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1巻

1-3

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『東の森の薬草の採取』
『隣町までの行商人の護衛』
『魔獣の角の納品』
『新規発見の迷宮の探索・報告』


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 ……数が多い。とにかく多い。
 さすがに全ての内容に目を通すことはできないので、流し読みで確認していく。
 その中に赤文字で書かれた用紙があった。
 次のような内容である。


『オークの討伐指令』

【内容】 
 異常発生したオークの討伐

【報酬】 
 一匹討伐ごとに銀貨一枚

【特筆事項】 
 特になし

【参加資格】 
 特になし


 なんでも近頃オークが大量に発生し、近隣の村が被害に遭っているらしい。
 この世界では、増えすぎた魔物を定期的に討伐しているようだ。
 ちなみに赤文字のクエスト用紙は重要性が高く、報酬が通常より割高になっている。
 オーク単体の戦闘力は低く、戦闘職を持たない人々にとっては脅威だが、職業やスキルで強化された冒険者たちにとってそこまで強い敵ではないとのこと。しかし、敵の数が多ければ多いほど危険度は上がる。たとえそれが格下の相手であってもだ。
 特に理由はないが、俺はこのクエストを受けることにした。
 用紙を犬耳さんの所に持っていくと、少し険しい表情を浮かべている。妙な態度を怪訝けげんに思っていると、彼女は言いにくそうにしながらも説明してくれた。

「失礼ですが、あなたのレベルや職業ではオークの討伐は難しいと思われます。オークが単体であればまだ勝機がありますが、大抵は集団で活動しています。どうしても行くというなら誰かとパーティを組むのをおすすめしますよ」

 あぁ、やはり旅人レベル3でオーク討伐というのは無謀なのか。まあ、これは偽装ステータスだが。
 犬耳さんが心配してくれていることが分かって苦笑する。

「大丈夫です。一人で行きます。危なくなったら逃げるんで」

 俺には称号〈単独殺戮さつりく者〉がある。他の能力も極力人に見られたくないから、単独行動のほうがいろいろと都合がいいのだ。それに、銃があればオークには負けないんじゃないかな。少なくとも初戦のオーガよりはマシだと思う。

「そうですか……。無理には止めませんが、くれぐれも命を落とすことのないように注意して頑張ってください」

 最後まで心配そうな顔だった犬耳さんに見送られ、俺はギルドから出た。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「やっぱり空気が美味しい気がする。自然が多いからかな」

 オークの出没地域は、現在いる町から西に行った森らしい。
 そこは、偶然にも俺が転生した場所であった。
 さて、オークたちには、俺のスキルや称号入手のための犠牲になってもらおうか。
 今から楽しみである。
 俺は町から出た後、すぐに人目につかなさそうな大きな岩の陰に移動した。
 そして辺りに誰もいないか念入りに確認し、チート本に吸収された数多くの本の中から、目当ての文字を見つけて指でなぞる。


【〈装甲車〉を引用しました】


 本の中の文字が赤く染まり、俺の前に迷彩柄の装甲車が現れた。ここまで大型の引用は初めてだったが、普通に成功した。さっそく乗り込んでみる。
 装甲車の中は、俺一人が乗るには充分な広さだった。〈神製の体〉のおかげだと思うが、基本的な使い方はなんとなく分かった。ただし細かい運転テクニックに関しては、経験を積まなければいけないようだが。ぎこちない動きで装甲車を西の森に向かって発進させる。
 ……ファンタジーの世界観を無視して装甲車を運転する俺って、実はとても空気が読めないやつなのかもしれない。


【称号〈不安定な運転手〉を獲得しました】


 ほっといてくれ。まだ未成年なんだ。謎のメッセージに愚痴をこぼしつつも、俺はかなりの速度で装甲車を走らせた。おっ、少し運転が楽になった気がする。称号の効果か? 不安定でも補正が発生するらしい。そんな調子でしばらくハンドルを握っていると、スキル〈運転〉を獲得することができた。
 たまに道ですれ違う行商人たちは、目を丸くしてこちらを見てくる。中には魔物と間違えて逃げてしまう人もいた。確かにこの世界じゃ装甲車は目立つよな。そう思いながらも、大して気にせずにアクセルを踏んで順調に進んでいく。
 そして町を出てから三時間ほど経ったころ、遠くに何かの行列が見えた。目を凝らしてみると、それがオークの群れだということが判明する。その数は約三十匹。……今回の報酬でまた本を買いに行けそうだ。よく見たら、オークたちの向かう先には村らしきものが見える。あそこを襲おうとしているのか。

