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6巻

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 1 不穏ふおんな影


 無数のダンジョンにいろどられた探求都市マラリスを後にし、俺、陵陵みささぎりょうは仲間とともに姉妹都市であるオールという町を訪れた。
 まずは拠点となる宿屋を探し、すぐに確保できた一室にて、俺は仲間の二人を見る。
 ベッドにちょこんと腰かけているのはトエル。エルフと狐天族こてんぞくのハーフであり、パーティの紅一点こういってんの女の子だ。彼女は小さな手帳を開き、これから俺が話す内容をメモしようとしている。相変わらず真面目な性格だと思う。
 その隣で足を組んで椅子に座っているのはアルさんだ。卓越たくえつした戦闘力を有する戦士であり、闘うことを至上とする冒険者である。戦闘狂すぎて周りが見えなくなるのがたまにキズだが、かなり頼りになるのも確かなんだよね。
 そんな二人の視線を受けながら、さっそく俺は話し始める。

「単刀直入に言うと、この町にはかなり長い期間滞在するつもりです。というのも、今後の冒険に備えて色々なものを作りたいんですよね」

 オールは、「生産活動」が盛んな都市である。道すがら、ドワーフ等の職人気質な種族も多数見かけた。前情報によれば、希少かつ強力な武具が常に出回っているらしい。そのため「帝国の武器庫」とまで呼ばれているそうだ。
 そんな環境をとことん利用してやろうというのが今回の考えであった。欲を言えば、この前俺が苦戦した隣国勇者の古代兵器くらい圧倒できるような代物を作りたいのだ。
 窓枠に寄りかかりつつ、俺は軽い調子で話を続ける。

「俺が生産活動している間、トエルとアルさんには何をやってもらっても結構です。いつもこんな感じですけど、今回も基本的に自由行動ですね」

 ここでアルさんから質問が飛んできた。

「お前は何を作るつもりなんだ?」
「んー、今のところは内緒ですかね。まあ、愉快なものになると思いますよ」

 適当に言葉をにごしておく。「作品」が完成したときに驚かせようと思っているので今は詳しくは語るつもりはない。
 あまり詮索せんさくされても面白くないので、ここで話を強引に打ち切りにかかった。

「というわけで、明日からはのんびりしてもよし、訓練に明け暮れてもよしって感じで行きましょう。では、話は以上です。時間もちょうどいいし、夕食でも食べに行きますか!」
「お前が何をするつもりかは知らないが、楽しみにしておくさ」
「私もその間に努力して強くなっておくので、ミササギさんも頑張ってくださいね!」

 二人の反応はそれぞれだが、細かいことを聞かずに信頼してくれるので非常に助かる。俺が同じ立場だったら間違いなく怪しんでいただろうな。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 その後、俺たちは大通りにあるレストランに入った。
 食事のかたわら、俺は周囲の客の会話に意識を向ける。いつもの情報収集だ。こういった場所の噂話は案外馬鹿にできないものが多い。

「不死の血統団けっとうだん……?」

 先ほどから複数の人間が口にしている名称である。
 さらに聞いていると、なんとなく分かってきた。どうやら、その名の通り不死の人間によって構成された諜報ちょうほう組織らしい。彼らのアジトの場所も、そもそも彼らの目的さえ不明なのだが、ともかくそのメンバーの一部がこの町に潜伏しているのだという。
 それぞれの構成員は相当な戦闘力を持っており、幹部クラスにもなると「英雄」に比肩ひけんする実力を持っているという話もあった。
 まったく面倒極まりないね。機会が巡ってきたら、その組織を壊滅させてやろうかな。ちょろちょろと暗躍してるやからは叩き潰しておきたいが……ちょっと面倒だな。
 そんな風に思考を脱線させていると、トエルから話を振られた。

「……というわけで私たちはこれからギルドに向かいますが、ミササギさんはどうしますか?」
「あー、そうだね。俺も行こうかな」

 そう答えて俺は残っていた料理を完食する。そこそこ値段は張ったが、それに見合う美味おいしさはあったね。
 食事を終えた俺たちは、徒歩で町のギルドへ移動した。
 室内はそれなりに混雑している。これはどの町のギルドも似たようなものなので慣れたものである。
 そのままトエルたちと一緒にクエスト掲示板に向かおうとして、俺はふと思いついて立ち止まった。そしてギルドの窓口の職員に尋ねてみる。

