ。そして、場合によっては個別で改善の指示を出し、手が空いた者には新たな命令を下す。ここでつまずけば後の全ての策が台無しとなるので、毎日のチェックには余念がないようにしていた。
 何ができているか楽しみにしながら、俺は作業部屋へと向かう。


 広々とした室内は喧噪けんそうに包まれ、人々が忙しそうに走り回る。あちこちで金属音が鳴り響き、部屋全体に熱気が漂っていた。
 そんな見ているだけで暑苦しい光景に、俺は少しだけ辟易へきえきする。
 ここでは主に兵器が開発されており、敵を一網打尽にする罠や広範囲を攻撃可能な武器、団員に支給される装備等が造られていた。
 汗水垂らして四苦八苦する彼らに、俺は密かに期待の眼差しを送る。

「ふむ、誰かと思ったらじゃないか」

 作業の邪魔をしないよう静かに見回りをしていると、背後から声を掛けられた。この落ち着いた声音こわねには聞き覚えがあり、現在トクメーという女性の姿をしている俺を少年呼ばわりするのは彼女しかいない。
 そこに立っていたのはジュリアさんだった。奇妙な縁で仲間に引き入れて早々、このような状況にまで巻き込んでしまっている。
 ちなみに現在、彼女には兵器開発を主導してもらっていた。研究者気質のジュリアさんは、過去にも独学で様々なモノを生み出している。幹部の大半を失った血統団にとって、こういった人材は貴重だ。改めて仲間に引き込めたことを幸運に思うよ。
 俺は軽く手を上げて応対する。

「どうもどうも。調子はどうですかね」
「おかげさまで上々だよ。やはり私には地下での生活が性に合っているらしい。それよりもこれを見てほしい。新しい武器が完成したのだよ」

 ジュリアさんは自信満々に胸を張りながら、俺に武器を手渡してくる。
 それは、白鞘に収められた一振りの脇差わきざしだった。柄を握ってゆっくりと抜刀する。銀色の刃は濡れているかのように淡くきらめき、わずかな抵抗すら見せずに鞘から姿を現した。
 魔力とは異なるエネルギーを感じる。どうやらただの武器ではないらしい。何かしらの細工が為されているのだろう。
 俺が疑問に思っているのを察したのか、ジュリアさんが誇らしげに解説してくれる。

「耐久性と切れ味の性能を底上げしてみたよ。さらに刀身に意思のない精霊を封じ込めた。大抵の魔法なら切断できる上、実体を持たない存在にも攻撃が当たる。そこらの魔法武器とは比べ物にならない活躍が期待できるはずだ」
「なるほどー。いいですね」

 正直、戦いで使うには十分すぎるスペックである。
 抜き身の脇差を白鞘に戻し、ジュリアさんに笑いかける。

「素晴らしいです。予想以上の出来栄えですよ。あぁ、よかったら試用に付き合ってもらえませんか?」

 せっかくなのでどの程度の切れ味なのか試してみたい。心優しいジュリアさんならきっと乗ってくるはずだ。
 そう思っていたのだが、ジュリアさんは神妙な面持ちで尋ねてきた。

「……試用ということは、それを私に振るうということかね?」
「もちろんですよ。何事も実践が大事ですから」

 戦いにおいて道具の選定は極めて重要な作業の一つである。それをおろそかにするのはご法度はっとというものだ。今更何を言っているのだろう。
 俺は脇差を腰に吊るして思案する。

「今日はどの場所が空いてたかなぁ……」
「おぉっと! 大事な用件を思い出してしまったよ! 少年には悪いが他の団員を当たってもらおうか。そうそう、アンネ嬢辺りなら大丈夫じゃあないかなっ。では、さらばだっ!」

 ジュリアさんは色々とまくし立てた末に、どこかへ走り去ってしまった。その颯爽さっそうとした動きは、戦闘時にもなかなか見せない俊敏さだった。まったく、ちょっとくらい手伝ってくれてもいいのに。
 仕方ない、他の人間に手伝ってもらうか。俺は先ほどからこちらをうかがっていた周囲の団員たちに視線を向ける。