「あのオークの群れを倒せばいいのかな」

 辺りに人がいないことを確認してから装甲車から降り、チート本に収容した。そして必要なものを引用する。


【〈狙撃銃スナイパーライフル〉〈バイク〉〈金属バット〉を引用しました】


 バイクと金属バットはひとまず脇に置いておき、俺は地面に伏せた状態で狙撃銃スナイパーライフルを構え、スコープを覗き、照準を一体のオークの後頭部に合わせた。照準のブレが小さくなりオークの頭部と重なったとき、俺は静かにトリガーを引いた。

「よし……」

 肩を突き飛ばすかのような発砲の衝撃。
 乾いた音が響き、その瞬間、スコープの中のオークに赤い花が咲く。頭部に穴が空いたそいつは辺りを真っ赤に染めながら倒れた。自分の身に何が起きたかさえ、きっと分からなかっただろうな。
 乾いた唇を舐めてニヤリと笑う。


【スキル〈狙撃スナイプ〉〈一撃必殺ワンショットキル〉を獲得しました】


 また新たなスキルを二つ入手した。〈狙撃スナイプ〉は射程距離と狙撃精度が上昇し、〈一撃必殺ワンショットキル〉は最初の一撃のみ威力が上昇するというものだった。手に入れたばかりの〈狙撃スナイプ〉を発動しながら、さらに数体のオークをほふってみた。オークたちは、突然仲間の頭部が破裂するという状況に驚き戸惑っている。


【称号〈他を駆逐する狙撃手〉を獲得しました】


 さらに称号まで手に入れてしまった。このままここで狙撃し続けたいのだが、オークたちが逃げそうな雰囲気なので狙撃銃スナイパーライフルを仕舞う。

「よいしょっと」

 代わりにバイクにまたがり、金属バットを低く構える。そして手元のスロットルをひねり、俺はオークたちに向かって突進を開始した。距離が近付くにつれ、オークたちが俺の存在に気付き始める。


【称号〈単独殺戮さつりく者〉を発動しました】


 どうやら〈単独殺戮さつりく者〉は、敵に気付かれないと発動できないらしい。オークとの距離がかなり近くなってからやっと発動させることができた。
 俺は一番近い位置にいたオークに狙いを定める。そいつは後ろを確認せずに逃げていたので、バイクでねてやった。衝突の瞬間、鈍い音がしてオークの体が宙を舞い、そのまま地面に転がり落ちた。今の衝撃で車体のフレームが少し凹んでしまったが、このバイクは使い捨てにするつもりなので別に構わない。
 乱暴なUターンを決め、今度はこちらに槍を持って襲いかかってきたオークに攻撃する。鋭い槍の突きをかわし、すれ違いざまに金属バットで殴り飛ばす。豚のミンチの完成だ。
 おっと、いきなり槍が飛んできた。慌てて避けようとしたが、バイクのエンジン部分に刺さってしまった。
 スロットルを捻ってみたが動かない。
 もう少しバイクで仕留めるつもりだったのだが、仕方がない。
 故障したバイクを乗り捨て、槍を投げてきたオークにはお返しにチート本から石を飛ばしてやった。肉が弾け、オークの胸にぽっかりと穴が空いた。そのオークの後ろにいた数匹も巻き添えを喰らって悶絶もんぜつしている。
 その光景は見ていてなかなか面白いものだった。

「んー、どうやって殺してほしい?」

 笑いながら俺が問いかけると、残ったオークたちはそこから逃げ出した。本能のままに逃げ惑い、統率はすっかり乱れきっていた。

「もちろん逃がすつもりはないけど、なっ」

 再び取り出した狙撃銃スナイパーライフルで三匹のオークを仕留めた。さらに走り出し、金属バットで八匹を撲殺する。残りは腰に提げていた短機関銃サブマシンガンで始末していく。