「すみません、この辺りですぐに借りられる作業場みたいなところってないですかね。大型の倉庫って感じでいいんですけど」
「作業場ですか……少々お待ちください」

 ここで聞くのはいささか見当違いかと思ったが、冒険者ギルドなら町の様々な情報にも詳しいと考えたのだ。
 窓口でぼんやりと待っていると、後ろからトエルに声をかけられた。

「ミササギさん、依頼を受けないんですか?」
「うん、気が変わってね。明日からやろうと思っている生産活動の準備をすることにしたんだ」

 そう、明日からは本格的に作業を開始する予定なのだ。
 今までのようなチマチマした改造ではなく、かなり大規模な製作をしたい。そのために作業場が必要になるというわけだ。
 その後、帰ってきた職員から紙を受け取る。ダメ元で尋ねたわけだが、俺の希望に沿った作業場が見つかったらしい。さすが冒険者ギルド、その情報網は伊達だてじゃないということか。
 手に入れた情報を確認してから、俺はトエルとアルさんが依頼を受注するのを待ってギルドを後にした。
 にぎやかな街並みを歩く中、トエルが微笑みながらつぶやく。

「ここは随分とお店が多いですね」
「そうだねー。観光しても飽きないと思うよ」

 トエルに頷き返しながら、俺は周囲を見回した。
 こうして改めて観察してみると、武具の専門店が多い印象を受ける。硬い職人気質の主人が多そうだ。きっとここに住む職人たちは、自らの生産技量を高めるのが生きがいなんだろうね。そういう人種の人たちからすれば、このオールという場所はまさしく理想の都市なのかもしれない。
 俺は、ぐっと伸びをして笑う。

「よし、俺も頑張っちゃおうかなー」

 あらゆる方面の職人が集まり、様々な材料や工具が所狭しと売られている状況だ。何かを造るのに事欠くことはあるまい。
 明日からの生産作業に思いを馳せ、俺は気分を躍らせるのだった。




 2 製作開始


 翌日、ギルドから紹介された作業場に行ってみると、そこには大きな鍛冶屋かじやがあった。隣の建物が接するように建てられており、日本基準でいくと、違法建築になりそうだ。
 入口の扉をノックすると、いかつい大男が姿を現した。発散される威圧感に若干ひるみつつ、俺は話しかける。

「どうも、施設を貸していただけると聞いて来たんですけど……」
「おー、話ならギルドから聞いてるぜ! さぁ、入りな!」

 大男は陽気な口調でそう言い、俺を室内に招いてくれた。怖い外見とは裏腹に案外気さくな性格なのかもしれない。そのまま建物の奥のほうへ案内される。


 大男はとがった耳や金髪という特徴を持っていたのでエルフだと思われるが、俺のイメージにあるエルフとは大きくかけ離れたビジュアルだった。天井すれすれの高身長にはがねのように硬そうな筋肉。使い込まれた革製のエプロンを着けたその姿は、武闘派種族も顔負けといった具合である。
 ステータスを確認してみると、彼――サトクリフさんの能力は、バリバリの近接戦闘型となっていた。明らかにただの鍛冶師じゃない。レベル的にも一般的な冒険者を軽々と超えているし、称号欄にも〈粉砕ふんさいする鬼鎚きづちの鍛冶師〉なんていう危険そうなものがある。
 あまりにも気になったのでそのことについて尋ねると、サトクリフさんは豪快に笑いながら教えてくれた。

「いやぁ、俺ってエルフのくせに魔法が使えないんだよな。その代わりなのかは知らないが、膂力りょりょくだけには自信があってさ。これでも昔は『英雄』との決闘で勝ち越したこともあるんだぜ? 自分できたえた武器や防具で戦場を駆け巡る。これがなかなか爽快そうかいなのさ」
「なんだか、すごいですね……」

 話の内容に驚きはない。むしろ、見た目を裏切らないので納得してしまうほどだ。これだけ優秀なステータスなのだから、英雄を打倒していたとしても不思議ではないからね。
 苦笑する俺をよそにサトクリフさんは続ける。