「……なぁ」

 妙に気まずい沈黙。
 俺に発言を求められていると気付いた彼らは、一斉に各々の仕事に戻った。なんだか数秒前よりも作業の手つきが速いのは、俺の気のせいではないはずだ。
 よく分からないが、俺がここにいると緊張させてしまうのかもしれない。それならあんまり長居すると迷惑だな。
 そう考えた俺は肩をすくめ、ロングコートを揺らしながら作業部屋を出た。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「へぇ、本当によく斬れるね……」

 何度も頷きつつ、しげしげと脇差を観察する。想定以上の出来栄えに文句はなかった。これだけ有用なら、実戦でもその性能を遺憾いかんなく発揮できそうだ。
 鼻歌交じりに血のしたたる脇差を軽く振る。
 眼前には凄惨せいさんな光景が広がっていた。力無く倒れる団員たちは一人残らず事切れており、五体満足な者を探す方が難しい有様である。もっとも、彼らは不死なので、このまま放置しておけばいずれ復活するだろう。
 脇差の刃を布でぬぐってから鞘に戻す。

(ったく、団員たちがどれだけ強くなっているか見たかったのに……)

 腰に手を当てて大きな溜息を吐く。俺に手傷を負わせるくらいの気概を見せてほしかったね。
 無様ぶざまな姿をさらしてはいるが、彼らは団員の中でも戦闘訓練ばかりさせていた者たちの集まりである。少々の炎や雷、不可視の重力くらいでひるまないでほしい。本番では今回よりも遥かに過酷な状況で戦ってもらうのだから。
 脇差でコツコツと自分の肩を叩き、静かに含み笑いをする。

「偽神サマー、お食事の準備ができたから早く……って、これまたすごいことになってるわねぇ。掃除するのって結構大変なのよ?」

 後方の出入り口から能天気な声が聞こえてきた。
 振り向けば、赤いワンピースに身を包んだ美女――血統団幹部のアンネが、俺をジト目で見つめている。
 居心地の悪い視線を堂々と受け止め、俺は肩を竦めてみせる。

「これだけ血を撒き散らしてやられる方が悪い。そんなことより食事の方が大切だよ。君が持ってきた情報を知りたいし、一緒に行こうか」

 アンネには帝国側の情報収集を依頼していた。
 むちを片手に持った彼女は、団員たちの死体を一瞥いちべつしてから渋々といった様子でついてきた。実はこのやり取りも恒例なので、互いに慣れた動作で食堂へと向かう。

「勇者について何か分かったか?」

 道中で気になっていたことをアンネに尋ねた。
 この国には異界から召喚された三人の勇者が存在する。帝国側の戦力を探る上で、圧倒的戦闘力を誇る彼らの情報は欠かせない。
 アンネは苦い顔をして答える。

「それが結構ヤバそうなのよねぇ。宝物庫にある歴代勇者の装備を持ち出すらしいから、団員たちだけでは足止めすらできないと思うの。おまけに肝心の勇者たちの能力がすごく面倒で……」

 それからアンネの話は愚痴ぐちのように続いた。一通りの内容を聞いた俺の反応は、悪態あくたいと露骨な舌打ちだった。
 俺が把握しているのは、三人中二人の勇者である。絶対的な観察眼を持つ女勇者ことアシュリーさんと、金の力を操るハーレム勇者ことレイ。どちらも反則的な力を有していたことは記憶に新しい。
 そして、ここにもう一人同格の奴が加わるのだ。装備を固めた三人の勇者が一挙に攻め込んでくれば、幹部レベルでも太刀打ちできないのは必至。下手すれば、俺でも苦戦を強いられるかもしれない。


 ――尤も、負けるつもりは一切ないが。


 俺も彼らと同じ勇者であり、災厄を巻き起こす偽神。情報量や地形的なアドバンテージを考慮すれば、必ずしもこちらが不利なわけでもない。

「とにかく、三人目の奴は確実に殺さないとな……」

 アンネの話を聞いたところ、まだ見ぬ勇者も相当に厄介な能力持ちらしい。一言で評するならば、後方支援タイプだ。他の二人と違って単体としての戦闘能力では劣るものの、決して無視はできない。

「物騒なことを言う時の偽神サマって、すごくいい笑顔よね」

 アンネは呆れた表情で苦笑する。
 半ばおどけた調子のアンネに、俺は笑うしかなかった。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「全体の動きはどうなっているのかな?」
「はい、どこも偽神様のの御力によって着々と進行しております。この調子なら帝国軍とも互角以上に渡り合えるかと」
「油断と慢心は禁物だけどね。明日から一通り視察するよ」
「二人とも、食事の時間くらい楽しんだら……?」