【スキル〈乱射〉を発動しました】


 とどめに放った弾丸は扇状に広がり、オークたちの動きを阻害した。
 全身に穴を空けられ、ほとんどが死んでいたが、数体だけギリギリ生き残っていた。そいつらは一匹ずつバットで殴り殺す。
 こうして最初三十匹ほどいたオークはその全てが物言わぬ肉塊となった。


【称号〈撲殺者ハードヒッター〉を獲得しました】
【スキル〈強打〉〈殺害運転技術キリングドライブテクニック〉〈追撃〉を獲得しました】


 戦闘終了後、称号とスキルが合わせて四つも手に入った。なかなか役に立ちそうなものばかりで満足である。それにしてもこの〈殺害運転技術キリングドライブテクニック〉というのは失礼なのでは? そんなに俺の運転は危ないか。
 オークたちの死体から必要なものだけを奪い、俺はオークの目的地であった村に向かった。
 五分ほどで村に到着したが、何か様子がおかしい。男ばかりが入口付近に固まって、こちらをにらんでいるのだ。手に農具を持っている人もいれば、銅剣を構える人もいる。ここは下手に動かないほうがいいか。そんなことを考えていると一人の男が尋ねてきた。

「旅の者よ、村の外でオークを見なかったか?」

 この人たちはオークの強襲に備えていたらしい。ここは正直に話しておくか。

「オークはいましたが、俺がすべて殺しました」
「ほう、お前のような若造が倒したというのか? そんなこと信じられるわけ……」

 こちらを馬鹿にするかのような笑みを浮かべていた男の表情が固まった。
 男の視線の先には、俺の左手がある。正確には、俺の左手に握られた金属バットを捉えていた。あちこちがひん曲がり、血で真っ赤に染まったバットには、オークの肉片も付着している。

「……どうやら本当のことみたいだな。いや、失礼。あなたの年齢でオークの群れを全滅させるような者がいるとは思わなかったので。ようこそ、村の救世主殿。私はこの村の村長だ。よろしければ、名前を教えてもらえないだろうか?」

 さすがに信じてもらえたようた。俺も笑顔で言葉を返す。

「ミササギです」
「ミササギ……。この地方では聞かん名前だな。それはいいとして、ミササギ殿、この村にはどのような用で来られたのかな?」
「近くを通った時にたまたまオークの群れを発見したので全滅させたら、この村が見えたんですよ。なのでクエストの情報収集のついでに一晩泊まっていこうと思いまして」
「そうですか。では、村の宿屋にお泊まりください。この村では一番設備が整っています。ところでクエストとは『オークの討伐』では?」

 村長の言葉に俺は頷く。

「そうです、よく分かりましたね」
「そりゃ、そのクエストを依頼したのはこの村なのですから。最近、村の周辺でよく魔物を見かけるようになりましてな」

 そうか、なかなか大変だな。じゃあ、俺が転生してすぐに遭遇したオーガも来るんじゃないのか? そのことについて聞いてみると、村長は丁寧に説明してくれた。

「この地方では、魔物が町や村に現れることは滅多にありません。ただし、オークだけは例外です。やつらは略奪のために近隣を練り歩いてまして……。今日は、村を挙げて追い払おうと考えていたのですよ」

 村長によると、近頃はその略奪も激化する一方らしい。おそらくはオークの個体数の増加が原因だろうとのこと。

「それでは、もうすぐ日没なので私の娘に宿に案内させます。ほら、この方を宿屋まで連れて行きなさい」

 村長にそう言われ、一軒の家から出てきたのは、俺と同い年くらいの女の子だった。

「娘のサラです。それではミササギ様、行きましょうか」

 サラと名乗る少女は、一礼してからにっこりと微笑んだ。ちなみに彼女の容姿は美しかった。日に焼けた小麦色の肌は健康的で、腰までの長さの金髪の髪は彼女によく似合っていた。この世界は美人率が高いような気がする。