「エルフは後衛職ばかりで肉体は脆弱ぜいじゃくな者しかいない。そういう偏見をくつがえしてやるのはスカッとしたよ。あの頃の俺は若かったもんなぁ……無鉄砲な性格のせいで何度も失敗したし、後悔も数えきれないほどしたが、まあ、今はこうして隠居生活を満喫中だ。退屈とまでは言わないが、いつも同じ毎日なんでな、兄ちゃんみたいな来客は大歓迎さ。ほら、着いたぜ。ここが作業場だ」

 サトクリフさんの向こうに見える景色に、さすがに驚いてしまった。
 俺は困惑を隠さずに尋ねる。

「……これ、ですか?」

 飛行機を楽々と格納できそうな広さに、ごちゃごちゃと散乱するガラクタの山。
 外観からは把握しきれなかったが、これほどの空間があるとは。
 サトクリフさんは両手を広げて誇らしそうにする。

「ここにあるものは自由に使っていいからな。それと壁や天井には細工が施されているから音が外に漏れることはない。で、これが鍵だ」
「ありがとうございます」

 鍵を受け取り、サトクリフさんと簡易的な契約を交わすと、晴れてこの作業場を自由に使えるようになった。
 サトクリフさんは前金を受け取るとさっさと倉庫を出ていった。早く作業を始めたいという俺の気持ちを察したのかもしれない。
 途端に静かになった倉庫内で、俺は脳内の計画をざっと振り返る。そして、さっそく頭を悩ませた。

(やることが多すぎる……まずはどこから手を付けるべきかだな)

 この倉庫で製作する予定である「作品」にかかる膨大な時間と手間を考え、頭が痛くなってきた。頭痛薬とペットボトルに入った水を取り出し、それらを飲むことで気持ちを落ち着かせる。

「はぁ、とりあえず掃除から始めますか」

 そう呟いて床に転がっているモノに目を向ける。
 先ほどはガラクタと判断したが、よくよく考えれば、再利用できそうなことに気付いた。
 使えるものは何でも使おう。ということで、倉庫全体に転がっているモノの回収・清掃作業から始めていこうか。
 チート本の収容能力を利用して、落ちているモノを一気に片付けていく。
 こういうときにも役立つとはさすがチート本だよね。まるでブラックホールのように一瞬で吸い込んでいくさまは、便利に思いつつも若干引いたよ。
 何はともあれ、倉庫内の床を埋め尽くしていたガラクタの除去は数分で終了した。
 さっぱりした室内を見回した俺は、あごでて思案する。

(必要っぽい材料を並べてみるか)

 有毒ガスが発生する危険があるので念のためガスマスクを装着してから、大量の材料を取り出していく。綺麗きれいになった床を再び埋め尽くす結果となってしまったが、これは仕方のないことだ。

「んー、じゃあ『作品』を作っていきますかね」

〈重力掌握しょうあく〉で材料をどけてスペースを確保し、そこに金属製の大きな長机と椅子を置く。

「よし、始めるか!」

 ここからは気を抜けない作業の連続だから集中しなくてはいけない。役に立ちそうなスキルと称号を惜しみなく発動させつつ指をポキポキと鳴らす。

(納得のいくものができるまではノンストップでやってみようか)

 深く息を吐き出しながら、俺は「作品」の製作を始めた。




 3 虚毒こどくとスライム


 あっという間に五日が経過した。
 荒れ果てた作業倉庫。辺りには無数の粘液のかたまりや金属片が散乱している。当初の散らかり具合よりもひどい有様だ。
 そんな中、作業がようやく一段落した俺は大の字で寝転がっていた。深呼吸をして息を整えながらだらけている。


「あー、疲れたー……」

 頭は熱を帯びてぼんやりとしているし、筋肉はり固まってしまって酷い。肉体が悲鳴を上げ、ここぞとばかりに休息を要求している。さすがに根詰めすぎたか。極度の疲労感に脱力し、無駄な抵抗はせずに眠ることにした。
 そのままゆっくりと目をつむり――すぐに開く。