 幹部以上の団員だけが使用を許された食堂。
 そこで偶然食事をとっていた神父服の美女ことサラを交え、俺とアンネは食事の時間を過ごしていた。
 ちなみにサラの言った「分身」とは、偽神の権能の一つである。さびに権能と魔力を注ぎ込み、自分と同じ姿の存在を生み出すのだ。現在の不死の血統団では、この能力で量産された別の「俺」があちこちで指示を行っていた。
 個々の細かな性格の違いや、所有能力ユニークスキルが使えないという弱点はあるが、俺に掛かる負担が劇的に減るのでかなり重宝している。
 その中でも、俺が個人的に気になっている分身は七名。


 戦いとスリルばかりを求める「戦闘狂」。
 内向的な性格で、近距離戦闘を非効率的だと嫌う「狙撃者」。
 普段は割と温厚だが、怒ると殺意に染まる「アングリー」。
 部下の育成能力以外は大した取り柄もない「ハニーシュガー」。
 狡猾こうかつな性格で油断ならない「ダートマン」。
 ネタ武器ばかりを愛用するイカれた「ファニークラウン」。
 二丁拳銃を用いた近接格闘を好む、西部劇かぶれの「マークスマン」。


 他にも個性的な分身がいるものの、特に逸脱しているのはこいつらだ。
 一人の例外を除けば、戦闘能力が高い者ばかりである。勇者クラスと遭遇しない限り、そう簡単にくたばりはしないだろう。
 アンネはステーキを口に運んだ後、思い出したように手を打った。

「あ、そうそう。偽神サマの分身をちょこっと貸してくれない? 偵察能力のある団員が足りないのよね」

 軽い調子でお願いしてくるアンネ。ノリが小遣いをせびる高校生だよね。
 その姿に苦笑しながら、俺はナイフを持つ手をひらひらと振った。

「んー、分かった。三人くらいそっちに回すよ。ただし、相応の成果が出なかったら今度の武器の実験台にするからな?」
「さっすが偽神サマ! 任せといて、絶対に有益な情報を持ってくるわ。それじゃあ、私はもう食べ終わったから、さっそく行ってくるわねー」

 そう言うと、アンネは上機嫌な様子で食堂から出ていった。あんな感じでもなんだかんだで情報収集能力は高いので、彼女の帰還を心待ちにしておこう。
 俺は口笛交じりにステーキを切り分け、気分よく頬張った。

「偽神様にあのような口の利き方を……申し訳ありません、アンネは後ほど強く叱っておきますので」
「いや、別にあれくらいいいさ。気にしたら負けだよ」

 ピリピリとした雰囲気を放つサラをさりげなくなだめる。そこまで腹を立てることではないと思うし、それに、俺に対するアンネの態度は今に始まったことではない。
 俺の言葉を受けて、サラは剣呑けんのんなオーラをあっさりと引っ込めてくれた。こういうところは従順で非常に助かる。
 その後は何事もなく食事が終わった。今日は早急にすべき仕事は済ましていたので、食堂の一角を占領して読書にふける。こうして気晴らしと同時に知識を蓄えているのだ。楽しみながら自分のためになるとは素晴らしい。
 肘をついて本を眺めていると、隣に座るサラが声を掛けてきた。

「ところで、偽神様はこの後のご予定はあるでしょうか」
「いや、特にないけど。何か用事でもあった?」

 俺の把握している限りでは、直接判断を下さなければならないことはなかったはずだ。
 脳内のスケジュールを振り返る俺をよそに、サラが静かに答えた。

「はい、もし偽神様が受けてくださるのであれば、手合せ願いたいと思いまして。最近の偽神様は、戦いに少々物足りなさを感じていらっしゃったようですからね」
「……本気か?」

 読書の手を止め、サラに視線を移す。不敵に微笑む彼女の瞳は、どこか挑戦的だった。

「あなた様を相手にこのような冗談は言いません」

 そう返してきたサラの言葉に、嘘偽りがないことを確信する。
 俺は一つ溜息を吐き、椅子から立ち上がった。

(勝手に非戦闘員だと決めつけていたが……)