【称号〈村の救世主〉を獲得しました】


 あ、やっぱこういうのあるんだ。
 でも、残念ながらこの称号は名誉だけで、特殊効果はなかった。
 サラに連れられ、二階建ての建物に案内される。

「宿屋の者には事情を話していますので、ご要望があればなんなりとお申し付けください。それではごゆっくりとお休みください」

 そう言い終えると、サラは静かに去っていった。よく考えたら転生してからまだ一度も眠っていなかった。少しくらいは休んだほうがいいだろう。
 宿屋の中は質素だが清潔感があった。細かな設備等を見ていると、奥の部屋からふくよかな体形の女性が出てきた。

「いらっしゃい、ミササギ様。村を救っていただきありがとうございます」
「いやいや、いいんですよ。困ったときはお互い様です」

 とりあえず、宿屋の設備についていろいろ聞いてみたが、風呂はないそうだ。そういうものは金持ち貴族の道楽で、一般的にはお湯で濡らした布で体を拭くだけらしい。まあ、そこは我慢しよう。
 用意された部屋で体を拭いた後ベッドに横になると、さすがに疲れていたのか、すぐに眠気が襲ってきた。




 4 森の中のとりで


 朝の目覚めは、階下から聞こえてくる声によって訪れた。

「ミササギさーん、朝食の準備ができましたよー」
「分かりました、すぐに降りますー」

 宿屋の女将の大声に対抗するように返事をした。窓のほうに目を向けると、外はまだ薄暗い。
 この世界の人たちは、朝が早いのか。そういえば、昨日も日没と共に宿屋に案内されたな。きっと夜眠るのも早いのだろう。
 なんて健康的な生活なんだ。俺は基本夜型なので、この時間の起床はとてもつらい。
 この世界の生活リズムに呆れながら、階段を下りる。

「おはようございます。よく眠れましたか?」
「はい、おかげでぐっすりと。ありがとうございます」

 女将に礼を言ってから、一階の食堂に向かう。

「今朝の朝食のメニューはこちらです」

 メニューと言うのでファミレス的なものを想像していたが、示された机の上にあったのは二種類の定食だった。
 片方は大きなパンにスープがセットになっているもので、柑橘系の果物のようなものも付いている。もう片方は、様々な種類の具材を入れて煮たものをどんぶりに載せただけという、豪快な料理だった。女将に聞いてみると、冒険者は後者を選ぶ者が比較的多いらしい。
 考えた結果、俺はパンの定食を注文した。理由は単純明快、そういう気分だったからだ。
 朝食は、美味かった。
 正直あまり期待はしていなかったが、パンは柔らかくスープは濃厚で、さらに果物は癖になるような、ほどよい甘ずっぱさがとても好みだ。
 女将に果物の名前を聞いてみると、マコルというらしい。
 ほう、マコル。どっかで見たな。チート本をめくりながら探していく。
 マコルは町で買った本の中に記載されていた。気に入ったので後で引用しよう。

「そういえば、村長から伝言を預かってます。朝食後、家に来てほしいとのことです。村長の家は大きな二階建ての館なので、すぐ分かると思いますよ」
「分かりました、今から行きます」

 へえ、何の用だろう。女将に礼を言ってから、俺は宿屋を後にした。


【〈マコル〉を引用しました】


 マコルをかじりながら村長の館に向かう。うん、やはり美味い。宿屋から五分ほどで着いた。門前にはすでに使用人の女性が待機していた。

「ミササギ様ですね? 村長が二階の私室にてお待ちになっております」

 使用人さんに付いて行き、二階にある書斎のような部屋に到着した。おぉ、町の本屋ほどではないが、多くの本がきれいに整理されて本棚に収まっている。これ全部が村長の私物なのか?

「ミササギ殿、昨夜はよく眠れましたか?」
「はい、ありがとうございます」

 部屋の奥から村長がやってきた。

「さっそくですが、あなたが俺を屋敷に呼んだ理由というのは?」
「この村を救っていただいたのですから、きちんとお礼をしようと思いましてね、何かお望みのものはありますかな? 可能な限り、叶えさせていただきますぞ」

 なんて律儀な村長だ。一晩宿屋に泊めてくれたのに、さらに何かくれるなんて。でも、向こうからお礼をすると言ってくれるなら遠慮はしない。初めから答えは一つだ。

「じゃあ、ここの本をいくつかもらえませんか?」
「本……ですか?」

 ん? 村長の表情がおかしい。返答をミスったか?