「〈不眠〉の呪いをかけたのを忘れてた……」

 そう、昨日のうちにスキルで強制的に眠れないようにしてしまったのだ。〈解呪かいじゅ〉を試みたが、呪いが強すぎて全く意味がなかった。己の呪いの優秀さをうらみたい。
 仕方がないので、立ち上がってストレッチで身体をほぐす。
 作業倉庫を借りて丸五日。食事と睡眠以外の時間は全て「作品」のために費やした。その甲斐かいあって遅々とした速度ながらも計画は進行していた。
「作品」における最初の関門だった新作ゴーレムを、なんとか完成させたのである。
 通常は三十分もあれば余裕で作れるゴーレムを五日間もかけて形にしたと言えば、どれだけ苦労したか伝わるんじゃないだろうか。本当に大変だったよ。何度心が折れそうになったことか。
 ストレッチしながら苦笑していると、くだんのゴーレムがそばに寄り添ってきた。
 こいつは「作品」の根幹となる重要なパーツにすぎないのだが、それだけでも新たな戦力とも言える。状況次第ではチェイルとプライがたばになっても敵わない可能性すらあった。
 俺は新作ゴーレムに声をかけながら魔力を流してやる。

「君の出番はもう少し後だから気長に待っといてよ」
「………」

 ゴーレムが嬉しそうに身悶みもだえしたところで、頭を切り替えて休憩を終了した。
 これ以上貴重な時間を無駄にはできないからね。幸いなことにこの肉体はあらゆる面で有能なので、こうしてちょっと休めば疲れはかなり取れてしまう。
 うんと伸びをしてから、俺は作業を再開した。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 さらに作業を続け、倉庫生活十日目。
 身を削るような苦行の末、俺はとある物質を生み出すことに成功する。
 ここまでの道のりは険しいなんて言葉では表せないほど厳しいものだった。今回もたまたま上手く行った感じが否めない。もう一度同じことをやれと言われても失敗してしまう気がする。
 目の前にある成果を見つめていると自然に笑みがこぼれた。

「フフフ、これさえあれば……」

 つまんだ黒い結晶を観察する。
 この物質は汎用性はんようせいが非常に高く、これによって「作品」の欠点として危惧きぐされていたエネルギーコストの問題が解消される。


 ――――虚毒物質ポイズンマター


 完成したそれに名前を付けるのなら、こんな感じだ。
 引用で手に入れた「秘術王の奇石きせき」を「魔喰まくい」と呼ばれる獣の血液に入れて三日三晩混ぜ続け、それを「呪われた炎」で半固体になるまで熱し、「古竜の髄液ずいえき」とこね合わせて固めることで生成できた。
 チート本に収容してあった昔の文献を読みあさり、なんとか完成までぎ着けられた。まあ、かなり運任せな工程が多分に含まれているので、たとえ同じやり方で再現しても成功しないのではないだろうか。

「ほぉ、なかなか綺麗だね……」

 濃紺色の結晶をてのひらの上でもてあそぶ。この状態の虚毒物質ポイズンマターは直接触れても無害なので、何も知らない人が見ればただの宝石だと勘違いするだろう。
 しかし、無害なのは結晶の表面のみ。傾けてみると、中身がジェル状になっているのが確認できるが、このジェルは毒液となっており、空気に触れると濃密なガスを噴出する。
 これを吸引すれば大抵の生物は死んでしまうため、もはや殺戮さつりく兵器に近い。結晶の表面が頑丈なので簡単に割れはしないものの、取り扱いには十分注意せねばならない代物だ。
 さて、危険尽くしの虚毒物質ポイズンマターだが、エネルギー源としては極めて優秀な働きをしてくれる。外部から微量の魔力を送り込むと、内部のジェルがより多くの魔力を生み出してくれるのだ。早い話が魔力の半永久機関である。この特性が欲しくて虚毒物質ポイズンマターを作ったようなものだった。
 とりあえず虚毒物質ポイズンマターを仕舞って一時の満足感にひたる。
 これで、「作品」を構成する上で核となる部分は全て完成した。残りの行程でも気を抜くことは決して許されないが、ひとまずは山場を越えたと判断していいだろう。
 俺はその場に腰を下ろして一息つく。