 改めて考えれば、目の前にいる美女は自分が戦えないと明言したことは一度もない。戦闘訓練にも参加していなかったので、参謀的な役割だと思っていたがそうではないのかもしれない。
 自身の早とちりに舌打ちをし、サラの肩を軽く叩く。

「そういうことなら、すぐにでも戦おうか。ただし、手加減は一切しない。殺すつもりでいくから、覚悟はしておけよ」
「かしこまりました」

 サラは俺の殺気にも臆せずに淡々と頭を下げた。武闘派の幹部連中でさえ、多少は怯えるというのに。これはなかなか面白いな。
 こぶしを握り締めながら、無意識のうちに含み笑いをする。


 ――――見せてもらおうか、謎多き副団長の実力を。




 2 傍らの強者


「本当に遠慮なく戦ってもいいのか?」
「もちろんです。そうでなければ偽神様のお役に立てませんから。権能の力を高めるためにも全力で来てください」

 何もない広々とした空間の中央で、俺はサラと対峙たいじする。
 ここは新作兵器の性能実験をするための区画だ。平常時は邪魔な物を一切置いておらず、部屋そのものの耐久度も申し分ない。
 ここなら思う存分に力を発揮できるというわけである。 

「行くぞ」
「いつでもどうぞ」

 手に取ったナイフの切っ先をサラに向けた。
 俺の挑発的な行動に、彼女はあごに手を当てて優雅に微笑む。この期に及んでも余裕の態度を崩さない辺り、さすがだと思うね。
 無手むて悠然ゆうぜんと立つサラに感心しながら、俺は〈縮地しゅくち〉で接近した。

「へぇ……」

 瞬時に距離を詰めてもサラは動揺を見せない。
 俺がナイフを振り上げると、彼女はこちらに向かって手をかざした。そこから感じる魔力の動きに、かすかな脅威を覚える。

(魔法か? だけど、この距離だと詠唱が間に合わないな)

 サラの行動を怪訝けげんに思いつつも、俺は彼女の首目掛けてナイフを――

「甘いですよ」
「――っ!?」

 刃が届く寸前、全身に強烈な衝撃が走って後方に吹き飛ばされる。足が浮かされてしまったために、強引に踏ん張ることも叶わない。
 激しく揺れる視界。直後に鳴り響く爆発音。
 俺は突然の出来事に為すすべもなく、そのまま無防備な状態で壁に激突した。常人ならこれでミートペーストになるほどの衝撃だが、権能の保護によってノーダメージだ。むしろ壁の損害の方が圧倒的に大きい。
 崩れる瓦礫がれきから這い出て、ロングコートの汚れを払い落とす。

「ふむ、なかなか面白いな。詠唱なしの魔法か?」

 あのタイミングでカウンターを受けるとは思わなかった。そもそもこちらの初撃を完全に見切っていたこと自体、かなり驚愕である。
 俺の疑問に対して、サラはよどみなく答えた。

「いいえ、今のは私の特異体質が生み出した力です。体外へと発した魔力が斥力せきりょくに変換され、それが偽神様の攻撃を防ぎました」

 引力の対になる概念。互いを遠ざけようとする力が斥力である。
 どうやら彼女は、そんな代物を自由に扱えるらしい。
 今のように強力な斥力を相手に触れずに使えるのなら、あれだけの余裕にも納得できる。

「随分と反則じみているな……」
「それほど便利なものでもありません。この性質のせいで私は、魔力を伴う一切の技能が使えませんから。斥力の発現は一見すると魅力的かもしれませんが、実際はただの障害ですね」

 自嘲気味にそう言い終えたサラはうつむく。確かに魔力の使い道が一つに狭められるのはきついだろうからな。彼女がうれいを見せる気持ちも幾分かは理解できる。
 俺は取り出した拳銃を構え、サラの目を見つめた。

「それがどうした。障害だろうが何だろうが利用すればいい。それは、俺なんかよりも自分で一番分かっているんだろう? ほら、殺し合いの途中なんだ。さっさとかかってこいよ」
「――申し訳ありません、私としたことが気を抜いておりました。ここからは遠慮なくいかせてもらいます」

 俺の言葉に笑顔で応えたサラは、濃密な殺意を発散する。
 肌に触れる空気が痛い。久しく忘れていた死の気配を感じた。

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