「あの、何か問題でもありました?」
「いえ、町や村を救った冒険者というのは普通、多額の硬貨や食料などを求めるものですが、本というのは聞いたことがなかったので……」

 まあ、普通はそうか。大勢の人の命を助けたんだから、それくらい要求しても不思議ではない。もちろん俺は、本以外を要求するつもりは一切ないけど。

「ここにある本は、私の父が生前に趣味で集めたものなのですが、私にはもう必要ありません。ミササギ殿が欲しいと思うものは全てお譲りできますが、どうしますか?」
「ぜひ、お願いします!!」

 本当は、「ここの本全部欲しいっ」と言いたいのだが、さすがに空気を読んで自重した。十五冊ほど手に取り、村長の了承を得てから魔法の鞄マジックバッグに入れた。
 もちろん後でチート本に吸収させるつもりだ。
 ついでに、村長にオークについて聞いてみた。しかし村長は口ごもってしまった。

「オークですか? 彼奴あやつらが西の森から来るのは知っているのですが、それ以外のことは……」

 ふむ、情報なしか。今度は質問の仕方を変えてみるか。

「では、あの森にオークの巣があるということはありませんか?」

 村長はうつむいて考え込み始めたが、すぐに顔を上げた。

「あっ、今思い出しました。巣があるかは分かりませんが、昔あそこには砦が建っていました。ひょっとしたら、そこがオークたちの拠点になっているのかもしれません」

 ビンゴ。たぶんそこだな。よし、潰しに行くか。

「ありがとうございます。とりあえずその砦とやらを探してみます」
「そうですか、くれぐれもやつらには気を付けてください」

 クエストが終わったらまたこの村に寄らせてもらおう。そう思いながら村を出発した。
 移動には再び装甲車を使う。俺は運転しながらマコルを食べている。
 あぁ、もう完璧にハマッたな。
 今まで、マコル以外のものは一回ずつしか引用していない。
 引用は戦闘以外でも非常に役に立つ。素晴らしいな。

『でしょ? ほんと、ミササギ君にはもっと僕に感謝して敬ってほしいなぁ』

 ふぅ、マコルは美味い。もう一つくらい引用しとくか。

『え、無視!? それって、ひどくない?』

 別にひどくない。あんたは毎回、登場が唐突すぎるんだよ。

「じゃあ、こんな登場はどう?」

 ん? 今の声はさっきまでと聞こえ方が異なるような……
 そう思っていると突然誰かに肩を叩かれた。驚いた俺は一瞬、運転がおろそかになってしまい、車内が大きく揺れる。背後から「うひゃっ」という声が聞こえた後、何かが床を転がる音がした。俺は一旦車を停め、音の原因を確認する。

「ミササギ君、ちょっと運転乱暴なんじゃないの?」

 床を転がっていたのは神様だった。

「なんで、あんたがこの世界にいるんだよ。ていうか、来れるのかよ!」
「えっとね、この体は一応僕が作った模倣体なんだ。なんと神界から遠距離操作をしてるんだよ。能力自体はかなり制限されているけどね。でもすごいでしょっ」

 目の前のやつはドヤ顔で胸を張っているが、別にすごいと思えない。どうせ神なんだからなんでもできるのだろう。
 ハンドルから手を離し、神様に冷たい視線を送る。

「ムキーッ、変な名前のくせに生意気なー」

 確かに俺の本名はみささぎりょうである。変な名前だ。
 しかし、それがどうした。名前イジリなんて今まで数え切れないほど受けてきた。だから今さら言われたって気にしない。

「名前は関係ないだろ。で、何か用があるんじゃないの?」

 そう言って、神様にデコピンをお見舞いしてやった。
 やつは床を転げ回りながら――

「女の子に暴力だなんてひどい! それにこの体は痛みも伝えてくるんだよぉ……」

 と、うめいている。
 ……改めて見ても、やはり神様っぽくない。
 ついでに、ステータスの確認を試みようとしたのだが――
 神様のステータスは表示されなかった。

「当たり前だよ、ミササギ君。僕は神様だよ? この世界のルールには縛られないんだ」

 あ、そうか。なら納得がいく。それで、本当に何の用なんだよ。

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