「ふぅ、一旦休もう……」

 連続労働は心身ともに悪い。だから気分転換をしようと思う。たまには町の観光でもして情報集めや買い物に興じるのもいいかもしれない。トエルやアルさんだって今頃は張り切ってクエストでもこなしているのだろう。作業を中断するタイミングとしてはちょうどいいし、ブラブラと散策してみようか。
 倉庫に隣接する建物で鍛冶をしていたサトクリフさんに軽く挨拶あいさつしてから、俺は町へ繰り出すことにした。


 まだ朝早い時間なのにもかかわらずあちこちから威勢のいい声が聞こえてくるのは、きっと職人たちが気合を入れて仕事をしているからなのだろう。まあ、徹夜明けで頭がガンガンする俺からすればかなり迷惑なんだが。

(掘り出し物でもないかなぁ)

 そんなことを思いつつ、高額なインゴットや生産活動に関する書物を買い漁る。品物の種類と量が他の町とは比べものにならないほど豊富なので、非常にありがたい。これからどんなものが必要になるかは分からないからね。
 内心で、散財の言い訳をしながら、大人買いを続ける。

(「作品」の完成まであと一日くらいか。長かったような短かったような……問題は、その性能をどこで確かめるかだな。いっそのことドラゴン退治にでも――)
「ってぇな。気を付けろよ坊主……」
「あっ、すいません」

 考え事をしていたせいで前から歩いてきた人にぶつかってしまった。フード付きのローブに身を包んだ男が俺をにらんでいる。
 こちらに非があるのは事実なので素直に謝っておく。

「……ふん、まあいい。今度からは気を付けろよ」

 男はそう言うと去っていった。こちらの様子をうかがっていた周囲の人々も何も起こらないと分かるとその場を離れていく。
 なんだか予想していたよりもあっさりとした展開だったな。まあ、変なトラブルが起きなくてよかったよ。

(それにしてもなぁ……)

 今の男の顔を見ていくつか気になる部分があった。
 フードで半分隠れた色白の顔に、こちらをのぞく真っ赤な瞳。ボソボソと話す口から見え隠れしていた鋭利なきば。そして、頬に付着していた液体。
 はい、なんとなく正体は分かります。あれが噂の「不死の血統団」とやらだろう。でも、まさか数日ぶりの外出でいきなり出くわすとは思わなかった。

(まあ、俺の邪魔さえしないのならどうでもいいけど)

 無関係なところで何が起ころうが基本的には興味ない。仮に今の男が数分前まで誰かの血をすすっていたとしてもだ。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 三時間ほど買い物を堪能たんのうしてから帰ってくると、サトクリフさんが昼食をとっていた。ガツガツと豪快に食べるその姿は、彼の見た目とマッチしている。皿の上に山のように盛られているのが野菜ではなく肉だったら完璧だったね。
 帰宅した俺を見たサトクリフさんは、食事を中断して人のさそうな笑みで話しかけてきた。

「おっ、どうだった? なかなかいい町だろ?」
「よかったんですけど、ちょっと買いすぎましたね」
「ははは、俺もよくあるからその気持ちは分かるさ」
「野菜が好きなんですね……肉は食べないんですか?」

 ふと気になったので思わず聞いてしまった。

「肉か……あれは食うと胃もたれが酷いから無理なんだよ。ここ数十年は一切口にしていないなぁ」
「へぇ、そうなんですか」

 これは意外だ。よく見ると魚や豆らしき料理も食べているようだ。栄養バランスが考えられたメニューだと思う。
 会話が途切れたタイミングで、俺は魔法のかばんからお土産みやげを取り出した。

「あ、これよかったらどうぞ」
「おう、そいつはわざわざすまねぇ……って、魔鋼まこうの塊じゃねぇか! こんなに高額な物を本当に貰ってもいいのか!?」

 サトクリフさんが目を見開きながら驚いている。

「かなり値切ったんで安かったんですよー」
「この色、ツヤ……こぶしくらいの大きさでも金貨五枚は確実だな」
「目玉商品として大々的に売られていましたね」
「これを使えば新しい防具も作れるかもしれない……!」
「……まあ、気に入っていただけたのならよかったです」
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